12/19 「魂炸裂♥ハピエン・メリバ創作BLコンテスト」結果発表!
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2025/11/07 16:00

あらすじ
第二王子のフィルベルテと従者のキィナは生まれてからずっと一緒にいた。「貴様らの悪行は聞き及んでいるぞ、パイナップル侯爵子息ども!」「パナレッロ侯爵子息です。殿下」記憶力の足りない王子はやがて王になり、政略結婚で迎えた正妃に加えて、側妃を娶れと迫られる。フィルベルテはよりにもよって従者のキィナを指名した。主君のことで自分が知らないことがあるのは許せない。忠誠をとっくに超えた愛を告げる代わりに、キィナはたった一度の伽を受け入れた。
※こちらの作品は性描写がございます※
キィナとフィルベルテの付き合いは長い。
乳兄弟として生まれ育った彼らは、当然のように学園でもそばにいた。
きらめく金髪、精悍な顔つき、甘い声。
ぱっと見だけは智謀を巡らせているように思える碧眼の美丈夫こそ、キィナの主君たる、エストラヴィア国の第二王子・フィルベルテである。
見た目はピカイチ。武芸も優秀。唯一の欠点といえば――。
「貴様らの悪行は聞き及んでいるぞ、パイナップル侯爵子息ならびに友人諸君!」「パナレッロ侯爵子息です。殿下」
「あっ、そうだったか? ささいなことだ、見逃せ」
少々記憶力に難があるというか、浅慮なきらいがあるところであろうか。
「ではパイナップル侯爵子息改めパナレッロ侯爵子息! 嫌がる生徒を追いかけ回すのは紳士的とはいえないのではないか?」
突如として王子に校舎裏へと呼び出され、指を突きつけられた不幸な侯爵子息たちは、悔しげにフィルベルテをじとりと睨む。
「……恐れながら、私たちは婚約者に声を掛けただけでございます。嫌がっているように見えるのは、殿下が彼女たちを魅了したからではございませぬか!」
「んん? 魅了? 俺の記憶にはないが。キィナ、覚えているか」
「三日前にアリエッタ嬢、七日前にエリザベス嬢、二週間前にクリスティーナ嬢と時間をともに過ごされております、殿下」
(空き教室で濃厚に情を交わしていただろうが! 避妊具を用意したのも人払いしたのも誰だと思ってるんだこのアホ王子!)
こめかみの血管をぴくぴくと引きつらせながら、表面上はあくまで真面目な従者として、キィナは淡々と補足した。
前言を撤回しよう。いくら我が国エストラヴィアが恋愛に寛容な国とはいえ、王子とは思えないほど女癖が悪いのも、フィルベルテの大きな欠点だ。
「そう言われるとそんな気もするな。うむ! 時間を取らせたな、諸君。記憶違いであったようだ。行くぞ、キィナ」
「はい、殿下」
「諸君。俺と俺の優秀な従者は、学園内で起こるすべてのことを共有している。理解したら、馬鹿な真似はしないことだ」
主人の甘く朗らかな声を聞きながら、キィナは思いを巡らせる。
風紀委員活動が不発に終わったフィルベルテは、余った時間で授業が面倒だと騒ぐことだろう。気分屋の主のために、ご機嫌取りのレモンティーを淹れてやるのが、キィナの昔からの日課だった。
* * *
遊びに遊んだ学園を卒業すると、フィルベルテの遊び場は学園から社交場へと一気に変わった。それでもキィナの仕事は変わらない。
「結婚したくない」
「王子に生まれたのが運の尽きでしたね。ほら殿下、このベアトリーチェ姫なんてよろしいんじゃありませんか。お綺麗な方ですよ」
今日も主人を宥めすかして、キィナは一枚の姿絵をそっと差し出す。
記憶力に難のあるフィルベルテが覚えているかどうかはあやしいが、ベアトリーチェは学園にいる間も、一途にフィルベルテを慕ってアプローチしていた、強く健気な姫だった。なぜかキィナは敵対視されていたが、彼女が女性陣の手綱を握ってくれていたおかげで、この野郎は誰からも刺されなかったのだ。
性格も身分も条件も申し分ない。お妃候補に薦めない理由がなかった。
「お前はこういう女が好みか、キィナ」
フィルベルテは不機嫌そうにキィナを見つめる。
学園を卒業してからというもの、フィルベルテはご機嫌斜めな日が多かった。自由を愛するこの王子には、政務の多い王城での日々はつらいのだろう。
「いえ、私はもっと清純そうでお淑やかな年下の女性が好みです。ですが、殿下はこういった華やかな見た目の方がお好きでしょう」
(巨乳で肩が細い女が好きなはず。今までこいつが手を出してきた女性の傾向は覚えている)
いまだ清い体のキィナからすると、いい趣味してるなこいつとしか思えない。第二王子の乳兄弟かつ従者だというのに、未だ縁談のひとつも来ない己とは正反対だ。
「ああ面倒だ。欲しいものすべてが手に入ればいいのに」
益体もないことをぼやいたあとで、フィルベルテは椅子の上で大きく仰けぞり、八つ当たりのようにキィナの腹へ頭をぶつけた。
「だいたい手に入ってるじゃないですか。おひとりで足りないなら二、三人お迎えになられてはいかかです?」
「いい。女は増えれば増えるほど扱いが難しくなるんだ」
「左様でございますか」
十股を掛けた挙句、卒業式の日にビンタを食らったアホ王子は、さすが言うことが違う。
主の女性関係についてはキィナ以上に裏で動いてくれたベアトリーチェといえども、あれはさすがに擁護しきれなかったらしく、気まずげに成り行きを見守っていたはずだ。
紅葉型に頬を腫らしたフィルベルテの顔を思い出し、キィナはにやにやと頬を緩めた。
「もう頬を叩かれないと良いですね」
「ばかキィナ! お前には俺の気持ちは分からないよ」
「はいはい。紅茶の時間にいたしましょう」
* * *
視察に出ていた王と第一王子が揃って不幸な事故で命を落としたのは、それから間もなくのことだった。王位が突如として第二王子へと降ってきたときにも、ベアトリーチェを正妃に迎えてからも、キィナは変わらずフィルベルテのそばにいた。
「ベアトリーチェ妃がご懐妊なさったそうですよ。おめでとうございます、陛下」
「ふうん、そうか」
政務をこなす手を止めることなく、興味もなさそうにフィルベルテは言った。
「ベアトリーチェには望むものを贈ってやれ」
「愛の言葉のひとつくらい、掛けに行かれてはいかがです」
「政略結婚に愛も何もあるものか。俺は忙しい」
「……かしこまりました」
(ベアトリーチェ様はあんたにベタ惚れだろうがこの鈍感! 浮気魔!)
ベアトリーチェの名前を覚えただけ、昔よりは進歩したと言うべきか。
とはいえ王の無関心は従者の不出来とばかりに、ベアトリーチェからキィナへの当たりは強いので、フィルベルテにはもう少し関心を持ってほしいものである。
「キィナがいつも一緒にいるあの侍女は誰だ?」
ちろりと流し目を向けてくるフィルベルテに、ひくひくとキィナは頬を引きつらせる。
余計なところに関心を持つんじゃない。
「王妃様付きの侍女でございます。良い方ですよ」
(あんたが女連れのところにベアトリーチェ様が鉢合わせないようにって向こうと連携して気を回してんだよ! こっちの身にもなれこのアホ王!)
「ふうん」
「婚約者がいらっしゃるそうですから、伽を命じないでくださいよ。花が欲しいのであれば手配しますから」
「いい。もう、欲しいものはそばにある」
ぽつりと物憂げに呟いて、フィルベルテはじっとキィナを見上げた。いくつになっても顔だけは良いが、いい年をした男が上目遣いをしても何もかわいくない。
それでも甘やかしてしまうのは、悲しき従者の性と呼ぶべきか。
「キィナ、喉が渇いた」
「休憩にいたしましょうか。今日はいい茶葉が入っておりますから」
「レモンを入れてくれ。あれが好きだ」
「存じております」
* * *
王妃の腹が重そうに膨らむころ、平和だった情勢は一転した。
いつ隣国と戦争が始まるかも分からない緊張状態の中、皆が慌てていた。フィルベルテは寝る間も惜しんで他国との交渉に勤しみ、キィナも主君の影として、あちらこちらを走り回った。
そんなある日、猪によく似た顔をしたパナレッロ大臣は、開口一番こう言った。
「側妃をお選びください、陛下。妾でも構いません。この情勢です。御身の情けを受けるものは多ければ多い方がよろしいでしょう」
この忙しいときに何をトチ狂ったことを言い出すのか。
キィナは青筋を立てたが、意外にもフィルベルテはにこやかにその申し出を受け入れた。
「キィナ」
「はい、何でしょう」
「うん、だから、キィナ。お前にする。側妃。そうすれば、戦場でも伽が楽しめるだろう?」
「は?」
ぱちぱちとまばたきをしながら、猪大臣と顔を見合わせ、かぱりと大きく口を開ける。
どうやら本当にトチ狂っていたのは、キィナの主君の方だったらしい。
そうこうしているうちに、あれよあれよと戦は始まった。王が前線に出るなどとんでもないとキィナは引き留めたが、高位の貴族であればあるほど魔力量が増えるこの国において、王とは最強の魔術師である。フィルベルテは嬉々としてキィナを連れて戦場に出た。
「生まれたときから尽くしてきたのにこの仕打ちですよ。側妃を決めるのが面倒だからって名誉側妃に指名される従者がどこにいるってんですかこの脳みそふわふわ陛下」
「不敬罪にするぞ」
「失礼しました。心の声が漏れていたようで」
他よりはマシ、という程度の簡素な天幕をのろのろと整えながら、腰に下げた剣を確かめ、キィナは大きくため息をついた。
フィルベルテは最小限の護衛しか身の回りに置きたがらない。男の顔は見たくないという馬鹿げた言い分を、もっと強く諫めてくるべきだった。
従者とはいえ、キィナはフィルベルテの影であり、護衛でもある。馬鹿げたことに、今は側妃でもあるらしいが。主君を傷つけさせるほど弱くはないつもりだが、剣や魔術が本分ではないキィナに背を守らせるフィルベルテは学園時代から何も変わらず浅慮が過ぎる。
「側妃のひとりふたり、お迎えになればよろしかったでしょうに。ベアトリーチェ様だってそうおっしゃっていたじゃありませんか」
「お前たちはふたりともかわいくない。自分だけを見ろと言ってもいいのだぞ」
「ベアトリーチェ様はともかく、私を見る暇があったら妃候補を見てください」
あぐらを組んでゆらゆらと体を揺らしているフィルベルテを一瞥して、キィナは冷たく言い捨てる。
側妃云々の話を言い出すタイミングこそ悪かったものの、あの猪大臣とて下半身の緩いフィルベルテが他所で種をばらなかないようにと気を遣ったのだろうに、これでは台無しだ。
情勢的にも、他国から姫を向かい入れて同盟を強化するというのは悪くない手だった。いくらお妃候補を吟味するのが面倒だからといって、同性でありながらフィルベルテの側妃に指名されたキィナが、あのあとどれだけ使用人室でからかわれたと思っているのだろう。
寝所をきっちりと整えたキィナは、際限なく出そうになるため息をこらえつつ、きびきびと一礼する。
「それでは私は下がらせていただきます。ご用があればお申し付けください。ごゆっくりお休みくださいませ、陛下」
「まてまてまて」
逃げられなかった。
くるりと背を向けるより前に、キィナの体はフィルベルテの腕の中に納まっていた。同じ年齢、同じ身長、同じ体格ながら、こういう技ばかりは手慣れているのだから嫌になる。顔をしかめたキィナは、冷たい視線を主に向けた。
「まさか本当に陛下の下半身の世話をしろとは言いませんよね。私の息子はいまだ誰の体温も知らぬ清い息子です。陛下の肛門圧に耐えられるとは思えません」
「誰がお前に抱かれたいと言った」
「抱くなら女性になさいませ。私は痔になりたくありません。どこかのわがままな主君の世話に支障が出ます」
「優しくするから」
フィルベルテはきらきらと輝く瞳を向けてくる。ため息をついて、キィナはそっと目を伏せた。
別に尻を提供する程度、相手がフィルベルテであるならば、どうでもいいといえばどうでもいい。キィナが気にしているのは、ここに来る直前に掛けられたベアトリーチェの言葉の方だ。
『あの方はね、一度寝たらどうでもよくなるの。お前が特別扱いされているのは、お前にだけは手を出したことがなかったから。理想が上がってるだけよ。帰ってきたときが見ものね、キィナ! お前のその涼しい顔が歪むときが楽しみよ』
敵意のこもった王妃の声音を思い出し、キィナはため息をもうひとつついた。
他人と体を重ねるというのは相当のことである。王妃の言う通り、それをきっかけにキィナとフィルベルテの主従関係におかしなヒビが入るとすれば、それはキィナにとっては望ましくないことだ。こんな主人でも、いざというときにはこの身を盾にしてやってもいいと思う程度の忠誠はあるのだから。
「……一応聞いておきますけど、陛下は私に劣情を感じておられたのですか。かれこれ二十五年の付き合いになりますが」
「いや、単純に好奇心。お前と寝たら楽しそうだと思って」
悪びれぬフィルベルテの言葉を聞くなり、キィナは両手で顔を覆って、わざとらしくおいおいと声を上げてみせた。
「ひどい方です陛下は。私の忠誠を弄ぶというのですね! 私は婚姻するときまで清い体を守り抜くと天に誓っているというのに」
「初めて聞いたぞ。お前がその年で処女童貞なのは相手がいなかっただけじゃないのか」
「心に刺さります」
(男に処女言うな! うるせえ!)
怒鳴りたい気持ちを辛うじて抑えつけたキィナの苦労も知らず、ごろごろと飼い主にすり寄る猫のようにフィルベルテはキィナの首元に頭を埋めてくる。
「だいたい、なぜ清い体を保つ必要がある? 愛を尊ぶ国だぞ、エストラヴィアは」
「愛は性愛だけではございません。それに、無事に戦が終わった暁には、いずれ私も婚姻をして、陛下の従者を辞して領地に戻ることになるでしょう。そのとき尻をいじられなければ性行為ができなくなっていたら、相手に迷惑がかかります」
「……従者を辞す? お前、俺から離れると言ったのか、今」
おどろおどろしい声で言葉を遮られたと思ったら、唐突にぴりりと空気が引きつった。ぐいと肩を掴んでキィナを振り向かせたフィルベルテの顔に、表情はない。
真面目な顔をすると顔の良さが強調されるからやめてほしい。不整脈が起こる。
「好いた女でもいたか? 遠ざけていたはずだが」
「いえ、そういうわけではありません」
(縁談がこないのはこいつのせいかこの野郎!)
不機嫌そうに目を細めながら、フィルベルテは両腕をキィナに伸ばしてきた。ぐっと強く手首を掴まれたかと思えば、次の瞬間には天井が見えていた。
「あの、陛下」
押し倒されている。しかし困ったことに、仏頂面でもキィナの主人は怖いくらいに顔が良い。うっかり見惚れている間に、気づけば服を脱がされていた。
「気に入らない」
「何か不手際がございましたか」
「キィナは俺の従者だ。だから、番いたければずっと従者でいられる相手を見つけるべきだ。俺が用意しよう。キィナばかりに働かせるのは悪いからな」
「はあ。たしかにデートのセッティングから初夜の手配から伽の後の部屋の清掃まで、従者の仕事とはかくも多岐に渡るものかといつも思ってはおりましたが」
「うん。キィナの顔が面白かったからやらせていた」
「……左様でございますか」
(この野郎)
この気分屋のせいで、色々なことに慣れた。喘ぎ声を聞かされることに狼狽えていたのは学園に入学した当初だけだったし、べたりと精液のついたシーツやら人には言えない道具やら、当の経験はないのに性的なものを目にした回数だけは、誰より多い自信がある。
剥き出しにされたキィナの体を、フィルベルテの大きな手のひらが辿っていく。
このままでは悪ふざけが悪ふざけでは済まなくなる。奇妙なくらい丁寧な触れ方に顔を引きつらせながらも、キィナは苦し紛れに口を開いた。
「なんだかいやに静かじゃありませんか? 何かあったんでしょうか。外を見てきます」
腹筋に力を込めて起きあがろうとしたが、体重をかけてのしかかられて、阻止された。まさか王を突き飛ばすわけにもいかない以上、顔を引きつらせて受け入れる以外に、キィナには選択肢がない。
困った。
何が困るかというと、フィルベルテに触られること自体はまったく嫌ではないので、刺激を受けた分だけ、愚息が素直に反応してしまうのが困るのだ。
「人払いをしたのは俺だ。心配しなくていい。なんたって待ちに待った初夜だからな。誰にもお前の声を聞かせたくない」
「は? ……っ、ん」
「声を出していいぞ、キィナ」
「いやいやいや」
両手をがっと組み合わせて抵抗するも、組み敷かれた体制では分が悪い。丸裸に剥かれたキィナの体は軽々ころりと転がされて、尻をフィルベルテに向けて掲げる形にさせられていた。
「怖いんですけど、陛下」
「大丈夫だ。男相手は初めてだが、女に後ろを使わせてもらったこともある」
「存じております」
なんならいつ経験したのかも知っている。浣腸の準備をしたのはキィナだからだ。
妙に楽しそうな主君を止める気も失せ、検査を受けるような心持ちで、肛門に触れる指をキィナは粛々と受け入れた。
「……んっ」
「あれ? きれいだな」
「はあ。洗ってあります」
「なんだ。抵抗するくせに、お前だってそのつもりだったんじゃないか」
「万が一の備えです。片付けるのは私なんですから」
(スカトロ趣味もあるって知ってるんだよ、アホ王め)
唇の端を引きつらせながらキィナは言った。
キィナはフィルベルテの気まぐれ具合を良く知っている。ただの悪ふざけで終わる確率が五分、本気でキィナを抱くところまで行く確率が五分だった。幸か不幸か、今夜引き当てたのは後者らしい。
「ふうん。まあいいや」
「……っ、う、っん」
鼻歌でも歌い出しそうな気軽さで、フィルベルテは指をキィナの体の奥へと押し込んでくる。思わずキィナが舌打ちすると、フィルベルトは嬉しそうにキィナの背へと唇を落としてきた。
この主人は本当にどうしようもない。しかし、そうやって嘆きたくなる心とは裏腹に、キィナの体は如実に興奮を示していた。大して気持ちよくもないのに性器はそそり立ち、頭は熱く沸き立っている。
「良かった。キィナも勃ってる」
ほっとしたようにフィルベルテが呟く声が聞こえた。
当たり前だと、キィナは心の中だけで喚き散らかす。
フィルベルテにとってはただの気まぐれだろうと、キィナにとってはそうではないのだと、背後にのしかかっている男はちっとも分かっていないらしい。
恋も愛も忠誠も通り越したところにいるのがキィナにとってのフィルベルテだ。
生まれたときからそばにいた。フィルベルテの誰より近くにキィナはいた。それこそ二桁を超えるまぐわいを見せつけられるくらいには、ずっとそばで生きてきたのだ。
別にフィルベルテに触れたかったわけではない。フィルベルテと情を交わす女性たちに嫉妬したわけでもない。それでも、己の知らぬフィルベルテを、自分以外の人間が知っているのだと思うと気に食わなかった。
向こう見ずな学生時代ならばいざ知らず、今さらこんな機会が巡って来るとは思わないではないか。だらしなく体を熱くすることくらい、許してほしい。
にちにちと潤滑油が音を立てている。圧迫感と情けなさで気分はひたすら悪かったが、それもフィルベルテの指が腹の内側を押すまでの間のことだった。
「あァっ……ん!」
堪える間もなく声が漏れ出る。くそ、と貴族らしからぬ悪態を心の中だけでついて、キィナは強く唇を噛んだ。おかしな声を出させないで欲しい。
「ん? ここ、気持ちいいの、キィナ?」
「あっ、あぁ……っ、う、んぁっ」
「はは。きゅうきゅう締め付けてくる。そんないい? な、キィナ。しゃべって。昔みたいに。誰も聞いてないから」
甘えの滲んだ、王らしからぬ声が耳をくすぐる。窘めなければと思うのに、口から出たのは、甘ったれたフィルベルテの声と同じくらいに、子どもじみた悪態だけだった。
「あ、ぁ……っ! この、馬鹿……っ、人で、あそぶなっ」
「うん。たのしー」
「ひ……っ、ああ、ぅっ」
指を増やされ、ばらばらに動かされるとたまらない。キィナの意思に関係なく、びくびくと無様に腰が痙攣した。
にんまりと猫のように目を細めたフィルベルテは、「顔が見たいな」と一言呟き、キィナの体をひっくり返す。達したわけでもないのにだらだらと透明な涎を垂らし続ける性器を眼前にさらされて、キィナは頬を引きつらせた。
「情けってもんはないんですかこの馬鹿陛下」
「キィナ相手にいらないだろう、そんなもの。なあ、挿れていい?」
ほぐされた穴に、ひたりと熱いものが添えられる。ゆるゆると亀頭だけを入れては抜く遊ぶような動作に、しびれを切らせたのはキィナの方だった。
「……です、から」
「ん? 聞こえない」
「いいからいれろって言ってるんです」
睨みつけながらキィナが言うと、フィルベルテは嬉しそうに破顔した。
次いで感じた体が砕け散りそうな衝撃に、キィナは息を詰めて身を竦める。
「っ、あ、ぐ……っ」
「痛い? ごめんな」
かけらも悪いとは思っていなさそうな表情で、フィルベルテは短く謝罪した。
飄々とした表情とは対照的に、色を深めた瞳の奥には、ぎらぎらと灯る情欲が透けて見えていた。これまで与えられたどんな愛撫よりも、フィルベルテのその視線はキィナを昂らせてくれる。
ゆるりと性器をこすり上げられると、勝手に後ろが緩んでは、思い出したようにひくりと引きつった。締め付けるたび、咥え込まされたものの大きさと固さを体で感じる。
滴る汗に、寄せられた眉。動くたびに隆起する筋肉に、忙しなく上がった呼吸。
間近で見るフィルベルテの艶姿を、しっかりと目に焼き付ける。
堪えがたい陶酔感に、くつりとキィナは喉を鳴らした。
「キィナ? どうかした?」
「いいえ、何も」
何十人もの女が知っていて、一番近くにいるキィナが知らなかったもの。
知らないことが、ずっと気に喰わなかった。フィルベルテのすべてを知ることができるなら、多少の痛みも圧迫感も、ささいなことだ。
異物感の強い腹を、ゆっくりと撫でる。途端に、何がそんなにも嬉しいのか、フィルベルテはうっとりと笑い――次の瞬間、息が止まるほど強くキィナをかき抱いて、腰を使い始めた。
「あっ、ああァ、んっ、あ!」
「ん、きもち、いいな。キィナ」
気持ちが良くて、気持ちが悪い。内臓をかき回されるような気分の悪さも、それを与えているのがフィルベルテだと思えば、笑い出しそうなほどの快感に等しかった。
寝所のシーツに爪を立て、不安定な体を揺さぶられ続ける。穿たれた場所だけが燃えそうに熱くて、そそり立ったものを乱暴なくらいに強く扱かれると、たまらなく気持ちがいい。
「手ぇ、回してくれないの? 抱きしめてよ。冷たいな、キィナ」
「嫌、ですよ」
主君の背に縋りつくなど死んでもごめんだ。意地でも手を回さないでいると、拗ねたようにフィルベルテは唇をとがらせた。
興奮で潤んだ目を互いに向け合う。繋がった部分が立てる下品な水音だけが、うるさいくらいに響いていた。湿った陰毛がぶつかって、汗ばんだ肌が触れ合う。生々しくて気持ちが悪いと思うのに、ぐるぐると目の前が回るような興奮に、気づけばキィナは声を上げていた。
「うあ、あ……っ! いく、出る、無理……っ」
「ん、俺も。……なあ、名前、呼んで。キィナ」
「フィル……っ」
同じ温度の熱を隠して、ふたりは視線を絡ませる。上り詰めた瞬間、目の前が白く染まって、やがて体がくたりと弛緩した。
ぜえぜえと荒く息をついていると、腕の力を抜いたフィルベルテの重みが、遠慮なく腹の上にのしかかってきた。
「重いです、陛下」
「また『陛下』。キィナは冷たい。ピロートークも付き合えない男は嫌われるぞ」
「ご令嬢相手には気をつけますよ。嫌がらせが終わりましたら抜いてもらってもよろしいですか。片付けますので」
ひどい、ひどいとぐずるフィルベルテを寝所に転がしたまま、キィナは手早く己の体とフィルベルテの体を清めて着衣する。テントの空気を入れ替えて、乱れた寝所を再度整えるのに、そう時間はかからなかった。
華美な服の方が似合うのにと思いつつ、戦場らしい簡易軍服をフィルベルテに着せてやれば、先ほどまでの性の匂いのかけらもない、いつも通りの空気が戻ってくる。
「夜ですから、レモンは入れませんよ」
「まだ何も言ってない」
「喉が渇いたと顔に書いてあります」
体を繋げても、己の心も態度も何も変わらない。気分屋のフィルベルテも、多分きっと、そうだろう。てきぱきと茶を用意しながら、ほんの少しだけキィナはほっとした。
* * *
暗闇の中で、赤子の泣き声が響く。本来であれば太陽の下、大勢の人の朗らかな笑顔に囲まれながら、この子は泣いているはずだった。けれど実際には、周囲を照らす陽光の代わりに、赤黒い炎と煙が城中を包んでいる。
フィルベルテが治めるエストラヴィアは、戦に負けた。城には隣国の兵があふれかえり、火を放たれた城は、かつてのきらびやかさを毎秒炎に捧げて壊れていく。
「お急ぎください、ベアトリーチェ様。こちらへ!」
怒声と剣戟の音を背に、キィナは王妃たちを連れて隘路を進む。王族の部屋にだけある隠し通路は、きっと生まれついたばかりの王子と王妃を外へと逃がし、エストラヴィアの血と命とを繋いでくれることだろう。
外へと繋がる最後の道は、下水にあった。ここから先に進むのは、ベアトリーチェと生まれたばかりの王子、そして数人の限られた護衛と侍女だけだ。
「ここまででいいわ」
動きにくいドレスを潔く脱ぎ捨てた下着姿のベアトリーチェは、すすだらけになっても美しい顔を気丈に上げて、キィナに指を突きつけた。学園時代から変わらぬ高飛車な動作で顎を上げながら、彼女は宣言する。
「キィナ。私はお前に負けていない。私は世継ぎを生んだ。この子を育み、あの人の血を残すことが私の役目。たとえあの人から遠く離れたとしたって、心は変わらない。私はお前に負けたなどと一度でも思ったことはないし、これからも思わないわ」
「存じておりますとも。ベアトリーチェ様」
キィナが淡々と答えると、ベアトリーチェはぎりぎりと悔しげに奥歯を噛んだ。
「負けてないんだから。私は正妃よ。お前が側妃だとしても、負けないんだから」
「勝ちも負けもございません。陛下のご令室はベアトリーチェ様おひとりでございます。たしかに私は名誉側妃ではございますが――いえ、私にとっては不名誉な称号ですが……私はただの従者ですから」
「何が『ただの』よ。思ってもいないことを言わないで。お前はいつもあの人の隣にいた。最期まで、お前だけが隣にいることを許される。ずるいわ、キィナ」
「……ご容赦を」
苦笑しながら返事をする。ベアトリーチェは一筋だけ涙を流した。炎を映して輝く涙の筋と、強い意志できらめく瞳が美しかった。零れる涙を拭いもせずに、ベアトリーチェは燃えるような瞳でキィナを睨む。
「あの人に伝えて。生きてこの子に会いに来なさいって。お前もよ、キィナ。会いに来なかったら許さないんだから……!」
「かしこまりました」
叶えられぬ言葉と知りながら、粛々とキィナは答えて頭を下げる。
炎に背を向けたベアトリーチェは、泣き続ける赤子をしっかりと腕に抱えて暗闇へと足を踏み出した。
「さようなら、キィナ。お前が大嫌いよ」
「さようなら、ベアトリーチェ様。私はあなたのことが好きでしたよ。多分、我が主もそうでした」
暗がりに消えていく王妃の背を見送って、キィナは炎の中へと戻っていった。
燃え盛る城の中を、足をもつれさせながら全力で駆け抜ける。血のにおいが濃い方へ。剣戟と怒声が激しくなる先へ。どうか間に合ってくれと天に祈りながら、立ちふさがるものを切り殺しながら、城の中央にある玉座へ向かって、必死に走る。
間もなくして、だらりと玉座に座る、フィルベルテの姿が見えた。
主君に迫る刃の前へと、すんでのところで身を滑り込ませる。容赦なく敵を切りつけながら、キィナはフィルベルテを怒鳴りつけた。
「だから従者と護衛の数を増やしてはいかがですかと言ったのです!」
「必要ない。お前がいる。キィナ」
のんきに言うフィルベルテの体は、すすと血にまみれていた。美しい顔は、傷跡と火傷で無惨に汚されている。玉座に座り込んだ主君の腕をひっつかみ、キィナは走った。息を切らせながら、主君を連れて奥へ奥へと走っていく。敵兵を見つけては道を変え、時に切り殺し、海に近い窓を探してキィナはひたすらに走った。
逃げ場などないと知っていた。それでも、この美しい主君を誰にも触れさせたくはなかった。首を切るなどとんでもない。想像しただけでも憤死しそうだ。
「嫌な時代に生まれたもんだよな」
ぜえぜえと息を切らしながら、フィルベルテは言う。腹からはぼたぼたと血が流れていて、焦点はすでに定まっていなかった。
キィナも似たようなものだった。肩を深く切り付けられたせいで左腕はほとんど動かないし、炎で粘膜を焼かれたのか、片目はほとんど見えていない。
それでもふたりは走り続けて、やがて、窓の手前で足を止めた。
周囲からはじりじりと敵兵が迫ってきていた。燃える城に送り込まれたこの兵たちも大変だなと思いながら、キィナはゆっくりと剣を下ろす。
フィルベルテを支えながら、キィナは努めて軽く、言葉を交わした。
「ベアトリーチェ様が、後で顔を出せとおっしゃっていましたよ」
「怒らせると怖いんだよな、あいつ」
「王妃様が怒るときは、大抵陛下が悪いです」
「ひどい」
窓の外に海が見えた。ご丁寧に海上にまで油を撒いたのか、ごうごうと燃え盛る炎の海だ。
「馬鹿な王にしては頑張ったと思わないか、キィナ」
「そうですね。陛下は馬鹿のふりをするより、真面目な顔をしている方が顔がいいんです。王座についたあなたは、誰より顔が良かったですよ」
「そりゃ、どうも。もうすぐこいつらにくれてやることになりそうだけどな」
「あげませんよ」
フィルベルテがじっとキィナを見つめた。右手に持った剣で、キィナは思いっきり窓を割る。内外に飛び散り降り注ぐガラス片をぼんやりと眺めながら、フィルベルテは静かにキィナに問いかけた。
「……死ぬまで俺のそばにいてくれる、キィナ?」
返事の代わりに、キィナはフィルベルテの胸倉を掴み、唇を押し付けた。
体を重ねたことは一度だけあったけれど、唇を合わせたことは終ぞなかったことを思い出したからだ。
他人が知っているフィルベルテの何かを、キィナが知らないのは許せない。
フィルベルテの大きな瞳に、誇らしげに笑みを浮かべた自分の顔が映る。
キィナはフィルベルテの従者だった。
ベアトリーチェの言う通りだ。キィナは孕めない。フィルベルテの愛を受ける存在にはなれない。己もまた、それを望んでいるわけではなかった。
ずっと愛していたのだと告げることはできない。だからこれは、キィナにとって、最初で最後の告白だ。一番近くで育ってきた愛しい主君への、キィナなりの愛の言葉だった。
「世間知らずの王ひとりで旅ができるはずないでしょう。死出の旅にもお供しますよ、フィル」
「うん、キィナ」
最期に吐息を交わし合い、ふたりは同時に窓から身を乗り出した。
背後の兵たちの手が迫るより早く、キィナとフィルベルテは炎の海に落ちていく。
熱く暗い底なしの海に身を捧げながら、ふたりは最期の瞬間まで互いの手を握っていた。
