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女性羽多奈緒さん

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見つめ合う視線と表情、距離感だけで惹かれ合うことが分かる二人の輝き

お話も好きですが、絵の説得力が好きです。
屈託なく、相手への好意を表情に滲ませて見つめ合う高校時代の2人の眩しさ。
だけど、恋心を打ち明けられない意地っ張りともどかしさ。
残酷な事件によって引き離され、10年を経て再会した時。2人はちゃんと「大人の顔」になっています。そして、不器用ではあるものの、欲しいものを欲しいと言い、自分の心に素直になっている。この成長が、表情の描き方で見えるのがとても好きです。

ストーリーのほうは、まず、再会愛の説得力となる、前段の高校時代が、もうエモくてここだけで泣きそうでした。

「特級アルファ」だから、「オメガであることを隠している」からこそ孤独だった二人。オメガの司は、当然、特級アルファの礼のことを知っている。でも、ツン属性が発動して、「特級アルファ? ふーん。知らねーし」みたいな態度を取る。(もう礼を意識し始めているがゆえの強がりだと思うのだが、礼も若すぎてそんな機微には気づかない)
特別視されないことが、礼には居心地が良い。
二人は互いにとってかけがえのない存在になるが、礼は、初めて司がオメガであることを知る。隠れて強い薬を飲んでいた司に悪いから「俺もラット抑制剤飲むから」と言うが、司からは「お前には何も求めてない」と突き放され、無力感に苛まれる。
司に対する無力感ゆえ、のちに司が事件に巻き込まれて理由も言わずに自主退学した時は、何もできない。特級だともてはやされているけど、「好きな人の役に立てない自分」に心は傷付いたまま司は大人になる。仕事柄や、大人になったせいもあるだろうけど、10年後の司が最初冷たい印象なのは、高校時代の心の傷も影響してるのだろうな…と。

10年後再会した二人は、
ますます洗練されたイケメンで国際的に活躍する弁護士になっていた礼と
高校時代からの夢をかなえて絵本作家になっていた司と、
立場は違えど、ビジュアル的にも魅力的な大人になっている。

赤ちゃんを求めるが番はいらないと、頑なに拒む司。
礼は、自分がドナーであることを明かさず(明かさせず)、精子を人工授精用に提供する。
一度は提供を受けようとはするものの、直前になって司の脳裏に浮かぶのは礼の顔。やはり感情的に受け入れられず、人工授精は失敗する。
礼に会いたいと病室を脱走するために窓に出て、周りからは自殺と勘違いされて大騒ぎ。そのせいで足を滑らせた司を助けてくれたのは礼。
その夜、司は礼の自宅に泊まる。

「俺は好きな人に触られたらどんな気持ちになるのかも知らないんだ」この台詞にノックアウトされました。

司の高校時代の性被害を知り、「あの男が触れたところ全部触れさせてほしい」と礼。ここで再びノックアウト。司への思いやりや優しさと、嫉妬と執着が混じり合った感情の迸りがいい。

礼に触れられた司は激しいヒートを起こし、落ち着いたら、「身体中の細胞が生まれ変わったような」感覚で、カーテンにキスをする(ここめっちゃ可愛くて好き。しかもそれを礼に見られるの萌える)。

さすがにここまで来たら、礼も、司は自分を憎からず思っていることに気づいたか、やっと告白して二人は結ばれて…。

破廉恥厚顔無恥(元)教師が司のサイン会に現れて、礼がやっつける…と思いきや、同級生だった妊婦・高橋さんのパンチがクリーンヒットするページはめちゃくちゃ笑いました(ごめんなさい)。効果線とかが少年漫画のそれで…面白かったです。

ラスト5ページくらいは、もう幸せ過ぎて、ここにたどり着くまでの二人の心の痛みを思うと感慨無量で、「よかったねえ」言いながら涙ぐみながら読みました…。描きおろしも良かった…。

本作は今年の商業BLマンガを代表する一作になると確信しております。(謎の自信ですが。笑)

作中登場する絵画の色や形が目に浮かぶ。主人公が燃えたたせる絵への情熱など、描写力がすごい

主人公・直樹は一度は画家の道を諦めますが、大学時代の友人で人気画家になった麻人から二人展に誘われて、再び闘志を燃え立たせます。

だからこそ、二人展のための絵を描く際には麻人の才能に嫉妬したり、自分の才能に疑問を抱きつつ苦しむなど、精神的にも戦いがあります。

まさに自分自身と正面衝突するようなひりひりした主人公・直樹の心理描写や、
作中登場する絵画の色や形が目に浮かぶような描写力が素晴らしいです。

肌は重ね、「直樹は特別」と何度も口にするものの、ラスト間際まで麻人の直樹への『本当の気持ち』は明かされません。そこに至るまで、不穏なバックグラウンド音が聞こえるような構成もお見事でした。

互いに唯一無二の存在である麻人と直樹の関係は、ただの恋人というには激しすぎて、火花が散りそうなライバルでもあり同時に親友でもあります。最後は、直樹は画家の道は向いていないと自覚し、現在の会社でデザイナーとしてやっていくこと、そのうえで麻人との関係を続けることを選びます。こういう関係性が読めるのはBLの醍醐味だなぁと、大変楽しく読ませていただきました。

「誰かを不幸にしても手に入れたい幸福」

【ネタバレありのあらすじ】
身内の縁に恵まれず育った風矢の幼い頃からの親友で兄貴分の大地。大地が風矢の妹と結婚するのは幸せな家族の形のはずなのに、微妙にボタンが掛け違ってしまう。果ては風矢の妹は、大地の運転する車の事故で亡くなってしまうのですが、そこで初めて明確に大地への気持ちが恋だと自覚する風矢。交通刑務所にいる大地との往復書簡の合間に回想が挟まる。

【感想】
手紙という独特の媒体を通ることで少し言葉遣いが変わったり、時間の経過とともに自己開示の度合いが変わってくるその変化の描き方が絶妙でした。また、ままならない恋心を抱えた主人公の放浪や心情の描写が巧みです。主人公たちや妹、母や伯母など、登場人物はみなどこか自己中心的で、だけど100%の悪人でもない。人間の弱さや愚かしさ、それでも誰かを求める気持ち。改めて人間を愛おしいと感じさせてくれるお話でした。

一家を守ろうと自らをなげうつ延年と、延年を愛し守った武帝の切ないほどの愛に涙

前漢時代の史実をベースとしたフィクションとのことですが、社会の情勢や当時の風俗が窺え、BL読者に留まらず、歴史ベースにしたフィクション、あるいは時間を遥かに経て紡がれた恋愛小説と考えてもしっくりします。

武帝は、次の皇帝の子を産んで自分が権力者になりたい獰猛な女性たちに囲まれ、特別のただ一人を愛することは立場上許されないしがらみに絡めとられ辟易としています。匈奴をやっつけた英雄として民衆に囲まれながらも、愛し愛される特定の相手を持てない悲しさや辛さ。愛した人を守ろうとすると周りが嫉妬するので、愛する延年を構ったり囲ったりすることはできず、延年の身を案じる故に、後宮を出るように取り計らいます。

もっと悲惨なのは延年。旅芸人の家に生まれ、貧しさの中で両親を失い、自らが春をひさぐしか生きていく道はないと、最終的には皇帝に自らの身体を捧げて弟妹を大切に守ります。次第に、武帝の愛を受け入れ、理解するようになります。
家族を幸せにするためにと、半数が死ぬと言われる宮刑すら自ら受け、知略と美貌、舞と歌でのし上がり最終的には後宮で皇帝の寵を得、さらには妹に春を売る仕事させたくないと妹を皇帝に差し出します。

自分のことを粗末にする延年をますます愛し案ずる余りに、自分から遠ざける皇帝の悩みや悲しみいかばかりか。

毒殺されないよう後ろ盾を持たない延年をあえて後宮から出し、守るシーン、また、延年が妹の子を守ろうとするシーンでの武帝の愛に泣けました。逢えなくても魂は共にあったのだと。

素人考えになりますが:武帝が自ら建設を命じた自分と李夫人(延年の妹)の墓は、目の鼻の先にあるようです(これは史実です)。妹である李夫人の墓に延年も埋葬され、死後は李延年・夫人の兄妹と、二人を愛した武帝が一緒に祀られていたらいいなあ…。などと考えさせられました。

それと、本作の位置づけです。BLを感じさせる場面はもちろんあり、妙な艶めかしさを発揮する延年ですが、家族を守る・愛する人を守るとはどういうことか深く考えさせれる名著です。家族愛や、後宮におけるやっかみなどはTempp先生の勉強熱心さから巧みに描かれたものと想定します。歴史小説や一般小説の恋愛ものとしても、面白く読めました。著者Tempp先生の博識に基づいたからこその迫力と、フィクションだからこその面白みを兼ね備えた名著ですので、BL小説好き以外の方にもおススメしたいくらいです。

αとΩが愛し合うことを禁じる象徴・2種類の枷の意味はあまりにも切ない

オメガバースものでは通常卑しめられ虐げられることが多いオメガが尊ばれ、そのオメガの項を噛んで番にすることが可能なアルファは虐げられ、愛し合うことは法律的にも社会的にも許されないという世界線で繰り広げられる幼馴染再会愛です。

オメガのネックガードの代わりに、本作ではアルファに2種類の枷が付けられています。まるで家畜か奴隷であるかのように。どんなに愛し合っていても、身体を繋ぐことはできても、枷のせいで、両腕で相手を抱きしめることも口付けることもできないなんて…。

このもどかしさの描写がとても巧みなので、クライマックスでの解放感や2人の喜びが増しています。

本作は主人公の受けでオメガ・アランの視点で描かれていますが、羽生橋先生の丁寧な筆致で、攻めでアルファ・グウィンへの一途でいとけない恋心、それが引き裂かれたことへの悲しみ、彼を取り戻そうとする決意など、移り変わる心情が巧みに描かれていて胸が痛くなりますし、

アランのみならず、グウィンの心理についても表情や言動(時間につれて変化するところもお上手!)から、読者には「この2人は両片思いなんだな」と解らせてくれるので、気持ちよくジレジレモダモダを楽しむことができました。

また、一般的なオメガバースとは異なる世界線なので、その説明が冒頭にあるのですが、まるで神話みたいで美しく、スーッと染み込んでくるように理解できました。

本作の最大の魅力は、主人公アランの成長とひたむきさだと思います。当初は父親にちょっとした過失を打ち明けることすらできない臆病な少年だったのが、学業に励んで医師となり、万全の体制を整えて10年越しの念願を叶えてグウィンを娼館から請け出すことや、番の証を隠さないところには清々しさを感じました。

脇役も、とっても良い人そうな人が実は…!と、良い意味でギャップを作ってくるのですが、良く読むと伏線として、チラチラと不穏さは見え隠れしています。とは言え、あそこまで豹変するのか!ドラマを盛り上げてくれます。

本作では、アルファとオメガは愛し合うことを禁じられた世界のままです。しかし、グウィンとアランは心を通わせ合い、肌を重ね番の契りを交わします。2人の行く手にどうか幸多かれと祈らずにいられません。

一味違ったオメガバースを読みたいという方にオススメいたします!