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第1回 BL小説アワード

放課後にはココアを ユキと和希とジェラシー

エロ少なめ/自慰

全然、分かってません。あなたは弱いのではなく、魅力があり過ぎるのです。それがわからなければ、これからも彼のようにあなたに強引に迫る者が現れる。いつか、大変な事になりますよ・・・」

往来まひろ
4
グッジョブ

(放課後の学校内)
鉛色の雲が重たげに垂れ込める十一月初めの夕方、某高校の中庭を吹き抜けた冷たい風が彼の髪を掠めていった。
その髪は漆黒の絹糸のように艶やかで、黒いタートルネックのセーターの下の肌は雪を思わせる白さにシミ一つない。それにしなやかで強靭そうな体躯をしている。
風に吹かれた落ち葉が舞い落ちる中に一人佇む彼は美しく、その美しさはシステムが存在する限り半永久的に保障されていた。なぜなら彼は人と限りなく同じでいてそうではない、人間に似せて精巧に造られた人工のアンドロイドだから。
校内のある教室に入った彼は一つの机に真っすぐに歩み寄り、ぽつんと置かれている緑のリュックに長い指で触れた。その途端に髪と同じく漆黒の瞳が青白い光を帯びる、サーチ開始。リュックの持ち主、高梨和希の生体反応を難なく捉えると教室を出て、階段を上り始めた。足取りは一定の速度を保ち、感情のない凪いだ水面のような顔で最上階まで上がり、彼は屋上へと続く扉を開けた。
(ユキのモノローグ)
 私は高梨家のアンドロイド、ユキ。
家庭用アンドロイドの私が高梨家を訪れた時、和希はまだ六歳の小さな男の子だった。和希に初めて会ったあのときは私の頭部内のメモリーに保存されているので、いつだって鮮明に再現できる。
栗色の髪に利発な悪戯っ子の目をした和希は人形のように小さな体でトコトコ駆けてきて、私を見上げて言った。
「ボクはカズキ、ねえ名前は?何て呼べばいいのかな」
「初めまして、カズキさん。私はMAZ915889672です」
「ええっ!それが名前なの?」
「彼にはまだ名前が無いのよ、つけてあげないとね」
そう言って奥様は和希の髪を書き上げ、にっこりと微笑んだ。
「ならユキ、ユキがいいよ。だって真っ黒な髪に真っ白な肌じゃない、白雪姫みたいだもん」
それを言うなら「姫」ではなく「王子」だけどね。と旦那様は生真面目に直して頷いた。ユキは呼びやすくイメージに合っている。こうして私は、ユキという素晴らしい名を得たのだった。
 一家に一人アンドロイドがいるような、人間とロボットがあたりまえに共存している時代。中には酷使するばかりでロクにメンテナンスにも連れて行かない、酷い家もあると聞くが高梨家の親子三人は皆まともで優しい人たちだった。
私の役目は家事全般と和希の世話。旦那様と奥様は仕事が大変忙しい、決して和希をおろそかにしているわけではないが、これが現在のライフスタイルというもの。
彼らのために家を快適に保ち、食事の支度をする。アンドロイドに人間の食物は不要だが、私みたいな家庭用には高度な味覚センサーが備えられている。私の作った料理を美味しいと平らげるのが喜びであり、彼らの血肉となり健康を支えている自負があるのだ。
私は和希と共に遊び食事をして、夜は眠りにつくのを見届けた。和希はあまり体が丈夫ではなく、幼い頃からよく発熱したがその度に私は一晩中看病した。
「ねえユキ、ずっと側にいてくれて嬉しいけどユキは眠くならないの?」
「私はアンドロイドですからね、睡眠は不要です」
「ごはんも作るだけでユキは食べないもんね。ココアはたまに一緒に飲むけどさ」
「和希があんまり美味しそうに飲むので、私も美味しいんですよ」
 和希は賢くて感受性が強く、夜に怖くなると私の部屋へ来てはソファに猫のように丸くなって眠るので、彼のために簡易ベッドを置いた。
小さかった和希だが人間は成人するまで日々成長していく生物だ。一年また一年と経つ毎に背は伸び、子供の体は次第に少年の瑞々さに包まれていった。一時も目を離したくない眩い変化、造られたその時から完成しているアンドロイドには無縁なもの。
私の中には高梨家の人々の詳細なデータがインプットされ、何よりも子供の和希を最優先で守るものと決定されている。私は和希が一番大事、和希も私を信頼してくれている。和希の視線、言葉、態度が「信頼」と導き出している。
それなのにどうしたのだろう、暫く前から和希の様子が些か変なのだ。
私の淹れた大好きなココアも飲まずにただぼーっとしていたかと思えば、洗面所でこっそり何事かしているのを必死で隠そうとしたりする。
中学の卒業前には久方ぶりに高熱に見舞われたので、座薬を入れようとパジャマのズボンに手を掛けたところ、顔を真っ赤にして抵抗した。
「座薬なんて冗談じゃないよ!人にお尻を触られるなんて!」
「何言ってるんですか、小さい時から私はあなたのお尻に何度も座薬を入れてますよ」
はぁーっ?と湯気を噴きそうな勢いで転げまわり、涙を浮かべて喚き散らした。
「うるさい!ダメだ絶対!俺の尻に触るな!」
そうして騒いだのが障ったものか本格的に具合が悪くなってしまい、結局卒業式には出れなかったのだ。
和希は十五歳、難しい年頃なのだろう。近頃は秘密の友人もできたようだ。秘密の友人、それが誰なのか私は知っている。同級生の杉本亮介。今も、屋上に二人でいるであろうことは二人分の生体反応で見当がついている。彼は、和希と同い年でいて早くも男性的な雰囲気の漂う少年。
この杉本少年のデータを探ると下腹部の辺りからムラムラと湧き出てくる、この感覚は一体何なのだろう。
階段を登り切り、屋上へ出るドアを私は開けた。和希、待ってなさい。
(放課後の屋上)
 秋の空は瞬くうちに色を変える。ユキが屋上へ出てみると鉛色だった空は赤と紫の夕暮れの色になっていた。
広い屋上は有効利用のためにランニングコースが作られ、さらには多種多様な植物が一年中咲き誇る温室が設けられている。温室の片隅に二人の人間の熱を感知して、迷いなく歩き出したユキの表情は氷のごとく冷静でいて、触れれば感電しそうにピリッと何かが張り詰めていた。
 その時、温室の生暖かく調整された空気の中で和希は必死に考えを巡らせていた。クソ、何でこんな風になっちゃってんだ?
自分より遥かに体が大きく屈強な杉本に固く抱きすくめられて身動きが取れない。おまけに杉本の押し殺した熱い息遣いが首筋を嬲っている。
「すーぎーもーと、ほら放せって」
わざと明るく逸らしてはみたが無駄だった。杉本から返ってきたのは本気の言葉。
「嫌だ、放さない」
「ちょっ、・・何やってんだ」
杉本の大きな手がシャツのボタンを一つずつ外し、Tシャツの中に潜り込んだ指先が和希の薄い胸の小さな突起に触れた。
「バカ!やめろって・・アッ・・」
まだ未発達でも敏感な突起を摘ままれて、和希の細い喉から今まで発したことのない類の声が漏れた。
「かわいい、和希。たまんねえ・・」
杉本の息が興奮により荒くなると乳首を摘まんでいる指の動きも呼応して激しくなり、未知の刺激が和希の華奢な体を貫いた。辛さと甘さと、自分が自分でなくなるような感覚に怯えてしまう。
「俺の気持ち分かってんだろ、和希」
何言ってんだ、こいつは。俺とお前は仲のいい友達以外の何でもないだろ。時々妙な目でこっちを見てるとは思ってたけど。そう、こんな飢えてるような目で。
「杉本、俺とお前は友達だろ」
和希は人形のような子供だったが思春期を迎える頃になってもそれは変わらず、未熟で中世的な要旨は人の目を引き付けた。元々あまり丈夫ではなく、力もさほどない和希を杉本がいろいろカバーしてくれてもいた。俺もこいつに誤解させることをしたのかもしれないな、ごめん杉本。
猛々しくジャケットとシャツを剥ぎとられて和希は頭を振り、微かな声で呟いた。
「ユキ・・・」
「ユキって、あのアンドロイドのことかよ」
怒りに目を細めた杉本の唇が和希の唇に触れるばかりに迫り、固く目を閉じた瞬間、ふっと杉本の重みと圧迫感が取り払われた。
(ユキと和希)
「何も、乱暴にしなくてよかったのに」
足元に伸びてしまった杉本を見つめて、和希はぽつりと言った。ユキは軽々と杉本を抱き上げて温室内のベンチに横たえた。
「乱暴にはしてませんよ、やや強めに引き離しただけです」
「杉本、どうしようか」
「私が彼の家に運んでもいいですし、何なら彼の所のアンドロイドに来てもらいましょう。ナギといって丁度知ってるので」
「ユキが、」と言って和希は続きを飲み込んだ。これでユキの立場が厄介なことになったら、と思ったが心はとうに決まっていた。どんなことがあっても自分が絶対にユキを守ってみせる、アンドロイドの墓場である処分場には決して行かせやしない。
「さて、和希。それよりもあなたに話があります」
向き直ったユキの目は、思わずゾクッとなったくらいに怖かった。こんなユキは初めてだ。
「あなたは自分というものを知らな過ぎる、もっと自分を知って行動して下さい」
「分かってるよ。俺は弱っちいって充分分かってるから放っとけよ」
ダン!とユキが壁と腕の間に和希を囲い込んだ勢いに、季節外れの夏の花が震えた。
「全然、分かってません。あなたは弱いのではなく、魅力があり過ぎるのです。それがわからなければ、これからも彼のようにあなたに強引に迫る者が現れる。いつか、大変な事になりますよ・・・」
これは誰なのか、と和希は思った。自分の知っているユキは清く正しい家庭用アンドロイド、セクシャルな面など微塵もなかったのに。なのにこの雄臭さはどこから来るのか。
「・・・私が教えてあげます」
そう言ってユキは、折角身支度を整えた和希の衣服を果物の皮を剥くように取り去り、無意識にも艶めかしい素肌が露わになった。
白く滑らかでいて黒子もある、人間的な肌をユキの唇と指がなぞっていく。細い首筋から胸に淡く咲いた花びらのような乳首。愛おし気に優しく。さっき杉本に触れられたときの嫌悪感は感じなかった。ただ、ふわふわと浮き立つようで・・・。
いつからか、和希は考えるようになっていた。ユキと抱き合ったらどんな気持ちになるのだろうかと。日常的な事を効率よくこなしていく腕は逞しく、端正な顔立ちに見惚れてしまう自分が怖かった。
「やっ、・・ヤダ、そんなとこ触っちゃ!」
気がつけば一糸纏わぬ裸に剥かれていて、ユキは和希の足の付け根の淡い茂みに手を伸ばしていた。茂みの先の果実に触れる。
「ユキ!」
頭を擡げた和希の欲にユキは満足げに舌なめずりをし「まだ、ここからですよ・・」和希を口に含んだ。
「あっ、あっ・・ヤダ、出ちゃう」
刺激に未熟な体はひとたまりもなく和希はユキの口内で果てた。ユキは一滴残さずに和希の蜜を飲み下した。
熱い吐息、上気した頬に涙で目を潤ませて。これが生きている人間の自然な反応、これがきっと、愛しいと思う気持ちなのだ。
 杉本は、彼の家のアンドロイドが迎えに来て背負われて帰っていった。杉本家は工場を営んでおり、ナギというのは作業用アンドロイド、つんつんと四方に立った髪がやんちゃな印象だった。
「ユキ、大丈夫?」
「私の方が聞きたいですよ、あなたこそ大丈夫ですか。無理させてしまって」
「違うって、俺が言いたいのはあんなの飲んで大丈夫なのか、ってことだよ」
「あんなのじゃありません。大丈夫ですよ、家庭用アンドロイドはある程度は人間の食物も口にできるように作られていますから」
「でもさ、」
「ココアだって前は一緒に飲んだでしょう、ずっとご無沙汰ですが」
「じゃ、早く帰ってココアでお浄めしよう」
どちらからともなく、二人は手を繋いだ。人口の指と生身の指をしっかりと絡め合せて家へと歩き出した。
                                    (完)

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