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メリバ小説部門 選考通過作品 『美食家達の晩餐会』

2025/11/07 16:00

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『美食家達の晩餐会』作:弥生

 

 

あらすじ
選ばれた者しか招かれない美食家達の晩餐会。
そこでは特別な料理が提供される。
ショーケースから選ばれる丁寧に育てられたケーキ達。
古参の主催者は古城で特別な晩餐会を開く。
振る舞われたのは、美しくもおぞましいフルコースであった。
たった一つの約束と、たった一つの恋が散る場所で、何を見る事になるだろうか。
残酷な救い無き美食の物語。
ケーキバースを題材とした、残酷で切ない一つの恋の物語です。

 ※こちらの作品は性描写がございます※


 これはある美食家達の晩餐会の物語。
 会員制の美食クラブの中でも、特に選ばれた会員しか招かれない秘匿された晩餐会があるという。
 大物政治家や裏社会を取り仕切る人物、富や権力を持っているだけでなく、ある特殊な条件を満たしていなければその晩餐会に招かれる事は無い。
 まことしやかに囁かれている都市伝説。
 味覚を失い、ある特定の対象にしか『甘味』を感じないフォークと呼ばれる存在しか、その晩餐会に参加する資格を持たないと言われている。
 美食家達の{集|つど}いの中で、厳しい条件を満たした上客にはブラックカードが支配人から渡される。
 その黒いカードは月に一度特別な料理を提供する晩餐会の招待状ともなっている。
 そこでは、丁寧に飼育された食材を使ったフルコースが提供されるのだ。
 成功者たちの中では、その招待状を手に入れるために法外の財産を費やし、あらゆるコネクションを駆使し、ただその美食を味わう為だけに死力を尽くす者もいる。
 それほどまでに、失踪事件として秘匿される『ただの食事』とは訳が違うのだ。
 その晩餐会で提供される『ケーキ』は赤子の頃から密かに集められ、餌には最高品質の材料を使い、清潔な環境と限られた知識で育てられる。
 晩餐会の主催はショーケースと呼ばれる飼育場で一つ一つ丁寧にメインデッシュとなるケーキを品定めし、美食家達を招く食事会に最高の料理を振る舞えるようにと準備を行う。
 今宵のシェフは若いながらも腕が良く、この美食クラブの三ツ星シェフの称号を得てもおかしくない技量を持つ。
 食材は丁寧に育てられた最高級の美しいケーキ。
 素晴らしいディナーになるだろうと主催者は誇らしげだ。
 夕方、赤く染まる世界で高級車が古城に集う。
 晩餐会は毎回場所を変えて執り行われるが、今回の会場は美しい湖畔に立つ古城の地下で行われる。
 フォークのボディーガードに守られた客人たちが次々と城の中に入っていく。
 地下の会場には美しい花が添えられ、白いテーブルクロスに金色の燭台が映えていた。
 大きな白いスクリーンの前には主催が客人を恭しく招き入れる。
 各国から招かれた特別な客人達は、今宵のディナーを楽しみにしていた。
 どのようなケーキが食べられるか、その味はどうなのか。
 普段は抑えている衝動を、この晩餐会だけは抑えずに済む。
 それは、味覚を失った者たちにとっては耐える事が出来ないほどの甘い誘惑であった。
 招待客が全員揃うと主催者は高らかに宣言した。
「皆様、当家の晩餐会へようこそおいでくださいました。今宵はすばらしいコースをご用意しております。五感全てで楽しみください」
 この場にいるのは給仕も護衛もケーキの甘さを知るフォーク達ばかり。
 その中でも選ばれた美食家達の晩餐会がはじまる。

「アミューズには{肝臓|フォア}をパテにしたものをご用意しました。ブラッディソースと共にお楽しみください。食前酒はケーキの睾丸を二年漬けたブランディーをご用意いたしました」
 皿の上には小さなパテが乗っており、一口で食べきれるその食材を口に含めば、客たちの口からどよめきが起きる。
「なんと濃厚な……雑味の無い素晴らしい甘さだ」
「ええ、今宵の為に最高級のケーキをご用意いたしました。ストレスの負荷が少ないケーキは非常に舌触りが滑らかになります」
「この濃縮された旨味……それだけではありますまい」
 初老の客も驚きながら舌に乗せたパテを味わう。
「ええ、報告ではそのケーキは恋をしていた、と。恋愛感情を持つと分泌されるバソプレシンがケーキの品質に良い影響を与える事は知られておりますが、なかなかショーケースの中での飼育環境下では恋愛感情が芽生える事がありません。丁寧に条件を付けて飼育していた事で育まれたのでしょう」
 次のオードブルには野菜類を薄い皮で包めるようになっていた。
「野菜は新鮮な物をご用意しておりますが、皮の方は臀部の皮を使用しております。柔らかく滑らかな食感をお楽しみください」
 薄い皮に野菜を包みナイフとフォークで切り分ける。ふるりと舌の上で蕩けるような甘さに客たちは皆喜んだ。
「スープは血と臓腑をポタージュにいたしました。煮込んだ内臓は丁寧に濾しておりますので、舌触りもなめらかになっています」
 とろみがついたスープは味わいに深みが出ており、非常にくちどけが良かった。
「メインの一品目はスペアリブでございます。肋骨についた肉がほろほろになるまでじっくりと焼き上げたものでございます」
 この晩餐会に魚料理は出てこない。代わりにメインが二品振る舞われる。
 丁寧に焼き上げたそのスペアリブは絶品で、これほどまに甘美な食材を食べたことが無いと、多くの客人達の舌を喜ばせた。
「ソルベにはお口直しに素材の風味を生かしております。こちらは処女喪失の痛みに零れ落ちた涙を集めたものです。複数のケーキより抽出致しました」
 ひんやりとした涙を凍らせたシャーベットは、痛みと快楽が混ざったような背筋がゾクゾクとするような味がした。
 ソルベを客人が食べ終わるのを待つと、主催者は今宵のメイン料理の提供の為の準備を行った。
「それでは皆様に、特別な料理をご用意いたしました。私がコーディネートした中でも最高の逸品です。どうぞ、五感でお楽しみください」
 客人の前に釣り鐘型のクローシュが被せられた皿が運ばれる。
 そうして、今宵のシェフが布を被せられたカートを押して白いスクリーンの前に現れた。
「……皆様の食事をご用意する事ができ、大変光栄でございます。どうぞ、最後までお楽しみください」
 主催者はこの晩餐会を何度も取り仕切っているこの会の古参の一人だ。
 その彼が絶賛する料理に参加者たちは期待に胸を膨らませる。
 客の前に置かれた銀色のクローシュを配膳を担当するシェフ・ド・ランが開けていく。
 皿の中央には腸詰が芸術的に盛り合わせてあった。

 メインに腸詰。客たちが少々落胆する。ケーキはどの部位でも味わい深いが、メインにしては少々インパクトに欠ける。
「皆様、一口お食べ頂いたら、この料理が特別な事がお分かりいただけると思います」
 主催者の言葉に客人達はナイフをその腸詰にプツリと入れる。
 中には白濁色のソースがたっぷりと詰め込まれており、溢れ出したソースから甘い匂いがふわりと香り立つ。
「これは……」
 じゅわりと客人の口内に唾液が溜まる。
 震えそうになる手を堪え、肉をソースに絡めて一口含めば、余りにも濃厚な香りに皆口元を押さえた。
「あぁ、何という……この味わい……これは、ケーキを3つ……いや4つ使っているのか?」
「どのようにしてこちらを作られたのでしょうか。深い味わいに舌が蕩けてしまいそうだ」
「シェフよりご説明いたしましょう」
 主催者は客人達の動揺に微笑むとシェフに合図を行った。
 シェフはカートの上のオブジェクトに被せられたベルベッドの布を取りさる。
 その下には氷の彫刻に活けられていた美しい花……否。微笑みながら目を閉じる美少年の頭部に花が活けられていた。
 ケーキは美しい者が多いと言われているが、その中でも一際美しい少年が飾られていた。
「今宵のメインデッシュはこの美しいケーキの精液の腸詰となっております。精液は生前に七名もの凛々しいケーキから注がれたものを余すところなく使っております。見て楽しみ、味わって愉しんで頂けるように特別な映像もご用意させていただきました」
 会場が薄暗くなり、大きなスクリーンに映像が映し出される。
『あっはっ……う……んっ』
 スクリーンの中には美しい少年が仰向けに拘束されていた。その白い裸体に幾つもの舌が伸ばされる。少年の手足を押さえるのもケーキの美青年たちであった。
 少年の蕾は散々指で弄られたのか、とろとろに蕩けており、ひくひくと震えている。
「幾重にもケーキの味が重なるのは、何種類もの味の異なるケーキの精液が使われているからです。少年の腹の中に溢れるばかりの精液を注ぎ込み、そのまま焼き上げる事で味わいを深めております」
 涙を浮かべる少年の蕾に、太く逞しいペニスが当てられる。そうして亀頭をぐぷりと捩じ込むと一気に腰を打ちつけた。
『あああっ』
 びくりと震える身体を抑え込むように腰が打ち突かれる。
 処女を散らされたばかりだろうか。括約筋はギリギリまで伸び切り、もうこれ以上は開かないという部分まで開いていた。
 だが、少年を組み敷く青年は、媚薬でも盛られているのか、その怒張を止める事が出来ない。
 ぬちぬちと中に挿入させた後、耐えかねたように激しく動き始める。
 スクリーンには、中を強く打ち突かれ、淵を赤く染める様子もくっきりと映し出されていた。
 シェフはその激しい性交の音を聞きながら、震える手で飾られた少年の頭部を整える。
 客人達は食事を取りながらスクリーンに映し出される少年の姿に釘付けになっている。
『あ……あぁ……』
 少年の甘い吐息の後、犯していた青年の男根がずるりと抜けると、赤く腫れた肛門からとろりと白濁が零れ落ちた。
 ぽたりぽたりと滴り落ちて臀を伝うのが大変艶めかしい。
 息を整える間も無く別のケーキの男性が、その淵に亀頭を引っかけてぐぷりと中に入る。
『んんっ』
 中に出された精液を押し出すようにぶちゅりと奥まで男根を強く押し込まれる。
『いあ、あっ……あっあっ……』
 白く細い足が腰を推し進める動きに合わせて揺れる。
 二人目が中までたっぷりと出すと、三人目が体位を変えて少年を犯し始めた。
「この少年は淡い恋心を持ったまま、最後までその想いに浸れるようにと少々心を弄っております。それ故、味に雑味が混じらないのです」
 主催者は得意げに解説する。
 ケーキの少年はとろりと瞳を蕩かせながら、喉に差し込まれた男根を美味しそうにしゃぶる。
 腹がたぽたぽと鳴るほどに注がれ、結腸のその奥まで白濁で染め上げながら二輪挿の状態で複数のケーキをしゃぶっていた。
 七名もの凛々しいケーキから次から次へと犯された少年は焦点の合わない瞳で微笑んでいた。
「あぁ、なんて素晴らしい。味覚だけでなく、視覚や聴覚、五感全てで味わうことができるなんて……」
「素晴らしい演出だ……」
「お客様には今宵城に部屋とお夜食のケーキをご用意してございます。どのように味わって頂いても結構でございます」
 その言葉に、映し出される映像によって煽られた客達は満足そうに微笑む。
 デザートにと、シェフは美しい少年の頭部に活けられていた花を一輪ずつ皿に盛りつける。
 その艶やかな造花はケーキの骨から作られていて、粉末状にした骨を砂糖菓子の様に練り上げた物だった。
「皆様、今宵の宴は如何でしたでしょうか」
「素晴らしい。最高のディナーだった」
「演出も実に見事だ。あぁ、あの甘やかな声が耳の奥でまだ響いているようだ」
「私もこんなにも素晴らしいフルコースは初めてだったよ。この後の夜食も楽しませて頂こう」
 壁に並んだ美しい夜食用のケーキたちは陶器の様な微笑みを浮かべていた。
「主催者、この素晴らしい料理を作ったシェフに敬意を表したい。……まだ歴代でも三名にしか許されていない三ツ星をシェフに贈りたいのだが、いかがだろうか?」
 客人達はまだ若いのでは。いや素晴らしい料理だった。初めての事だ前例がない。などと話し込んでいたが、この日に提供された料理は本当に素晴らしく、その評価は受け入れられた。
「ありがとうございます。我がシェフがそのような栄誉を頂いたこと、大変喜ばしく思います。シェフ、ご挨拶を」
 選ばれたフォーク達の晩餐会で三ツ星を許されるのは、この界隈においては最高の誉れである。
 シェフは震える声を抑えながら「大変光栄でございます」と深くお辞儀を返した。
 客人達がケーキの手を引いて城の奥へと消えていくと、シェフや給仕たちは残された会場や食材の片付けに入る。
 主催者の男は恍惚とした表情でこの晩餐会の成功を喜んだ。
「大変すばらしい晩餐会となりました。皆の者、褒美を取らせます。特にシェフ、三ツ星の栄誉は料理人として誉でしょう」
「ありがとうございます」
 まだ若いシェフは深く主催者にお辞儀した。
「もし褒美として許されるのでしたら、今日振る舞われたケーキの残りを頂いてもよろしいでしょうか」
「ああ、今日のメインのケーキはショーケースに並べられる前から君が飼育していたのでしたね。ええ。構いません。本当に素晴らしいショーでした」
「ありがとうございます」
 シェフは繊細な氷の器に飾られた少年の首に布を被せ、カートを牽いてキッチンに戻っていった。

 今宵の晩餐会ではシェフ・ド・キュイジーヌであるシェフの他に数名の料理人がいたが、この場を外してもらっていた。
 キッチンの台の上には、晩餐会に振る舞われなかった食材が残されていた。
 シェフは眠る様に目を閉じる少年の頭部を丁寧にテーブルの上に乗せると、残された食材に手を付ける。
 それが、少年との約束だったからだ。
『ねぇ、僕はもうすぐ出荷されるのでしょう?』
 死ぬことに苦しみを覚える事が無いように、フォークに食される事こそが幸せだと教えられてきた無垢なケーキ。
 その中でも一際美しく無垢な少年は、飼育場を度々訪れていたシェフに恋をした。
 料理人として、食材に情を持つ事は許されない。
 だが、シェフは慕ってくれるケーキの無垢さに負けて、ぽつりぽつりと会話してしまった。
 一流のシェフを目指していた事。それが評価され特別な晩餐会の料理を任されるようになった事。それからずっと三ツ星シェフになる為に、努力をしていた事。
 ケーキの少年はシェフの話を嬉しそうに聞いていた。
『もしも必ずその時が来るのなら、僕はフォークの貴方に食べられたい』
 記憶の中の少年の声を忘れる事が出来ない。
 シェフは、テーブルに残された少年の肉片をナイフで切り口に運ぶ。
 震える手でその肉を舌に乗せた。
『僕は幸せなケーキだよ。だって、本当に大切な人が最後に出来たんだ』
 美しいだけでなく、その心はとても澄んでいて。
 何故彼がケーキなのだろうかと眠れぬ夜に考え続けていた。
 肉を咀嚼し、嚥下する。
 そうしてまた彼の一部を口に運ぶ。
『逃げよう。このままでは、君は……』
 心が苛まれ、彼の手を取ろうとしたこともあった。けれども……。
『どこにも行くことはできないもの。だから、自分の最後は自分で決めたいな』
 酷くやつれたシェフの目の下の隈をそっと撫でて、少年は微笑んだ。
 シェフ自体もわかっていた。
 この美食家達の晩餐会は、失敗が許されないことを。
 粗相をした給仕が何人も消えた。
 ケーキに苦しみを与えて料理に雑味が出てしまったせいで殺された料理人も。
 ……その家族までも咎を与えられる。
 世界を牛耳るフォークに仕えるという事は、そういう事なのだ。
 苦しんだケーキは食材として使われず、そのまま廃棄された事もある。
 だから、痛みを消す薬を血管に流し、幸福のまま眠る様にケーキは食材となる。
 口に含んだ肉が彼の一部なのだと、嘔吐きそうになる。
 駄目だ。彼が、唯一望んだことなのだから。
 ぼたぼたとテーブルに涙が落ちた。シェフは知らずに涙を流していた。
『貴方は優しい人だから。僕は大丈夫だよ。だって、貴方に会えたもの。とても、幸せ』
 彼を食材として使うのを、シェフは雇い主に提案した。
 他の誰に調理されるのではなく、せめて自分が彼の死を見届けようと。
 だが、主催者が望んだ調理法はシェフには耐えられないものだった。
『シェフ、次のメインは精液の腸詰、なんて如何でしょう? ケーキの体液は個体差があります。きっとたくさんのケーキに犯された処女のケーキの内蔵は甘美でしょうね』
 痛みを消す注射を打たれた彼はただ甘い肉欲に溺れる。
『これで美味しくなれるのなら。僕を調理してくれるシェフなら、きっと僕を丸ごと美味しく作ってくれるよね。……もしも抱かれるのなら、貴方が良かったけれど、でも最期に僕を残さず食べてくれるのが貴方なら、僕はどんなことでも耐えられるよ』
 ――貴方の夢を応援しているから。
 そう微笑んで、ケーキとして生まれた少年は輪姦され、ぽてりと膨らんだ腹のまま、シェフに身を委ねた。
 ……シェフは残された血塊を啜る様に喉の奥に流し込む。
『ねぇ、僕……一番美味しい所は残す事が出来ないかもしれないけれど、全部貴方に食べられたい。だから約束ね』
 込み上げてくるものを飲み込み、全てを咀嚼する。
 ……命を止める薬を首筋から打ち込むと、少年は美しく微笑んだまま永眠した。
 両手と服を血に染めながら、シェフは少年の欠片も残さず食べ尽くした。
「……君を失って栄誉を得たとしても、それに何の価値があるというんだ……」
 ただの、食材のはずだった。
 情を持たないようにしていたのに……。
 もう彼を見て微笑む少年はいない。
 ……ケーキの少年は最期まで知る事は無かった。
 彼がなぜ夢を叶える事が難しかったか。
 その腕前だけで見れば一流なのに、結局ここまでしなければ三ツ星を得る事が出来なかった理由。
『シェフ、フォークでない者が三ツ星に選ばれたのは貴方が初めてです。フォークでもない貴方がよくぞここまで栄えある称号を得ました。実に見事です』
 シェフは慟哭する。
 彼がケーキでなければ。
 この世界にフォークがいなければ。
 あの手を握り返す事が出来たのだろうか。
 物言わぬ少年はただ微笑するのみ。
 ただの人でありながら少年の残骸を食べ切った男は、少年の頭を抱えて唇に口づけを落とす。
 その唇が赤く色づいた。
 それをルージュの様に唇をなぞり、朱を引いた。
「すぐに、行くからな」
 少年が希った『シェフの願い』は果たされた。
 もう、良いよな。もう許されるだろうか。そうシェフであった男は懐の拳銃を取り出す。
「ケーキもフォークも無い、そんな世界で……」
 ただ、君に会いたい。

 そうシェフは囁くと、少年の頭を愛しそうに抱えて引き金を引いた。

終宴


 
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