この作家に聞きたかった

紹介文

2010年夏のデビュー直後からちるちるでも評価が高く、2011年度のちるちるBLアワードでは新人ランキング第1位に輝いた秀良子先生。将来どこまで高く羽ばたいていくのか、楽しみすぎるBL作家のおひとりです。10月25日には祥伝社から新刊『宇田川町で待っててよ。』をリリース。この機を逃してなるものかと、お話をうかがいました!



Q. 秀先生、10月25日リリースの新刊『宇田川町で待っててよ。』は、アンソロジー『on BLUE』での連載を収録。祥伝社からはご自身初のコミックスですね。これまでとは何か変えた点というか、意識されたことなどありますか?

A:いままでの単行本では、一迅社さんはポップ、東京漫画社さんはスタンダードな感じを意識して描いていたのでそのどちらでもないものを描いてみようと思っていました。基本的に漫画はどんなジャンルのものも大好きなので、やってみたいことがたくさんあって少しずつチャレンジさせていただいています。

Q. 第1話の冒頭、主人公である高校生の百瀬は、目の前に立っているのが女装したクラスメイトの八代だと気づきます。そして学校で再び八代を注視して、やはりあれは「まちがいない……ような気がする…」と謎を追う展開。一気に物語に引き込まれました。今作の着想や、キャラクターはどんなところから生まれたんでしょうか?

A:子供の頃から異性装者が出てくる漫画や映画作品がとても好きだったので、自然と題材になりました。
あとは男性が同性を褒める時に「抱かれてもいい」とか「抱ける」とか言い出すことに興味があって…(笑)。女性同士ではなかなかないことだよなぁと。
『宇田川~』の女装男子八代は、なるべく微妙な、ふとした瞬間にうっかりかわいく見えるような女装を目指したかったんですが…とても難しかったです。
主人公の百瀬も八代もネームを描く段階でいろんなキャラを当てはめて、一番しっくりくるまでいじり倒しました。百瀬は最初、野球部の部活少年だったりしました。
異性装ものが好きな理由は、人のもつ矛盾を強烈に体現しているところに惹かれるのかな~と思いますが、正直よくわからないです(笑)。女装については男の娘も似合ってないものもドラアグクイーンもみんな好きです。あとはグラムロックファッションとかも好きです。

Q. ストーリーが進むに連れて徐々に、八代がなぜ女装をするようになったか明らかにされていくわけですが、後半、八代のモノローグとダークめに描かれる誌面に、体の芯を震えさせられました。八代の業を覗き見てしまって、キュンというかギュンというか、ぢゅん……としちゃったというか……。

A:そのあたりの展開は、連載として描かせていただくことになった時に「ここに行くぞー」と目標の旗を立てたところなので、感想をいただけて嬉しいです。
ひとりでは行き着けない、後戻りできないところまで行ってもらおうと思っていました。そのために逆に、八代の女装の理由は掘り下げすぎないようにして、そこ(女装)から起こってしまう関係性の出来事だけを追っていく話作りを意識していました。
日常生活の中で常々「普通の人」っていないよなぁと思っています。

Q. 私が印象に残った、今作の数ある見せ場のひとつだと思うのが、百瀬と女装した八代が街で待ち合わせしたところに、百瀬のお姉さんが現れるシーンです。先生のこれまでの作品にも、カップルの間に女性が関わって不穏な空気が流れる、というストーリー展開があると思うのですが、女性キャラを使うこだわりのようなものはありますでしょうか?

A:私自身に弟がいるので、姉と弟の関係性は描きやすくてつい出してしまいます(笑)。女性キャラは、BL作品ではいくらか記号的に、生々しさを削ぐように描いてしまうのですが、そうでない女の子も描いてみたいです。

Q. あとから気づいたんですが、百瀬と八代の通う高校は男子校ですよね? 先生ご自身は思春期から10代後半にかけて、どんな学校生活をおくってらっしゃいましたか?

A:描きはじめた当初は男子校にした理由があった気がするんですが…忘れてしまいました…。百瀬から女性への耐性を奪いたかったんだと思います、たぶん。
私自身は素行のあまりよくない共学の公立校に行ってました。中学の時は友達と一緒にアニメ・漫画漬けで、高校に上がってからは隠れオタクになり家でこそこそアニメ・漫画漬けでした。

Q. 絵や漫画を描き始めたきっかけはなんでしょう?

A:物心ついた頃には絵を描いていたのですが、漫画と出会ったのは小学生の低~中学年の頃だと思います。友達の家に少女漫画雑誌があって、「なんだこれはー!」と衝撃を受けて家に帰って親の本棚を探したら、『鉄腕アトム』と『小さな恋のものがたり』が出てきて「なんかちょっと違うな!?」と思いながらも読みはじめたら面白くて、繰り返し読んでました。
お遊び的に漫画をはじめて描いたのは小学校の高学年の頃だったのですが、中学に上がって転校した先で会った友達の影響で、同人活動をはじめて色々描くようになりました。
その頃は『日出処の天子』『BANANA FISH』『アーシアン』等の男同士もの少女漫画に夢中でした。あとは少年、青年誌系も読むようになり『究極超人あ~る』や『寄生獣』とかも大好きでミギーごっこをよくしていました(笑)。
10代の後半からは『コミックCUE』という雑誌の影響で高野文子先生、黒田硫黄先生、安達哲先生が好きになりよく読んでました。
この他にも好きな作品は山ほどあるので、幼少~10代までに出会ったどれかしらの作品に特別影響を受けたというより、すべてが混ざっているような気がします。

Q. BLとの出会いは?

A:小学生の頃、『エロイカより愛をこめて』の下敷きを持ってたんですが、男性同士の絡みなのにそれをとても大事に宝物にしていて…一番古い記憶はそれです。
中学生の時は『炎の蜃気楼』と『富士見二丁目交響楽団』を友達に借りて夜なべして読んでました。あとはこだか和麻先生の作品もよく読みました。

Q. ペンネームの由来や、込めた思いを教えてください。

A:高校生の時にネットのアンケートの答える用に適当につけたペンネームで…あんまり深い理由とかないんですが、「秀」という字が使いたくてつけました。

Q. 秀先生は、四国にゆかりが深かったりしますか? 『ネガティブ君とポジティブ君』(一迅社刊)で、カップルの名前は「平安と奈良の貴族からいただきました」とあったのを見て、「もしかして藤原純友? わー私も大好き」と思ったりしたのと、既刊のいくつかに夏目漱石がフィーチャーされているので、もしかしてと思いまして。

A:父が四国の出身なのですが、あまりそこからの影響ではないです(笑)。『ネガポジ君』は、それぞれ藤原純友と橘清友からとりました。
源平藤橘の四姓から名前を拝借しようと漠然と思っていて、響きの一番しっくりきたこのふたりにしました。
もともとは中学生の頃に高河ゆん先生の『源氏』の影響で源平が好きになって、そこからです。
夏目漱石も昔から好きです。特に『吾輩は猫である』が大好きで…二次創作の同人誌を出そうかと思ったくらいです。
なので千円札のデザインが変わった時は悲しかったです(笑)。

Q. デビューのきっかけや、経緯を聞かせていただけますか?

A:二次創作の同人活動をしていて、イベントで声をかけていただきました。一迅社さんから新しいBLのレーベルを作るので、というお話でした。
最近のBL界のいろはがわからなかった私は「描けるかどうか…でも描きたいので勉強してみます。」とお答えしたんですが「勉強しないで描いてみてください。」と言われて、一作目の『イケメン君とさえない君』を描き下ろしで描かせていただきました。働きながらだったので1年くらいかかった気がします。
オリジナルの漫画を、単行本1冊というページ数で描く、というすべてがはじめてのことで、とても大変で白髪がはえました。

Q. 『イケメン君とさえない君』の設定はとっても衝撃でした。まさかの心霊もの。あと、『金持ち君と貧乏君』(一迅社刊)の複雑な三角関係もおもしろかったです。こういった設定を生み出す秀先生の素養は、どのようなものによって育まれたと思われますか?

A:心霊ものは、小学生の頃に好きだった少女漫画の影響です。あとは、人間の体温にはどんな形であれ人を救う力があると感じてた時期だったので。
『金貧』の設定は、もともとタイムトラベルものが描きたくていろいろ資料を集めていたんですが、実際に体や精神が時間移動する以外にも色々やりようがあるな、と浮かんできたものです。基本は少女漫画からの影響が大きいです。

Q. 登場人物の設定をされる際に、何かこだわりのポイントってありますでしょうか?

A:う~ん…こだわれるほどキャラ作りがうまくないんですが…。キャラクターが動いてくれるのを追って話を作るタイプなので、ある程度の個性があると助かります。

Q. ちなみに今作『宇田川町で待っててよ。』の主要キャラに、裏設定があれば教えてください。

A:百瀬がすごく気持ち悪いキャラになってしまったのであとから「歌がうまい」と取って付けましたが漫画で描く場面が出なかったです。

Q. 作家という立場を離れて、どんなカップリングやシチュエーションのBLがお好きですか?

A:昔っからリバが好きです。10代の頃は刑務所ものとかもすごく好きでした。描いてるものとは離れるんですが、気弱だったりなよっとしている人が攻だとテンションが上がります。あとは自覚ない萌えシチュに出会って「こんな萌えツボしらなかった…!」ってのたうつ瞬間が楽しいです。

Q. 今後、チャレンジしたい作風やストーリーは?

A:さっきも言ってますが、リバは描いてみたいです。あとはタイムトラベルも再チャレンジしてみたいし、長い片想いやドロドロした日常系もやってみたいです。いっぱいあります(笑)。

Q. プライベートで、最近楽しかったことや、将来実現させたい目標や野望があれば、聞かせていただけますか。

A:フランスに競馬の凱旋門賞を観に行きました。オルフェーヴルが好きで…競走馬はみんな性格が違って、萌えの宝庫です。

Q. 最後に、ちるちるユーザーにメッセージをお願いします!

A:ここまで読んでいただきありがとうございます! お声をかけていただき光栄です。
まだまだ手探りで、至らない点も多く七転び八転びしながら漫画を描いておりますが、もう少しで子鹿のようにぶるぶるしながらも立てそうな気がしてますので『宇田川町で待っててよ。』お手に取っていただけると嬉しいです。

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