chill chill ちるちる


BLアワード2009


切羽詰まりまくりの10代胸キュンときどきエロス
Je te veux かわい有美子
評者:伊吹亜弓さん
10代だけに許された切実さ、甘酸っぱさ、そして研ぎ澄まされたドキドキ感。かわい有美子は、そんな男性の「少年性」を描くことに関しては他の追随を許さない作家であろう。
年を重ねるといつの間にか忘れてしまう感覚が、彼女の作品を読むと鮮やかによみがえる。あの時、言っておけばよかった、やっておけばよかった…自分がなしとげられなかった苦い思い出、あぁ、本の中のキミは成就させてほしい。そんなふうに応援したくなる。かわいいキャラクターたちなのである。

【同人小説部門】 2位「Je te veux」
かわい有美子先生作品が支持される理由の一つは、主人公たちがどんなに大人びていようと…あるいは大人であろうと、男性的な幼さ(若さではない)を醸す瞬間があることだと感じる。
この『Je te veux』という同人誌にもそれは言えるだろう。こちらは原作となるノベルズ『流星シロップ』から変わることのない、高校生の峰と衛守の甘酸っぱい………そう、まさに「甘酸っぱい」関係を描いた一冊だ。
原作で結ばれた二人は、この同人誌の中でも比翼連理の関係が健在である。今回は近隣の女子校との親睦会が終わった夜が主な舞台だ。生徒会メンバーとして学校を引っ張ってゆく一方での、恋人としての時間の甘さといったら………たまらない!!

男子校において、大浴場とはすなわち大欲場……(大丈夫か
大浴場で生まれたままの姿の恋人に触れ、果たして高校生男子は正気でいられるのか…?
会長として一日奔走した峰を労る衛守の心遣いは優しさそのものだが、下腹部に位置する十代の暴れん棒は平静を保てるのか…?
肩マッサージなんてしなくていい、腕を回して!そのまま乳を揉んでくれ…!
妄想は一気に駆り立てられる。しかし場所は大浴場。同級生等の邪魔が入るこの焦らしプレイは、もはや二人に対してではなく、読者に対して行われていた。
15ページ目にして、このほとばしる萌えである。
このあとさらなる何かがあると……思わずにはいられまい!

さて、BL的観念から言えば、寮制高校の萌えオプションは大きく二つだろう。一つは前記した通り、大浴場である。もう一つは……もうお分りだろうか、恋人達のサンクチュアリ・相部屋だ。
設定の魅力を惜し気もなくちりばめた今作は、やはり相部屋も愛の巣と化している。お互い向き合うのに必死な若い二人は、この部屋でプロポーズまがいな言葉を紡ぎ合い、不器用な熱を与え合うのだ。
思わず声をあげ、聞こえもしない耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるエロスは必見。
このときばかりは王子様からお姫様になる峰の「…ケイ、乱暴にしていいよ」という台詞を読んで、心の中で彼を凌辱した読者は私だけではないはずだ。
誘い受けにもほどがある峰は、乳首攻めに辛抱たまらんお嬢さん垂涎必至の痴態である。
彼の乱れ具合は、あの夏一番に熱かった……。(同人誌発行は09/08/16)

美味しすぎる濡れ場ばかりを語ってしまったが、この同人誌のさらに美味しいところは、視点が衛守だという点だ。
原作では峰視点だったために初めて詳らかとなる、寡黙なナイト風情の衛守が秘めていた情熱には赤面を禁じえない。
お話全体を通じて、衛守の心には常に峰へのいとしさばかりが溢れている。
なんという愛情なのか。
なんという嗜虐心なのか。
原作のころからこのような強い強い、そして甘い思いを募らせていたというのか。
つらい過去や冷たい家庭環境に寂しさを抱えながらも気丈な峰は、やはり衛守の一途あってこそだったのだと再確認できた。
衛守の峰への思いはまさに「君が欲しい」…すなわち、タイトルの「Je te veux」なのだ。
このタイトルは、お話の後半で彼等の後輩が弾いていたサティ作曲のシャンソンに由来している。
この歌詞を、是非調べてみてほしい。私はこのコラムを書かせて頂くにあたり知ったが、男性パートも女性パートも、まるで二人の気持ちを歌ったかのように切ないのだ。
つらいとき、うれしいとき……たくさんの時間をともに過ごしたことでの信頼感。また逆に、どれだけ隣にいても焦がれる恋心。
大人に近づいてゆく衛守が抱える少年の部分を覗くことができる一言、「君が欲しい」……。
このような、タイトルの秀逸さにハッとする本…まして同人誌は、なかなかお目にかかれないだろう。

最後にこの同人誌を総括するならば、「胸キュンときどきエロス」。ある意味BLには必須のことかも知れないが、しかしやはりこの一言に尽きる内容だ。
学生特有の時間の流れ、その感じ方、衛守の情熱、「君が欲しい」…未読のお嬢さん、是非ともご堪能あれ。

作品データ
作 品 名 : Je te veux
著者 : かわい有美子 :
媒   体 : 小説(同人) シリーズ :
出 版 社 : ISBN :
出 版 日 : 2009/08/16 価   格 : ¥0
紹介者プロフィール
伊吹亜弓
よりにもよって高3の夏休みにBLの世界へ本格的介入を果たした、オヤジとメガネと攻の涙にめっぽう弱いハイティーン。エンゲル係数は約8%。手持ちのほとんどがBLのために消えていく、超文化的な暮らしぶり。禁句はもちろん、「本ばっか買ってないでおかず食べなよ」☆ 空腹なんて、男たちの愛の前では痛くも痒くも辛くもない!この萌へのほとばしるパトス…完全に制御不能ですっ

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