デジタルエディション
『火花』は伸びてこちらはそこまで伸びないのは、なんだか分かる気がする。当時はウケたであろう痛い作品、アングラめいた作品は今流行りではないからなぁ。と、理由を推察したけど、実際のところはどうでしょう。
初出は古いものから2007年、2008年ときて、12、14. 、19年。再録にあたり修正しているかどうか知らないが、この長い期間の作品群を一つにまとめて違和感がないのはすごい。まぁ中村先生はむしろ昔の方が描き込み量が多くしっかりした作画だった。
出色なのは『惡い男』『惡い男たち』。これらは描き下ろし。そう思うと、キャリアを重ねて一番新しい作品が一番良い(とは私個人の感想だけれど)というのは素晴らしいことで。一番新しい作品はそりゃ、一番時代に合っているはずだ。
短編だと明日美子ワールドをより感じるというか、
ギュッと凝縮されている気がしますね。
ゾワっとしたりキュッとなったりシクシクしたり。明日美子先生のお話はなぜか擬音で表現したくなります。
7話収録されていますが私は
“春の画”と”温室の果実”が特に好きでした。
恐らく精通もまだでは?という少年が、
大人びたクラスメイトとの触れ合いで
1歩階段をのぼる感じが良かった春の画。
自分の痴態を自分が想いを寄せる相手に観せる
温室の果実。
枯れたおじいちゃんに”観せる”、そこから別の気持ちが生まれるシチュ、大好きです^ ^
「惡い男」という作品タイトルだけれどもその実は「忘れられない男」って事なのかな?と感じました
「忘れられない男」ではすこしパンチに欠ける凡庸さが掠める可能性をこのインパクト絶大な「惡い男」というタイトルでまとめ上げているのかな、と・・・
確かに「惡い男」なんて絶対に「忘れられない」ですからね!!
そんな訳で性悪でどうしようもないクズな男達の短編集、という訳ではないのでそこは誤解しないでお迎えになる事を強く進言したいポイントかと思います
どのお話しにも趣があります
短いページ数の中で描き切る先生の作画の力・・・画力とそして漫画の上手さが凝縮して発揮されています
作品の初手を担う「春の画」
ほんの短い間を過ごす転校生との時間
時代を感じさせるはかま姿のあどけなさと危うさが混在する「中等部2年生」という年代の男児2人
1人は大人びた佇まいで1人はまさに少年
同級生なのに纏う空気の違いがとてもエモーショナルに描写されています
加賀谷君が安藤君の名前をフランス語を交えてもじり「un:アン」「deux:ドゥ」「trois;トロワ」と口ずさんでいたのは「性の目覚めへのカウントダウン」のようにも感じました
とてもドキドキする開幕の1話でした
2話目「夏と冬のであう場所」
こちらは何とも挑戦的なお話しですね
捉え方次第では叔父×甥ではなく父×息子の可能性を孕むやり取り
このお話しは圧倒的に甥が「惡い男」でしたね
あの電話の終わりは執着加減にゾクッとしました
3話目「ぼくのすきなにいちゃん」
高校生のにいちゃんに憧れと恋が入り混じるランドセルを背負う年頃の男子カズ
確かに!このにいちゃんには魔力がある!!
カズには「忘れられない男」でしょうね
にいちゃんと母親の間に何があったんだろう・・・
どうにも気になる背景です
4話目「ヘンタイ」
倒錯の世界へようこそ!という作品タイトルで完全勝利が決まったかのような作品
直君(教育実習生)と実習先の生徒
幼馴染的な関係でしょうか?
幼い頃に性癖を歪められた生徒による直君へのお返しのような挑発
直君のヘンタイさがエロス・・・‼
そして終わり方!完全に扉が開く音が聴こえました
5話目「ボーイズラブ」
素敵です!すごく素敵!!まるで8ミリフィルムで2人を追っているように進むページ
真正面な「ボーイズラブ」というこの作品タイトルのまま!
これがBLの萌え♡というのが押し寄せます
6話目「温室の果実」
純愛と倒錯が交じり合うお話し
そしてあるかも知れない・・・と思えてしまう官能の世界
老齢の政治家と若い秘書
実際に体を重ねるのはこの秘書(壱吾:いちご)と政治家の先生が用意したであろうデリヘルのボーイのハスミ
ハスミと壱吾のまぐわう姿を見たがる先生
そんな先生に寄り添いたい壱吾
何と不条理で悪趣味な世界でしょうか・・・
と、思いつつも目が離せない
見つめ続けたその先にあったのは「切なさと愛しさ」でした
7話「惡い男」+「惡い男たち」
ここで表紙の男が登場です!!
この気になる彼・・・なかなかの食わせ者です
なるほど、これは「惡い男」です(笑)
そしてそんな彼の相手をしてる?いなしてる?彼もまた・・・
という事で、なるほど「惡い男たち」(笑)
先生!洒落が効いてます!
それにしても、全キャラ、ビジュアルが宜しいことで困ります(≧▽≦)
色気を放ち、その色気にあてられ色付く彼ら
全話釘付けでした
各話短編なので長さはないですが余韻も含めてページ以上のインパクトを受けました
これは忘れられない1冊となりました!
短編集となっていて、どれもこれもに先生らしさが感じられます
各話について書こうとしてしまうとまとめられる自信がないので、これだけは伝えたい!という【デジタルエディション】についてを残します
今回この作品を紙本にて既刊された際に描き下ろしで描かれたのがこの作品の表題作となる「惡い男」です
4ページで描かれる大変雰囲気のある物語のエピソード0、プロローグのようなお話しです
読み方、受け取り方次第で余韻を楽しめたり、この2人の関係性に想いを馳せてみたり出来るような正解の無い4ページ
私のように感受性が人並みだと「どういう事なのかな。。。もっと知りたいな。。。」って飢餓感も少し感じる雰囲気が先行するお話し
それ位に表紙の男もソファに座る男も「気になる存在」
そして、今回【デジタルエディション】で新たに描き下ろされたのが「惡い男たち」です
4ページで描かれた「惡い男」の会話劇の続きが読めます!!
これを読むか読まないか、でこの「惡い男」の作品の印象は変わります
そして、なるほど「惡い男たち」!!
4ページの威力!プロの技!
【デジタルエディション】を手に入れる理由は4ページで十分に証明されていました
読めて良かった
大人の雰囲気がとてもかっこよかったです