ザ・一人称な作品。あまりにお下劣な語り口に導入から怯んでしまうが、その内側に隠されているものはとても重い。精神的にキツい描写が長いので、引きずられそうなときに読むのは注意が必要かも。後半がとても良く、幸せな読後感。
表題作は藤崎視点で、冒頭から飛ばしてる。その単語何回言うの?ってくらい何度もち〇ぽ連呼。ヤリた過ぎて偶然会った会社の後輩である大山をホテルに連れ込み襲う始まりで、大山が責任取る気満々なお話。
藤崎が心の中で否定したり喜んだりしながら、二人の体の関係は続いていく。
一方大山は一直線な感じで、藤崎可愛い大好きな気持ちを隠さない。拒否されて傷付きながらも告白し続ける大山には、押し付けに感じない不思議な魅力がある。人間的に信用出来て、さらに今後は頼れる男に成長しそう。自分を傷付けないと、安全な存在だと、認識されるタイプなんじゃないかな。
そんな大山だったから、藤崎も過去に起因する闇を口にできたのかな、と思う。大山は藤崎と一緒に泣いてくれる人だった。むしろ藤崎が泣けない分まで泣いていた。
自分と向き合う藤崎の描写は、淡々とした中に悲痛な叫びがあふれていて辛かった。洗脳と支配、精神的・肉体的・性的な、暴力。相手は藤崎の好きな人で、相手から見れば同意の態度を取り続けたことは、自身への悔恨が強く残るだろう。
そうして、藤崎が闇から抜けるところで本編終了、続きは大山視点で。恋心に気付く初々しい過去から、付き合い始めた二人のその後まで。
藤崎が隣にいる実感を綴る大山の心理描写がとても長い。自分のことも藤崎のこともよく分かっていて、何に対しても誠実なのが伝わってくる。こんな人を描けるってすごい。
同棲して会社に公表して、順調な二人。大山の成長を期待させてくれる空気は眩しく、藤崎が幸せに慣れようと不器用に生きる様子は泣ける。しみじみ良いお話だったな、と余韻に浸れた。
個人的にとても良かったのが、考えさせられる系にありがちな、キャラを越えた思想の主張を感じなかったこと。あくまでもそのキャラ個人の考えとして、真摯に向き合って描かれているようで、違和感なく没入して読むことができた。
BLを期待して読む作品ではないかな、という感じ。一人の死をきっかけに出会った様々な人を描いているようであり、主人公の自己啓発を見ているようでもあり。終盤の怒涛の語りはなんかすごくて圧倒された。
始まりはアランという一人の学生の死から。自殺か他殺かも分からない状態で、ルーカスのもとに刑事や学生から情報が集まってくる。だがルーカスは謎解きや情報共有はせず、周囲が自力で死の真相に迫る。主人公の動きはタイトル通りってことかな。
実はルーカスも命を狙われていることに気付いたり、そんなルーカスを守るために昔振られたブライアンが現れたりと、目まぐるしい展開が続く。
一応ルーカスとブライアンのBLもあるが、ルーカスがとにかく心配をかけまくるので、ブライアンが不憫で応援したくなる。
アランの死について、ある程度見えて来たところで、ルーカスは一人の青年と対峙する。ここからのルーカスはセリフもモノローグも熱く、ゾーンに入っている人の語りを聞いているようで、言葉の濁流に飲み込まれそうな感覚だった。
事件がひと段落すると、救われた人や新しい道を歩き始めた人など、ルーカスがアランを通して出会った人々のその後が明るいものとして描かれる。もちろんルーカスの成長も見えるし、ブライアンとのラブも良い。
ルーカスの、脅迫状なんて恐ろしいものを簡単に忘れる違和感や、一言情報共有していれば回り道せず事件が解決していたのでは、というもどかしさは読んでいてストレス。ただしその点はタイトルで釘を刺されているので、仕方ないのかも。
長めの作品で、正直前半で脱落しそうになったが、最後まで読んで良かった。終盤に魅力が詰まっている作品だと思う。
部族同士の対立が前提にある中で、男の花嫁を押し付けられるところから始まるお話。嫁ぐ方でなく、嫁いでこられる方視点なのが面白い。視点主がちゃんと動いてくれるので、とても楽しく読めた。
ユーティは最初はほのぼのした印象。前に出ることはなく、適当に上手くやってる感じ。それがカヤに惹かれていき、振る舞いがガラっと変わる。元より捨て子だった引け目があったようだし、実はこれがユーティの本来の性格なのかな。
カヤは境遇を考えれば当然かもしれないが、傷付いた獣のような反応。ゆっくり人間に慣れていく様子を見ているようで切ない。ユーティと二人で初めて狩りをするシーンがとても好き。
敵の策略に嵌まりピンチに陥ると、ユーティが闇堕ち覚醒みたいな状態に。あそこまで思い詰めて冷静に暴走するほどカヤが自分の全てになるなんて、やっぱり今まで一緒にいた人たちを本当の家族と思えていなかった影響なのかな、と思う。
争いはカヤの活躍で終結。部族の誇りは失っていないようで良かった。カヤへの酷い暴行(拷問?)が土下座一つで水に流されたのは不満だが、まあどうしようもないのかな。
番外編ではその後の様子が垣間見れる。カヤはすっかり乙女思考になってしまって。二人でヤキモチ焼いたり焼かれたりの平和な日常を見て、末永く仲良くやっていくんだろうと思えた。ユーティの心の闇も晴れたようで、読後感も良かった。
静かに読ませる作風でありながら、書き込まれた心理描写には解釈の余地があり、考察しながら読める一方で雰囲気小説としてさらっと楽しむこともできる。こういうのを求めて同人作品を読み漁ってるという、見つけて嬉しくなった作品。
小説家の八尋は、まあアクの強い人物。口の悪さや偏屈といった誰の目にも見えるところだけでなく、内面にも歪みを抱えているような。その根底に、作品冒頭で描かれた過去がどう影響しているかは、終盤まで分からない。
八尋に変化をもたらしたのは、ワケありな青年の茅。なんだかんだあってから、二人で八尋の過去につながる場所を訪れると、さまざまな物語の靄が晴れていくような、しがらみが解かれていくのを見たような、心地良い感覚を味わえた。
とはいえ、二人の関係が急激に変わることはなく、でも確実に前に進んでいるのは感じられ、ほっこりできた。個性豊かなサブキャラたちも楽しく、八尋の毒を中和してくれる感じが良い。
マイナス点は、八尋の脳内で綴られているらしい作中作にハマれず、祥と吉兆の物語がダラダラ長いと感じてしまったところ。茅と重ねて描きたいっぽいけど、ちょっと中だるみ。凝った構成はすごいと思う。
いろんな読み方ができそうで、再読したくなる作品。クセのある八尋視点なのが最高に良かった。好き。
前半はコロコロ視点を変えて、血の繋がりのない三人が家族のように過ごす日常が描かれる。後半は眞白視点で、雪弥との関係の変化や、進路や実家問題など。人の死に直面するストーリーが心理描写重視で綴られており、静かな文章がとても良かった。
雪弥と隆心は養子縁組をして、戸籍上でも家族になっているカップル。眞白の救いであり逃げ場所でもありながら、ほのぼのと穏やかな日々を過ごしている。
印象的だったのは、眞白視点で語られた隆心の人間関係の作り方。隆心自身が雪弥を中心に生きていながら、同時に雪弥の世界が隆心で埋まるように対応しているという。心の管理までする隆心の徹底ぶりもすごいが、それに気付く眞白もすごい。
後半に入ると、眞白も雪弥もギリギリで何かを保っている危うさがあり、心理描写は細かすぎるくらいなのに、内側にある感情は見えている気がしない。混乱を表現するリアルな描写なのかよく分からないけど、創作物としては最後に何か示して欲しかった。
実家問題も回収されておらず、眞白に関してはちょっと消化不良。
雪弥の選択は仕方ないというか、隆心がそういう雪弥にしてしまったんだろうと思う。三年あれば眞白も新たな居場所を見つけられると信じてたのかな。なんとも切ないお話だった。
興奮すると大狼に変身する呪いにかかった王子クラエスと、犬嫌いな引きこもりノエリオのお話。呪いに関する謎解きあり、解呪を妨害する敵あり、BL的に萌える過去あり。殺人未遂犯を許すのにモヤったが、全体的にはとても面白かった。
美貌の王子が貧乏貴族に突然プロポーズするところから始まる。幼少期のトラウマから犬を過度に怖がるノエリオと、三頭の犬を従え、かつ狼に変身するクラエスとの共同生活は、当然ながら最初は大変。
人の言葉を理解し、好意を思いっきり見せてくれる犬たちが可愛くて、ノエリオの事情も分かるけど、早く撫でてあげて欲しいと思わずにはいられない。クラエスの喜びを隠し切れない様子も微笑ましくて、努力が報われて欲しくなる。
トラウマの克服は感動ものだった。ノエリオとクラエスの過去も。そして一つ解決したと思ったら、今度は息つく暇もなく何度も何度も誘拐されかけるノエリオ。怒涛の展開で、なりふり構わない敵もすごいが大狼クラエスの身体能力もすごい。
そしてピンチのたびに活躍する三頭の犬たちがカッコ良い。あるときはサッと影から出てきて敵を追い払い、あるときは身体を張って命がけで守ってくれる。三頭が無事でいてくれて本当に良かったが、犬の命を盾にした奴は許せない。
モヤモヤしたのは、被害者のノエリオに加害者を許して欲しいとクラエスがお願いしたこと。あれだけのことをやったのに、主犯は処罰されない。周囲に煽られ、ずさんな犯罪計画を立て実行する人間が次期国王なんてこの国終わってる。
それ以外はとても好きなお話だった。呪いの意味やその後の祝福もとても良かったし、その後の番外編で二人の幸せそうな日常が見られて、温かい気持ちになれた。面白かった。
1巻が嘘のように甘々になった2巻。正宗が変わることを決意し、実際に改まったようだが、爽やかなエンディングは逆に不安に。正宗の重く異常な執着と立紀の危うい執着に仄暗さを感じ、もう少しダークな匂わせがあるかと思ってしまった。
昔のことは忘れ、また最初から始めようと言う正宗。その舌の根も乾かぬうちに、嫉妬に狂って乗り込んでくる。そんな横暴を何度も許してやっと、本当にやっと、立紀がブチ切れる。
「何ひとつ言葉にしないくせに」これ、読みながら何度思ったことか。
思いをぶつけ、それに対し反省を見せた正宗に、立紀はあっさり落ちる。結局はずっとお互いに好きだったという話で、言葉が足りなかっただけ。
正宗の間違った第一歩は、立紀の性癖と性指向を変えたらしい。あの強姦がなければ、正宗を愛する今はなかったのかな。
「本当はずっと優しくしたかった」と言う正宗は、続けて「顔を見るとぐちゃぐちゃにしてやりたくなる」と言う。一方立紀は乱暴なセックスが好きになり、正宗の異常性に悦びを感じている。
相手に引き出されたものなのか、これ以上ない相手を得て本性を出せたのか。
ところどころにモラハラとDVの気配を感じたが、それも含めて立紀は正宗を受け入れているよう。お互いに唯一無二の存在なんだろうと思えた。
欲を言えば、チラ見えしていた立紀の妖しい闇部分(マゾっ気?)をもっと突っ込んで読みたかったな。
メインカプは従兄弟同士で同級生の正宗と立紀で、強姦から始まる感じ。1巻時点では、正宗は何も言わず会えばいきなり襲ってくるだけで、惚れる要素がない。立紀は心理描写でずっと嫌がっている風なので辛い。昔のBLっぽいと思った。
立紀の一視点で見るお話は、自分の意思に反する行動ばかりで、ずっと流されているもどかしさを感じ続ける。正宗に強姦された後の感情は優越感で、その後も期待しているのに抵抗する描写が続き、自分に対し素直じゃなくて読みづらい。
葛藤する複雑な内面は、読み応えはあるのかもしれない。セフレを抱きながら抱かれたいと思うとか、興味深い要素もある。でも言動で明確な拒否を示さず、心の中でだけ嫌がる流されセックスはモヤモヤする。
正宗はとにかく言葉が足りない。強引に立紀を犯して一人で興奮し、勝手に切なげな雰囲気を出し、思っているのはバレバレなのに何も伝えない。独り言のようにつぶやくだけで相手に分かってもらおうなんて、でかい子供かと。
再会した正宗が、結婚離婚を経てもまだ立紀に執着し続ける背景は分からず、無理やりの関係ばかりで立紀と上手くいくと思っているのかも謎。立紀は正宗がちょっと本気を見せれば、簡単にセフレを切ってなびきそうだけど、どうなるのかな。
この作者さんの別作品でも思ったけど、序盤から独特の空気感に引き込まれる。見えない感情の渦が押し寄せてくるようで、期待が高まる。キャラの魅力はまだ分からないが、この方の創る世界の空気は魅力的だと思った。2巻に期待。
友人の結婚式を機に、男同士で付き合う自分を見つめ直すお話。同棲中の恋人を学生時代からの友人だと、周囲に嘘を吐き続けてきたことに悩み、一つの結論を出すまで。
心理描写重視の作風で、特に千尋の内面は行間に隙が無いと思うほどに書かれていた。
両視点で、智春も千尋も、お互いに元から同性が好きだったわけじゃない点が引っかかっている感じ。他の道に進むこともできるし、その方が相手にとって幸せかもしれないと。
そうして、成り行きとはいえ、智春は女と、千尋は男と、試してみるような流れに。千尋がセックスだけなら他の男ともできると身をもって知ったのは、BLとしては意外な展開な気がしたが、ではなぜ智春なのか?を実感するには説得力が出てくる。一方智春は何を得たんだろう。
他の相手との道を考えるという趣旨が強調され、浮気といった観点からの心理描写はあまりなく、具体的に何があったかは、特に智春側がよく分からない。ただ智春と千尋は身体を重ねることで、お互いに他の相手とはシていないと把握し合う。
描写がぽっかり抜けた部分は身体で確認、というところが面白いし、かつ付き合いの長さを感じさせるエピソードでとても良かった。
残る心配事は智春の母親。無職女性とお見合いさせようとしてくる親なんて、不安しかない。今後また一揉めあるのかな、と思った。