『無能な皇子と呼ばれてますが中身は敵国の宰相です』の3巻目。
続きものって続巻が進むごとに面白さが半減してしまうものってあったりしますが、さすが夜光先生。巻数が進むごとに面白さがマシマシです。素晴らしいです。
アンティブル国の若き宰相・リドリー。
落雷事故に巻き込まれた彼は敵国・サーレント帝国の第一皇子のベルナールと入れ替わってしまっていた。自国に舞い戻り、そしてリドリーの身体を取り戻したい彼はー。
というストーリーの今作品。
3巻は、白豚皇子と呼ばれていたベルナール(中身は有能なリドリー)がメキメキと頭角を現すようになり、疎ましく思った皇帝から竜退治を命じられてしまいー?
というお話。
いやもう!
リドリーがカッコいい!
竜退治に向かう彼は、決して国のために行動しているわけではない。自分が元に戻るために行動しているだけ。なのに、それが結果的に国のためになり周囲からの支持が上がっていくという。単なる「良い人」「スパダリ」ではないのでめちゃめちゃ面白い。行く先々でトラブルを解決していくさまがクソほどかっこいいのであります。
彼が言い放った「罠に嵌めて抹殺しよう」というくだりにはもう爆笑。彼の本質をズバッと言い表したセリフにしびれました。そして、悪には鉄槌が下り、正義が勝つ瞬間は胸がすく思いです。
そして3巻に入り、なぜリドリーとベルナールが入れ替わってしまったのか?という部分に触れる描写が出できました。今後、どうなっていくのかめちゃめちゃ気になります。
王族であるがゆえに浮き彫りになる世継ぎ問題。
クソでクソな皇帝の存在。
入れ替わってしまったリドリーとベルナール。
今巻で退治に向かった竜の存在。そしてその過程で知り合う国民たち。
バックボーンはてんこ盛りなのに、それらがきちんと繋がり伏線を回収していくさまは読んでいて圧倒されます。
ちなみにですが、リドリーに(術を掛けられているために)忠誠を誓っているシュルツ。この二人がやっと本懐を遂げます。おめでとう、シュルツくん。ページ数はさほど多くはありませんが、この濡れ場がめちゃめちゃエロいです。リドリーの秘密と、シュルツにかけられた術の件もあって身も心も、という感じではないですが、それがまた良い。ジレジレと進む二人の行方もこの作品の大きな魅力の一つだなあとしみじみ。
あとは忘れちゃいけない、サマミヤさんの描かれた挿絵。
もう最高。
リドリーがカッコよすぎて悶絶しました。
何もかもがパーフェクトな今シリーズ。続きが今から待ち遠しいです。
作家買い。
兼守さんの描かれた表紙が麗しくも可愛らしく、西野作品ではありますがエロ度は低い作品かな?と思いつつ手に取りました。タイトルの「勇者」「元魔王」というところからも推測できるように、今作品は魔王討伐を描いたファンタジーものです。
ということでレビューを。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
勇者リカルドは、仲間たちとともに今まさに魔王討伐を果たそうとしていた。
「深淵の黒珠」と呼ばれるその魔王・イシュメルを斃すことに成功した彼らだが、実はイシュメルはかつて同じパーティーで魔物を斃していた仲間でもあった。
10年前、魔王を斃した際に魔王が吐き出した「魔王の種子」を吸い込んだことでイシュメルは新しい魔王になってしまったのだった。そして今、仲間であり、そしてほのかな恋心を抱いていたイシュメルを退治する敵として滅したリカルドだったがー。
というお話。
イシュメルという男性がすごくとてもカッコいいナイスガイでして。
彼は魔族ではありますが、とにかく心根の優しい人物として描かれています。彼が魔王になってしまった経緯とか、もうとにかく萌えツボ持っていかれてしまう素敵な男性なのです。
そんなイシュメルを何とか救いたいリカルドも。
彼は王道のスパダリさんです。ザ・スパダリ攻めです。彼もカッコいいです。
魔王を斃す勇者でありながら、彼のすべてはイシュメルのためにある。
ストーリーとしては、魔王になってしまったイシュメルを何とか助けたいリカルド、という展開なのですが、そこにですね、西野さんらしいエロがぶっこまれています。もうエロエロです。イシュメルの体内に残る「魔王の種子」が育っていかないようにするために…、というある意味王道の展開です。1冊のうち半分くらいは服着てないんじゃないかな?と思ってしまう濡れ場の多さです。
が、それでも、かつての仲間たちとのやり取りや、リカルドのイシュメルに向ける深い愛情がきちんと描かれているので、読んでいて心がほっこり温かくなります。敵同士でありながら、今なおお互いに想いあうリカルドとイシュメルの行く末は、というストーリーも面白く、一気に読んでしまいました。シリアスに振り切ろうと思えば振り切れるバックボーンでありながら、甘さと優しさが上手にミックスされた良作。
そして、兼守さんの描かれた挿絵がとにかく美しいです。
この作品の持つ世界観にぴったりで、萌え度は確実に上がりました。
世迷いさん原作、りゆま先生コミカライズの「かわいいきみ」の2巻目。
今巻で完結かなと思いましたが、まだ完結していません。世迷いさんが描かれた原作も拝見しましたが、原作で描かれている部分については今巻で完結しているので、今後は原作にないエピソードに突入するものと思われます。
ということでレビューを。前巻ふくめたネタバレがあります。ご注意ください。
DKのナホにはイケメンの幼馴染・カナがいる。
いつもナホに「可愛い」という言葉を投げかけてくれる優しい幼馴染を、ナホも大切に思っている。イケメンのカナが「可愛い」といってくれる自分は可愛いはず。そう信じ込んで今まで過ごしてきたが、高校のクラスメートやカナの友人たちのセリフから、「自分は可愛いどころか、むしろモブ顔なのでは…?」と気づいたナホは…。
というところまでが描かれていた1巻。
2巻は、カナの友人たちの言動から自分はカナから離れた方がいいと思ったナホはー、というところからスタートします。
所々で描かれている描写から、カナはナホに対して恋愛的な意味での執着心を抱いているのだろうと。そう読み取れる部分はたくさんあります。それがりゆま先生の可愛らしい絵柄で紡がれていくので、ドジっ子なナホと、そんなナホに惚れ切っているカナ、というほのぼのなストーリーになっていてもおかしくない。
なのに、ほんのりとシリアスムードが漂う。
理由は二つあると思いました。
一つは、ナホが「自分を可愛い」と信じ切っている痛い子だから。
そしてもう一つは、カナの無表情。
ナホの天然さに対して、カナの感情が読み取れない。カナの表情から彼の感情が読み取りづらいんです。
ナホは高校生なわけで、カナが喜んでくれたという理由だけでお礼に折り紙で折った鶴を渡し続けている。それに対してカナの友人たちはナホに白い目を向けるわけですが、んー、確かに高校生にもなって鶴を渡し続けるナホはちょっと天然ちゃん、というかはっきり言ってしまうと痛い気はするんですよね。
ただ、それを本当にカナが喜んでいる感じならいいのですが、ナホの行動に対してカナが無表情なのでナホへの想いが読み取りづらい。
終盤、カナと想いを通じ合わせたナホ、ということで濡れ場もありますが、そこから一気に甘々展開になっていくのですが、そこもなんかしっくりこない、というか。カナの友人のアオイ、ハクサともに、ナホに対して辛辣だった態度が急にフレンドリーになるのも「?」となってしまった。急展開すぎる感じ。
ただこの辺りはお好みかなとも思います。甘々になって安心した、と思われる方も少なくないんじゃないかなと思いますので。
今作品は、ナホとカナの恋の成就の物語というよりは、ナホの成長物語だったように思います。今まで彼の世界は「カナ」だけで成立してしまっていた。が、彼が自分を客観的に見ることができるようになったことで友人もでき、世界が広がっていく。
カナが、その執着心からナホを囲い込んできたようにも読み取れ、そこには萌えしかない。原作はすでに完結していますが、今後どのようにストーリーが展開していくのかも気になります。
まだ続く作品なので、完結してから読む派の方はしばしお待ちを。
ただ、ストーリーとしては一旦の完結を見せてはいますので(原作はここで終わり)、まず読まれてみてもいいかな、と思います。
櫛野先生は人外ものを多く描かれる作家さまのイメージが個人的に強いのですが、今作品はゴブリンが主人公。ゴブリン、というか、ゴブリンと人間のハーフが受けちゃん、という設定のお話です。
森の奥深くで、ひっそりと一人で生活しているリュイが主人公。
表紙の右側の彼です。
22歳の彼が生まれる前の30年ほど前のお話。世界には魔王が魔物を操り、人間たちを恐怖に陥れていた。が、一人の勇者が立ち上がり魔王をせん滅。魔王亡きあと、操られていた魔物たちは正気を取り戻し、世界に平和が訪れた。
これからは魔物も人間も仲良くしようー。
そんな時にリュイの両親は出会い恋をして、リュイが生まれた。
リュイの父親は人間、母親はゴブリンだ。が、人間の姿をしているもののゴブリンの特徴でもある緑色の肌は斑に広がり、そしてとがった耳を持つリュイは人にも魔物にも受け入れられる存在ではなかった。それでも、両親はリュイを愛し、三人平和に暮らしていたが、ある日母は病にかかり、その病を治す薬を手に入れるために父は森を出ていき、それっきり3年という月日が流れた後も森に帰ってくることはない。
孤独に一人で父を待つリュイではあるが、魔物の友人やリュイが育てている薬草を買いに来てくれる商人もいて、それなりの日々を過ごしている。
が、そんなある日、森でリュイはケガを負った一人の騎士を見つける。こんな森になぜ?と思ったものの、彼の目に失明してしまう危険性のある花粉が付着しているのを見て、思わず助けるために声をかけてしまったリュイだったがー。
というお話。
リュイ視点でストーリーは始まりますが、この騎士・レオン視点と交互に切り替わりながら描かれていくので、二人の感情が分かりやすく感情移入しやすい造りになっています。
リュイは人間とゴブリンのハーフ。ということで孤独に生きてきた過程が読み取れて、序盤から一気に萌えを掴まれました。リュイが可愛いんよ…。母を病で亡くした過去から、彼は病で苦しむ人たちの助けに少しでもなりたいと尽力を惜しまない。
そして、一方のレオンも。
彼が傷つき、森の奥に逃げ込んできた経緯。
彼の素性。
そして、彼が成し遂げたいと願っている「こと」。
レオンもまた、リュイと同じように清廉な魂を持つナイスガイなのです。
一時的に目が見えなくなっているレオンと、ゴブリンと人間ハーフであるという素性を隠したいリュイは、けれどお互いを思い遣り優しい日々を過ごすうちに少しずつ心惹かれあっていくけれど。
レオンの素性と、リュイの隠したい魔物とのハーフであるという因子。
これらが上手に絡み、レオンの目的と、二人の恋の成就というバックボーンが過不足なく進んでいくストーリー展開に圧倒されました。
リュイは一人で暮らしていますが、でも、彼にかかわる人物はいます。
人間の商人であるカガリ。
魔物の友人・フラム。
彼らがまた良い味出していてですね、最後の最後までナイスなのです。
魔物と人間の、過酷な過去から生み出されてしまったすれ違い。
これに関してもきちんと描かれていて、バックボーンとしてはシリアス寄りなのですが、シリアスすぎずに、けれど軽視することなく終始温かな展開を見せるところも非常に良かった。見た目とか種族とか。自分と違うものを排除しようとするのではなく、お互いに歩み寄り、心を割って話し合うことで信頼関係は築けるのだと。多くの方に読んでほしいと願わざるを得ない、心温まるストーリーです。
挿絵を描かれている石田さん。
石田さんて綺麗な絵柄を描かれる作家さまですが、ちょっと色香が強いっていうのか。エロ度が高いというのか。そんなイメージがあるのですが、今作品の絵柄はとっても優しくてきれいでめっちゃ良かった。
今作品には、様々な形の「諍い」が描かれています。
けれど、それを上回る、愛情とか人の優しさとか、家族愛とか。それらもきちんと描かれています。
話し合い、相手を尊重し、自分と違うものにも歩み寄ることの大切さを説いた一冊。読後心がほっこりと温かくなる、そんな優しい作品でした。
「べな」の4巻目にして完結編。
いやもう、めっちゃ良かった…。ページを捲るたびに思わず涙が溢れました。じんわりと何かが心に染み入ってくる、そんな感じ。
若水の情人・鬼平太を救うために、べなと壱は手を貸すことにするがー。
という3巻からの続きから4巻はスタート。
すごくお上手だなと思ったのは、鬼平太と二三をシンクロさせているところ。
自分の身を犠牲にしても、愛する人を守りたい。鬼平太と二三は、タイプとしては全く正反対でありながら、いやだからこそか?二人の、それぞれの「大切な人」に対する愛情が怒涛の様に流れ込んできてとにかく切なかった。
そして、二三を救うことができなかった壱にとっても。
鬼平太を救い出すことで、彼は自分自身の贖罪の気持ちに一区切りつけたんじゃないかなと。そんな風に思いました。
そしてダンゾウさん。
彼もね、めっちゃ良いよね…。彼は彼の形で、償い続ける。二三を想って。
彼の優しさを受け取った誰かとともに、ダンゾウにも幸せになってほしいなと願ってやみません。そして、壱に「戦うすべ」を教えてくれたことにも花丸を差し上げたいです。
べなは、鬼だからというただそれだけの理由で虐げられてきた。
けれど、壱におにぎりをもらったとき。壱が助けてくれようとしたとき。
その時に、彼は「鬼」ではなく、「べな」として生を受けたんだろうな、と、そう思うのです。
姿かたちは人間であっても。
その心根はケダモノみたいなやつもいる。
その一方で、鬼の姿をしていても心は人と同じ。愛情ややさしさに満ちたべなもいる。べなを、「鬼」ではなく「べな」として受け入れてくれた周囲の人たちの優しさが、べなを人として育てるための糧になったのだろうと。流血とか、子どもに対する性搾取とか。痛く、しんどい展開でありながら、今作品が描いているのは様々な形の、深い愛情です。人は一人では生きてはいけず、愛情がなくても生きてはいけない。そして自分もまた、誰かの支えの一つになれたなら、こんなに嬉しいことはないなあ、と。
鬼と人間、という異なる人種の2人が紡ぐ恋の行方。
でも、それは「入れ物」だけの話。
べなと壱。
二人の笑顔が、これからもずっと続きますように。
キャラ、絵柄、ストーリー。
何もかもが素晴らしい神作品。こんなにも素晴らしい作品に出会えたことに感謝。こふで先生の次回作も楽しみに待っていようと思います。
鹿乃先生作品ってどれも最高ですが、個人的に一番好きなのは『 Punch↑』シリーズ。
今作品はその大好きな「 Punch↑」…、え?あれ?
「~About of HISASHI~」?
HISASHI?
ひさし?
久嗣かー!
ということで、変態・牧さんの有能なビジネスパートナーであり、長きにわたって牧さんの私生活をずっとサポートし続けてきた、和久井久嗣のお話であります。いや、まさかあの久嗣メインのスピンオフが来るとは…!嬉しみにあふれてしまいましたです、はい。
ということでレビューを。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
有能かつ変態の一級建築士・牧志青。
彼を公私にわたりサポートしてきたインテリアコーディネーターの久嗣は、Uチューバーとしての顔もある。お手頃価格で買える家具や植物をメインに配信している彼の動画を、一生懸命に追っているフォロワーがいる。
人気美容師の隅田くんだ。
彼の勤務する美容院の顧客でもある久嗣を、隅田くんは一途に思っている。
美容師としても有能で、イケメンな彼は人気美容師だが、彼には実は秘めている「もの」があって…。
というお話。
えーっとですね、ここでお詫びしたいです。
ワタクシ、久嗣は完全なるモブ顔だと思ってまして。牧さんの友人兼ビジネスパートナーとして「Punch」シリーズではなくてはならない存在になってはいますが、でも、脇キャラだよね。
そんな風に思っておりました。
が。
いやいやいや。
イケメン!
見た目だけではなく、その中身も。
今までももちろん「良い人」ではありましたが、鹿乃先生の手腕にかかるとこうも魅力的な主人公になってしまうのかと圧倒されました。
鹿乃作品ではおなじみ、といって差し支えないでしょう。
イケメンさんなのに、仄暗い「何か」を抱えている登場人物。
今作品では隅田くんがその立ち位置にいます。
いずれ失くしてしまうものなら持ちたくない。
欲しくても手に入らないものは、いっそのこと…。
というストーカー気質も持ち合わせた青年であります。
が、なんか憎めない。
作中にも書かれているワードですが、「イケメン無罪」なのかも。
けれど、彼の暗く光を宿すことのない瞳に、何とか手を貸したいと思ってしまう。そんな不思議な魅力に、久嗣とともに読み手もどっぷりと嵌ってしまうのです。そんな彼の瞳が、終盤に向けて少しずつ光を取り戻していく。そんな彼の内面の見せ方が非常にお上手だなと感心しきり。さすがしうこ先生です。
変態、いや失礼、有能な一級建築士・牧志青。
志青が愛してやまない、唯一無二の恋人、コータン。
この二人がサポート役に回っているのがとにかく新鮮でした。特に志青。正論を、そして時には正論だけをぶちかますのではなく、久嗣の立場に立って、あるいは彼のためにポロっと出る彼の助言や意見は、悔しいことにめっちゃカッコいい。
そしてコータン。
彼はやっぱり天使だった。
可愛い…!特に、終盤のネコに囲まれている絵面。あれは反則級の可愛さでした。
読み始めた時、暗い瞳を持つ隅田くんが、久嗣と出会い恋をして、そして過去のトラウマを乗り越えていくお話、なんだと思っていました。
が、今作品はそれだけに非ず。
久嗣もまた、彼に救われたんだなあ、と。志青と同じように、可愛い恋人に骨抜きになっていくさまが可愛くって萌えました。人として大切な「何か」を欠落していた二人が、お互いに足りない部分を埋めるように満たされていく。人として成長していく。
鹿乃作品に外れなし。
改めてしみじみと感じた、そんな1冊でした。
「好きやねんけどどうやろか」が実写ドラマ化されるにあたり新装版として刊行された今作品。
加筆・修正はないように思います。昔からお綺麗な絵柄だったんだなあ、としみじみ思ったりもしたわけですが、旧版との大きな違いは「好きやねんけどどうやろか 2024Ver.」が収録されている点でしょうか。分量としては12P。甘々な栄枝くん×久志さんのお話が堪能できます。
ということでレビューを。旧版の方にもレビューはありますが、一応内容をさっくりとさらったレビューを書こうと思います。
四国から大阪に転勤してきたリーマンの久志が主人公。
実は、ちょっぴり大阪弁が怖くて苦手だったりする。みんな良い人だとわかってはいるが。
そんな彼の最近のお気に入りは小料理屋「たまえ」。久志の勤める会社が造っている日本酒やみりんを使ってくれている小料理屋だ。何より、店主の栄枝が造る料理はどれもおいしい。栄枝とも気持ちのいい関係を築けていると思っていたが、そんなある日、栄枝から告られてしまってー?
というお話。
久志はバツイチ。
とある理由で妻(今は「元」妻だが)から離婚を切り出され、以来、これからは一人で生きて以降、そう思っていた矢先の出来事だった。
久志は結婚歴があることからも推測できるようにノンケさん。
対して栄枝はゲイ。
「子ども」という、いわゆる一般的な夫婦であれば避けては通れないバックボーンを上手に生かした展開のお話です。ちょっぴりセンシティブな因子ですがシリアスにしすぎない内容で、すれ違いながら、戸惑いながら、二人が少しずつ心を通わせていく、ほっこりと温かなストーリーです。
今作品は2CPのお話が収録されています。
後半は「食わず嫌いはあかんやろ」。小料理屋・たまえを舞台にリンクしているお話です。
「たまえ」の常連客の中津さん。
潔癖症の彼には苦手なものがたくさんある。野菜もその一つだ。子どものころにキャベツにくっついていた青虫を見て以来、「野菜」そのものが苦手。
が、そんな中津さんに目を付けたのが要。
「たまえ」の店主の栄枝の先輩にして、「たまえ」に野菜を卸してくれている八百屋さん。あの手この手で、自分が扱っている野菜を中津さんに食べさせようとする要だが…?
今作品は関西弁が重要なファクターになっているお話でして。
関西人らしいギャグとポンポンとテンポのいい話し方、そこからイメージできる人物像。明るく、前向きな人物。要(栄枝もそうですが)を、そういう人物として読者に見せています。
一方、それぞれのお相手の久志と中津さん。
相手のペースに飲まれそう…、に見えながら、栄枝しかり要しかり、相手をきちんと尊重しているので強引すぎる展開にはならない。
シリアスすぎず、コミカルすぎず、ストーリー自体非常に王道。
誤解を恐れずに言うならば、非常に万人受けするお話じゃないかと思います。
旧版をお持ちの方に向けて特筆すべき点は、新装版にあたり加筆された「好きやねんけどどうやろか 2024Ver.」の情報でしょうか。
時系列としては本編終了後。
甘々な恋人同士の2人、という軸のお話です。
仕事が終わったらうちに来てほしい。
そう、久志から言われた栄枝は、仕事終わりに久志の家へと赴くが、そこで栄枝が見たものは…。
最初から最後まで甘々。
糖度たっぷりな1冊でした。
何はともあれ、TVドラマ化おめでとうございます。
楽しみですね!
『高嶺の花は、乱されたい』の3巻目。
連雀さんがいないタイミングでヒートを起こしてしまったハナちゃん。そのピンチは切り抜けたものの、自分がいないタイミングで再びヒートを起こしたら。そう心配した連雀さんから「(連雀さんの)事務所で働かないか」といわれたハナちゃんは…。
という前巻からの続きから今巻はスタート。
ハナちゃんは、「スタニャが好き」、「自立してずっと働き続けたい」という思いを持ちつつ、それと相反するように自身のオメガという性を受け入れられない。受け入れられない、というとちょっと違うのかな。母親に植え付けられた先入観、自身の性に対する拒否感も持ち合わせているように見える。それが、ヒートを起こしたという事実によって強く意識せざるを得なくなってしまった感じ。
そして一方の連雀さんも。
ハナちゃんを大切に思う気持ちは本物なのに、それがうまくハナちゃんに伝わらない。アルファとオメガの性差なのかもしれないし、あるいは彼の過去のトラウマ(父親の愛人さん絡みのお話)にもつながっているのかもしれない。
そこを端的に表しているのが「うなじを噛む」という行為なのかな。
ハナちゃんと連雀さんとではその行為そのものが少しすれ違っている気がしました。
自分のオメガだと主張してほしいハナちゃん。
噛んだ(愛情表現をしたつもり)の連雀さんからしたら「噛んでほしい」といわれるのは信用されていないことなのか?と思ってしまう。
同じものを見ていても、見方や立場が違えば違うように見えてしまうのは当たり前のことで、こういったすれ違いを経ながら二人は本当の意味で信頼関係を築いていくのだろうと。そう思うのですが、すれ違う二人にやきもきしつつ。
でもハナちゃんの母ちゃんに対する連雀さんがカッコよくて悶絶。
あんなん、あんなん、
惚れてまうやろー!
ここで再登場するのが鷹司さん。
連雀さんとはまた違ったゴージャスさを持つ「エライ人」なわけですが。
イヤー、これはもしかして蒼葉と?ワンチャンあるんじゃないですか?
アルファ×アルファとか最高なんですけど。
3巻の序盤はドシリアスで始まったのでちょっとドキドキしながら読み始めましたが、終盤に向けて糖度マシマシ。で、最後の「アレ」は…。
え、そうきたか。
という終わり方で次巻が待たれます。
『トンでもない俺のα』は「両親編」と「息子編」の2パターンがありますが、4巻目にあたる今作品は両親編。ジャウハラ王国の第6皇子であるナダ(豚ちゃん)と、日本人で一般人の菫人(オメガ)のCPのお話。
オメガである菫人の発情期の時だけ、ナダは菫人に会いにくるという関係。
「運命の番」である菫人をナダは溺愛しているが、菫人はまだ受け入れられなくてー。
という、シリーズの2巻の続きから。
受けさん溺愛の攻めさん、って大好物でして。
強い受けさん、しかもオメガ、も大好物でして。
個人的萌えツボがたっぷり詰まった今作品ですが、今巻も面白かったー!
菫人を溺愛しているナダ。
なのに、なぜかナダから婚約破棄を言い渡される菫人。
しかもナダの横にはしっかり美人さんかつ女性(に見える)人物が立っていてー?
という、え?なんで?という出だしから今巻はスタートします。
ナダには、政略結婚でバッカリス王女との婚約が決められてしまっていて。
あの手この手でバッカリス王女には手を引いてもらおうとするナダではあるが、癖のある兄ちゃんズたちの横やりもありなかなかうまくいかない。
ナダと菫人は、バッカリス王女から逃げ切ることができるのか。
というお話。
とはいえ、ですよ。菫人はナダの求愛を断り続けている関係なわけで、バッカリス王女の存在が「雨降って地固まる」になるのか?という展開。
もうね、「漢」という形容詞がこれほどまでしっくりくる受けさんはいますか?状態の菫人。今巻は可愛いぜ…。ギャップ萌えしてしまいましたですよ、はい。彼が頑なにナダの求愛を避ける、その理由に。
BLとしての軸は切なさが詰まっているのに、ここに藤咲先生らしいコミカルさが加わることで唯一無二の世界観に仕上がっています。今シリーズ大好きなんですが、中でも今巻が一番好きかも。
ナダは菫人を溺愛しながらも、彼の意志を尊重している。
可愛いうえにスパダリで、受けちゃんファーストのナダも最高すぎて悶絶しました。
今巻はナダ×菫人だけに焦点を当てて描かれているので、この二人が大好きな腐姐さま方には朗報かと思われます。
で。
バッカリス王女。
良い。めっちゃ良い。「彼」の番になった「あいつ」もいい。
末長くお幸せに!
まだまだ続いていってほしいシリーズ。
続編を、正座してお待ちしております。
作家買い。
犬飼さんの描く官能童話シリーズの最新刊ですが、個人的にこのシリーズ大好きでして。発売日を心待ちにしていました。シリーズものではありますがそれぞれ全く別のお話なので前作未読でも問題なく読めます。
未読かつ気になった方へご参考までに書きますと、順番としては「人魚姫の弟」(この作品だけフルール文庫さんから刊行されています)→「白雪姫の息子」→「シンデレラ王」→「赤ずきん王子」→「眠れる森の王」、で、今巻に続きます。
新刊となる今作品は、タイトルからも推測できるように「おやゆび姫」をオマージュした作品。
主人公はファンファリスタ国の王都の郊外で一人で家具屋を営むミルフェ。
ある日、彼は犬に襲われていた老婆を助ける。その老婆は自分は魔法使い(「魔女」と呼ばれるのはいやらしいです)だと言い、助けてくれたお礼に願い事を叶えてあげようとミルフェに持ちかける。初めは断るミルフェだったが、魔法使いになかば押し切られる形で彼女に伝えた望みは「話し相手が欲しい」というものだった。魔法使いはミルフェの願いをかなえるべく、「あるもの」をミルフェに渡してくれるがー。
というお話。
ミルフェはもともと一人暮らしだったわけではなく家族がいた。が、事故で一度に家族を失ってしまう。孤独に苛まれるミルフェは話し相手、もっと言うと同性の恋人が欲しいと願っていて。そんなミルフェの願いをかなえる形で、魔法使いはミルフェに一人の男性を与えてくれる。
ワインボトルくらいのサイズの、金髪の、見目麗しい青年を。
かつてこの国で放蕩の限りを尽くしたと言われる、100年前に実在した王子のグレインロード。
魔法使いに封印されてしまい、再びこの世に姿を現すことができるようになったグレインロード。
孤独で、恋人が欲しいと願っていたミルフェ。
一歩間違えると共依存の関係になりがちな二人ではあるのですが、お互い協力しあって生活し、そしてグレインロードが人間のサイズに戻れるように奮闘していくさまがほのぼのな雰囲気で紡がれていきます。
王子だったグレインロードは初め横柄でしてね。
ヤバ、この攻めさん好きになれないかもなあ、なんて思いつつ読み進めましたが、こんなにも立派な正統派の攻めさんになるとは…!と萌えが滾りました。かつて彼が放蕩王子だったのには理由があって、彼はその苦しみを、ミルフェと一緒に乗り越えていく。ムネアツです。
「おやゆび姫」ですから、カエルにさらわれたり、はたまたミルフェ以外の人物に求婚されたり、と身体の小さなグレインロードにはなかなかハードな旅が待っているわけですが、様々なハードルを乗り越えて恋人になる二人の姿に萌えが滾りました。
どちらか一方の身体が小さくなる、というストーリーは時々見かけます。
「〇くんの恋人」とか。
身体が小さくなってしまった恋人たち、という設定って、子どものころに好きだったお人形遊びと近い部分があって、ロマンがある。着せ替えたり、家を整えたり、自分の好きなように楽しめるわけですよ。
が、今巻はミルフェはグレインロードと出会い、彼が生活しやすいように工夫し、そして、元のサイズに戻れるように心を配る。子どものころに楽しんだお人形遊びと、好きな人に少しでも快適に過ごしてほしいと願うミルフェの想いがリンクして、楽しいし萌えるし、心がほっこりするしでめっちゃ良かった。
攻めさんの身体が小さい、ということで、そうです。
エチエチなことはできないわけですよ。どうなっちゃうのかな、と思いつつ読み進めましたが、最後は無事大団円。
犬飼さんの今シリーズは途中ドカンと痛い展開になることもままあるので最後の最後まで気を抜けませんでしたが、終始温かく優しい空気感に満ちた作品でした。
このほのぼのストーリーに色を付けるのが笠井画伯。
可愛い…。
美しい…。
エロ綺麗…。
と、今回も画伯は最高でした。もう表紙!
これはジャケ買いされる方多いでしょうね、うん。と思わざるを得ない可愛らしい絵柄でした。そして、この表紙の可愛さに見合った内容でもあります。
何もかもを持っているように見えて、その実何も持っていなかった裸の王子・グレインロード。その彼が、すべてを失った後で手に入れたものは、彼が欲しくて、望んでやまなかった見返りを求めない深く、温かな愛情。
読み始めた時、家族を失い孤独感に苛まれていたミルフェの恋の成就のお話なんだと。そう思いつつ読み始めましたが、今作品の主人公はグレインロードなんじゃないかな。
読後心がほっこり温かくなる、そんな優しい1冊でした。