電書で購入して久しぶりに読み返したけど、改めてすごく面白い。
親の同士の再婚で兄弟になった二人。兄の公崇は弟の夏央のことが好きだけど、夏央は兄を邪険にする。
最初は、お兄ちゃん叶わぬ恋をしててかわいそう、弟の情事を聴かされてかわいそう、ゲイだとバラされてかわいそう…と兄の方を不憫に思ってたけど、だんだんそればっかりじゃないことも見えてくる。
女の子との逢瀬は邪魔されるし、兄ちゃんヘンタイだし、好きになった女は兄ちゃんが好きだし、そもそも、かっこよくて好きだったのに裏切られたし、やっぱり兄ちゃんヘンタイだし…夏央もかわいそう。
二人ともかわいそうで、二人とも非があって、ズルズルと性的接触もしちゃう。
笑えない状況だけどずっと読み味はコミカル。そのバランスが絶妙。
この二人はなんだかんだうまくやっていきそうな気がするし、夏央が根負けしそうな気もする。夏央、相手が悪かったな。がんばれ。
表題作含めて3作品収録。
明るくエッチなラブコメ、ギャグ寄りエロなし、暗いエロ…という内訳で振り幅すごい。
彩景でりこ先生の作品傾向を一冊で色々見れるという意味では良いかもしれない。
【風俗狂いですが~】
書店の正社員(風俗狂い)とアルバイト(表情乏しいイケメン)。
東さんは彼女と風俗は別腹の男。風俗店で嬢とお楽しみの描写あり。嬢は顔こそ見えないけどツヤプル肌で柔らかそうなおっぱい。お尻も責めるよ。
東さんとロボくんのベッドシーンは、東さんのメス喘ぎとロボくんのオスっぽさが対照的で普段とのギャップもあって大変よかった。
【くー様と俺。】
にぎやかギャグテイスト。
個人的にはギャグのノリにあまりついていけず…追っかけ女子の集団には恐怖を感じた。
二人が本当は両想いらしく、恋の当たり屋は双方に当てはまりそうだと分かったのはよかった。
【最後のひと】
松前は処女が好き。上司の三浦が処女童貞と知って身体の関係に。
松前がとにかくクズで、やることが最低。
三浦からの意趣返しがちょっと予想外で、松前が情けなくてかなり楽しい。
処女じゃなくなっても、松前を捕らえて離さない三浦の魅力が良い。
色々な兄弟のお話。
兄と弟でBLするわけではなく(BLするのもある)兄弟にまつわるBL。
様々な恋の始まりが見れて楽しかった。
楽しかったけど、ひとつめのお話のお兄ちゃんには天罰が下ってほしい…
家庭教師先の中学生に手を出して、散々弄んだ挙げ句結婚を理由にポイだなんて。
しかも好きでもない女性と世間体のために結婚(実際そうかはわからないけど結婚相手はそう思ってる)だなんて……ドクズじゃないか……
自分のことしか考えてない、誰も幸せにしない、その上弟くんの淡い恋まで踏みにじってたわけで。サイテーー!!
社会的にフルボッコにされてしまえ。
オムニバス形式の一冊だけど、2巻にはどのくらい続くのかな?
おとこのこ同士の恋のかけらの詰め合わせみたいな。
始まったり終わったり、途中だったり。
「タカシとカナタ」「岡本と成田」の二本が特に好き。
「タカシとカナタ」
小学生のとき、中学生のときのエピソード。
カナタは無自覚にタカシのことが大好きなんだな~タカシはそれに気付いていて呆れつつも満更でもないんだな~というのがとても伝わってきてにやける。
タカシはカナタが自覚するまで待つつもりのようだけどどうなるかな?
カナタが自覚するのが先か、タカシがしびれを切らすのが先か…もっと未来のふたりを見てみたいな。
「岡本と成田」
イケメンな岡本とフツメンな成田。
岡本からのラブを成田が受け入れるまで。
成田がどこにも変な力の入っていない自然体な感じでよかった。
このキスシーンすごい好きだ。
大学生同士。
所謂カースト上位イケメン人気者の佐伯と、目つき悪くて誤解されがちシャイボーイ岡。
入学式の日に佐伯に助けられて以来佐伯を目で追うようになった岡は、何故か佐伯に気に入られて…
焦れったい両片想いを双方の視点から交互にじっくり描いているので、キャラが何を考えているのか分からないというストレスは感じずに読めた。
ただ、キャラの思考を把握した上で「なんでそう思うんだ、そうはならんやろ…」と思う場面がやや多かったので、両片想いすれ違いの切なさよりも彼らへの呆れと苛立ちが勝ってしまった。
一番「ないな…」と思ったのは、セックスする仲になってからもまだグダグダ両片想いを続けていたこと。
いや、双方の言い分「相手が自分のことを好きじゃないと分かるのが怖い」は分かる。だから関係を曖昧なままにしておきたいというのも分かる。
でも相手への想像が、「佐伯はセックスなんてなんとも思ってないかも」「岡は断れなくて流されてるだけかも」ていうのはどうも…相手のこと見えてなさすぎというか。
逆に、そんな不誠実な男だと思ってるのに好きなの?それでいいの?と思ってしまった。
好きな気持ちがないのにあそこまでやってたらドクズじゃん。
ドクズを好きになっても別にいいし、焦れったいすれ違い展開も嫌いではないけど、非合理的にズルズルとだと萎えてしまうなぁと思った。
砂漠の国の第二王子アルと、王子に拾われた異国民の側仕えヨナ。
「ヨナ」という名は出会ったときにアルが与えたもの。
ヨナは真っ白な髪と肌、赤い瞳。作中に言及はないがアルビノか?
絵もキレイだし、設定の作り込みもしているのだろうなと感じられるので悪くはない。悪くはないけど分かりにくくてもったいない部分も多く、ヨナの魅力の部分も自分の好みではなかった。
まず、アルとヨナが出会ってから結構な年月が経っているのが分かりにくい。
最初の回想の場面でアルの年齢が分かるようなカットがあるとよかったのになと思う。
作中、名前にまつわるエピソードの扱いが大きいが、この国、というか文化圏での「名前」というものの重要性、位置付けがよく見えてこなくて読者が置いてけぼりぎみ。
同時に「名を与える」意味、ヨナとアルの捉え方の違いもよく分からない。(アルの方は作中で語られるがヨナの方が分からない)
ヨナは「抱かれたらヨナでいられなくなる」という主旨のモノローグがあるが、その意味もモヤモヤと霞がかかってしまって捉えにくい。
ヨナの以前の名前「エマノン」の意味からすると、「抱かれたらエマノンになってしまう」ということなのかなと読後には思うが、
初見では「ヨナ」という名の方に特別な意味があるのかと思ってしまう。
あとは、個人的な好みの問題であるが、ヨナは体つきこそ筋ばっていて女性には見えないものの、立ち居振舞いやリアクションが可愛らしいのでどうも男性ぽくなくて…
最初から、男性に性の対象として見られるような存在として描かれている感じがして、
「エマノン」であろうと「ヨナ」であろうと「王子に抱かれる」というゴールが変わらないのはどうなの?と思う。
あと、ニーハイみたいな衣装がどうしても好きになれない。
作者の方で色々と作り込んでも読者に伝わりにくい描き方では台無しなので、
それならいっそなにもかもをフワッとしか決めずに「ヨナかわいい」「アルかっこいい」だけで走りきる漫画にしたほうが双方幸せだったのでは…と思う一冊だった。
【『後日譚 Jam 』の感想】
下巻を読み終えたとき、穏やかで幸せな様子の二人を見て「良かった」と思う一方で、心に重く引っ掛かるものがあった。
それは、失われた生命のこと。子を奪われた親のこと。
「犯人」にどんな理由があったにせよ、罪を認め、服役したにせよ、きっとずっと、彼らの絶望は終わらないのだろうなと。
そう思っていたので、この後日談はショックは大きかったけれども納得もした。
彼女の苦しみに触れないままでは、この物語は欠けたままだった。
この短編をもって物語は完成したと私は思った。
しかしながら、それは罪や罰や赦しを主軸とした物語の完成度の話であって、
「BL」という恋愛を主軸とした物語にこの後日談が必要不可欠かというとそうではないと思う。
「二人の幸せあふれる後日談」を望んで読んだ読者には気の毒であるが、
今後先駆者たちによってどんな読み味の後日談なのか注意喚起がされるだろうし、
それを踏まえて読むか読まないか、読者自身が決められるようになるといいと思う。
最後に少しだけ自分の考えを述べておく。
人の生命を奪った者は死ななければならないとは思わないし、
家族を殺されたらそいつを殺しても良いとも思わない。
ただ、「殺したいほど憎い」という気持ちは理解できる。
それと、彼の生死については読者に委ねられたと思っている。色々な可能性があってもいいと思う。
【下巻の感想】
一見穏やかな木場と秋鷹。
恋人同士のような雰囲気も流れるけれども、あのような始まりと因縁の二人なので、いつ秋鷹が手のひらを返すのだろうという不安も感じる…。
昔の写真をきっかけに語られる木場の過去は、本当に胸糞悪くて辛くて悲しかった。酷すぎて読む手が止まりそうになる。
話を聞いた秋鷹の、愛についての言葉がよかった。
その後の展開は、転がるように、流れるように。
いつの間にか、秋鷹にとって木場が庇護の対象になって「この子」と言い表すようになっていたのが印象深かった。
全編通して、秋鷹の心の清さ、圧倒的な光に胸打たれる物語だった。タイトルの『穢れのない人』はそのまま秋鷹のことだった。
どうしてこんなにも穢れなくいられるのか。
どんな理由があっても、どんなに悔いても、失われた子供の生命が戻ってくることはないので、そこだけはずっしりと重く心に引っ掛かった。
収録作の『仮面の内側』はガラリと雰囲気が変わって明るく楽しいお話なので、読後感をだいぶ軽くしてくれる。
上下巻、とても完成度の高い良作だった。
【上巻のみの感想】
少年への性的暴行と殺人の罪で15年服役した秋鷹。
出所して真面目に働こうとするも、長く続かない。
自殺しようとしたが神父である木場に止められ、話を聞いてもらい受け入れられて教会に身を寄せることに。
木場に優しくされ穏やかに過ごす秋鷹が可愛らしい。ホームレスを見捨てられないところなど、とても善良な心を持っているのがよくわかる。
一方の木場は、ホームレスへの厳しい態度など、根が真っ白な「善」ではないのが垣間見れ、二人のこれまでの人生の明暗も合わさって対比がとても面白い。
木場の、なんとなく不穏→ちょっとヤバイ→真っ黒のグラデーションに惹きこまれた。
木場が真っ黒だと分かったときの秋鷹の絶望感が最高だった。なんかもうカタルシスすら感じる。
可哀想可愛い。好きすぎる。
その後の秋鷹の心の動きは予想外ではあったけれども、この人ならという納得もある。
圧倒的な闇と圧倒的な光、果たしてどちらが勝つのか、下巻も楽しみだ。
収録作の『スケープゴート』もとても暗~い話で良作だった。
会社の同期同士の桃井と栗原。
栗原と彼氏の別れ話に遭遇したのをきっかけに呑み友達に。
栗原は、放っておけない庇護欲をそそる男で、ガードが緩いのですぐに恋人が出来ては重くてフラれるのを繰り返していた。
栗原は寂しさゆえに桃井のこともベッドへ誘うが桃井は断って…
栗原がどうしてそういう性分であるのか、生い立ちや心情がとても丁寧に描かれていた。
桃井が栗原を見守る視線、差し伸べる手の優しさもとても伝わってきた。
個人的には、好きな人と友人関係を続ける微妙な距離感をもっと見たかったので、一年の「何もない期間」が回想のみでカットされてしまったのは少し残念だった。
後半は栗原の視点で物語が進んでいくので、今までは女性を恋愛対象としていたはずの桃井が、栗原を恋愛的な意味で「好き」になるまでの心の動きが見えず告白がやや唐突に感じてしまった。
描き下ろし、恋人同士になってからは、存分に甘えて甘やかして幸せに過ごすのだろうなというのが垣間見れてとてもよかった。