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作家買い。
一穂作品の『ひつじの鍵』のスピンオフ作品です。『ひつじの鍵』の受けくん・羊の幼馴染で、ずっと羊に恋してた和楽のお話。羊の登場は少しだけですし『ひつじの鍵』が未読でも問題ないですが、前作で不憫だった和楽救済のお話なので、読んでいた方がより和楽に感情移入できるかなと思います。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公は画廊を経営する和楽。
彼はある日仕事で訪れた高校で、一枚の絵を目にする。圧倒的な存在感を放つその絵に一目で心奪われた彼は、その絵を描いた「足住 群」という青年を探そうとするがなかなか見つからない。
探偵でも雇うかー。
そう思っていたある日、彼は思いがけない場所で「足住 群」を見つける。偏差値の高い高校に通い、圧倒的な画力を持つ彼が現在働いている場所は運送会社。
和楽は群を家に連れてきて、本格的に絵を描かせることに成功するが…。
というお話。
絵師さんは前作『ひつじの鍵』と同じく山田2丁目さん。
山田さんの描かれた表紙を見ていただきたい。
黒髪の青年が和楽。
そして和楽にしがみついているのが群。
群の、このワンコっぷりをじっくりと見てください。
この絵に象徴されるがごとく、群はまごうことなきワンコちゃんなのです。
はじめは自分の絵にそこまでの価値を見出すことができず、和楽のことも懐疑的に見ていた群ですが、この群という青年がとにかく可愛い。すごく素直なんです。
絵を描くことが大好きで、でも、彼が進学もせず、細々としか絵を描けなかった理由は彼の家庭環境にある。母子家庭で、下にまだ幼い兄弟がいる群にとって、高校卒業後はとにかく働き、金銭を得ることが優先事項だった。が、彼自身、そのことを卑屈にとらえていない。たまに自由のなさに逃げ出したくなることもあるけれど、でも、家族のために働くことが彼の幸せでもあった。
健気ではあるのですが、そこに悲壮さはない。
それもこれも、明るく、天真爛漫な群の性格ゆえ。
そんな群が、和楽のおかげで金銭の心配なく絵を描くことができるようになる。和楽に対して感謝の念を抱くのは当たり前で、そこから少しずつ恋心へと変化していく。
一方の和楽。
彼は裕福な家庭に育ち、現在は画廊として独り立ちしている。かつての苦い失恋から(これが『ひつじの鍵』の羊とのお話)今では特定の恋人は作らずセックスもする友人がいるにとどまっている。
そんな和楽が、群と出会い、自分の感情に素直で、明るく、自分をまっすぐに慕ってくれる群にちょっとずつ惹かれていく。
「これ」といったきっかけがあるわけではない。
仕事のために同居し、少しずつお互いを知っていって、そして恋心も少しずつ育っていった。
一穂作品の中にはドが付くほどのシリアスな作品もありますが、今作品はひたすら優しく、そして温かい。一穂作品の真骨頂と言っていい作品かと思います。
群の貧しい家族環境。
画家としての能力の開花。
和楽の、恋に対する臆病さ。
現在のセックス込みの友人との関係。
ややもすればシリアスな展開になる要素がそこかしこにありつつ、けれど、そのどれもがまっすぐに、優しい結末を迎えます。
このまま円満でストーリーは終わる…、のかと思いきや、最後に一波乱おきます。
群の想いも、そして和楽の想いも、どちらも読者には手に取るようにわかる。わかるからこそこじれてしまった彼らの関係にやきもきし、ハラハラする。甘々の中に最後ひと掬い入れられた、このシリアス感。
もうね、一穂さんにしてやられた感が半端ない。
腐女子の萌えツボ、わかりすぎでしょ!
どこまで的確に萌えツボ押してくんねん!
と。
ハラハラも、萌えも、すべてが的確かつ適量。
こういう、温かく、優しいストーリーを好まれる方は非常に多いのではないでしょうか。
セックスに手練れの和楽。
男同士のセックスは未体験。だからいろいろ教えて?と素直に和楽に教えを乞う群。
ということで、からだの接触という点ではややエロ度は高めです。が、この二人がきちんとセックスするのは想いが通じ合った最後の最後。やっと思いが通じてよかったねえ…、と近所のおばさんになったかのような感想を抱きつつ、ワンコの皮をかぶった狼に変身する群のがっつきぶりがなんともツボでした。
『ひつじの鍵』の時は高校生だった和楽。
その和楽は現在31歳。
こういう時系列のつながりって、読んでて面白いのでうれしい限り。
今度は和楽のセフレ・伊織を幸せにしてあげるスピンオフなんてどうでしょう、一穂先生。
『ひつじの鍵』がすごく好きな作品で、だからこそスピンオフ作品である今作品のハードルがやや高めでしたが、その高いハードルを難なく飛び越え、今作品も萌えMAXな神作品でした。
とってもとっても…とっても良い本。
作品に惚れたギャラリストが、無名の画家を育てるうちにその人柄に引き込まれて、絆されて、絵画を通して内側から変えられていくお話。
最初から最後まで引き込まれ、読後もじっくり反芻できるようなコシがありつつ、基本ハッピー。手元、枕元に常に置いておきたくなるような満足度の高い1冊です。
まずこの表紙がお洒落じゃないですか?これだけでも本棚にしまうのがもったいない。
最初は随分シックで控えめなデザインだなと思いましたが、1冊読んでしまうともう…これ以外無いよねというくらいバシッとはまっています。
そもそも山田2丁目先生のイラストが最高。
どちらかというとアニメタッチなのに生っぽさや色気を感じさせる雰囲気…とにかく「味がある」。からの!この慈愛に満ちた二人の表情を見てください。この笑顔にたどり着くまでいったいいくつのドラマがあったのか…読後はその感慨深さに表紙を拝まずにはいられませんでした。
イラストだけじゃなく、この作品にはとっても面白いポイントがいくつもあります。
まず、文章で絵画を鑑賞するという点。絵の知識なんてほぼ皆無だし、なんだかハードル高そうだなぁと一瞬尻込みしてしまいましたが、これが全く問題ない。むしろ意外と相性が良い。和楽は解説のプロでした。かの名作たちを頭に浮かべながら群と和楽のやりとりを眺めているだけで思わず「へえー」という言葉がこぼれちゃうと思います。そして美術館に行って本物を見てみたくなる…かも。
ただ、一番に小説と絵画の相性を確信したのは、足往群の作品について。
彼らを引き合わせた「朝景」「夕景」も、ニューヨーク出張中の和楽にエアメールで送ったパステル画も、群が送ったアンティミテ「親密さへの習作」も、どれも和楽の心を動かしてしまう傑作だけれども、本当はその実物は読者の頭の中にしか存在し得ません。
実はこれはすごい事で、実在の名作と異なり、読者がそれぞれに納得した彼の作品を思い描ける自由があるということ。500万円出してでも切望する人がいた群の芸術品は文章の世界では100人の読者がいれば100通りの姿を持つことが許される。もちろんどんな小説もこういう容姿でこういう声で、こういう家に住んでいてなど細かいニュアンスはその人の想像によって違ってきますが、まさか作品のキーポイントを全部読者の想像に委ねるってすごくないですか?群の作品を思い描いた瞬間にほかの誰とも違うその人だけの『アンティミテ』という小説が誕生しているという点にとても感動しました。
そして次に面白いのが、ちょっと珍しい受けザマァ展開。
和楽は群が売っちゃダメと言った絵を許可なく売ってしまいます。それをきっかけに群は和楽の前から姿を消してしまいます。いなくなって初めて事の重大さに気付き打ちひしがれる和楽…からの再び「いやいやそんな偶然あんの??!!」みたいな展開になるのですが、たぶんここがこの作品のハイライトなんじゃないかな。
読者的には「売っちゃダメ!」って思いながらもそのダメなことをやっているのを見て快感が混じるのも本音なんですよ。だから印象に残る。
ダメなことをやってのけちゃう和楽のギャラリストとしての押しの強さと、群からのアンティミテに正面から向き合いきれない内面の弱さと、群なら自分の決断を最終的にはわかってくれるんじゃないかという甘えがどろどろに混じりあったシーンです。すごく和楽らしい。
どうなっちゃうのかなーとハラハラしていましたが、ストーリー的には和楽が作品を売ったおかげで群は自らステップアップする意志を目覚めさせ、和楽は和楽で身をもって自分の大事な存在を認識することになるというとても良い方向に流れました。ただ、これ、本当に二人ともちゃんとした大人だからできたことだよなーと思います。
拗ねずに一歩乗り越えた解釈で自分を鼓舞できた群は本当にいい子だし、自らが招いた痛みによって「俺らしい俺」から脱皮した和楽も大したものです。
メンターとメンティーのような、監督とプレイヤーのような関係に、本物の親密さが加わった二人の真の姿が…あの表紙になります(拝)。
ちなみに「ひつじの鍵」のスピンオフ作品とのことですが、未読でも問題はないと思います。和楽の本質は今作だから。ただ、あぁ…和楽も羊もあの時の一色さんくらいの歳なんだぁ…と妙に感慨深くなれるのでどこかのタイミングで「ひつじの鍵」は読んで、それでまた「アンティミテ」を読み返すのもいいかもしれません。
是非是非あなただけの『アンティミテ』を体感してみてください。
きっと愛着の沸く一冊になると思います。
「ひつじの鍵」で羊に振られた和楽の救済話
振られたのが高校時代だったので、今回は大学生くらいの話かと勝手に思ってたら、13年後とは・・・
和楽は幸せなるのに大分時間がかかったね 笑
でも群を見つけてギャラリストとして支援するには和楽に経験がないとだめだし
恋愛に引いてる和楽に突っ込んでいくには群の若さと勢いが必要だし
やっぱりこの年齢差じゃないと成り立たないんだよなー
それにしても一穂さんて職業のことにしても、各作品にでてくる何かのエピソードやモチーフにしてもすごい知識量?または取材力?だと、いつも感心しきり・・・
それが小ネタだったりストーリーの核になったり、タイトルにもからまったり、練られてるんだよね
今回だとアンティミテの連作や中国の絵画コピーの街なんて初めて知った
もちろん本の内容のよさに加えて勉強にもなるなんて、これだから一穂作品はやめられない
次はイエスノーの短編集とのことで、多分ほとんど読んでるやつだろうけど、それでも楽しみ!
一穂作品ベスト5にいれたいくらい好きな「羊の鍵」のスピンオフ
こちらも期待通りで気に入りました!
年下に振り回されまくりの和楽がとにかくかわいい
群への気持ちを思いとどめようとしながらも、全然とどめられてない 笑
仕事はできる男なのに、ちゃんとした恋愛の経験はゼロだったみたいでぐずぐずなところもかわいかった!
13年前は羊ちゃんのことが好きだったので和楽は攻めと思ってたけど、今では受けしか考えられないな〜
群は環境から、和楽は性格から?他人に甘えてこられなかった分、これからはお互いに甘えて甘やかされて幸せに過ごしてもらいたい
一色さんが登場しなかったのがちょっと残念でした(>_<)
(羊ちゃんと今でも一緒にいるという描写はあり)
作家買い。
最近の一穂作品はいじめやネグレクトなど重いテーマが多かったので
読むのがしんどいという方もいるかもしれませんが、
本作は甘くて優しいお話でした。
毎日暑苦しくて夏バテ気味だったので、心にすっとしみました。
家庭の事情で絵の道に進めなかった群と、彼を見つけ出して絵に専念させようとする和楽。
群が和楽のお蔭でいろいろな感情や人、芸術に触れて、さらに才能を開花させていく、
言わばマイフェアレディ的なストーリー。
でも仕事を離れると断然不器用なのは和楽の方で、
群の若さゆえのぐいぐいくる感じに振り回されて混乱する和楽に
ニヤニヤしてしまいました。
13年経っても羊ともちゃんと友情が続いているのもうれしい。
一色さんも出てくる続編をお願いしたいです。