BL業界がそんなに 楽しいわけがないっ!?


元編集関係者が語るBL業界事情 第五回「BL編集者になるには」
評者:ミサキさん
めざせBL作家!商業誌デビューに一度は憧れた、今でも憧れている方はいらっしゃいますか?
今回は、出版界ヲタ女子で腐女子な元編集関係者が、商業誌デビューの近道をみなさんに指南します!

 今回も引き続き「なるには」話ということで、「BL編集者になるには」をテーマに書いていきます。
「出版社に勤めたい」「編集者になりたい」という人もいるでしょう。
 私も昔は「編集ってかっこいい!キャリアウーマンみたい!」と憧れていました。
 好きな作家と一緒に働くことができて、作品を誰よりも早く読めて、本が出来ることで仕事をした実感を得られるのが編集の醍醐味です。
 どうやったらその旨味を味わえる立場になれるのか、それが問題です。

 たびたび書いていますが、編集という肩書きで呼ばれていても普通の会社員です。
 なので、編集になりたいと思ったら出版社に入社しなければなりません。
 普通に考えれば学業を修めたあと企業の求人にエントリーするのですが、残念なことに商業BL出版をしている会社はあまり新卒採用の求人を出していません。
 私が知っている限り毎年必ず新卒採用の求人を出すのは2社です。
(そのうち1社は募集を出しても採用していないはず……)
 あとは規模が大きな会社でも中途採用などの経験者募集がメインです。
 さらに、横の繋がりで知り合いづてに他の出版社へ転職する人もいるので、求人が出る間もなく席が埋まることもあります。
 寿退社する人などもほとんどおらず、空席はなかなかできません。
(結婚しても仕事を続ける選択をする人が多いのは、出版に限った話ではないでしょうが……)
 そもそも定数が少ないのにキャリアの長い編集者が今も現役なので、その隙をついて正社員として入社するのは難しいと思います。
 それでもどうしても商業BLの編集になりたい場合は、うまく入り込む抜け道を探すしかありません。

 まずはアルバイトから社員登用されるパターン。
 部署の規模にもよりますが、そんなに人数がいなくても本は作れてしまいます。編集一人あたり30~40人の作家を担当しているとすると、1レーベルで雑誌と単行本を掛け持ちしていても4~5人いれば事足ります。
 ただ、それでは細かい仕事まで手が回らなくなるので、アルバイト(編集アシスタント)の募集をします。
 仕事内容は本当に編集業務の隅っこです。部署内の雑務担当と思ってください。
 それでも編集の仕事内容や作業工程に少しは関わることができるので、経験に繋がります。
 ここで重要なのは、バイトから社員への登用がある会社かどうかという点です。
「バイトはずっとバイトだ」という会社もあれば「働き次第では登用も考えます」という会社もあります。
 できれば後者を選びたいところです。
 現段階で見当たらないとしても、とにかく編集アシスタントとして経験を積んで、登用制度のある会社が出るのを待つしかないですね。
 次は、他のジャンルの編集部で経験を積むパターンです。
 商業BL以外のジャンルであっても、編集としての経験さえあれば経験者に入るので、中途採用しか求人を出さない会社にも応募することができます。
 できれば漫画や小説ジャンルの編集部を目指すことをオススメします。
 他社と繋がりのある編集も少なくないので、知り合いを増やして紹介してもらえる可能性も出てきます。
 中途採用の場合は、「この人を採用したらどんな付加価値があるのか?」という点を重視されるので、すでに付き合いのある作家がいれば有利になります。さらにその作家が有名な人であれば尚良しです。
 なので、繋がっている人脈を増やすことがとても重要になります。
 ただ、たとえ転職前提だとしてもキャリアを積むためにはその会社でもしっかり働かなければいけません。そのためには少しでも自分が興味のあるジャンルにするべきです。
 仕事だからと割り切ることができればいいですが、編集職で作家を相手にするようなジャンルだと思い入れが少しもないと辛くなると思います。いやになって積めるはずの経験が積めなくなっては意味がありません。
 また、今はまったく出版と関係のない職業に就いている人が転職するときも、中途採用から入ることになります。
 この場合、編集経験者では無くなりますが、「経験者優遇」と書かれているところから応募してみるべきだと思います。
 現在編集をしている人の中にも元々出版社勤めではなかった人はいるので、可能性はゼロではないです。
 もし迷っている人がいるならば、動くのは早いうちがいいでしょう。出版に限らずどこの会社でも、応募資格の中に年齢が記載されていることが多いので悩んでいる時間がもったいないです。
「経験者優遇」と言っていながら、年齢のいった経験者より経験が無くても比較的若めの人を採用する場合は大いにあります。
 出版業界は経験者が会社間を渡り歩くことが主流の業界なので、とにかく足を踏み入れたもの勝ちです。

 BL編集を目指している人に気をつけてほしいことがいくつかあります。
 まず、好待遇を期待しすぎないことです。
 出版業界全体に言えるかもしれませんが、一部の大手と呼ばれる会社に社員で入社しない限り、給料以上の労働を余儀なくされると思ってください。
 特に、土日は絶対に休みたいタイプの人にBLジャンルは厳しいです。
 意地でも休んでやるという編集もいますが、私の知る限りでは休みの日も何かしら連絡を待っていることがほとんどです。
 あとはだいたい毎日残業です。どうしても外せない予定が入って定時で帰ることはありますが、そうでなければ終電近くまで仕事をしています。
 次に公私の区別がつけられないと危険です。
 すごく好きな作家がいて、運良くその人と仕事をできるようになったとしても仕事としてのスタンスを崩してはいけません。
 その作家に好きであることは伝えたとしても、ファンとは違うのでミーハーな態度を出すのは好ましくないでしょう。
 作家から「この人はちゃんと仕事をしてくれるだろうか」と訝られる可能性が高いです。
 あくまでも「仕事」であることと「社会人」としての自覚が大事です。
 あとは洞察力を鍛えておくといいかもしれません。
 作家とのやりとりは電話かメールがほとんどです。
 口調や言葉の端々、メールの文体などから、その人の性格や考え方を感じ取る必要性があります。
 それをまったく気にせず強引に仕事を進めると、「あの編集、やりにくい」と言われることもあるようです。そうなると最悪の場合、仕事をしてもらえなくなる危険性さえ出てきます。
 もしそれが人気作家だったときには、自分一人の些細な言動で大きな損失です。
 そう考えると、他人の機微に敏い人のほうが仕事がしやすいと言えるでしょう。

 商業BLで編集になるには少々頭を使ったほうがいいというのが私の結論です。
 編集になるのに必要な技術や資格はありません。
 その代わり、性格や人間性などがとても重要になります。
 いろんな経過を辿って無事編集になれたとしても、すぐに作家を任されるとは限りません。さらに好きな作家がいても、その人と仕事ができるようになるには、また時間がかかります。
(すでに担当がいるならば、その人が異動、退職、編集部内で担当替えのどれかにならないと自分に担当は回ってきません)
 したたかに虎視眈々と目標に向かって距離を詰めていくしかないのです。
 もしかしたら、BL編集になるために一番必要なのは「ずる賢さ」かもしれませんね。

 ご意見・ご感想はコメント欄かツイッターアカウント@misaki_dxまでお寄せ下さい。

紹介者プロフィール
ミサキ
ヲタ女子で腐女子の残念な元編集関係者。欲望の赴くままに業界に足を突っ込むも、根気の無さと面倒くさがりが遺憾なく発揮され現在フェードアウト中。「好きなこと=できること」にするのを目標に、目下自分探しの旅を(二次元のなかで)繰り広げている。座右の銘は「世の中やっぱ金と欲」。
近況:そろそろ花粉が飛び始めているというのは本当なのでしょうか? 備え始めなければ……。

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