人を好きになることはあたたかくて、素敵なことだというのは間違いないことでしょう。けれども、その恋心が時に自分も周りをも苦しめてしまうことがあるのもまた事実。恋は盲目と言いますが、どこかが麻痺してしまって自分も他人も上手に思いやれなくなってしまう。みんなそれを当たり前のこと、仕方のないことと受容している。それは誰も悪くない自然なことで、その葛藤があるからこそ人間は人間たり得るのかもしれません。
とはいえ、生まれた悲しみを消化しきれないことだってままあるわけで。それが恋愛感情が分からない、言い換えるなら恋愛の外側にいる人ならば尚更。この作品は、恋愛の内と外にあるそういう違和感を真っ直ぐ描いたものだと感じます。
周りが変わっていく中で自分だけ変われない、これからもずっとそうなのかもしれない、と感じる雪下くんの宇宙をひとりで浮遊するような孤独が優しい絵からひしひしと伝わってきます。もしかしたら雪下くんは、自らの経験から恋愛感情へアレルギー(のようなもの)を持つようになってしまって、それが「わからない」に拍車をかけているのかもしれないと感じます。
また、そんな彼に想いを寄せる篁くんも本当に素敵なキャラクターでした。「恋愛感情がわからない」という雪下くんを傷つけまいと、ゆっくり歩み寄っていく姿。けれど、自分の抱く感情に苦しみを感じてしまう。雪下くんが好きでどうしようもない自分と、その好きで雪下くんを困らせたくない自分。その葛藤が、揺れが、心を打ちます。
この作品はモノローグがすごく素敵で、読むたびに心臓がきゅっとなります。
印象的だったのは3話後半から結末です。自らの感情に蓋をしきれなくなってしまった篁くんと雪下くんが、お互いの気持ちや考えていることを吐露しあう場面。ガラスみたいにセンシティブで、それでも抱えるしかない自分の在り方を言葉にして渡す2人が心に刺さります。
結末はある意味で「宙ぶらりん」で、答えはでないまま。それがすごくよい。ひとところには落ち着かない。でも一緒にいる2人。その関係がどれだけ稀有なものか!この先でも2人の形が歪められずに、変わったり、変わらなかったりすることを願ってしまいます。きっとこの2人なら大丈夫なんだろうなあと妄想。
また、楽器の描写がすごく緻密で大好きです。楽器本体だけでなくストラップやケースに至るまでこだわりを感じます…。ライブのシーン、めちゃくちゃ堪りません。ペグの回り方の描写にドキッとしました。アングルも最高…!篁くんのベースネックが欠けていて、一気に物語の世界に吸い寄せられました。大好きです。
お話の筋、描写、言葉、どれをとっても素敵でした。とても心に残る、ちくちくするけど温かい、大好きな作品です。