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光の小説部門 選考通過作品 『俺の後輩は××でした。』

2024/10/25 16:00

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『俺の後輩は××でした。』

 

 

あらすじ
榛名瞬はイケメンでモテるくせに最近の趣味は専らア○ニー。本物を挿れたいと思っていたところに、会社の後輩である武蔵正宗の巨根を目の当たりする。 童貞である武蔵の「初めては好きな人と」という乙女思考に引くものの、なんとか武蔵とセックスはできないかと考えた瞬は、彼女を作らせて童貞を捨てさせる計画を立てる。武蔵をかっこよくする手伝いをする代わりに、童貞を捨てたら自分とセックスをしろ、と武蔵に無理矢理約束をこぎつけるのだった。

 ※こちらの作品は性描写がございます※


 榛名瞬(はるなしゅん)、二十八歳。身長一七六センチ、体重六〇キロ。涼やかな目元に高い鼻、伏せ目がちにすると長いまつ毛が頬に影を作る程長い。そして形の良い薄い唇は白い肌に映えるように赤く色付いている。その美貌は男女問わず魅了した。十四歳で童貞を捨てて以来、十四年間女に困った事はない。大きな声では言えないが、少し前までは女を食いまくった元ヤリチンだ。
 某有名国立大学を卒業し、大手電気機器メーカーの営業課に籍を置く。営業成績もトップで先日も大きな契約をもぎ取ったばかりだ。
 だが、そんな事を鼻にかけることなく、人当たりも良く気さくでサバサバとした性格は、周囲の社員からも慕われていた。独身でハイスペックな瞬を狙っている女性社員は多い。

 絵に描いたような完璧な瞬だったが、人には言えない趣味があった。
 その趣味とは『アナニー』だ。

 きっかけは、普通のAV動画を見ようとした時、間違えてゲイビを再生してしまった。
 本来、出すところに男の男根が突き刺さっている様は衝撃だった。アナルには前立腺があって、そこが物凄く気持ちいいと聞いた事がある。前立腺マッサージがあるくらいだ。
 挿れられて気持ち良さそうに喘ぐ男優の姿は、あながち演技ではないように思えた。
 それ以来、瞬はアナルセックスに興味持った。最初は自分の指から初め、次にバイブとディルドを購入。最近専ら女とのセックスより、オモチャでのアナニーにハマっていた。
 そして、いつしか本物を挿れてみたいと夢見ていた。

 そんな時、先日、瞬が面倒を見ている新入社員の武蔵正宗(むさしまさむね)とトイレで隣り合わせになった。
 瞬は見てしまったのだ、武蔵の巨大なナニを。通常時であのサイズであれば、勃起したらどれほどの大きさになるのか。
 あれだけ大きければきっと……。
 めくるめく如何わしい妄想を用を足す一瞬でしてしまった。
 それを見て以来、無性にソレが欲しくなった。
(あのチンコ、ぶち込んでくれねーかな……)
 毎日そんな事を思うようになっていた。
 それ以来、武蔵の下半身に興味を持ち始めた。

 武蔵正宗は、一八五センチの高身長で学生時代はバスケをしていたとあり、ガッチリとしたいい体つきをしている。だが、見た目をあまり気にしていないのか、モサッとした髪型は寝癖なのか天パなのか分からない。更に黒縁の瓶底眼鏡のせいで表情が見えず根暗な印象を受ける。そして壊滅的にネクタイのセンスが悪い。
 褒める所があるとすれば、無駄に声が良いというところか。

 こんな冴えない男だが、入社試験をトップでクリアしたという期待の新人だ。
 たが、いくら入社試験をトップで入社したといえ、この外見で営業なのは問題だと瞬は前々から頭を抱えていた。


 その日、瞬が取った大型契約を祝しての飲み会が開かれた。

 宴もたけなわな頃、瞬はトイレに立った。
「榛名の奴、どうやってあのS技研の契約取ったんだろうな」
 トイレから同僚の声が聞こえ、思わず入るのを躊躇(ためら)った。
「ほら、あそこの常務って女じゃん」
「あー、枕?」
 男たちはバカにしたように言葉を発した。
(常務は関係ねぇだろ、バカか)
 その女常務とは一度も会ったことなどない。

 後ろから気配を感じ、振り向くといつの間にか武蔵が立っていてギョッとした。纏(まと)う雰囲気で怒っているのだと分かる。実際、武蔵は男たちに殴りかかる勢いで、トイレに踏み込もうとしているのを瞬は腕を掴んで止めた。拳を強く握りしめたその腕は硬く、怒りからなのか少し震えていた。

「榛名って結局、小さい契約ちまちま稼いで、数字伸ばしてるだけだろ」
 声が近付いてきて、出てくる気配を感じた瞬は武蔵の腕を引き、目の前の角に曲がると身を隠した。そのすぐ後、同じ営業課の男二人がトイレから出てくるのが見えた。

「悔しくないんですか!? あんな事言われて!」
「あんな営業成績ど底辺の奴らに言われても、何とも思わねえって。それに、ちまちま小さい契約取って数字稼いでるのも事実だしな」
 瞬はすぐ横にあったソファに腰を下ろし、タバコに火を点けた。

「その、小さい契約の取引先を大事にしてるのは誰ですか? 俺、知ってるんですよ。あなたが、小さい会社ほど気にかけてて、しょっちゅう様子見に行ってるの」
「……」
「この前、たまたま三栄金型の近く行ったんで、顔出したんです。社長が言ってました。《榛名くんはマメに顔出して、機械の様子を見に来てくれる》って。不思議に思ってたんです。榛名さん、いつもいい匂いしてるのに、時たま鉄臭かったりオイル臭かったり。機械の様子見に行ってたんですよね? 経営が傾きかけてた倉持製作所だって、榛名さんが新型ロボット導入させた結果、効率上がって業績アップさせた。皆んな契約取った事ばかり気にしてますけど、榛名さんはその後のフォローこそ大切にしてますよね」
 武蔵は興奮気味に捲し立てるように言葉を並べた。

「だって、そういうの俺のキャラじゃないじゃん?」
 戯けたように瞬は言うと、
「そんな事ないです! 俺、それ知って益々榛名さんの事、尊敬したんですから!」
 ふんっ、と鼻息を荒くしている武蔵に思わず吹き出した。
「ハハッ、ありがとな……恥ずいから内緒にしろよ?」
「分かってます」
「今回のS技研の契約さ、何で取れたと思う?」
「プレゼンが上手く行ったからじゃないんですか?」
「まぁ、それもあるんだけど。実はさ……倉持製作所の社長とS技研の開発部長、同級生だったんだよ」
「え! 本当ですか!?」
「うちのロボット導入して、会社立て直した話をS技研の開発部長に話したら、興味持ってくれたらしくてさ」
「そんな事ってあるんですね」
「だから、今回の契約は棚ぼた要素が大きいかな」
「でも、それは榛名さんの努力の賜物でしょう? 榛名さんが大小関係なく取引先を大切にしてきた結果ですよ」
 その言葉に瞬は涙が出そうになった。別に人に褒められたくて仕事をしてきたわけではなかったが、こうして人に認めて貰えると素直に嬉しいものだ。
「サンキュー」
 武蔵は分かってくれている、その事が瞬の中へ暖かい塊のような物になって、胸に吸収されていくように感じた。

「俺の実家って、ネジ作ってる工場でさ。両親と従業員合わせて五人くらいの小さい工場。だから、小さい工場の大変さはよく知ってる。親の仕事が楽になるロボットを作るのが小さい頃からの夢だったんだ。でも結局、開発より直接クライアントと顔合わせられる営業選んじまったけどな」
「榛名さんには営業が合ってると思います。クライアントの立場になって物事を考えてくれる、素敵な営業マンです」
「そうか?」
 くすぐったい気持ちになり、それを誤魔化すようにタバコを消すと一つ伸びをした。

「戻るか」
「榛名さん」
先に立ち上がった瞬を武蔵が呼び止める。
「ん?」
「俺、榛名さんに一生付いていきます!」
瞬は一瞬、キョトンとすると、
「期待してる」
武蔵の肩を叩いた。
 
 見た目こそモサッとした男だが、普段から自分を職場の先輩として慕っていてくれている事は伝わってくる。瞬もそんな武蔵を可愛がっていた。

 その後の瞬は、武蔵との先程のやり取りを思い出すと妙に嬉しくて、いつも以上に酒が進んでしまった。そして、途中からプッツリと記憶が飛んだのだった。

 
 目を開けると見知らぬ天井が目に入る。
「どこ?」
 ベッドサイドにある置き時計を見ると四時。カーテンの隙間から光が微かに洩れている。

 ベッドから起き上がり、辺りを見渡すと黒いソファが目に入った。長い両足がソファからはみ出ている。
 瞬はベッドから降りると、ソファに近付いた。そこには眉間にシワを寄せ、寝苦しそうに眠っている武蔵だった。
(ここ武蔵の家か)
 どうやら武蔵がここまで運んでくれたようだ。

 瞬はある一点に目が止まった。
 スウェットパンツの上からでも分かる程、武蔵の股間が盛り上がっていたのだ。
(ふふ……朝勃ちしてる)
 瞬はそっと武蔵のスウェットパンツと下着を下ろすと、ボロリと飛び出したソレに息を呑んだ。
(す、すごっ! 何これ!)
 若さなのか、それは腹に付くほど勢いがあった。カリは大きくそれに合わせて竿はしっりと太く長い。二つの睾丸はずっしりと重量感があった。あまり使い込まれていないのか、AVで見るような黒々としたグロテスクな感じではなく、どちらかと言えばピンク色に近かった。
 自分のだって決して貧相ではないと自負していたが、武蔵のソレを見たら自分のモノが酷くチャチに見えた。
 こんな凶器じみたモノを挿れたらどうなってしまうのか──想像し瞬は身震いした。
(絶対気持ちいいに決まってる)
 瞬は自分の唇をペロリと舐めると、躊躇なくソレを口に含んだ。
「んっ……」
 僅かに武蔵の体がピクリと反応した。
(ガッチガチじゃん……デカくて全部口に入んない……)
 瞬は武蔵のを必死に口で奉仕しつつ、自分の後ろを同時に解す。

 モゾモゾと武蔵が体を揺らし始めた。
 自分はゲイではないが、男のモノを咥える日が来るとは思ってもいなかった。された事はあってもした事などない。一番驚いているのは、何の躊躇いも感じず武蔵のを咥えている自分。更に自分自身も興奮しているのだ。

 武蔵の先から先走りが溢れ始め、自分の唾液と混ざってピチャピチャとイヤらしい音が耳に入ってくる。
「はぁ……」
 武蔵の息が上がり始めている。
 一体武蔵の夢の中はどんな風になっているのか気になる所だ。
(そろそろいけるかな?)
 念願だった初挿入に瞬の胸は高鳴る。
 いざ、瞬の後孔に武蔵のソレをあてがった。

 その時、武蔵の目が薄っすらと開いた。目を細めている。あの瓶底眼鏡だ、武蔵は相当目が悪いらしく、自分に跨っている人物が誰なのか寝惚けた頭で判断しているようだ。

「えっ? えっ? は、榛名さん?!」
 大きく目が見開かれた。
「あ、起きちゃった」
「な、な、何してんですか!」
「何って……セックス?」
 瞬は可愛らしく小首を傾けてみる。
「セ、セックスって……!」
「まあまあ……目瞑ってれば女の子と変わらないから。あとは挿れるだけだから、おまえそのまま横になってろよ」
 もう一度先を後ろに当てがうと、
「オマエのチンコ貸して?」
 瞬は固まっている武蔵の唇に指で触れた。呆然とする武蔵の股間にもう一度挿入を試みようとした。

「ま、ま、ま、待って! 待って下さい!」
 だが、武蔵によって腰を掴まれ勢いよく体を離された。
「俺、初めてなんです!」
 そう告げられた。

 瞬は一瞬、キョトンとし、
「初めて?」
 瞬の問いにコクリと頷く。
「あぁ、男とはって事だろ? 大丈夫、俺も男とは初めてだから」
 武蔵は瞬の言葉にフルフルと首を振っている。
(まさか……)
 武蔵は恥ずかしそうに顔を両手で覆っていたが、隠れていない耳は真っ赤だ。
「童貞?」
「は、はい……」

『…………』

「フハハハ……」
瞬は乾いた笑いを一つすると、
「……おめでとう、これで脱童貞って事だな」
 瞬は都合よく解釈し再び腰を落そうとした。

「ダ、ダメです! 俺は好きな人としかしないって決めてるんです!」
 武蔵は瞬の腰を強く押した。

 発せられたその言葉に力が抜けてしまった瞬は、武蔵の股間に尻が着地してしまった。その拍子に、互いに硬くなっている二人の中心が一瞬擦れ合った。

「あっ……♡」
 ドピュッ!

 武蔵の顔が快感に歪んだと思うと、瞬の顔に生暖かい液が飛んできた。青臭い独特の匂いが鼻につく。事もあろうに、武蔵の白い液体は瞬の顔面めがけて発射されたのだ。
「て、てめー!」
 ギロリと武蔵に睨み、拳を振り上げた。
「う、わぁ……! す、すいません!」
 見事に武蔵の頭上に瞬の拳が振り落とされた。

 シャワーを借り、リビングに戻ると武蔵は床に正座していた。
「すみませんでした」
 そう謝罪され、
「まぁ、俺も寝てるとこ襲ったしな」
「そ、そうですよ! そもそも榛名さんが襲ってきたんじゃないですか!」
 瞬は武蔵の言葉にそっぽを向いた。

 しばし沈黙が流れ、先に口を開いたのは武蔵だった。
「あの、榛名さんは……ゲイな」
「違う」
 否定の言葉を瞬時に被せた。
「俺はゲイじゃない」
 用意されていたコーヒーに口を付け間を置くと、
「アナルセックスに興味があるんだよ」
 そう開き直ったように言うと、武蔵は口をパクパクとさせ、顔を赤くしたり青くしたりと動揺している。

 それがやっと落ち着くと、
「榛名さんの奇行の理由は理解しました。でも、俺は好きな人としかしないと決めているので」
 武蔵の決心は固いようだ。
「何その乙女思考! しかも、その年で童貞とかありえないでしょ! マジ、ウケる!」
「そ、そうでしょうか?!」
 瞬は前屈みになり、武蔵に顔を近づけ顎を掴んだ。

「だからさ……俺で童貞捨てろよ」
「──っ!」

 武蔵の目が見開き、瞬を凝視したかと思うと前髪の奥の目が左右上下に忙しなく動き始めた。
(おー考えてる考えてる)
 武蔵の手が伸び、顎を掴んでいた瞬の手を掴んだ。
「やっぱりダメです!」
「ちっ!」
 瞬は大きく舌打ちをし、掴まれた腕を振り払った。

「榛名さんも……好きな人とだけ、そういう事した方がいいですよ」
「だからさ、言ってんじゃん、俺は男が好きなんじゃなくて、アナルセックスに興味があるの! そんな、好きだのなんだのは必要ないの!童貞の分際で俺に説教すんな!」
 手元にあったクッションを勢いよく武蔵に投げつけると、武蔵の顔面にヒットした。

 そんな武蔵を童貞だとバカにはしたが、ある意味自分も童貞だ。
 《恋愛童貞》
 瞬は心から好きだと思える相手とセックスした記憶がない。昔は武蔵が言うように本当に好きな相手とのセックスに憧れた時もあった。いつかそんな相手が自分にも現れるはずだと。

 だが現時点で、それはまだ叶わない。

 結局、武蔵に頑なに拒否され、初挿入は叶わず渋々始発で家に帰った。

 始発の電車の中で、どうにか武蔵とセックスはできないものかと思考を巡らす。
(性格はいいんだよな。結構気が付くし、優しいし。眼鏡外した顔は悪くなかったな。もっと見た目に気を使えばモテるのに)
 瞬はふと思った。
 きっと、武蔵の見た目が変わればモテるはずだ。
(あいつが童貞捨てて、女とやりまくれるようになれば、男と一回くらいやってもいいと思うかも……)
 ならば、自分が武蔵をモテるように変えてやればいい。
 瞬の脳内で武蔵改造計画が浮かんだ。

 武蔵の外見は会社の顔とも言える営業として、いかがなものかと前々から思っていた。正直、武蔵を取引先に連れて行く事に恥ずかしいと思う時もあった。
 営業は身なりも大事だ。見た目の印象で取引先への印象だって変わってくるものだ。
 それをそのまま武蔵に伝えた。武蔵は先輩として自分を慕ってくれている。そんな瞬に、恥ずかしい、と言われしまい酷く凹んでいた。そこで、改造計画を提案した。渋る武蔵に、彼女もすぐできるぞ、そうトドメを刺すと武蔵は俄然やる気を出した。お堅く見えた武蔵も所詮、中身は雄だという事だろう。

「でさ、交換条件というか、お願いがあるんだけど」
「お願いですか?」
昼休みになると二人は昼ご飯を取るべく、目に入ったラーメン屋に入る。
「オマエが童貞捨てたら、一回俺としてくれよ」
水を飲もうとコップに口を付けていた武蔵は、瞬の言葉に大きく咽せた。
「な、何を言ってるんですか……!」
「いいじゃん、減るもんでもないし」
「そういう問題じゃないですよ!」
「あ、そっ。じゃあ、改造計画はオマエ一人でやれ」
そう言うと武蔵は眉毛を八の字にし、
「そんなぁー。無理ですよ……!」
泣きそうになっている。
「じゃあ、俺とやるって約束してくれるか?」
武蔵は大きくため息を吐くと、
「一度だけですよ?」
そう渋々了承し瞬は心の中でガッツポーズをする。
「約束だぞ?!破ったらもう口きかねーからな!」
「分かりましたよ……」
「まぁ、オマエに彼女ができるとも限らないけどな」
その言葉に武蔵は、返す言葉もなく、ぐぬぬ……と悔しがったのだった。

 そして日曜日、武蔵の全身改造計画を実行した。
待ち合わせに来た武蔵の私服は呆れはしたが、ネクタイのセンスを考えれば予想はできた為、あまり驚きはしなかった。
 そして瞬の見立てで今風のファッションを着せ、髪を切らせると想像以上に武蔵は化けた。
 元々上背も有りガタイもいい。そしてバッサリと短髪にさせると、ずっと隠れていた目元が露わになった。

 武蔵が目を隠していたのは、目付きが悪く昔から良く絡まれたからだと言っていた。
 確かに目付きは悪かった。武蔵の目は垂れ目気味だったが切れ長で、視力が悪いせいで確かに目つきが悪くも見える。強面の面構えのせいで絡まれるのも頷けた。だが、それが良い。ワイルドなリーマンの完成だ。
 最後は、壊滅的にセンスのないネクタイを封印させるために、百貨店でブランド物のネクタイを買わせた。
 こんなにも武蔵の顔面レベルが高いとは。それに気付かずこの歳まで来てしまった事が酷くもったいない。もっと早く気付いていれば、武蔵の人生も変わっていたはずだろう。

 瞬と武蔵、二人のイケメンが街を歩けば女性は皆振り返り頬を赤く染め、二人に見惚れた。
 見慣れない自分に武蔵は恥ずかしそうにモジモジとしていて、強面の面構えとのギャップに少し笑えてくる。
「すげぇカッコよくなったな。これからは、自慢の後輩として堂々と取引先に連れて行ける」
 その言葉が余程嬉しかったのか、武蔵は満面の笑みを浮かべている。
 少し胸は痛んだ瞬だったが、
(これならすぐ、脱童貞だな)
 そう、ほくそ笑んだ。

 瞬は武蔵に、仕事と女性の扱い方のレクチャーをした。モテる男とは何か、そしてモテるにはどうするべきか、元プレイボーイの名に掛けて、武蔵にその全てを叩き込んだ。
 それを理由に瞬は何かと武蔵のアパートに入り浸りレクチャーする傍ら、瞬の手料理を振る舞ってやる時もあり、会社でもプライベートでも武蔵と共に過ごす日々が増えていった。武蔵と過ごす時間は思いのほか楽しく感じたのは瞬自身意外に思った。瞬の手料理をいつも美味しそうに食べる武蔵も可愛いとも思うし、気が合うのか、一緒にいると話しも尽きなくて笑いも絶えず何より楽だった。瞬は他人といると素が出せず、カッコつけたりいい人でいようとしてしまい、人と会った後はどっと疲れる事もしばしばだった。
 瞬は図々しくも武蔵のアパートの合鍵までも所有していた。玄関先にあったのを勝手に拝借したのだ。武蔵は呆れはしていたが、返せとは言ってはこなかった為、武蔵がいなくとも勝手に上がり込んでいるのも日常茶飯事になっていった。

「そういや、持田さんと最近いい感じじゃねぇか」
 その日もいつものように武蔵のアパートで宅飲みをしていた。
「あー、実は、今度食事に行く約束しました」
 照れたように武蔵は頭を掻いている。
 一瞬、瞬の胸がチクリと痛んだ気がした。
(なんか、案外良かったって思えないな。なんでだ?)
 脱童貞への第一歩のはずなのに思いのほか、武蔵と持田との事を手放しに喜べない自分がいた。

「良かったじゃん。俺のレクチャー無駄にするなよな」
 そう言うと武蔵は、はい……と、少し戸惑うように苦笑を浮かべた。
「よし! 今日は最後のレクチャーだ」
少し酔いも回ってきた頃、瞬は突然そんな事を言い出した。
「なんですか?」
 二人はソファに腰を下ろすと、並んで座る。
「俺を持田さんだと思って、口説いてみろよ」
「え?!」
 瞬の言葉に武蔵は目を丸くしている。
「武蔵きゅ〜ん、私、酔っちゃった♡」
 瞬は裏声を発し、クネクネと体をクネらせ武蔵の逞しい胸に顔を寄せた。
「え? これ、もう始まってる感じですか?」
「始まってんだよ……武蔵きゅ〜ん♡何だか体が熱いの〜♡」
 瞬はワイシャツのボタンを外し、わざと武蔵に胸が見えるように開けた。おそらく武蔵からは瞬の乳首が見え隠れしているだろう。

 武蔵の顔を上目遣いで見ると、武蔵の顔つきが変わったように見え、次の瞬間、瞬はソファに押し倒されていた。
「おわっ!」
 勢い良く後ろに倒れたと思うと、武蔵の顔が目の前にあった。今までに見たことのない、雄の顔をしていた。
 その顔を見た途端、瞬の心臓が大きく鳴り始めた。

 武蔵の唇が耳元にきたと思うと、
「キス……してもイイですか?」
 ボソリとそう囁くように言われた。
 武蔵の低音の美声に、瞬の腰がズクリと疼いた。
(こ、こいつの声、ヤバい……)
 瞬の返事を聞く前に、武蔵は瞬の唇を塞いだ。
「?!」
(本当にしやがった……!)
 しかも、しっかりと舌まで入れてきた。
 武蔵の長い舌は生き物のように瞬の口内を犯した。逃げようとする瞬の舌を追い、捕まえたと思うと執拗に舌を絡めとられた。上顎を舐められた瞬間、下半身の熱が徐々に中心へと集まり始めている。
(や、ヤバイ……こいつ、キス超上手い……気持ちイイ……このままだと、勃っちまう……)
 一旦唇が離れると、互いの突き出した舌先から銀色の糸が光った。
 武蔵の唇が再び触れたと思うと、今度はシャツの裾から武蔵の右手が侵入し、瞬の乳首に触れた。
「もっと触っても?」
「――っ!」
 また耳元で囁かれ、ぞくぞくと背中に電流が流れたような感覚が走った。

 瞬はそのまま頷きそうになったが、ハッと我に返ると武蔵の頭に手刀打ちを炸裂させた。
「いたっ!」
「調子に乗んな!」
「だって、榛名さんが口説いてみろって言ったんじゃないですか」
「や、やり過ぎだ! アホ! 誰がそこまでしろって言ったよ! 普通、フリだろ!」
 武蔵は困惑してように眉を八の字にしている。

(武蔵のくせに! 童貞のくせに! あんな、あんな声で言葉攻めとか反則だろ……!)
 武蔵の美声に動揺しているのか、今も大きく鳴っている心臓の音が頭にまで響いているようだ。
 瞬は気持ちが沈まるのを待った。目の前ではまたも床に正座をしている武蔵。

 その沈黙に耐えかねたのか、
「調子に乗って、すみませんでした」
 と、額を床に付けた。
「童貞のクセになんでキスに慣れてんだよ」
 怒りはまだ収まりきってはいなったが、妙に手馴れたキスに疑問を持った。
「童貞ですけど、彼女いた事はありましたから」
「そうなの?!じゃあ、なんで童貞?!」
 意外な告白に瞬は目を丸くした。

 武蔵は一度口を開け、何か言おうとしたがまた口を噤んだ。
「言えよ」
 切れ長の目を細くし、正座している武蔵を見下ろした。
「挿入前までは経験済みです。でも、いざ挿れる時になると、彼女が……股間を見て怯えるんです」
(だろーな)
 確かにアレを見れば、怯える気持ちも無理はない。
「泣かれた事もありました。怯えられたり、泣かれたりしたらさすがに……」
 そこまで言って、武蔵は言葉を切った。これ以上は察してくれ、という事だろう。

「なんか……うん、ごめん」
 なぜか、無性に武蔵が可哀想に思えてきた。
「そんな謝られたら、俺、逆に惨めです!」
 そう言って、武蔵は床に顔を突っ伏した。
「ほら、持田さんは受け入れてくれるかもしれないだろ? まぁ……頑張れよ」
 ポンっと武蔵の肩を叩いた。
「そんな気休めの言葉、いりません!」
 瞬の一言で、余計に武蔵を惨めにさせてしまったようだ。
(俺なら速攻、挿れさせてやるのに)
 いつもなら、それを口にしていたはずだったが、なぜか今日は口にできなかった。


 数日後。
 会社帰りに、持田と並んで歩く武蔵を見かけた。
 うまくいけばいいと思う反面、瞬の中でモヤモヤしたものが渦巻いていた。
 ちゃんと持田は武蔵の内面もきちんと見てくれるのだろうか。見た目だけはイケメンにはなったが基本、中身はヘタレだ。こちらでリードしてやるのがあいつにとったら居心地がいいはずだ。それから、食事の好き嫌いも多い。野菜を上手く取り入れた食事じゃないと野菜を食べないような子供っぽい所や、着た服を脱ぎっぱなしにしたり何日も同じシャツを着たりと、だらしない所もある。
 そんな武蔵の事を面倒くさがらず、受け止めてくれるだろうか。
 そして童貞の巨根でも、引かずに受け入れてくれるのだろうか。

(俺なら、武蔵の全てをわかっているのにな……)
 そんな考えが過ぎったが、その考えを打ち消すように瞬は頭を振った。

 きっと二人が付き合うのも時間の問題だろう。
 二人が付き合い始めたら、セックスの相手をしろ、とは実際言わないだろう。セックスがしたいが為に武蔵を改造したはずだったが、今となっては《好きな相手とのセックス》という武蔵の想いを汲んでやりたいと思い始めていたからだ。

その対象が自分ではない、という事実に思いのほか、自分が傷付いていたとしても。

 前のように突然家を訪ねる事もなくなり、一切の誘いをやめ、瞬は少しずつ武蔵との距離を置き始めた。いざ、持田と付き合うとなった時、自分が邪魔になると思ったからだ。きっと持田も自分が武蔵にベッタリしていたら、いい気分はしないはずだ。
 自分と距離をとり始めた瞬に、武蔵は戸惑っているようだった。

 瞬は評判の良さそうな、ゲイ専用の出会い系サイトに登録した。
 当初の目的である男同士のセックスへの好奇心と、少しでも気を紛らわせたいという思いからだった。
『当方ノンケで、後ろに興味あり。ネコ希望。割り切った付き合いをしてくれる方』
 そうメッセージを登録して、返事がなければ諦めようと思った。

 日曜日の夜、瞬は出会い系で知り合ったユウという人物と待ち合わせるまで漕ぎ着けた。
 相手は三十六歳の既婚者。既婚者の為、後腐れなく体だけの関係と割り切ってくれる相手を募集していた。自分にぴったりだと思った。
 ユウはとても優しく紳士的な男だったが、ユウのいきり勃った下半身を見た瞬間、どうしようもない嫌悪感が襲った。そして終始、武蔵の顔が頭から離れなかった。
 結局、ユウとはできなかった。
 武蔵の時は一切の嫌悪感はなかった。むしろ躊躇う事なく口での奉仕までした。
 なのに、なぜユウはダメで武蔵なら大丈夫だったのか。
 深く考えずとも、答えは出てしまった。

 ユウとはホテルで別れた。
 何度も謝罪する瞬にユウは、
「大丈夫、気にしないで」
 と言ってくれた。
(ユウさん、いい人で良かった……)
 瞬はすぐに出会い系サイトを退会した。自分には無理だとわかったからだ。

 愛がなくてもセックスはできる、ずっとそう思っていた。だが、気持ちの伴わないセックスほど虚しいものはないのだと、受け身の立場になって知った。
 武蔵とだからしたいと思ったのだ。
 そんな気持ちに今更気付いた所で、どうする事もできない。武蔵も自分も男で、武蔵は別の人を好きなのだ。武蔵は好きな人としかしないと決めている。自分は一生、武蔵に抱かれる事はないのだろう。


 時計を見ると、八時を回っていた。
 そういえば今日、武蔵は持田と食事をすると言っていた。もしかしたら今頃、武蔵は童貞を捨てているかもしれない。
 そう考えると無性に苛立ち、気持ちが沈んでいった。

 マンションに帰ると、部屋の前に座り込んでいる武蔵がいた。
「武蔵?」
 瞬の姿を見ると武蔵は立ち上がり、頭を下げた。
 もう瞬のアドバイスがなくとも、すっかりオシャレが板についている。
「今日、持田さんとデートじゃなかったのか?」
「それは、行ってきました」
 武蔵の顔はデートをしてきて浮かれている様子は全くなく、むしろどんよりとしているように見える。

 武蔵に対する気持ちに整理がつかない今、あまり武蔵に会いたくはなかったが、ここまできて無責任にも放置する事も躊躇われた。
 何か相談でもあるのだろうか、そう思い仕方なく部屋に入れた。
「今日、どこ行ってたんですか?」
 リビングに入ると、武蔵が絞り出すような声で言った。
「あー、ちょっと人に会ってた」
 まさか出会い系で知り合った男とホテルに行っていたとは言えなかった。きっと今までなら、笑って話せていた事なのかもしれない。
「してきたんですか? セックス」
「何言って……」
 次の瞬間、肩を強く掴まれた。
「あの男としてきたんですか?!」
 今までに見た事のない武蔵の怒りの形相に、瞬の体が強張った。
 肩を掴まれた手を振り払うと、
「オマエには関係ないだろ」
 だが再び肩を掴まれ、そのままソファに押し倒された。
「な、にすんだ……!」
 巨体の武蔵に組み敷かれては力で敵うはずもない。
「榛名さんは誰でもいいんですよね? だったら俺の相手、してくださいよ」
 そう言って顎を掴まれキスをされた。必死に口を閉じたが、武蔵の指によって無理矢理口をこじ開けられ、ねじ込むように武蔵の舌が侵入してきた。
「や、やめっ……!」
(怖い……怖い……)
 獣のように襲ってくる武蔵に、瞬は恐怖しか感じなかった。
 武蔵の膝が瞬の股に割って入ると、その膝を瞬の股間に押し当ててくる。再びキスをされそうになり、思わず顔を背けた。
「なんで……! 誰でもいいのに、俺を拒むんですか?!」
 武蔵の顔は悲しみで歪んでいるように見える。

 その言葉にカッとなると、
 バシッ!
 無意識に武蔵の頬を叩いていた。

「おまえが言ったんだろ! 好きな人としかしたくないって! 童貞捨ててきて、気が大きくなったか?」
 瞬の目からは涙が止めどなく流れた。泣き顔を見られたくなくて、腕で目元を隠した。
「帰ってくれ……」
「は、榛名さん……俺……」
「帰れ!」
 体から重みがなくなり、武蔵が離れていくのを感じた。暫くすると、玄関の扉が静かに閉まる音が聞こえ、武蔵が帰ったのだと分かった。

 先程のユウの時と同じだ。気持ちがない相手と行為に至る事は、虚しさしかない。ましては自分は気持ちがあるのに、相手にはない。今まで自分は散々そういう事をしてきた。だが、好きになった相手から、体だけを求められるのがこんなにも傷付く事なのだと身を持って知った。
 なぜ、武蔵は急に自分を抱こうと思ったのか。今の混乱した自分の頭では、予想すらできなかった。

 (あんな約束しなければ良かった……)

彼女ができて童貞捨てたら一度相手をしてくれ──、
過去自分で言った言葉を思い出し、勝手に傷付いている自分がいて、思わず苦笑いが浮かぶ。

 その晩、武蔵から『すみませんでした』と一言だけメッセージが送られてきたが、返事はしなかった。


 月曜日、こんなにも会社に行くのが嫌だと思った事はない。
 その日、ひたすら武蔵を避けた。気落ちしているのが、横目で見ても分かる。どう接していいのか戸惑っているようだ。可哀想にも思えたが、今は必要以上の事は話したくないと思った。
 そんな中での仕事は散々だった。武蔵も自分もつまらないミスを繰り返し、会話がない為に意思疎通ができず、互いにチグハグな事をしてしまい結果、午前中は仕事にならなかった。

 一服しようと席を立ち、喫煙所に向かった。自販機に寄って缶コーヒーを購入すると自販機横のベンチに腰を下ろした。
 武蔵は大きな体をこれでもかと縮こませ、落ち込んでいる。だが、昨日の事をアッサリと許す気になれなかった。
(あんなもん、下手したらレイプだろ)
 武蔵がなぜあんな事をしたのか考えてはみたものの、答えは出なかった。

「あっ! 榛名さん!」
 女性の声がして顔を上げると、持田恵理だった。
 昨日の武蔵とのデート話でも聞かされるのだろうか、そう思うと早くこの場を去りたかった。
「聞いて下さいよ! 昨日、武蔵くんとデートしたんです」
 予想通りで少しうんざりもしたが、邪険にもできず黙って聞くことにした。

 そして持田の話を聞いて、瞬は居ても立っても居られなかった。
 持田の話によれば、既成事実を作ろうとK町のホテル街まで武蔵と行ったのだが、入る前に急に謝罪され、
『好きになった人としかしたくない』
 そう言われたのだと。
 好きな人は持田ではないとならば、誰なのか。
「同じ会社の人で、自分を変えてくれた人って言ってました。だから、武蔵くんをカッコよくしてくれた人なんだと思いますー」
 持田は酷く残念そうにそう言った。
 K町のホテル街は、ユウと入ったホテルがある場所だ。武蔵は自分とユウがホテル街にいるのを知っている風だった。自分がユウとホテル街にいる所を見たのだろう。

 ずっと、頭の隅であり得ないと思っていた仮説。
 武蔵はずっと言っていた。好きな人としかしたくない、と。
 気持ちを確かめる為に、話し合わないといけない。
 そう思い、フロアに戻るとボードを見た。武蔵は取引先に課長と出かけているようだ。そして直帰と書いてある。
 瞬は、ずっとポケットにしまってあった武蔵のアパートの合鍵を握りしめた。


 九時半を過ぎた頃、玄関からドタドタと忙しない音が聞こえた。どうやら武蔵が帰ったきたようだ。

「榛名さん……!」
 相当慌てていたのか、靴が片方まだ脱げていない。
「おまえ、まだ童貞なの?」
 武蔵の前に立つと、武蔵を見上げた。
「はい……」
「なんで?」
「……好きな人としかしたくないから……」
 ポロリと涙を零しグズリと鼻を啜った。
「その好きな人って誰?」
 武蔵は目を丸くし、瞬を見つめている。
「あなたです……」
 そう言われキツく抱きしめられた。
「持田さんと一緒にいても、ずっと榛名さんと過ごした事ばかり考えてました。ホテルの前まで行った時、俺がしたいと思ったのは榛名さんでした。その時気付いたんです、榛名さんが好きなんだって。だから、せめて体だけでも繋げたかった。あなたに童貞をもらってほしかった。好きなんです、あなたが……」
 涙声の武蔵が酷く愛おしく思え、背中に回した腕に力を込めた。顔を武蔵の胸に埋めると、心臓の早い鼓動が心地よく耳に届く。

「俺も……おまえが好きだよ。俺もさ、昨日一緒にいた人とやろうと思ったけど、おまえの顔ばっかり浮かんでできなかった」
 瞬の言葉に武蔵は体を離すと、驚いた顔を浮かべている。その顔が余りにも間抜けに見えて、瞬は思わず吹き出した。
「だから、おまえの童貞くれよ」
 次の瞬間、体が浮き武蔵に横抱きされていた。
「お、おい、武蔵!」
 そのままベッドまで運ばれると、二人はベッドに横たわった。
「これが恋ってやつなんだろうな。好きだ、武蔵」
 瞬は綺麗に笑みを浮かべると、
「おまえに出会って、人生変わった気がする」
 そう言って武蔵にキスをした。
「好きです、榛名さん。俺、今からあなたを抱いて、あなたで童貞捨てます」
 武蔵の低い美声が耳元に感じると、瞬の体が小さく震えた。
 二人は唇を合わせながら、互いの服を脱がせあった。

「も、もう……指、抜いて……」
 標準より長いと思われる武蔵の指に、先程から奥を突かれ、いい所を擦られ、指だけでイってしまいそうだった。

「まだ……もう少し、解しましょう。俺のデカいんで」
「あっ……ああっ、ん……ふっ……」
 瞬の口からは意思とは関係なく、艶めいた声が洩れる。

「榛名さんの白くて綺麗な肌がほんのり赤く色付いて、綺麗です。乳首も綺麗なピンク色で凄くイヤらしいですね……」
 武蔵はそう耳元で囁きながら、指で乳首を摘んだ。だが、もう片方の手の指はしっかり二本、瞬の後孔に挿し込んでいる。
「ここも、綺麗ですね」
またそう呟くと、瞬の中心をユルユルと撫で始めた。武蔵は唇を体中に這わせ、両手は休む事なく動いている。
「てか……耳元……で、しゃべ、るな……」
「俺が話す度に榛名さんの中、きゅうきゅう締め付けてきますね。イきそうですか? いいですよ、イっても」
 そう耳元で囁かれると、
「ああっ……!」
瞬の体がビクンッと大きく弓なりにしなり、瞬は吐精してしまった。

(ど、童貞のくせに……言葉攻めとか、生意気!)
 そう苛立っても、武蔵の声でイってしまうくらい武蔵の声を好きなのは認めざる得ないようだ。
「俺の声でイっちゃいましたね」
「う、うるせー! いいから、早く挿れろ!」
「色気ないセリフですね、初めてするのに」
 武蔵は素早くゴムを装着すると、それを瞬の後孔に当てがった。
「挿れますよ……」
 充分に解したとはいえ、指の比ではないそれを瞬の後ろはなかなか受け入れてはくれない。
(い、いてぇ!)
 先が少し入っただけで、この痛みだ。この先、耐えられるの不安になってくる。
「辛いかもしれないけど、もうヤメてあげられないです」
 ギチギチとゆっくり、武蔵のモノが入ってくる。
「あ、あっ……!んっ!」
(苦しい……ゲイビだと、あんなに気持ち良さそうだったのに……!)
「ほら、入ってますよ、分かりますか?」
 結合部を見ると、武蔵の中心が半分程入っているのが見えた。武蔵は嬉しそうに言うと、満面の笑みを浮かべている。
瞬はそれを信じられない様子で結合部に見入った。
「武蔵の……おっきぃの……入ってる……」
「あんまり可愛い事言わないで下さい……!」
 瞬の中で武蔵のが更に大きくなるのを感じた。

 瞬の思い描いていたセックスとはほど遠いものであったが、痛みと苦しさ以上に湧き上がる思いがあった。苦しくて痛みがあるのに、気持ちがいいのだ。想いが通じた相手と体を繋げる事がこんなにも幸せなのだと瞬が知った瞬間だった。

「いいよ、武蔵……気持ちいい……」
「榛名さん、好きです、愛してます」
 そう何度も繰り返し武蔵に言われ、その度に快感が増すように感じた。
「俺も好き……」
 武蔵に抱かれる幸せを噛みしめた。

 だが、武蔵はものの数分で達してしまった。
「すいません、俺だけ……」
 パタリと武蔵は瞬の横に倒れ込む。
「いいよ……それよりも、脱童貞おめでとう」
「好きな人で童貞捨てられて、俺、幸せです」
 武蔵はそう言って、満足そうに微笑んだ。
「俺も、脱童貞」
「童貞? 榛名さんが捨てたのは処女でしょ?」
「俺は恋愛童貞」
「恋愛童貞? ですか?」
「うん、初めて好きだと思う人とセックスした。好きな人とするセックスって、こんなにいいものなんだな……」
 その言葉に武蔵は一瞬目を丸くしたが、次の瞬間には嬉しそうに顔を綻ばせた。
「じゃあ、お互い初めて同士ですね」
 二人は見つめ合い、どちらともなく唇を重ねた。

 武蔵を好きになった今、初めてが自分である事がとても嬉しいと思うと同時に幸せを感じる。

「あんな約束して、本当にそうならなくて良かった……」
「あんな約束?」
「彼女ができたら一回相手してってやつ」
「あー」
武蔵は視線を上げ、瞬を見る。
「ヤケになって持田さんとヤラなくて良かったです」
「そんなんで、セックスしても虚しいだけなのにな」
武蔵が瞬を抱きしめると、
「でも、あの約束がなかったら榛名さんとこうならなかったからまぁ、良しとしましょう」
ポンポンと頭を撫でなれる。

「でも、知ってた? 男相手だとカウントされないんだって」
「え?!嘘?!じゃあ、俺、一生童貞?!」
 ガックリと武蔵は項垂れたが、その言葉は一生自分としかしない、と受け取れる。
「そういう事! おまえは一生童貞!」
「仕方ないですね、俺はもう榛名さんとしかする気はないですから」
 そう武蔵は残念そうに言いながらも、どこか満足そうな顔を浮かべた。


『俺の可愛い後輩は、イケボで言葉攻めをする、隠れイケメンの乙女な巨根の童貞でした』

 
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