心穏やかに読める作品だった。壮絶な生い立ちの少年が異世界から来た青年に助けられ、愛を知るお話。危ない目に遭うことはほぼ無く、ほのぼのした日常が続き、切なさはありつつ、わりとトントン拍子。たまに欲しくなるタイプの平和な作品。
湊の部屋の押し入れが異世界と繋がることから始まる。牢屋に繋がれたシドと過ごす日々、逃げ出して魔物退治に明け暮れるシドとの再会、お別れ後の決意の再会の三部構成っぽい。
基本は湊視点の一人称で、推しキャラであるシドと出会った湊の脳内がとにかく騒がしい。オタク口調でノリツッコミが激しく、なかなか慣れなかった。ストーリーがぽんぽん進むことはないので、この文章を楽しめるかは大事かも。
シドに接する湊はタイトル通りの溺愛ぶりで、生まれてからずっと酷い扱いを受けて来たシドにとって、必然的に唯一信用できる人間になっていく。パーソナルスペースに入れるのも安心して寝たり食べたりするのも、湊と一緒のときだけ。
すごく良かったのは、湊がそんなシドをどうにかしようと動いたとこ。生育環境による精神的な問題を察していて、自分以外とのコミュニケーションを促し、社会とつなげようとしている。これが明るく描かれているのが良い。
そして一度別れた二人は、湊は一年、シドは八年を経て再会。お別れの経緯に不穏な気配があったこともあり、シド視点で語られる八年の切なさがすごい。生き方・考え方に湊の影響が見られ、いつまでも待ち続けるシド。
最後はめちゃくちゃ焦らされた感。同じ世界にいてもなかなか会わない二人に、シドの片思いが続く二人に。で、長い時間をかけて恋人になったけど、個人的には恋愛部分より人間愛的な部分に何度も感動し、恋人を超える絆があると思った。
電子書き下ろしは、ずっと先の未来の話をする二人。湊が相変わらずなのが分かるオチで笑った。
ある意味斬新というか逆に新鮮というか。転生執事が前世知識で危機を全て回避して、波乱もないまま終わってしまってびっくり。終始心穏やかに読めるので、たまに読みたくなるかも。公爵の発する?擬音が印象的でとても好き。
階級社会に生きながら現代日本の価値観で他人と接する執事ユーインと、そんなユーインに惚れてしまった公爵クライド。ユーイン視点で見る様子のおかしな公爵が微笑ましく、気持ちがバレバレな感じがとても良かった。
たまに差し込まれるクライド視点は蛇足。ユーイン視点で描けなかったクライドの心理描写を補足するだけで、同じ出来事をなぞるわりに、大した発見もない。むしろユーイン視点のみの方がBLのワクワク感が増したように思う。
ストーリーは転生ものの前半でよくある、未来知識を使った危機回避。で、その後はセオリー通り記憶と未来がズレていくわけだが、ユーインの介入により好転していく方向の変化で、回避以前に危機そのものが訪れなくなるという。
俯瞰で見れば「介入しておくかな」とか言ってるユーインの手のひらの上っぽいが、本人は徐々に恋愛感情に振り回されるようになり、操っているつもりもない。最後の事件も殴って終わりで即解決、ヒヤっとする間もなく平和だった。
好きだったのはズモモモ公爵。“ズモモモ”だけで雰囲気が伝わるのは、漫画の功績だと思う。オノマトペの進化がすごい。クライドはキャラ的にも好感度が高く、不器用さに萌える。辛い話を読んだ後とかに欲しくなりそうな作品。
ストーリー自体は面白いと思う。ただ、主人公の行動原理となる妹のため、というのがどうにも共感できず。同じゲーム世界を生きるキャラたちより、ゲームプレイヤーの妹を優先する根拠が弱い気がした。
溺愛していた妹がプレイするゲーム世界に転生するお話。悪役令息を演じることで両親を悲しませると分かっていながら、自身の評判を落としていくルイ。画面の向こうで遊んでいるだけの妹の方が、その他大勢のキャラの人生より大事なの?と不思議。
裁判の場で罪人とされたルイが、裏で事情説明して簡単に無罪となり釈放されるのもなんだかなあ。画的に地味だし、裁判とは……と虚しくなる。結局はチェスターの権力ありきの解決で、無駄な自己犠牲を見せられた感。
分量的にも内容的にも、サクっと読めて軽く楽しめる作品。設定とかいろいろ考えたら負けなのかもしれない。無表情で一途なチェスターのキャラは好き。
素敵な表紙に惹かれて読んでみた。“愛の意味を見つけるまで”、“世界が愛を忘れたその先で”とアオリまくるあらすじから期待をすると、肩透かしを食う。獣人世界+オメガバースの、さくっと読める軽~いお話。
堅物トラ獣人のオズと、なぜか異世界から来たニンゲンのタクマ。二人のあれこれは、読者がオメガバースの設定を知っている前提の描写。キャラたちは何も知らず、説明もなく、読みながらこういうことだろうと推測する構造。
番契約とか発情の誘因とか、そもそもこれはオメガバの特徴なのかとか、オメガバ作品を通って来ていない読者には分からないのでは。まあ架空の二次性設定に正解があるかは知らんが。
キャラはメイン二人とも好感度高し。友人キャラも個性的で面白い。ストーリーはとても平和。一瞬冤罪事件なんかもあったが、私情バリバリで釈放、一応現行犯逮捕なのに良いのかそれで。もうちょい頑張って書いて欲しい、売り物にするなら。
種明かしのない読者頼みの仕様で、分かる人には分かる内輪で楽しむ作品。Webの無料公開作品ならこれで良いと思う。これを商業化したレーベルに★1を。
なんでもアリの愉快なお話だった。悪役もいるし不穏な展開もあるにはあるが、長くヤキモキさせられることはなく、解決はサクっと。そしてその方法はチート並みで笑ってしまう。生意気幼児リュシアンの活躍が可愛らしい作品だった。
国内唯一の魔石錬成士と第一王位継承者という組み合わせ。箱入りっぽいユベールと権力者らしいリュシアンの会話は、常にテンポの良い漫才みたいで楽しい。
ユベールの性質を理解してからは、幼児化した自分を武器に計算高く煽るリュシアンが好き。それにころっと乗せられるユベールはチョロい。
王宮に戻ると、案の定といった展開で、攫われるユベール。といっても救出も素早い。幼児化王子が勇ましく登場したのは予想外だったが、カッコ良くて可愛くて正直笑える最高の展開。
その後も幼児化姿が完全に見られなくなることはなく、ポジティブな(?)呪われ状態として継続。軽く読める明るいお話で良かった。副題は無い方が好きかな。
続刊。最初から見えていたユーシアの実家という敵は、前半でサクっとやっつけた感じ。まさかこれがラスボスとは思わず、その先が無くてびっくりした。面白かったが、内容的には無駄を削って一冊にまとめられたのでは、と思う。
ユーチアの可愛さをたっぷり堪能した前巻に対し、今回はユーシアの美しさを称える場面も多かった。レオンハルトのカッコ良さと二人のラブラブぶりを公の場で見せつけるという、見慣れた展開。小さなザマァと優越感で人気のやつ。
実家へのお仕置きは、あっさりめの描写だったかな。ユーシアを殺したつもりではしゃいでた人たちとして見ると、胸糞な気分が晴れるほどの報復とは思わない。あとはユーシアの幸せ描写とユーチアという癒やしの存在で補ってくれる感じ。
後半はユーシアの幼児化対処の話や、おまけ的な番外編など。特に波乱もなく、愉快で甘々な日常が続き、読みごたえはない。キャラやカプにハマり切れていれば、もっと楽しめたんだろうと思う。
まずこれ一冊では終わらず、事件は解決しない。とはいえ同ジャンルを読み慣れていれば、序盤で流れが予想できるほどに定番の始まり方。楽しめるかはキャラ次第な感じで、結果ちびヨメの可愛さに癒やされ、良かった。
家族に虐げられ引きこもり状態のユーシアの描写は、あまりにあからさまな悪意にさらされており、胸糞。でもそのおかげで敵が分かりやすく、嫁ぎ先で幸せになりつつ実家を陥落させる話なのが分かる。もはや懐かしさを感じるテンプレ。
実家のシーンが短めで元々のユーシアの性格は分からなかったが、ユーチアの奔放ぶりがすごく、大人姿での振る舞いが想像できない。黙ってされるがままになっていた過去を後悔してたので、幼児になってハジけた感じなのかな。
幼児姿でヨメアピールは斬新で笑った。それを許すレオンハルトもすごいし、受け入れる周囲の人々は温かすぎる。嫁いでからの問題は身体の変化をコントロールできないくらいで、他はトントン拍子。色々見えてきて、いざ!ってとこで終わるので、ずっと平和だった。
ただ、ユーシアが短期間だけ大人姿に戻るシーンがあり、そこでの言動が三歳児のときと変わりなく、正直引いてしまった。子供だからこそ微笑ましく見ていられることを、今後大人姿でも続けていくなら、読み続けられる気がしない。
巻末のおまけは二次創作のような、少々ノリについていくのが難しい短編だった。純粋に“可愛い”だけを堪能したいときなら良さそう。お値段に見合うかは微妙。
続編では、いろいろスッキリ解決してくれると期待したい。
驚くほどたくさんのカプのお話が詰まった、盛りだくさんな内容。本編を読み返し、その直後に再度読みたい短編も多く、無限ループが完成しそう。些細な日常が沁みるな、と思った。
どの短編も、短い中でもしっかり情景描写があり、その世界の空気に取り込まれる感覚を味わいながら読める。静かに〆てくれるものが多く、ラスト数行はどれも泣ける。
冒頭の竜起と深は読者サービスっぽいお話、潮と計はトラウマを蒸し返すお話。
潮が本気の悩みをやっと口に出せるようになった記念すべき瞬間を見たような。計の心の傷を癒やしつつ、これから少しずつたくさん弱った姿も見せていくんだろう、と温かい気持ちになった。
他に印象的だったのは「meet,again.」の書き下ろし番外篇。まずこの二人がまだ一緒に過ごしていることに驚き安心する。独特の言い回しのセリフに栫を感じ、本編読後に浸った余韻も思い出す。他のキャラたちと比べても、栫は強烈だったと改めて思った。
欲を言えば「アンフォーゲタブル」のお話も読みたかった。新聞社シリーズ単独の番外篇集でもこのカプの話はほぼ無く、今作でも他の三カプのみで冬梧と望はいなかった。100の質問コーナーで、一番平和なカップルとして名前が挙がってたのが救い。
コンプリートガイドを見ると、まだ未読作もあり読んでみたくなった。他社作品まで網羅しておりありがたい。楽しかった。
それなりの年齢で、それなりの役職にも就いてる大人な二人が、付き合い始めの蜜月を迎えるってどんな感じになるんだろう、と思いながら読んだ。が、栄と設楽の関係性は独特すぎて、参考(?)にならなかった。唯一無二の雰囲気。
シリーズ一作目から登場していた設楽は、そういえば職場での顔しか見ていなかったんだな、と思い知った気がした。栄に見せるプライベートの顔は、ちゃんと年を取っており、くたびれ感があって、心に年輪が見えるような。酸いも甘いも噛み分けた経験値が見て取れる。
栄はちょこちょこ笑うシーンがあって、おや、と思った。そりゃあ丸くなったと言われる、という感じ。栄の心理描写は、悩んでるときでもウジウジもぐるぐるもなく、読みやすかった。常に論理的といえるかも。
ストーリーは特に後半が好き。ストの次は停波の危機なんて、どれだけ波乱万丈なテレビマン人生なのか。緊張感漂う空気の中で、二人が同じ方を向いて必死になってる仕事姿がたまらなく好き。そういうときこそはっきり見える信頼と絆が良い。
一段落ついた後のいちゃいちゃも良かったけど、一番気に入ったのはドライブシーンでのフレーズ。栄が設楽を“わざわざ熱海まで走らなきゃこの程度の本音も言えないって面倒な男”と評していて、最高に萌えた。面倒な栄に面倒な男呼ばわりされる設楽、こういうの大好き。
深や竜起や計といったおなじみの面々から、退場したと思っていた小太郎まで出てきて、地続きの世界なのだと実感できた。添い遂げるところまで見守らせて欲しいカップル。
面白かった。お仕事モノで期待するのはこういう作品!と嬉しくなった。非常事態に陥った現場の緊迫感がとても良い。BLは後からついて来た感じだけど、スピンオフなのである程度キャラを知っている状態で、らしいな、と思えて良かった。
「横顔と虹彩」の後に読むと、まず主人公が栄な時点で驚く。あの口の悪いプロデューサーの心理描写ってどんなの?と興味津々。実際には栄が新入社員だった頃から始まり、ちょっとだけ未完成な印象もあって、読みやすかった。
若手時代の栄は、設楽と奥と三人で過ごした思い出ばかり。栄の視線は主に奥に向いているようで、奥の存在感が増していくのがよく分かる。同時に、栄視点なのに後頭部あたりに設楽の視線を感じる。とても不思議な感覚。
いろんな意味で栄にとって設楽は安心材料になっていったのかな、と思った。何をしても許される的な。強く意識はしないながらも、そばにいることを無意識に許しているような。適度な関係性に見えるけど、栄にとってはすごいことな気がした。
栄の仕事人生の節目には、常に設楽がそこにいて、栄を栄に戻してる。この役割って一体なんなんだろう。家族とも恋人とも違うつながりで、ぴったりの言葉が見つからない。愛でもなんでも全部あげられる関係、とかかな。
最後の人事通達は、次作が楽しみすぎる演出。なにこの終わり方!最高。