このBLだけは読んでおけ!ボーイズラブが好きな乙女なら、一度は読んでおかねば! 推薦者が己の萌えに忠実にチョイスした「BLマストブック」!


すれ違い胸キュンLOVE! じらしプレイで萌えさせて!
評者:中臣悠月さん
美麗なイラストで乙女の心を一瞬でとりこにする今市子。彼女はBLはもちろん、『百鬼夜行抄』といったホラーから『文鳥様と私』のようなコミカルものまで取り扱うネタは幅広いのだ。ジャンルは広いが、彼女の描くストーリーは、密に味わい深く絡み合う人間関係が基本。その複雑な関係を追っていくとまるで小説を読んでいるかのような読後感さえある。
今回は初心者向けの作品ということで、今市子テイストにあふれたコミックを紹介してみたい。ぜひ彼女の世界に触れて、腐への道へ突き進んでほしい。

ドラマ化もされたコミック、『百鬼夜行抄』といったホラーや、『文鳥様と私』のようなコミカルなペットものでも有名な今市子先生。実は、ボーイズラブのジャンルでも、名品が多いのです。
「僕のやさしいお兄さん」現在、『花音』に連載中の『僕のやさしいお兄さん』は、今市子先生らしい、複雑な家庭環境という舞台設定と、その中でそれぞれキャラの立った家族が丁寧に描かれているのが魅力。そして、もちろんその中心となる主人公柏原聖(かしわばらさとし)と義理の兄である葛飾鉄平(かつしかてっぺい)との、なかなか上手くいかないすれ違いラブが胸キュンものです。
聖が、初めて訪れた新宿二丁目。ちょっとだけ体験のつもりが、二丁目で「王子」と呼ばれる、美青年と出逢って恋に落ちてしまう。人生初の二丁目でそのままホテルへ……。ところが、そのまま簡単に二人は結ばれないのが今市子流(?)。聖の携帯に届いた「チチキトク」のメールに邪魔をされ、その夜はキス止まりで終わってしまいます。いきなり、しょっぱなから二丁目→ホテルというかなり濃い目の急展開に、ハラハラと読み進めていた読者も、ここで手痛い“おあずけ”をくらってしまうわけですね。
そして、父の死によって、ずっと離れて暮らしていた母と同居することになった聖。母の家を訪れてみると、そこに同居しているのは、聖の実母の義理の息子だという葛飾鉄平。その鉄平こそが、聖の初恋の相手、二丁目の王子! 二丁目ではさらさらのストレート、なのに、普段は天パにメガネ、小学校の臨時教員らしい服装センス。このあまりのギャップに、笑いながらも萌えてしまう読者は多いはず。しかし、ただでさえホテルでおあずけ、というところからスタートしたのに、いきなり家庭の事情により、一つ屋根の下で暮らす義兄弟になってしまう二人……。キツ~い、禁欲生活の始まりです。
さらに、聖の異母兄弟にあたるノンケでどうしようもない女好きの柏原彰人(かしわばらあきひと、通称アキニン)までもが同居することになり、彼が終始、この家庭にトラブルをまき散らしてくれます。けして悪いヤツではない(……と思う)んだけど、鈍感で二人の感情にまったく気付かずにいる彰人の発言や行動は、読者にとってはつい笑ってしまうツボながら、鉄平、聖にとっては心臓ドキドキ、「バレた?」のヒヤヒヤ発言の連続。「僕のやさしいお兄さん」彰人は『花音』(2009年10月号)にいたっても、いまだ二人がゲイだと気付かず、ノンケと信じて疑わない、徹底した鈍感っぷりです。
三人一緒にドラマを見ていると「けっホモかよこいつ」。「だってあいつホモだぜホモ! ホモはダメだ襲われるぞ!」と鉄平のためを思って、親身にアドバイスする彰人(2009年8月号)。ともすれば、出てくる男、出てくる男、ゲイばかりになってしまいがちなボーイズラブの世界においては、希有でリアルな、現実の「男」に近い男なのかもしれません。まあ、鉄平、聖にとっては、ある意味二人の間の壁の一つでもある、有り難迷惑な存在だとしても……です。
「僕のやさしいお兄さん」そして、もう一人のトラブル・メーカーが、聖の武道の後輩である久松。ずっと聖に片思い中。これまで女としか付き合ったことのない聖の目覚めるきっかけになれば、と二丁目に連れて行ったのがこの久松。それなのに、そのたった一回で、聖は王子に(肉体はともかく)心をさらわれてしまうという、ちょっとかわいそうな存在。そして、鉄平=王子と気付かないまま、聖、王子の二人にいろいろなアクションをしかけてきます。
とにかく、サブキャラがそれぞれ個性的で主人公に負けない輝きを持っているのが、この作品、いや今市子作品の大きな魅力のひとつ。聖の実母もそうですが。ボーイズラブ作品の中では、どうしても微妙な立ち位置になってしまいがちな家族や女性キャラ。それをここまで魅力的に描写できるのは、今市子先生ならでは、でしょう。ゲイ夫婦疑惑も持ち上がる、聖のじいちゃん、大じいちゃんも実に個性的。大じいちゃんは元特攻隊員ながら、「お前…男の子が好きなのか女の子が好きなのか」と聖を心配するじいちゃんに「やりたい盛りの高校生だぞ。そんなのまだ決められないさなあ」とフォローを入れる寛容ぶり。
とはいえ、やはりこの作品の一番の読みどころは、ほとんど両思いなのに、一つ屋根の下で暮らしているのに、なかなか進展しない鉄平と聖の関係。最初がいきなりホテル……という展開で始まったから、さぞ濃い展開になるかと思いきや、2巻にいたっても、そして『花音』(2009年10月号)にいたっても、いいところまでいっても先に進まない、思わずマンガの誌面に向かって、「大丈夫だから、二人とも愛し合っちゃってるんだから、もう一歩行け~!」と叫びたくなるようなイライラさせっぷり。ドリフのコントを見ていて、「志村、後ろ~、後ろ~!」と叫ぶ、子供の心境と同じと言いましょうか(世代的にわからない方は、どうぞこのたとえはスルーで……)。
聖のことを思って、思って、思い悩むあまりに、壁に頭をガンガン打ち付けるほどの鉄平の気持ちに対し、自分が愛されているなんてまったく気付かず、これまた思い悩む聖。この二人のすれ違いっぷりこそが、『僕のやさしいお兄さん』の醍醐味。もう、こんなに思い合っちゃってるのに~、なんて二人ともそんな不器用な……。しかも、聖はともかくとして、鉄平は二丁目で「千人斬り」とまで言われている王子なのに! そんな遊び慣れた鉄平までも、どうしていいのか思い悩んでグルグルしている辺りが、萌えポイント高し。ホントの恋に出逢ったら、どんなモテモテな人間も平静ではいられないんだなぁ~、なんて奥深いことを学びつつも、毎回がドキドキハラハラです。いつか、ホッとページを閉じる日はやって来るのでしょうか。読者にとっても安眠の日々を早く与えて欲しいと思う今日この頃です。

紹介者プロフィール
中臣悠月
フリーランスライター、小説家。大学院博士課程修了後、別ペンネームでライターや古典文学の研究者としても活躍。
2009年12月には、文だけではなく表紙やカットも自身で手がけた、ヴィジュアル系バンドの世界をリアルに描くBL携帯小説『赤すぎる絲(いと)』を発売予定。詳細は、中臣悠月オフィシャルサイトhttp://ameblo.jp/visual-bl/ にて。あらすじや表紙も見られます。
このコラムに寄せられた感想
2009年12月04日 ハイ爺
痒いところに手が届きますー。
はじめまして。
今市子先生の『百鬼夜行抄』が面白かったという友人に、この作品をすすめたかったのですが
人物も多いし、恋は進んでないし、自分では、どう説明していいかわかりませんでした。
でも今はこのページを読んでごらん、と言ってやれます!
今先生が苦手と言う方は人間関係がややこしいところが嫌みたいですね。
ファンにはそこがいいのに。まさに
>サブキャラがそれぞれ個性的で主人公に負けない輝きを持っている
ですよね!(わたしは大じいちゃんが好きです)
そして、行為はなくても萌えはありますよね!
 では、どうも、お邪魔しました。



BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第七回「やってはいけないBL」 (01/28)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第六回「腐女子の住み分け」 (01/21)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第五回「BL編集者になるには」 (01/15)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第四回「BL作家になるには」 (01/07)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第三回「BL業界のスケジュール合戦」 (12/24)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第二回「BL書籍出版の骨組み」 (12/17)
BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?
元編集関係者が語るBL業界事情 第一回「作家と編集の関係」 (12/10)
私のBL論!
愛する男たちの背丈の話 (04/25)
私のBL論!
お宝小冊子をゲットする4つの方法 (02/28)
私のBL論!
「リバーシブル」を考える ~その2~ 心の動きで考える (10/14)
私のBL論!
「リバーシブル」を考える ~その1~ 体の形で考える (10/11)
このBLだけは読んでおけ!
王道を確信犯で! (12/22)
このBLだけは読んでおけ!
榎田作品に漂う「死」の香り (12/17)
このBLだけは読んでおけ!
『交渉人は諦めない』
事実が真実とは限らない (12/10)
このBLだけは読んでおけ!
榎田尤利は、私の人生に対する責任を取りなさい! (12/07)
このBLだけは読んでおけ!
人生を変えたBL第三回「窮鼠はチーズの夢を見る」 (10/27)
このBLだけは読んでおけ!
人生を変えたBL第一回「そして春風にささやいて」 (10/15)
このBLだけは読んでおけ!
『音無き世界』
何回も読み返してしまう私の愛蔵BL「音無き世界」 (07/31)
このBLだけは読んでおけ!
伝説のフジミシリーズ外伝CD 「じゃりん子チエ」のパロジャケットに萌え!? (06/30)
このBLだけは読んでおけ!
『ねじれたEDGE』
これだけは聴いておけ! 崎谷フリークなら絶対に聴くべきだ!  (06/07)
このBLだけは読んでおけ!
癖があるのがクセになる「麻生ミツ晃」 (05/30)
このBLだけは読んでおけ!
遥かなる影(CLOSE TO YOU)~平喜多ゆやさん~ (05/12)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 2月22日発売、Daria 2010年4月号 (03/08)
私のBL論!
崎谷作品のカタルシスとは? (03/03)
このBLだけは読んでおけ!
「濃い味のものはクセになる」んです<崎谷はるひ特集3> (02/23)
私のBL論!
すべてヘンだよボーイズラブ (01/13)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 12月22日発売、Daria 2010年2月号 (01/06)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 12月7日発売、GUSH1月号 (12/25)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 12月3日発売、GUSH 1月号増刊 GUSH moetto (12/15)
私のBL論!
遅咲きの初心者腐女子、リアルゲイの世界をリサーチしにいく (12/04)
このBLだけは読んでおけ!
すれ違い胸キュンLOVE! じらしプレイで萌えさせて! (11/30)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 11月7日発売、GUSH12月号 (11/16)
このBLだけは読んでおけ!
『キミログ』
新しくて懐かしい……恋のブログはいつもハイテンション! (11/10)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 10月22日発売、Daria12月号 (10/29)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 9月30日発売、drap11月号 (10/19)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 10月7日発売、GUSH11月号 (10/14)
このBLだけは読んでおけ!
『FLESH&BLOOD1』
大航海時代へタイムスリップ!冒険活劇BLファンタジー (10/08)
このBLだけは読んでおけ!
『FLESH&BLOOD1』
男たちの熱い生き様に惚れて下さい。 (10/07)
このBLだけは読んでおけ!
『トラブル・フィッシュ 潮&俊シリーズ』
異類婚姻譚?深海魚と人間の恋 (09/29)
このBLだけは読んでおけ!
『王子隷属』
魔物陵辱ファンは必読の異種姦ファンタジー (09/25)
BL未満ボーイズラブ以上
『南総里見八犬伝』
BLの先駆けは江戸ファンタジー文学にあり! (09/22)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 9月7日発売、GUSH10月号 (09/14)
このBLだけは読んでおけ!
『目を閉じないで』
嫌いな上司には総受けを! (09/01)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 8月22日発売、Daria10月号 (08/28)
このBLだけは読んでおけ!
『不運な不破氏の愛人契約』
ヘタレオヤジに妙な親近感 (08/21)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 8月7日発売、GUSH9月号 (08/17)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 8月3日発売、GUSH増刊 GUSH moetto (08/10)
このBLだけは読んでおけ!
『見つめていたい』
不倫オヤジの悲哀 あなたはわかってあげられますか? (08/07)
このBLだけは読んでおけ!
『ストレイ・リング』
マイベストオヤジ!右城操 (07/29)
私のBL論!
におってるオヤジが好きだ、ついリピートしたくなる…… (07/24)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 6月22日発売、Daria8月号 (07/09)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 7月7日発売、GUSH8月号 (07/08)
このBLだけは読んでおけ!
BLの本質は、ラブよりも涙なのだ! 号泣特集8 (06/16)
このBLだけは読んでおけ!
『夏の塩―魚住くんシリーズ 号泣特集7』
今も昔もやっぱり泣いた 榎田尤利 魚住くんシリーズ 号泣特集7 (06/12)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 6月7日発売、GUSH7月号 (06/08)
このBLだけは読んでおけ!
『ゴールデン・デイズ 号泣特集5』
時を超えた絆に涙。匂い系マンガの傑作 (06/05)
このBLだけは読んでおけ!
『永遠の昨日 号泣特集4』
号泣の作家といえば、榎田尤利をはずすことはできません! (05/29)
このBLだけは読んでおけ!
『スティール・マイ・ハート 号泣特集3』
あぁ、もどかしいーー!いじらしい愛の奴隷?状態に、涙が頬を伝う (05/19)
このBLだけは読んでおけ!
『窮鼠はチーズの夢を見る 号泣特集2』
水城せとなさんで号泣して放心して立ち直るまで (05/15)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 5月7日発売、GUSH6月号 (05/12)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 4月7日発売、GUSH5月号 (04/13)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 4月3日発売、GUSH増刊 GUSH moetto (04/09)
このBLだけは読んでおけ!
『是 1』
志水ゆきの絶妙な世界観に誰もが吸い込まれる! (03/31)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 3月7日発売、GUSH4月号 (03/10)
この雑誌だけは読んでおけ!
雑誌レビュー 2月7日発売、GUSH3月号 (02/17)
私のBL論!
「年の差」ゆえの「すれ違い」が…、それがたまらない!! (12/24)
私のBL論!
「小姓」と聞くだけで胸キュンが止まりません (11/29)
私のBL論!
非オタクとオタクの境界線は!? (11/26)
私のBL論!
男からの素朴な疑問「BLってポルノグラフティなの?」 (11/11)
私のBL論!
現実では癒すことができなかった魂の浄化をBLに求めるのだ! (10/11)

特集トップへ

特別企画
BLアワード2010
榎田尤利特集
BLアワード2009
崎谷はるひがエロい!
ここがヘンだよボーイズラブ
初心者特集
BLはファンタジーの王様です
オヤジ大解剖
号泣BL特集
2008年度ランキング特集
年の差特集
ヤクザ特集
木原音瀬特集

おすすめの記事
私のBL論!
BLファンタジーが成立する土台を検証する
BL未満ボーイズラブ以上
『南総里見八犬伝』
BLの先駆けは江戸ファンタジー文学にあり!
私のBL論!
におってるオヤジが好きだ、ついリピートしたくなる……
このBLだけは読んでおけ!
『石黒和臣氏の、ささやかな愉しみ』
世界のセレブ、犬の飼い方躾け方 私の選んだ愛ある鬼畜♪
私のBL論!
堺市の図書館BL騒動 禁書になった作品はコレ?