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A=440Hzが響く時。(読みづらくない!!)

張られた伏線、その回収。感情表現に沿った小道具の使い方。見事のひとこと。
この作者の日常を舞台にした作品の中でも突出して「らしさ」が出ていると感じる。
詩的に畳みかけ、折り重ねていく心情描写も美しい。
「読み辛い」との他レビューも見かけるが、私はこの作品からにじみ出る、玄上八絹さんの個性と文章が大好きだ。
視点を相互に変えながらストーリーが進んでいくこと、特徴的な文章運びが「読み辛い」と評されているようだが、この程度で読み辛いとは感じない。ポエティックではあるが、飾り立てた難読単語などは使わない丁寧な文章である。
以後少しのネタバレとなる。

とにかく感心するのが、心情表現とリンクさせた小道具の使い方。
秋彦が拾ったのはA=440Hzの銀色に鈍く光る音叉。秋彦はそれが何なのか知らない。
知らないまま無機の金属をポケットに温めながらかみあわない同居が始まる。
守柯のピアノはベーゼンドルファー(この楽器の個性が守柯的だ)そこに落ちるひと雫。
A=440Hzを合わせない調律師。合わせないのではなく合わせられないのだ。
音楽の中心となる「基音」を合わせることができないまま、他の音を完璧に調律する。それが彼の心。
いつか自分の愛する人をとびっきりの甘いお菓子で笑顔にしたい秋彦は、甘いものが嫌いな守柯に砂糖を封じられ途方に暮れる。
彼の幼い一途な無鉄砲に振り回される守柯と周りの大人たち。
視点を変えながら、他人だった彼らがかけがえのないものに変わっていく様子が描かれ、愛おしさに胸がいっぱいになる。
この作品に出会えたことがキラキラと輝くシュガースノー、そして澄み渡るA=440Hzのトーン。
私にとって大切にしたい、大好きな作品である。
音と音が重なり合って音楽が紡がれるように、言葉が積み重なってゆく。そんな感動を覚えた。
 
なお、この作品にも幾つかの同人誌が出ている。
ぜひ読んでみたいが正規販売は終了しており、入手が不可能なのは残念である。
特に二冊対で発行された「Kyrie」「主よ、人の望みの喜びよ」は機会があったら読んでほしい。
想像を鮮やかに残酷に裏切る守柯の過去。そして、秋彦が求め選んだもの。
奥行きのある物語構成はこの作家ならではの細密さで、叶うならば商業シリーズとしてまとめて再録されることを願っている。
(他レビューサイトより本人が加筆転載。2017年4月記)

なぞなぞの答えは、わんこの愛。

同人誌番号Op.30。17冊目の≪犬≫シリーズ。
あとがきによると、謎の詰め合わせ本とのこと。
五係の≪犬≫信乃のストーリーが2編。犬姫が1編。
表題作、信乃と五係の取調官・大介のお話が20ページ強。
最初の≪犬≫シリーズ同人誌「忘却曲線」の主人公、大介こと大城戸祐介のエピソード。
残りの2つは、10ページ弱。タイトル通り、信乃の「豆まき」と犬姫の「クリスマス」。
わんこたちは、季節のイベント事に熱心である。
警察官たるもの、国民の平和のために豆をまき、子どもの健やかな成長を祈り、笹飾りにとんでもないお願いを書きつらね、バレンタインとクリスマスは愛する主を思って暴走する。
以下、ネタバレを含む。

表題作は「忘却曲線」とそこに収録の「なくしものをいぬとさがす。」に続く小編。
大介の過去については、前作を読んでいただくのが一番なのだが、ここで描かれるのは信乃である。
愛する人を失った凄絶な過去を持つ大介。嘘を見抜く、取調官としては最高の能力ゆえに嘘を受けつけず、時おり崩壊を起こす。
その大介の前に立たされた信乃は、嘘偽りのない真実を差し出すのだ。
「智重が好きです」と。
無垢のなせる残酷に、あふれる涙が止まらなかった。
どうか、大介にも救済を。と願わずにはいられない。
心に刺さる一編である。
そして、大介の過去の更に前にも「事件」に係わる出来事があると推測するのは深読みしすぎだろうか。

残りの短い2編は、それぞれ行事ネタである。
五係の豆まきで信乃が散々な目に遭う理由。五係の擬似家族的などこかほのぼのとした雰囲気が楽しい。と言っておこう。信乃には気の毒な節分だったが。
そして、廃教会で独り迎えるクリスマスを犬姫はどう過ごすのか。主と共にあり愛し愛されることを糧とする≪犬≫なのに、孤独を余儀なくされる犬姫の行き過ぎた健気は、痛みを伴う笑いのようで涙ぐむ。
差し迫る聖夜に向けてキリキリと高まる緊張感を破るのは、愛する禪からの、、、

つくづく実感する。それぞれの主と≪犬≫の描き分けの見事なこと。
単語にしてしまえば、健気で一途でかわいらしい、美形につくってある人造人間。と共通なのだ。だが、鮮烈な個性をそれぞれのわんこが持ち、それぞれに唯一の片割れとしての主が居る。
彼らの物語の続きが読みたい!!と何度でも、言いたい!!
巻末付録のツイッターわんこbotlogを見ても、わんこたちと時々登場する≪きつね≫の凛たち、この世界観がどこまで拡がっているのか、焦がれるほどの思いで続編を待つ。(≪きつね≫は「千流のねがい」世界観がリンクしている)






以下「スフィンクスの夢」への個人的な感想。
とても私的な感想だが。崩壊寸前の大介の問いの前に、嘘をつかないことだけを真実に立った信乃の思いに、とんでもない既視感を持った。
私は、「ひとこと言葉を間違えて与えたら目の前の大切なひとを失ってしまう」恐怖に直面したことがある。それは、肉体の死ではなく、精神の死で、愛する人が自分の知っているひとでなくなってしまうかもしれないという言いようのない恐ろしさだった。
誰もが経験することではないと思う。でも、決して珍しいことではない。
簡単に命を失うように、魂も失うときはあっと言う間なのだ。
信乃の恐怖は私のものでもあった。
このシリーズにおいて、人工生命体であるわんこたちは、魂が無いと自ら言う。
魂の在り様。真実は、心はどこに宿るのか。
BLというエンタメのなかで、厳しくそのギリギリを追って描いていくことに魅力を感じる。
幾通りにも幾方向からも読み込み楽しめる作品。作家を心から尊敬する。
続編が描かれずに止まっている物語の続きが作者の思うように書かれることを、願い待ちたい。


R18おとぎ話の結末は。

同人誌番号Op.32。19冊目の≪犬≫シリーズ。
「ゴールデンビッチ」「ゴールデンハニー」の商業番外、クラウディアと大吾のクリスマス。
全ページ数が40ページという薄い本だが、満足度は高い。
表題作、ふたりのクリスマスのお話が20ページ弱。
残りの2つのストーリーは4ページと5ページ。
イベント事となると、何らかやらかすわんこたち(と主たち)だが、クラウディアと大吾はどうだろう?
商業本編では、優しいけれどヘタレ気味。「ゴールデンハニー」では醜態をも晒した大吾の汚名返上となる一編ではないだろうか。
以下、ネタバレを含む。
表題作が一番ページ数が多いが、お仕事ではなく完全なるふたりのクリスマス。
クラウディア流のR18おとぎ話にうっかり笑わせられながらも、IQ200の≪犬≫の思考でドキッとするような持論の展開に、大吾と共に頷いてしまう。
こういう姿が、本編の天使ビッチな彼の姿と重なりキャラクターに深みを持たせ、本編を読み返さずにはいられない思いになるのだ。何度でも読み返したい。
そして聖夜の騒動、明けたクリスマスの朝。
出かけた寒空の下、ふたり・・・。
・・女子の大好きなネタである。おとぎ話の結末はこうあってほしいと。
何度でも言うが、商業で本編と共に読まれてほしい。
あの、ボロボロだったクラウディアが掴み取った幸せのかたちに涙ぐむ。
残りの短いストーリーは、本編SSの更に続き。そして、イベント事を大切にするわんこ周辺の、公安の七夕ネタ。七夕は五係も行っているので、違いが周囲の面々含めておもしろい。
他の主たちと違って、言葉を尽くす大吾の性格も「My Fair Lady」から納得の姿だ。
作品の間の小ネタも楽しい。
そしてあとがき、
青砥がクラウディアと会って五係と合流、、
 するんですか?!!待ってます!待ってます!!待ってます!!!
ワクワクするような続きが作家の中には眠っているらしい。
どうか、届けてほしい。と、心から願う。
クラウディアではないが、七夕の短冊に記してでも祈りたい。
どうか、続きを!!!

My Fair Lady 同人R18 小説

玄上八絹  御景椿 

クラウディアと大吾のその後。ビッチからレディへ??

同人誌番号Op.24。14冊目の≪犬≫シリーズ。
「ゴールデンビッチ」の商業番外、クラウディアと大吾の物語。
「Tell Me This is Love」が本編中の空白エピソードでサイト再録。「■幸の手紙」が本編直前と思われるエピ。残りは後日談となる。10P未満~30Pの短編集。
本編中で屈指の美貌と恐ろしいほどの口の悪さ、天使ビッチっぷりを発揮したクラウディアの人格形成に深く係る内容を含んでいる。
この同人誌を読んだ後に本編に帰ると、クラウディアの放送禁止用語まみれの囀りに涙してしまう。
鷹揚な優しさで、クラウディアの日常常識トレーニングを辛抱強く行う大吾は、ヒギンズ教授を気取りたいらしいがもはやサリバン先生を通り越してお母さん。過酷な逃走劇を繰り広げてきたビッチに訪れた愛され愛することは、痛みを伴う過去をふたりで乗り越えて行くこと。
以下ネタバレを含む。
表題作「My Fair Lady」がひとつのお仕事が軸になるお話。宮城班の面々も登場する。
大吾を悩ませるクラウディアのお行儀の悪さだが、仕事絡みで早急にテーブルマナーを覚えなければならなくなる。大吾の出したご褒美の条件。現場でのふたりの活躍と、クラウディアの思惑。そして、大吾の誓い。短いページ数ながら心憎いまでよくできたラストにほろりとする。
次にページ数の多いのが「悪魔を憐れむ歌」で、後日談ではあるが復讐だけを誓って野良犬の生活をしていたクラウディアの過去がより何に影響を及ぼすのかが描かれ、ハッとする。
露悪的に下品な言葉を紡ぐ彼の痛みの核心に触れるようで、ここから戻る本編に涙が止まらなかった。
自傷・輪姦あり、と注意書きがあるが、賛美・推奨はしない、と続く通り、それらを表現の手段として使っている訳でなく背景としての表現なので、ひとそれぞれとは思うが、私は不快に感じる事は無かった。
残りは、数ページのストーリーで、いずれもよく纏まった、切なさと愛しさを感じる小話である。
視点もそれぞれで、研究者一水や通りすがりの女子高生といった変わり種も面白い。
そしてあとがき、
信乃たちとブッキングがあると楽しそうですね
 してください!!ぜひ!!(しもべと犬・茨姫は犬の夢を見るか?)
遥さんに何が起ったか、、、
 気になります。めちゃめちゃ続きを待っています!!!
遅ハマりファンで、リアルタイムで応援できなかったことが悔やまれる。
こんなに面白い世界観、こんなに魅力的でかわいらしいキャラクターがあるだろうか。
わんこたちは、本当に可愛い。

攻めわんこ。主の育て方。

同人誌番号Op.31。18冊目の《犬》シリーズ。
同人誌オリジナルの「黒革の手袋」の主と《犬》の番外。SSペーパー再録と書き下ろし。「ご主人様の言うとおり」2~5とタイトルがつく。
1は、「黒革の手袋」に巻末ショートで収録されている。
恋仲となった、攻めわんこ・青砥と彼の主・薫の日常とお仕事。
強烈な個性を持つ登場人物揃いの《犬》シリーズの中で一番の常識人かも知れない青砥と、氷の美貌に天然を隠していた薫のコミカルな会話に思わず笑いが出てしまう。
以下、ネタバレを含む。
2~4は、バカっプルと化したふたりの日常。
より良い夜の営みについて、恋人として・伴侶として・主従として・公安捜査員として、妥協は許されず。
甘々、噛み合わない会話の面白さ、いつまでも読んでいたい。BL読みには堪らないSSだろう。
いつもの疑問だが、玄上さんはこの手のSSがとても上手い。なぜ商業の巻末にこういったものを付けないのだろう。本編のシリアスと相まって非常に良いのだ。
本編を懸命に生きてくれたキャラクターの新たな一面を見ることができて、これぞBL読み至福の時。と感じる。
コミカルな中にサラッと示される未来への思いに切なさと哀しみと愛しさと。
そして、5。
30ページ足らずで展開される事件は、商業誌における「事件」との関連はなさそうな気がするのだがどうだろう。
公安の上司や商業誌において謎の人物がちらりと登場し、全く関係ないとは言い切れないかもしれない。
この事件で、前作から変化した主と《犬》の関係が見せられる。
少ないページ数と思えないほどの密度の展開。
かけがえのない相手と認めあってさえ、薫の中にはなお青砥を踏み込ませない傷が残る。拒絶ではない。「事件」はまだ解決していない、ということなのだ。
《犬》ならではの無垢で受け入れる青砥の成長速度には驚かされるばかりである。
「黒革の手袋」レビューで書きそびったのだが、
青砥は今のところ唯一の、お料理上手わんこ、のようだ。
薫のために味も解らずに整えられる食卓の彩りは、このカップルならでは。
巻末の「青砥のお料理教室」は、もしも、のわんこ集合が楽しい。
信乃、犬姫、青砥。わんこたちと主たちの個性の違い。
ここには登場しないクラウディアもいつか!!と願って!!

あとがきにある、
青砥達はもう一本長いお話
もう一人(わんこ)をそろそろ出そうかなあ
の言葉は果たされておらず(2018年時点)ファンは待っています。
再びのわんこワールドを!!

黒革の手袋 同人R18 小説

玄上八絹  鈴倉温 

攻めわんこの健気。深まる「事件」への謎。

同人誌番号Op.22。13冊目の≪犬≫シリーズ。
商業誌と世界観を同じくする、同人誌オリジナルである。
ここに新たな主と≪犬≫が登場する。
わんこシリーズを読んできた読者は少なからず感じてきたであろう。「攻めわんこはいないの?」と。
無垢で健気で一途。≪犬≫たちに共通する主への愛の示し方は攻めわんこ、青砥も同じ。
彼の主、薫もこれまでの主たちと同じく過酷な過去を持っている。
薫の右手に常に嵌る黒革の手袋。それが理由で、青砥は薫の≪犬≫となった。

以下、ネタバレを含む。
新たな≪犬≫青砥。彼の存在理由はハッキリしている。
公安捜査員として事件を未然に防ぐために発砲を躊躇しない薫に代わって彼の「銃」となる。
人造人間として、人を殺せない刷り込みを受けた上で人に銃口を向けるために青砥は薫に付けられた。
そして、彼を世に送り出した研究者の最後の良心・リミッターを抱えた上で青砥は発砲する。
リミッターの反動は青砥の命を握りつぶしにかかるほどの身体への負担で、故に薫は「引き金だけ引け」と冷徹に命じる。行為に「殺意」が加わったら命が危ういのだ。
この行動と思考の担い手が主と≪犬≫に分担されたような矛盾を孕んだ設定に、「事件」とそれぞれの恋愛感情が絡み合って、ゾクゾクするような高揚感を伴って物語は進行する。
まっさらな状態で薫の下に送り込まれた青砥は、美しく仕事においては有能ながら生活能力の低い主、薫を慕い、愛し、想いはひとつになりたい、と無心に思う。
それが容易に叶えられないのは、殺意と同じく強姦の衝動でもリミッターが発動し青砥の命に係わるからだ。青砥は言う「薫を抱けるなら、死んでもいいよ」と。
二人が立ち向かう、今作に於いての事件は、薫の過去と香港の麻薬絡み。おそらく商業誌の公安や≪犬≫シリーズ全体のおおもとの「事件」にも関連してくると推測される。
新たな主と≪犬≫の登場。彼らの恋情が育っていく様子。その甘い世界を楽しみながら、シリーズのスケールの大きさ、そして今作では繰り返される発砲により緊迫感に満ちたアクションシーン、と、何層にも重なる物語の面白さが伝わってくる1冊である。

なぜ、このクオリティの高い作品がシリーズとして商業化されないのか。
ファンとしては、もどかしいと何百回でも言いたい。めちゃくちゃ面白いのに。
また、現状(2018年時点)シリーズ唯一の攻めわんこである青砥は、非常にBL向きの身体の構造を持っているのだ。
以下に記すが、青砥のシモ事情なのでネタバレも含め自己責任で。

青砥のBL向きな身体について。
・達すると性器のつけ根の瘤が硬く腫れ、ぜんぶ出しきるまで抜けない。
・精液はヒトの10~60倍。故に射精時間も長い。
薫は他では体験できない快楽に泣かされるということで、これをとりたてて大仰にではなくサラリと描く作家の表現を好ましく思うと同時に、少々あざとくここで売りだせば青砥は人気者になれるのに。
とボヤき節のいちわんこファンである。
BLの世界だけに留めておくにはもったいないほどの作品。しかし、BLならではの愛しさあふれる登場人物たち。
物語の続きが描かれることを待ちたい。
青砥と薫の同人誌はもう1冊。「ご主人様の言うとおり」。今作に付けられた後日談に続く作品集である。

ここまで読んだらもう一度「しもべと犬」へ。

「ゴールデンビッチ」の続編、公安の《犬》クラウディアと大吾の物語。
《犬》シリーズとして4作目。「しもべと犬」「茨姫は犬の夢を見るか」「ゴールデンビッチ」「ゴールデンハニー」と来たわけだが、どうかここまで読んだら「しもべと犬」に帰って再読してほしい。
なぜなら、4組の主と《犬》の過去に関わるおおもとの「事件」は繋がっていると推測されるからなのだ。
おそらく一読のみでは気づかないであろう伏線が、繰り返しシリーズの中で提示されている。
あえて4組と書いたのは、商業誌になっていない4組目の主と《犬》が居り、彼らもしっかりと歯車に組み込まれているからだ。(同人誌「黒革の手袋」「ご主人様の言うとおり」)
以下、ネタバレを含む。
前作ラストで思いの通じあった大吾とクラウディアは晴れて恋人、同僚、飼い主とわんこ、の関係となる。
特筆すべきはクラウディアの美しさの描写であろう。
前作においては、長年の逃亡生活と迫りくる偽の生命体の身体の限界から悲壮な儚い美しさを放っていたクラウディアだが、栄養状態も改善し、キラキラの美貌は大吾を羨むほどである。
そして、今作における「事件」が始まる。新たな構成員の登場、それによって抉られる大吾の過去。
フラッシュバックを起こし不安定にクラウディアを拒む大吾の弱さは、誠実にありたい彼の葛藤でもあり身に覚えのある感情に苦しくなる。
どんなに愛を誓っても消せない過去への絶望。
人間らしい情緒の育ってきたクラウディアの「なぜ?」に正解は無く。
そして不穏な空気と共に物語はアクションシーンへ。
疾走感、畳みかけられる心情描写、過去の事件への問い、折り重ねられページを繰る手が止まらない。
そして、パズルのピースがはまっていく爽快感。と同時に、シリーズ前作からの謎が提示される。
今回の事件の決着と、恋人たちの新たに紡ぐ未来への誓い。
IQ200の天使ビッチクラウディアの睦言にクスリと笑いながら涙ぐむ。

もう一度お願いしたい。シリーズを再読してほしい。≪犬≫を付けられた主たちに共通する「事件」。
また、主を愛してやまないわんこたちから見ると、冷たく解りづらくヘタレに見える主たちが決してマッチョな身体のままに脳筋ではなく、繊細に傷つきながらわんこを受け入れ、わんこに救われていく過程。
主と《犬》という同じ設定のCPながら、それぞれの個性のなんと豊かで愛しいことか。
大吾とクラウディアにも2冊の同人誌「My Fair Lady」「Red Hot Chili Beans&Holy Shit Christmas!」があり、無駄のない設定を裏付ける読み応えのある内容で、商業作品と合わせて読めないのが惜しまれる。(2018年時点)
シリーズとして読んでほしい≪犬≫シリーズ4作。
物語は始まったばかりにも思え、続きが再開され、作者の思うように終着までが描かれることを信じたい。

人工生命体≪犬≫の健気が切ない。

「しもべと犬」「茨姫は犬の夢を見るか」と世界観を同じにする、物語。
先の2作を読まずに「ゴールデンビッチ」続編の「ゴールデンハニー」を読むことも可能だが、綿々と続く事件を読み解くには必須なので≪犬≫シリーズとして読んでほしい。
しかし、表層的には前2作とは同じ警視庁とはいえ、こちらは公安。部署も違い登場人物も重ならない。現時点では。
作者の中にはどうやら、前作の捜査一課と合流させるプランがあるようなのだが、たくさん出ている同人誌でもまだそれは叶えられず、
≪犬≫シリーズファンとしては続きが描かれ、彼らのストーリーが繋がっていくことを待ち望んでいる。
さて、この物語の主人公は、異色の≪犬≫ゴールデンビッチことクラウディアと、公安の邪魔者扱いの班に所属する当たらない狙撃手の大吾。
主を持たない身の上になってしまったクラウディアは命がけで主を想い、彼を追う大吾には共通の辛い過去があった。
≪犬≫は共通して整った容姿に作られているのだが、このクラウディアの人形じみた美しさは凄まじい。
それを表現する細やかな表現に、大吾でなくともため息が出てしまう。
そして、息をつく間もないアクションシーンの緊張感とスピード感。
大吾の弾は当たり、想いはクラウディアに届くのか。
髪飾り、約束の言葉、小道具を使った表現の緻密さがこの作者の表現の美しさである。
初期作で他レビューで見た「読み辛さ」はこの作品では取れてしまっていると感じる(私は初期作の文章が好きなので上手く折り合いをつけて良さが残ってほしい)
「しもべと犬」から続く、濃密な物語世界。共通して心打たれるのは、息苦しいほど切ない≪犬≫の健気が主を救っていく様子である。
そして「事件」が根深く彼らの底辺に横たわっている。
BLとしては硬質であるが、主と≪犬≫の純愛とも読めるシリーズの中でも屈指の美貌と知能を持つ天使ビッチなクラウディアとややおっとり気味の大吾。
彼らにもその関係を深める同人誌が幾つかあるという。
物語再開の折にはそれらも含めて読める日が来ることを切に願っている。
(他レビューサイトより本人が転載。2017年4月記)

作者の旧HPより作中の空白時間のエピソードSS(同人誌「My Fair Lady」に収録)(リンクが切れていなければ)作品のネタバレを含むので、読後にどうぞ。作者の物語の緻密さが滲み出たエピソード。公式な再録が欲しい。→https://t.co/9FcbrLFXL4
(2018年投稿時に追記)

物語の続きを期待したい。

「しもべと犬」に続く≪犬≫と主の物語。
前回が幾つ目かの事件をメインに扱ったのに対し、こちらは一つの事件を解決するために一冊が費やされる。
その分、世界観の濃度はグッと上がり、二組の主と≪犬≫が中心となり時間制限付きの事件の解決に向かう疾走感がたまらなく心地よい。
前回思いの通じ合った信乃、智重のカップルは体育会系新婚生活中。とのことだが、事件は容赦なく降りかかってくる。
そして、信乃にとっては青天の霹靂ともいうべき、先輩≪犬≫の存在。
やっとスタートラインに立ったばかりの信乃と智重の主と犬に対し、先輩≪犬≫犬姫と禪は完璧な主と犬の関係を見せつける。
二組の主と≪犬≫の立場の違い、育てられ方の違い、存在目的の違いが面白い。彼らは主に尽くしたい余りに己に無いものを相手に見て嫉妬めいた感情を持ちもする。その中で、主のために言葉通り身を捧げきるのだ。
世界を揺るがす「事件」を解決する力は≪犬≫たちの主への愛にかかっている。
BLカテゴリーではあるが、アクション系ラノベ読者へもおススメしたい。ただし、濃厚な絡みもあるので自己責任で。
愛されることは≪犬≫が生きる糧でもあるので、直接の睦みあいに溺れる彼らの姿は切なく愛おしい。
そしてこの作品にて登場する、犬姫と禪のカップルには同人誌という形でたくさんのサイドストーリーが書かれている。
彼らの過去、そして終幕まで。商業誌で読めないのが残念でならない心惹きつけられる物語の数々である。
信乃と智重のカップルも、この続きが書かれることを強く望みたい。
同人誌には、もう一組、公安の主と≪犬≫が登場し、作者によるとあと数匹?そして大集合の予告めいた言葉もある。
BL受けする設定ではないかもしれない。しかし、物語が面白いのだ!
ステレオタイプの「攻めキャラ」「受けキャラ」「BL」という固定観念に囚われず、玄上八絹ワールドを楽しんでほしい。
(他レビューサイトより本人が転載。2017年3月記)

圧巻の世界観に引き込まれた。

人工生命体、表には出て来ない裏の世界、アクション・・とBLにしては硬質の、ラノベ他では使い古された世界観だが、緻密に織られた設定、登場人物ごとの背景の深さがこの1冊のみからもうかがい知ることができ、ぜひシリーズとして完結させてほしいと求めてやまない。
というのは、このシリーズには続編の「茨姫は犬の夢を見るか」舞台を捜査一課から公安に移した「ゴールデンビッチ」「ゴールデンハニー」そして、同人誌という形で書かれたもう一匹の≪犬≫と主の物語、またそれぞれに商業誌で描かれなかった背景部分やその後を補完する物語があり完結していないのだ。(もはや入手が困難で手に入るもののみ探して読んだ)張り巡らされた設定、伏線に心震えるストーリーがあり、商業誌にて続きが描かれ、完結することを切に願っているファンである。
さて、この物語の主人公である信乃と智重。≪犬≫の能力を持つ人工生命体の信乃は警察の備品扱いで、主である智重には絶対服従で性的奉仕もする。甘さは無い。ただ切ないまでの愛への渇望。ただただ尽くし愛される望み。そして、大切なものを喪ってきた智重の痛み(やや大味な設定ではあるが)命を賭して向かう「事件」の先に想いが伝わった後の絆は、BがL・・などというジャンルを超えて魂が繋がった美しさを感じる。ふたりのこれからが描かれることを信じたい。
もうひとつ、他レビューにてあげられていた文章の癖について。
多用される体言止め、倒置、主語なし等々がそう感じさせるのだと思うが、読み辛いとは感じない。作者の初期作品とのことで粗さは感じるが、「こう書きたい」という思いが伝わる文章運びで、読んでいて清々しいほどである。この程度で読み辛い、癖があるとは言い難い。
☆は期待値込みで5にさせてもらった。確かに静かな中に勢いを感じさせる文章だが粗いし拙い部分も多いのだ。そこが洗練されると、本当に、ジャンルを飛び越えた良作となる期待に溢れた作品だと思う。
むしろ、ライトアクションのラノベを好むような方にも読まれてほしい作品である。BLの枠に留めておくにはもったいないのひと言なのだ。
(他レビューサイトより本人が転載。2017年3月記)