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表題作月の欠片

元生徒の大学生 前田英俊 20歳
事故で8年眠っていた元家庭教師 橋本裕真 28歳

その他の収録作品

  • 雲の狭間-過去の出会い-
  • 天使の梯子
  • あとがき

あらすじ

目覚めたら8年の年月が過ぎていた。交通事故を起こして意識不明になっていた裕真の傍には見慣れない青年・英俊がいた。事故当時、裕真は小学生だった英俊の家庭教師をしていた。
事故を起こした裕真の車に同乗していた英俊は、退院後も毎日裕真の許を訪れて世話をしてくれる。自分が彼を巻き込んだのに、こんなにも尽くされる理由はなんなのか。戸惑いながらも英俊の存在を嬉しく感じていたとき、「俺、裕真が好きだ」と告白されて……。

作品情報

作品名
月の欠片
著者
佐々木禎子 
イラスト
麻生ミツ晃 
媒体
小説
出版社
二見書房
レーベル
シャレード文庫
発売日
ISBN
9784576130729
3.8

(28)

(12)

萌々

(6)

(6)

中立

(3)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
7
得点
105
評価数
28
平均
3.8 / 5
神率
42.9%

レビュー投稿数7

薔薇の花を愛するように

3部構成。

「月の欠片」
このドラマチックな物語の冒頭は、主人公である裕真が病院のベッドで目覚める場面から始まる。
裕真は現在28才。
車の運転中に起こした事故で昏睡状態となり、8年間眠り続けていたのだった…
傍に見たことのない男がひとり。
彼・英俊は、事故の時の同乗者で、当時12才の6年生。裕真は英俊の家庭教師だった。
第1部の本編は、裕真と英俊の出会いと、8年間の間に成長し大学生になった英俊、それなのにずっと自分に付き添い目覚めた後の世話もかって出る英俊の姿、空白を抱えてしまった自分と英俊への違和感のようなもの、について。
裕真は星が好きだと知っている英俊が、3日後の金環日蝕を一緒に見ようと誘う。車椅子の裕真を押す英俊と一緒に日食グラスを通して太陽を侵食していく姿を見る。こぼれる光は月の欠片…
『俺、裕真が好きだ』
視点は裕真なので、英俊の想いが重すぎて受け止められない、そんな事より自分はこの世界にまた帰っていけるのか、という不安感が漂っている。

「雲の狭間ー過去の出会いー」
英俊の過去。
母親は情緒不安定で暴言と肉体的にも虐待、父親は家を顧みずネグレクト、そんな家庭で、英俊は幼い頃はずっと施設で育った。
小学校の高学年になって、いい中学に入れと言われて家に戻されるが、家庭は崩壊しているので英俊は父親の浮気相手が経営している雑貨店に行っては腹いせの万引きを繰り返していた…
その万引きを見咎めたのが裕真だった。
英俊にとっては裕真は初めて「自分」に目を留めて「自分」に手を伸ばしてくれた人間。自分でも裕真に対して抱く感情の行き先もわからぬまま執着にも似た行動を取る。そして起きてしまった事故。

「天使の梯子」
英俊に好きだと言われ、戸惑いつつも今の自分にとって英俊の存在が感謝と救いになっていることは自覚している裕真。
英俊の気持ちは事故の責任感ではないか、自分はそれに流されているんじゃないか。
英俊の女友達にも否定的な事を言われ、英俊と距離を置く裕真だが。
ラストに向けて「星の王子さま」のエピソードが大きく関わって、ひまつぶし、という言葉で自分の時間、また自分自身を相手に捧げる事、そして裕真が英俊を縛るのではなく、自分の意思で英俊を慈しみたいのだ、という表現につながっていく…
最後に一度だけセックスのシーンがあります。無くても良かったかな、とも思いつつ、今の2人が「恋人同士」であることの表現として、やはり不可欠だったのでしょう。

静かではあるけれど、嵐を超えての静けさ。ドラマチックな小説を読みたい方におすすめします。

1

星の王子さまのひまつぶし

これほどに心を満たしてくれる小説はジャンルを問わず本当にわずかです。
そんな一冊に出会いました。心が震えました。
実際に子供の頃からのお気に入りの『星の王子さま』これを二人の間で重要な使われ方をしたのも大きいです。

自損事故で病室で眠り続ける裕真と大学生の英俊の物語り。

自動車事故で意識がないまま眠り続ける裕真は英俊の元家庭教師だった。英俊は病室に毎日のように看病に訪れる。すでに8年が経過していて英俊は大学生になっていた。
英俊がそこまで裕真の面倒を見る理由は?
 
ともすれば8年もの間家族ではない英俊がまったく意識のない裕真を見続けるのはすごい執着とも言え、怖くも感じますが…

英俊の生い立ち、裕真との出会い、そして事故。その出来事を丁寧に描くことで、英俊の気持ちの変化や想いがひとつひとつ腑に落ちます。
男同士の恋愛と言うことを超えて人が人を想うその愛がどう育っていくのかを巧みに表していると思う。

裕真が「王子を待つ気持ち」について考え、英俊にたくさんの時間を費やしてもらったことにこれからは人生の「ひまつぶし」の時間を彼で埋めていけたらと思うところが感動的です。

この8年の歳月は二人にとってもちろん重大な要素ですが、これから先はたくさんの時間を共有していくであろう“希望”それを感じることが出来て読後たいへん満ち足りました。

6

陸に戻った浦島太郎のその後の社会復帰

佐々木禎子さんの作品はこれまで横暴なヤクザとかマフィアが出てくる物しか読んだことがなかったので、とても新鮮でした。

あとがきでご自身で書きたいものを書かせてもらった、とおっしゃっているとおり
一風変わった作品です。

目が覚めたら八年経っていたという気持ちは一体どういう気持ちなのでしょうね。
事故か何かで長い間眠りについていた間に…という小説はいろいろありますが、外傷性遷延性意識障害という正式名を始めて知りました。
主人公いわくおとぎ話の眠り姫というより浦島太郎、だそうです。

三部構成になっています。
『月の欠片』
八年もたつと親兄弟はや友人たちは年を取ったらこうなるだろうというのが想定内だったでしょうが、生意気な小学生は、立派な青年でそれもいい男になっているのですから「だれ?」と聞きたくもなるでしょうね。

英俊はその八年の年月を自分を責めたり後悔したりしながらも愛を育んでいたのでしょう。
「いい子になったらきっと神様も願いを聞いてくれる」と信じてもいなかった神様にすら祈りながら、周りの人たちが思うようないい子を演じ優等生の仮面をかぶって毎日裕真を見舞っていたのですから一途です。

『雲の狭間』
過去編。二人の出会い。
虐待する母
見ない振りをする身内
なかったことにして逃げる父
そんな大人たちへの不信感から孤立し誰にも本心を明かさない少年。
けれど、ちゃんと自分を見てくれる大学生とで会い新たな感情を覚え始めます。

そして裕真への独占欲から思わず運転中のハンドルに手を出し大事故に。

英俊の父親が、優真のために涙する我が子に対して「人のために泣くことができるんだな」とつぶやくシーンが印象的です。
放置していても親としての感情が少しばかりはあったんでしょうか。

『天使の梯子』
時系列で第一部の続き。
金環日蝕の日の英俊の告白。
英俊のことが好きらしい女子の余計な言動で、英俊が罪悪感や事故の責任から側にいるのではないかと思い、好きだというのもその延長にあるのではと思い始めます。
でも英俊の前向きな姿勢に自分も前に進まなければと考えられる様になるのですから苦労しているだけに英俊のほうが大人なのかもしれません。

最後の最後でようやく気持ちが伝わり受け入れられるのですが、これからどうなっていくのか気になり余韻が残る終わりでした。

裕真の友人の家入が少ない登場なのに光っています。
英俊の裕真への気持ちを知った後の戸惑いから許容そしてキューピット役への変遷が友人としての真価をあらわしていました。

4

上半期で一番胸にきました。

 記憶喪失ものは数あるけれども、こんなに切々と胸にくる作品はありません。淡々としているけれどじんわりと心に響いてきました。英俊(攻)はとても不器用です、子供です、けれど必死です。傷付いた子供の英俊(攻)は傷付いた薔薇だったのかも知れない、記憶を失くして眠ったまんまの裕真(受)も同様に。けれども、8年という大切なひまつぶしを経たからこそお互い受け入れる事が出来たのだと思います。萌え度、H度共に低空飛行ではあるけども、他の誰かじゃダメなんだ感は半端なくビシビシ伝わるし100%恋愛感情からかそうでないかは最早どうでもいい、偶然なる必然の出会いは全てを優しく包み込む包容力があるんだと思ってしまいました。この作品の空気感が好きな方は是非、海賀卓子「スタンダード・レヴュー」を。もう絶版になってますが探せば手に入るので一読をしてみて下さいおススメです。

3

ひまつぶしの裏に在る慈しむ思いが心に沁みます。

読み始めてテンションが上がる話でも楽しくなる話でも無い作品なのですが、
読み終わると心に温かいものが溢れてくるようなストーリーで静かに感動します。
事故で8年も眠り続けてしまったら、そしてある日突然目覚めたら、
自分ならどうなってしまうのだろうと思わずにはいられない。

攻めである英俊と受けの裕真の出会いはかなり不躾な程いい出会いではないのです。
父親の浮気相手の家から花を盗むところを偶然見かけ思わず後を追いかけ諭す。
でもそこに複雑な大人の事情を垣間見て意に反して深入りしてしまう。
でもそれで終わりだと思っていた裕真は小学5年生の英俊の家庭教師になることで
付き合いが始まってしまう。
単なる子供の癇癪的な行動で事故に合い8年眠り続ける事になるのですが、
12歳から20歳までの8年を眠る裕真の側に居続けた英俊の執着は切ないです。
どんな思春期を過ごして何を思い傍に居続けるのか考えると思いの深さを感じます。

それでも事故は別にしても英俊が裕真と出会わない人生を送っていたら
きっとすんなり大人にはなれなかった気がするのです。
愛も優しさも労りも誰かの為に涙する感情も持たないままの歪な人間になったかも、
そのまま大人になったらヤンデレだけの怖い存在になったのかもと思う所です。
裕真が8年眠り、英俊が裕真が眠りについた年齢になって目覚める。
どこか運命だったのかもの思わせるし、精神的には同じ年齢にもしかしたらなったのか
なんて思う事もあったりと、なかなか奥深い作品でした。

受け視点と攻め視点で描かれているのでどちらの心情もうかがい知ることが出来るので
余計に8年の時が切なかったです。
もう1度読み返してみようかと思わせる味わい深い作品でした。

7

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