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『街の灯~』では、葛井のことを、眼鏡で何故かぽよんとした小太りな人を想像してたもんで、こんな可愛いツンツン猫だったとは意外でした。
こちらの作品のほうが『街の灯』よりも、さらに良かった。
一穂さんの比喩には毎回感心するけど、引力の話には感銘を受けました。
似たくないと思ってる父親と、違う道を歩いて行こうとするのに、足に強力なゴムが巻き付いてて、遠くへ長く伸びるほど引っ張る力を強くなって、ちょっとつまずいたら引き戻されるという話。
からっと明るい新が子供時代ひどい目に遭っていたその詳細には胸が悪くなったけど、こんな劣悪な環境で育ったのに、まっすぐでしっかりした大人になってよかったなと思うばかりです。
街の灯ひとつのスピンオフ。
初鹿野がちらりと出てきます。
新は過去に父親からの虐待を受け、家庭を持つことを頑なに拒絶というか、恐れているかんじ。
人当たりもよく、性格も明るくて、優し過ぎて踏み出すことができないのかな?
築は独特な自分の世界を持っていて、人に対して冷めていて、我関せずを貫いているのに、新たとであって少しずつ変化していく。
くっついてからはどちらかと言うと築が不安がっているような。
人と関わってこなかったからなのか、でも、そんな築にホッとしたり。
読み終わる頃には築のことが可愛くて可愛くて、たまらない気持ちに。
「街の灯ひとつ」に出てきた、蚕を飼っていた初鹿野の同僚の話。
遺伝子研究をしている築と、義肢を制作している新。
一穂先生の物語を魅力的にしていることの一つに、
この「仕事」というファクターがあると思う。
学生、先生、マスコミ勤務もいれば、商社マンもいる。
呑み屋を営む人もいるし、珍しいところでは、藍染めをしている人やガラス職人、
特殊清掃業(BL界には紀宵という先輩がいるけれど!)もいる。
その仕事を選んで、その仕事に生きている人々、単なる肩書きや記号じゃなくて、
その人固有の物語としての仕事。
生きることと不可分になっている仕事の描き方に、とても好感が持てる。
人付き合いが苦手で、30年間淡々と勉強し、その延長にあった仕事をしている築。
明るく社交的な家族とも不仲ではないけれど自分とは違うと思い、
友情も恋愛も諦めているというより、関係ないものとして不満もなく暮してきた築。
変わっているかもしれないけれど、彼には彼の理屈があり秩序があり柔らかな心もある。
そんな彼に、偶然と不思議な図々しさで近づいてきた新。
築の生まれて初めての恋は、実りを望まずひたすら相手の幸せを願うものだった。
明るく見える新の抱えていた深い傷と自身への不安。
彼は不幸な子ども時代を送った新に、代わってやりたかったと言う。
口先だけじゃなく、何の駆け引きも計算もなくそう言う。
そして新の為に築が考えた、ある大胆で手の込んだ計画。
彼が新の為にすることは、どんどん自分の恋をバッドエンドに向かわせることだけれど、
それでも迷いもなく自分より新を取る築。
裏表のない彼の、そんな不器用で真っすぐで強い想いが好き!
そして、新との関わりの中で変化していったのは築だけではなく…
蚕の描写に関しては、お嫌いな方もいらっしゃるかと思いますが、
築の心情の変化によく合っていて(蚕ってところも築に似合うし)、個人的には◎です。
とても惹かれるストーリーでした。
特別大きなトラブルや幸運が舞い込む
話ではないのですが、日常の一コマのようで
でも、それが色んな場面でなるほどなと
思える事があったり小さな感動があったり、
受け様のちょっと変った個性的な性格で
一見すると誤解や反感を招きかねない
偏屈さんかと思えば一風変わった考え方が
かなり共感出来たり、予想を裏切る行動があったり
攻め様も太陽みたいに明るい性格かと思えば
思っていた以上のトラウマ持ちだったりと
興味が尽きない内容でとても良かったです。
初めの出会いがお互い印象が悪かった二人が
受け様の言動を面白く感じて興味を抱いた
攻め様が強引に近づいて、互いに影響しあえる
友人になっていき、それが互いに惹かれ始める
展開もとても納得できるお話でした。
タイトルの意味が読んでいるとしっくりきます。
とても素敵な作品でした。
「街の灯ひとつ」の関連作。
同じ本ダブり買いしちゃったかと心配になったけど、関連作にしては粗筋は「街の灯~」とは全然関係ないみたいだし、、、
???と思って読んだら、前作で蚕飼っていた初鹿野の同僚のお話だったのね。
前作では脇キャラながら、なかなか変わった味付けの子だなあって、恋愛なんかしそうもない感じだったのに、そんな子が恋愛するときって、こうやって、まっすぐに恋に落ちるのね。
企業で遺伝子の研究をしている葛井は、人付き合いが一切面倒、それ故言動もうそや駆け引き無し。
面倒だったり、嫌だと思ったら、ハッキリ嫌だと拒絶する。
それなのに、灰谷のペースにはのせられて、部屋で一緒に食事したり、電話やメールのやりとりしたり、もうその時点で実は恋愛は始まっていたのね。
それにしても、一穂さんは、ご自分でも蚕をちゃんと育てたことがあるのでしょうね。
蚕の成長具合が非常に克明。
挿絵に蚕が無くて良かった。