表紙の抜けるような青い空と海。中身はそれ以上に深く、美しい物語でした。新藤伊菜先生らしい徹底した取材に基づいた「お仕事BL」としてのリアリティは今回も裏切られず、海洋生物研究の描写はまるで質の高いドキュメンタリーを観ているようです。
月の光と夜光虫が彩る「秘密の竜宮城」でのナイトダイブシーンは本当に美しい。そしてもう、宮島先輩のビジュアルが強すぎます。黒髪美人で口元のホクロがエロいなんて反則です…。対する夏輝も、普段は可愛い年下わんこなのに、いざとなると雄感全開で攻めるSっ気がたまらなく、ナイトダイブ後のお風呂シーンは鼻血ものでした。先生の描くキスシーンは本当に「体に良い」ですね。
幻想的な光景の中での照れ隠しのキスから、湯気の中でゆらめくエロティックな描写まで、その情緒の振り幅こそが新藤作品の醍醐味。
特に感動したのは、浦島伝説の「真の結末」になぞらえたクライマックスです。別れこそが相手への愛だと呪いのように信じる先輩に対し、夏輝が「玉手箱をもろともぶっ壊す」覚悟で会いに行く姿には痺れました。令和の鶴亀カップルがマレーシアへと羽ばたくラストは、眩しいほどの希望に満ちています。
冴木が同居を提案した時点で、実は既に両想いだった2人。なんだけれども、それぞれモヤモヤと胸に抱いている感情がなんなのか確定しないまま、大学生活は続いていく。はっきりしているのは、2人だけの世界に誰も入ってきてほしくないということ。こう書くととても閉鎖的な関係のように感じるけれど、2人の世界はもっと密やかで優しく薄い膜に覆われた殻の中にいるようなイメージ。ちょうど単行本の中表紙になっているイラストのように。その膜にある日突然、部外者(胡散臭い准教授 笑)がヒビを入れてしまう。近づいたようで、離れてしまいそうになる2人の距離。「恋」だと確信するまでの2人の気持ちの遷移がとても細やかに描かれているので、ついつい感情移入してしまう。恋が成就した後は、表紙に描かれている青空のような2人が並んで走る晴れやかなラスト。名作としか言いようがない、つまり名作です。