画家の小雨と銀行員の拓。拓は営業先でホテルに連れ込まれそうになるがそこを画家の小雨に助けられる。
最初は怪しげな画家と警戒するが拓の心に小雨の言葉だけがすっと入ってきて、小雨に会うことが拓にとっての癒しとなる。
小雨が「言葉って欲しいものだけが腑に落ちる」と言うと拓が「…なら、俺の腑には小雨さんだけが落ちてきた」と返すシーンがあるのですがここが一番好きで、二人の心が繋がった素敵なシーンだと思いました。
全編通してエッチシーンも多く、独特の世界なんですが個人的には最後の方のやっと二人が最後まで繋がった時の小雨の言葉による攻めが萌えました。いちいち拓の様子を言葉で実況するのですがこれまで以上に拓が恥ずかしがって、可愛いったらありません。
むきむきのむきえび、ずるずるのずぼん、にょきにょきの…にょっき?
短編だけど、どれも凄く好きな作品ばかりです。
表題作ももちろんですが一番好きなのは二番目に収録されている床屋さんの話。
学校の化学室で休み時間だけ床屋さんをしている同級生って設定がまたなんともいい!で、緒川先生の描くめちゃくちゃイケメンな悠士とくせっ毛がふわふわしている忠近が髪の毛を整えて貰いながらイチャイチャしてるんですがくせっ毛の忠近が悠士の気持ちも自分の気持ちも気づいているのになかなか認めようとしない、けど悠士が他の子と仲良くしてるとイラっとしちゃう、って言う焦れったい感じが短編とは思えないほどの丁寧な描写で進んでいくのがたまりません。
髪を整えて貰った代金百円の代わりに忠近が座ったまま後ろを振り向いて、悠士に後ろからキスされるシーンが一番のお気に入りです。
前作同様この作品と出会ったのは10年近く前になるのですがBLと言うものを初めて読んだのがこれだったので、ノンケとゲイの切ない話=BLと植え付けられた作品です。ゲイと言うものをまだあまり知らなくて、当時はまだ好奇心とか特殊な人たちと思っていた頃で女性キャラクターが今ヶ瀬との関係を酷い言葉で否定したりするのに、そりゃそうだーと共感していたと思います。
実写化されるにあたり、改めて読み返してみるとこの人何て酷いこと言うんだろうとか恭一の言動にもそんなふうに言わなくても…と思えるようになっていて、この作品がきっかけでBLを読むようになって、知識をつけることって色んな世界が広がるんだなと思いました。
話がそれましたが、そのくらい私の人生観も変えてしまったこの作品、前作もそうでしたがやはり水城先生の作品は小説を読んでるかのような心に響く言葉がたくさんあります。長編ではないのにどのキャラクターも細かく描写されていて、分かりやすいのはこの言葉の巧みさにもよるのかなと思います。BLを単なるエッチ描写の多い男同士の物語と勘違いされてるBL嫌いしてる方にも是非読んでもらいたいとお勧めできる、ストーリーのしっかりした作品だと思います。
この作品を読んだのはたぶん10年近く前のこと、タイトルにひかれて、BLと言うものをまだよくわからないまま手に取りました。初BLだったのでこの程度のエッチ描写にも度肝を抜かれ、登場してくる女性キャラの言動にもさほど違和感を覚えませんでした。実写化と言うことでオールインワンエディションを読み直し、改めて無知って怖いし、慣れって恐ろしいなと思いました。
水城先生の作品は絵と言うよりも、台詞に感動させられることが多いですね。初めて二人が結ばれたときの"熱い張りつめた肉が そこに口付ける感覚"から始まる言葉のシャワーが絵以上の迫力でエロい妄想をかけたてられました。
10年ぶりに読んでも、やはり私にとってはいまだに神作品です。