この作家に聞きたかった

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1月24日、遠野春日先生の「情熱シリーズ」に新作『艶恋』が登場です! 10年以上に渡って愛されている同シリーズ。昨年はこれまでの作品が続々と復刊されました。これを機に、「情熱シリーズ」づくしで遠野先生にインタビュー! とっても興味深いお話をうかがえました。



Q. 2012年は8月から12月まで毎月1冊ずつ、「情熱シリーズ」が復刊されました。ヤクザに囲われていた受である久保佳人のピンチを、攻の黒澤遥が助けることから始まる恋愛ドラマ。振り返られて、いかがでしょうか?

A:久々に読み返してみましたら、出会った頃の遥さんの素っ気なさや冷ややか発言が記憶にあったものよりぐんと強烈で、そこから徐々にデレていく様が我ながら興味深かったです。復刊を機に時系列をきっちり合わせるべく取り組んだのですが、これが思いのほか大変で、年表から作らないと難しいなぁと噛みしめました。各巻に書き下ろすショート小説も、なにかひと工夫できたらと、第一部本編の四冊で共通テーマを設けました。

Q. シリーズ第1作『ひそやかな情熱』は、「30代前半にして多くの会社を経営する遥」×「10代後半から10年間もヤクザの愛人だった佳人」が本当に“ひそやかぁ~”に結ばれるまでの物語。あとがきで、最初のアイデアでは「エロティック路線重視のハードラブを書こうと思って……」とありましたね。もし、“ひそやか”でなく強引にでも“ハード”に書かれていたら、「情熱シリーズ」はどうなっていたと思われますか?

A:おそらくまったく違う話になっていたと思います。当初ストックとしてノートに書き殴っていた人物関係図に添えた説明では、遥さんの役回りはもっと単純に、「気紛れで手に入れた美青年を、借金で縛り付けて好き放題する。そのうち恋愛感情が芽生えてきて……」的なものを考えていたのですが、いざプロットを立てる段になると遥さんというキャラクターがそんなふうには動いてくれず、現在の形になりました。ハードエロティックラブ路線で書いていたらどうなったのか、もはや想像もつきません(汗)

Q. 第2作『情熱のゆくえ』では遥×佳人をしのぐ人気を誇るカップルが登場しますね。大物ヤクザの東原×弁護士の貴史。東原は、遥の親友であり佳人を囲っていたヤクザの本家筋として以前からの重要キャラですが、先生が彼のパートナーに弁護士を選ばれたきっかけは、もしかして東原が先生の別作品に「あちこち顔出ししている」こととも関係あるのでしょうか?

A:いえ、それはべつに関係ないです。貴史さんを弁護士設定にしたのは、本当になんとなくだったと思います。東原とかかわっていてもおかしくない職業の堅気の青年で、遥や佳人と設定が被るのを避けようと考えたら、自然と弁護士を選んでいたというような。貴史を、白石(編注:『金のひまわり』主人公の敏腕弁護士)のところにいた元イソ弁にしようと思ったのは、貴史の職業を決めたあとでした。

Q. 東原のように別作品にも登場するキャラは、わりといるのでしょうか? だとしたらぜひ、“遠野ワールド”相関図を作っていただきたかったりするのですが……。

A:初期作品には特に、東原のような別作品にも出張ってくるキャラクターをいろいろと出して、こっそり愉しんでいました。わかる方にはわかる、でもべつに知らなくても差し支えはない、というのが好きでした。東原と東雲会、川口組の設定は結構あちこちに出てきます。相関図、一度ちょっと作ってみたことがあるのですが、また機会があれば新たに作り直してみたいです!

Q. 私が個人的に好きなのが、シリーズ第3作『情熱の飛沫』です。同作ではクールでカッコよすぎな遥の“ほころび”が見えるというか、いつもは運転手つきの車に乗っている彼が、会社を興したころのエピソードとともにポルシェを駆るというシーンがすごく好きなんです。今のカッコよさを培った苦労話とか、そのあたりに非常に萌えるもので……。

A:ありがとうございます。遥さんは決してかっこいいばかりのキャラクターではない、というところをお見せしたくて、私も機会があれば彼の“ほころび”を書こうとしています。拙著にしばしば登場する攻キャラの中でも、遥さんほど叩き上げで苦労しているエグゼクティブは稀で、そこが私自身書いていて面白いです。遥さんは、いわゆる御曹司ではないんですよね。

Q. ちなみに、第2作の悪役である境は、第3作に登場する長田組とつながりがあったりってことはないでしょうか?

A:それはないです。彼はただのチンピラでした(笑)

Q. シリーズ第4作であり第一部の完結『情熱の結晶』は、先生のご友人から「伝家の宝刀」とツッコミを入れられた“記憶喪失もの”。単純に楽しく読めました、ドキドキハラハラして。意識的に“エンタメ路線”を狙って書かれた、ということはないんでしょうか?

A:書こうと思いついたきっかけが『冬のソナタ』でしたので、無意識のうちにもエンタメ路線を狙っていた気がしないでもないです。『情熱の結晶』を書いた当時、読者様から、とある作品を思い出しました、というお手紙をいただきまして、決して似ていると責めているわけではありませんとの但し書きがあったのですが、後日私もその作品を拝見して、「あ、本当だ。似てる」と思ったことがありました。男同士の恋愛がメインで一方が記憶喪失になると、おおむねこういうストーリー展開になりがちなんだろうな、とそのとき思いまして、それが詰まるところ「エンターテインメント路線」ということなんじゃないかな、とこの質問にお答えしていてあらためて考えました。

Q. 個人的にストーリー終盤、遥の運転手である中村に萌えました。「おお、中村いいヤツじゃ~ん(笑)」みたいな。また、遥の返しのセリフもいいですね。もしも実写化するなら、「中村役には名バイプレーヤーをキャスティングしなきゃな」とか勝手に思ったり……。

A:あの場面は珍しく中村のキャラクターを垣間見ることができるところですね。普段なかなか書き込むところまではいかない脇キャラですが、そう言っていただけると嬉しいです。実写化は考えたことがないのですが、音声ドラマではどなたが合うかな、と想像を巡らせます。書いていても、メインキャラクターの声はドラマCDで声を当てていただいた方々の声でセリフが浮かびます。

Q. 復刊にあたり、第1部の4作品には“ひと手間かけた料理”がテーマの書き下ろしショートが収録されています。私は「ペルドローって何?」とか思いつつネット検索して「おおうまそう!」なんてことしながら楽しませていただきました。今回のショート執筆に活きた、遠野先生のプライベートの経験はあったりするでしょうか?

A:いえ、4作品に登場する料理は一つも私自身は作ったことがありません。作ったことはありませんが、サバランはケーキ屋さんで買って食べましたし、野菜のテリーヌはいつもデパ地下で買うお気に入りがあります。ペルドローとルバーブもそのうち味わいたいです。自分で書いたものに影響を受けて、あとから体験する、ということは食べ物以外でもしばしばあります。

Q. 2012年の復刊の最後を飾ったのが、シリーズ第2部のスタート『さやかな絆 -花信風-』ですね。第1部で固く結ばれた遥×佳人の絆。最初のHで、佳人が遥に“乳首攻め”するようなシーンがあって、「おお、佳人もやるじゃないか」とほほえましかったです。「情熱シリーズ」のHシーンにある、こだわりなど教えていただけますか?

A:佳人が受け身に徹することなく積極的になることもこだわりの一つなのですが、『ひそやかな情熱』の最初の話を書いたときには、なるべく喘ぎ声を書かないでストイックさを強調した上でエロティックな表現がしたいと心がけていました。『夏の華』(編注:『ひそやかな情熱』に収録の短編)ではそれはなしになったのですが(笑)。実は、私が攻キャラの色っぽさに目覚めたのは遥さんが感じて僅かに喘ぐというシーンを書いてからです。以来、攻なのにどこか受っぽさが漂う、男らしい攻キャラの色気と魅力に嵌まってしまいました。

Q. 今回の5ヶ月連続復刊リリースで、著者である遠野先生ご自身でさえ今まで気づかなかった、遥×佳人の魅力を新たに発見してしまった……、なんてことはあるでしょうか?

A:以前から二人は「男夫婦」と呼ばれているみたいだったのですが、私もつくづく、夫婦っぽいなぁと思いました。亭主関白の遥と三歩下がって遥を立てる佳人の関係性は拙著に出てくるほかのカップルとはまたちょっと違った感じで、書いていて興味深いです。あれでも二人は精神的には対等なんですよね。別々に動かしているときよりもペアでいるときのほうがより「らしさ」が出るところが、この二人の魅力なのかなとあらためて感じました。

Q. 間もなくシリーズ新作『艶恋』が発売されますね! こちらは、2008年にドラマCDのみでリリースされた「東原×貴史」の恋物語を、大幅加筆修正した小説とうかがっています。執筆前に、ドラマCDを聴き返されたりしましたか?

A:聴き返してはいないです。ですが、発売されたときに5回くらいリピートしていて、今でもセリフの一部が明瞭に頭に浮かびます。脚本形式で作品を書いたのは初めてで、正直、形の違いに幾分振り回されてしまったところがなきにしもあらずでしたので、今回あらためて小説として書き直せてよかったと思っています。脚本と小説は似て非なるものだなぁと、大変勉強になりました。

Q. 声優さんの演技に感化されて、キャラ設定が執筆前に考えていたのとちょっと変わった、なんてことはないでしょうか?

A:あー、それは、なかったと思います。声優さんのほうが私の意図したキャラクターにぴったりイメージを合わせて演じてくださいましたので、変わりようがなかったといいますか。

Q. これからの「情熱シリーズ」の展望を、可能な部分だけでもうかがえますでしょうか?

A:恋愛面ではメインのカップルたちはそれぞれ収まるところに収まった感がありますので、これから書きたいのは、佳人の決意というか、そのあたりのことになるかと思います。佳人という人はたおやかで従順そうですが、やはり獅子の血を持って生まれた人だと思うんです。遥さんは佳人のそういうところに初めて会ったとき共鳴したんじゃないかな、と。もちろん恋愛面でもよりいっそう関係性が深まるようにしていきたいと思っています。

Q. 最近、プライベートで「これはぜひ作品に取り入れたい」と思われたことや、ハマっているものなどあれば聞かせてください。

A:山登り。ハイキング程度の山に登ることに嵌まりました。きついのに次また行きたくなる、不思議な魅力があります。いつか作品に取り入れようと思っています。

Q. 2013年の抱負をお願いします。

A:スケジュール通りに一つ一つ丁寧にお仕事をこなしていくことです。プライベートでは、出会いを大切にして、自分にも他人にも誠実であることです。

Q. 最後に、ちるちるユーザーのみなさんにメッセージをお願いします!

A:初めまして、遠野春日と申します。ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございます。今年でデビュー15年になりますが、まだまだ勉強することが多く、どの作品も手探り状態、試行錯誤を繰り返しつつ執筆しています。今回取り上げていただいた「情熱シリーズ」は、もう十年以上にわたって書き続けている作品群で、特に思い入れのあるものです。普段なかなかこのような形で自作と向き合うことはなく、貴重な機会を与えてくださいましたちるちる様に感謝しています。このインタビューをお読みになって、少しでも私自身や作品に興味を持っていただけましたなら、これ以上に嬉しいことはありません。ぜひ一度、試しに拙著をお手にとってみてください。また、いつも拙著をお読みくださり、応援してくださっている読者様方には、心よりお礼申し上げます。今後もシリーズの新作、復刊をはじめとして、様々な著書を発行していただく予定になっております。少しずつでも精進しながら書き続けていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

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