同人誌から惚れている作家様、デビューおめでとうございます。
ストーリー、描写、作り方、デビュー作とは思えないほどの完成度の高さでした。
ただテーマや内容としては、好みが分かれやすく、読者を選んでしまうと思います。
高校時代に性的被害に遭ってしまった藍と、高校時代から藍に想い寄り添ってきた恵介。
音楽に逃げる藍と愛を伝えることをしない恵介、二人の関係が辛く痛々しく苦しい。
ラブソングの制作をきっかけに、"愛"に向き合い、傷を抉りつつ、先に進んでくれます。それでも"愛"を形にすることはできない、その方法がわからないし、明確にすると壊れそうな脆さがある。光は見えても、完全な救済で終わらないのもリアリティがありました。
わかりやすいハッピーエンドではなく、身体で慰めるような物語でもないため、キュンキュンする萌やエロを求める読者層には合わないと思います。しかし傷の舐め合いではなく、多少向き合って二人で前に行こうとする運命共同体のような関係に尊さを感じました。
描きかたも、台詞やモノローグとイラスト描写、全てを総合して補われ魅せていると感じられました。こちらについても、読解力が求められると思うので読者を選んでしまうのかも知れません。
個人的には郁人さんにもしっかり設定がありそうで、そちら主体の物語にも触れたいです。
BLアワードに並ぶならDeep部門、読み応えのある1冊でした。