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「自分の一番の味方は自分自身であって欲しいと
願いを込めて描きました。」
先生のあとがきにあったそんな一文が、
読後の今、強く心に響いています。
評価の★の数を見ると、ちょっと好みの分かれる作品...
なのかもしれない。
(※作中一部、攻め・陽介が女性を抱こうとするシーンがあります(未遂)。
苦手な方、ご注意ください)
でも自分は、最高に完成度が高く、
先生のメッセージがダイレクトに伝わってくる
素晴らしい物語だと思いました。
表紙の絵柄(上下巻)や短いタイトルが、
物語を象徴するものとなっているのことにも、読後気付いてハッとした...
(こちらについては、レビュー後半に書きたいと思います)
これから読もうかな?どうしようかな?と迷っている方の背中を
少しでも押せれば...という気持ちでレビューを残したいと思います。
(+もちろん、先生への感謝を伝えるために!)
本心を隠し、周りに合わせて生きている美大生・陽介×
美大の美術解剖学教師・月衣(るい)というカップリングのお話。
先生生徒という当たり障りない関係だった二人が
偶然同じマンションに住んでいることが分かり、
そこから思わぬ交流が始まってー
と物語が進む上巻。
自分が先生のことを”好き”になっていることに気付き、
恐れを抱く陽介。
ある日自然にキスをしようと体が動くも、直前でハッと我に返り、
先生を突き飛ばしてしまいー
という上巻ラストでした。
で、下巻!
やーーーこれはびっくり!という、よりシリアス度・切なさの増す展開です。
”世間の大多数”に属さない者の生き辛さ、葛藤を抉り出してくる物語。
胸を刺す痛みに苦しくなりましたが、ちゃんとラストに光があります。
なぜ、陽介は必要以上に”周囲に合わせよう”と振る舞うのか。
先生を好きになりかけている自分に恐怖を抱いている様子なのは
なぜなのか。
同性を好きになることで戸惑う気持ちには共感できつつも、
何か必要以上に”怯えた様子”だったところが、上巻で気になっていたんですね。
そして下巻で明かされる陽介の過去、
大好きだった兄との切ない別れと家族から”見捨てられた”兄の記憶。。
これが上記の疑問への答えとなっていました。
兄のように自分を貫いて家を出る勇気はなく、
両親の求める”普通”の息子にならなければ、というプレッシャーに押し潰され...
そんなふうにして形成されたのが、
”いつでもニコニコ・人当たりの良い陽介くん”だったんですね...
友人たちの、先生への心ない憶測の言葉や、
何気なく投げかけられた質問に激昂してしまう陽介。
好きな人に対する酷い言葉を咄嗟に吐いてしまい、
自己嫌悪からトイレで戻す描写が本当に痛々しい...( ; ; )
で!
ここからの、二人のすれ違いターンか...と覚悟したところでの、
月衣からかけられた”あの言葉”。
月衣の圧倒的包容力に、心が震えてしかたなかった...
「たとえ本心だとしても 君が私を嫌いなことと
私が君を好きなことは関係ない」
「そんなに簡単に君のことを嫌いになれないよ」
どうしても”男を好きな自分”を好きになれず否定し続けてきた陽介に、
差した光...
自分をまるごと受け止めてくれる月衣という存在を得て初めて、
陽介自身もまた、自分自身を認められるようになっていくー
月が太陽の光を反射して光るように、人もまた
自分を肯定してくれる人の存在を得てこそ力を得、
自分自身を受け入れられるようになるのかな...と、そんな思いに耽ったシーンでした。
その後衝撃的な事件を経て、意図せずゲイバレしてしまう展開は
なかなかショッキングです。
ありのままの自分を受け入れ、吹っ切れたとしても、
周りからの陰口や”見る目”に感じる息苦しさには、変わりがない。
そんな残酷にも思える現実がある中で言われた、
友人からの謝罪の言葉。
やはり、到底理解なんてしてもらえないんだーと
陽介自身も読んでいる自分も諦めかけていたところに、
ふっと明るい光が見える描写が救いでした
自分と向き合い、受け入れ、愛するということ。
トラウマから臆病になっていた主人公が、
大切な人との出会いを経て、そんな勇気を持てるようになるまでの軌跡。
上下巻を通して丁寧に紡がれる描写に、心打たれる物語でした。
ちなみに...
タイトルの「月とピエタ」について。
月=受け・月衣(るい)の名前にちなんだものだと思われますが、
この”月”が物語の重要なシーンで度々登場しています
そんな描き方も、本当に素敵...
自分が一番印象に残ったのは、入院先でキスした二人の
背景、夜空に輝く月のシーン。ただただ、美しかった...・:*+
また、「ピエタ」=主にキリスト教美術における題材として、
聖母子像のうち「死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリア
(聖母マリア)」を表すとのことです。
上巻では、そんな”ピエタ”をある画家が描いた一枚、
聖母マリアが、愛する息子を殺されたことへの”怒り”の感情を
露わにした印象的な一枚が紹介されていました。
また下巻では、陽介の家族が敬虔なクリスチャン一家だったことが
分かる描写があります。
怒りを隠さず表したピエタの一枚と、
自分の「ありのままの姿」を受け入れられるようになった陽介。
タイトルの「ピエタ」には、そんなふうに主人公を重ねる意味が
あるのかな、と思います
タイトルやストーリー、月の描写や二人のセリフに
いろんな思いが交錯し、じっと考えさせられる物語。
上下巻2冊を通して描かれるお話に没頭し、
胸いっぱいになりました...(ああ、語彙力...!!)
★修正:なし(行為の描写なし)
※上巻おまけに出てきて、とってもキュートだった
月衣(るい)の飼い亀(って言うのかな?)・ミミ子が
下巻シーモア限定おまけにも登場しています
相変わらず陽介に嫉妬してる様子なのが可愛い(*´艸`)
シリアスなお話の中の癒しでした✧