2013年3月号
雑誌「小説b-Boy」を初めて購入しました。が、あるページを読んだ結果、もう二度と購入したくないと思ってしまいました。
その理由はおいおい書くとして、まずは雑誌の概要を。
本誌特集は「お金持ち」。セレブをテーマに5編の新作小説を掲載しています。表紙に各作品の執筆者名と【攻めさま推定資産】が書かれているのですが、なかなか面白いものとなっていました。私のお目当ての小説は桑原水菜先生の「人魚島」だったのですが、推定資産は【猛々しい成り上がり 7億9000万円+古代秘宝(天文学的価格)】だそう。充分足りている資産です。ところが他の面子を見ると、【華族の旦那さま 資産6000億円】とか【イギリスの若き旦実業家 個人資産 8000億円+自家用ジェット】とか【ビジネスもこなす若きアラブ王子 個人資産20兆円+宮殿複数】と桁が違うレベルのお金持ちばかり。「人魚島」の攻めであるバイスの資産7億がしょぼく見えます。やっぱり【成り上がり】だから?
でも小説の出来としては「人魚島」が最も優れていると思いました。
特集「お金持ち特集」
【小説】「人魚島」桑原水菜、イラスト・石田要
長年打ち込んできたプロジェクトから外されて傷心旅行に出かけたアレックス・バートン。アレックスが旅先に選んだのは幼い頃人魚を目撃した火山の島・ラハナ島でした。アレックスはラハナ火山のレンジャーで自然観察ガイドも務めている青年スライと恋に落ちますが、スライはかつての重ねた従兄ロヒアウに心を残していました。さらにロヒアウはアレックスを失脚させ、仕事を奪った男バイス・クーパーと同一人物であることが判明します。バイスはアレックスの目の前でスライを強引に連れ去ってしまい…。
人魚の伝説が残る島で紡がれる三角関係。けれど泥沼の展開にはならず、爽やかな幕切れを迎えます。桑原先生らしい甘さのない物語ですが、読後感は心地よい。海を見たくなります。
早く単行本にまとまって刊行されるといいですね。
ほかには連載小説2編・コミック3編と袋綴じ小説も掲載。執筆者によるイラスト&エッセイのコーナーもあります。今月(3月号)のテーマは「一日で、一億円使いきってください」でした。
さて、そろそろ次号以降の購入を見送るきっかけとなった問題のページについても書くとしましょう。それはりょう作画による漫画「先生たちを正しく応援する方法」全3回です。〈マンガ家志望の男の子。素直でいい子〉まもるに〈ペットの知識人ないたち〉ポンタ先生が作家の先生たちを正しく応援する方法をレクチャーするという内容。
第1回では立派な漫画を書くためにたくさん漫画を読んで勉強しようと決意し、古書店に向かうまもるにポンタが「古書店でマンガを購入しても先生のためにはならないし、結果的に傷つけてしまう」と説きます。「古書店で販売された本の売り上げは古書店だけのものになり作家の先生には届かない!」「正規のルートで本を購入することが大好きな作家の先生を応援することにつながるんだよ!」
古書店は非正規ではありませんが…。確かに出版不況との関係から古書店、特に新古書店に対する批判は上がっていますが、旧刊を手にしたことがきっかけで新刊書店で最新刊を購入するという需要を生み出したり、返本を買い取ったりと必ずしも出版社や作家にとってはマイナスとは言えないのではないでしょうか。そうはいっても古書店ではなく新刊書店で本を購入してほしいというのは出版社の本音でしょうが、それを恥ずかしげもなく「先生たちを正しく応援する方法」と雑誌に載せるのはどうでしょう。品が無い。しかもふざけた漫画形式。第2回と第3回では著作権違反について述べられているのですが、やはり漫画形式。漫画で分かりやすく述べているつもりでしょうが、読者を下に見ているとしか思えない。いたちにレクチャーされたくありません。
著作権違反は論外ですが、読者の古書店利用に関しては出版社は文句を言えないと思います。新刊で買ってほしければ、すぐに読みたいと思うような本を出版社が作るべきです。いたちが人間に応援する方法を教える漫画の企画を練る前に、少しでも面白いと言える作品群を作る方に頭をまわしていただきたいです。
今号は「人魚島」以外には面白い作品はありませんでした。