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エキスパートレビューアー2019

女性fandesuさん

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今年度20位

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登場人物の規格外れ感が面白い

受けの澄哉の属性に『健気』が付いているんですけれど。
うん、確かに健気ではあるんです。
でもこれ、恋に対する健気さではないんじゃないかな?
幼い頃の自動車事故で不自由になった足を、霊験あらたかな先代神主の祈祷で直してもらった経験から、彼は宮司としての仕事に対してはすごく献身的なんですよ。
でも零文に対しては健気かなぁ……盟約を交わすことを迫る零文に対してテスト期間を言い渡すなど、ずいぶんちゃっかりしているなぁと思ったんです。宮司さんにしては俗な感じだよなぁ、って。

いや、澄哉だけじゃなくて、隣市の南脇神社もそんな感じなんですよね。『若い女性をターゲットとして』とか『アミューズメント』とか。「信仰は何処へ行った?」って感じなんですよ。これがね、ドライな白露さんの文体や話の運びにマッチしていて、なんか可笑しいんですわ。

それに対して人ならざる者である零文の方が誠実な感じがしたんですよ。
素っ気なかったり偉そうだったりするんですけれど、本質的にはすごく澄哉を大切にしている。これ「精気が美味しいからだけじゃないよね?」と思っちゃう。「実はベタぼれでしょ?」って。

お話では大きな事件もいくつか起きますし、バトルもあるんですけれど、私としては『平成生まれのちゃっかり宮司(心根は正しい)』が『明治以前の香りがする鴉神(どっちかって言うと愛を言葉に載せられない)』に、ぶっきらぼうに大切にされるお話として楽しみましたよ。ビジュアル的にはそんな感じは全くしませんが、ある種の『オヤジ攻め』ものとして読んじゃったんですよねぇ……
白露さんにはそんな意図はなかったと思うのですけれど(ごめんなさい)。

幸せをありがとーぅ!

「これだよ、これ。これぞ名倉和希!」と叫びたくなる様な一冊。

高羽泰成35歳、老舗旅館の次男坊にして高羽ホテルグループの社長。
プロのモデルの様な見た目と自社のホテルを売り出す実力を兼ね備えたスパダリの彼が、はじめは無自覚なままに、気づいてからは全てを投げ捨てて恋に狂う様は、めったやたらと可笑しくて、愛らしいのです。

両親を亡くしたため親戚をたらいまわしにされ、疎まれていた過去のある高羽優輝くん18歳も、献身的に泰成に尽くす様から垣間見られる健気さとは裏腹に、何故か恋に対してだけは鈍感になってしまうという可笑しみ、可愛らしさを持っていますが、やはり比較すると泰成の方がダントツに可愛い。

この愛らしさは馬鹿になっちゃっているからだと思うのです。
『恋狂い』とはよく言ったものですね。
狂ってるんですよ、まさしく。
自分が変態じみた執着をしていることに気づかないほど。

ちょっとだけ考えてしまったのは、天下のスパダリが何でこんなバカになっちゃったのかということなんです。
生家の旅館は兄が継ぐものと端っから諦めていて、ホテルの仕事の為にはそれほど好きでもない広告塔になって、挙句の果てには実の母から実家の旅館を盛り立てる為に政略結婚を用意される……これって、恋に対して鈍感にならざるを得ないんじゃなかろうか?ひょっとして泰成の『おバカさん』って環境の犠牲になった挙句のこと?

でもだからこそ、この恋狂いが生きるのだと思ったんですね。
もう、ニヤニヤとかゲラゲラとか色々笑わせてくれてありがとう!
そして泰成と優輝の2人だけじゃなく、家政夫(って言うより家令っぽい)の輝雄や社長秘書の内田、優輝の親友遼太郎とその恋人の香織など、2人を見守る周りの人たちも優しくて善良な香りを漂わせているのが良いんですよ。いや、善良って言っても儚げじゃないのね。逞しいのよ。そして世俗っぽいの。
それがね、とても良かったんですわ。
幸せを運んでいただきました。

面白いのですが……

面白いんですよ。
「ここのところBL小説ではめっきりコメディが減った気がする……今こそ読みたい時代なのに」と思っている今日この頃、このお話では瑞春の『帝オタク』ぶりと『香斎待徒』のみなさんの変人ぶりにはかなり笑わせていただきまして、お話そのものには大変強く好感を抱いているんです。
絵に描いた様なスパダリと美人ではなく、ちょっとばかり毒舌だったり鉄面皮だったりする主人公らの造形も好みです。

二駒レイム画伯のイラストも素敵だと思いました。
『皇子と偽りの~』でも思ったのですが、中華風の題材と非常にマッチしていますよね。変にキラキラしくなくて、レトロっぽい描線に大変そそられました。

LOVEについても可愛らしくて何の不満もないのですけれども、別の部分で期待していたことがあったんです。作中で起きる事件の解決についてなんですけれども。
陰で糸を引いているのは大物らしいとか、かなり大きな問題で下手をすると帝や弟皇子の身にも関わってくる可能性があるとか、何度もほのめかされたものですから、この解決について「どうなるんだろう」と結構ワクワクして読み進めちゃったんですよ。想像していたのよりさらっと終わっちゃいまして……ここがですね、ちょっとばかり残念だったんです。
尺の関係なんでしょうか?
陰謀、もう少し読みたかったなー……

良く考えられている面白いお話だと思うのですが

こちらでレビューを読みまして「面白いミステリならば!」と即購入。
確かに面白かったです。
サスペンス色の強いミステリで、もうお話の始まりからの不穏な感じが素晴らしいんですよ。初読み作家さんですが、空気感を作るのがお上手だと思いました。
(注:寝て起きてから初読み作家さんでないことに気づきました。楠田さん、好きな作品がある方ではございませんか!ボケています。誠に失礼いたしました)

無人島に作られた開館前のリゾートホテルにモニターとして行った人たちの中で殺人事件が連続して起き、おまけに通信手段が断たれてしまうという、いわゆる『クローズド・サークル』ものです。このジャンルって面白いんですよね。超有名な『オリエント急行~』を始めとして『ヘイトフル・エイト』とか好きなものですから、読んでいてかなり盛り上がりました。
犯行の動機等もなかなか唸らせるものがありまして、とても面白く読みました。

……「じゃあこの評価は何故?」と言われるかもしれません。
結末を言っちゃいけない本なので、とっても書くのが難しいんですね。
ここから先は「ミステリでもネタバレO.K.」という方のみお読みください。




いや、要は『犯人』の処罰のされ方に違和感を感じてしまったのですよ。
犯行の動機に大きな同情の余地があったとしても他者を殺めるために行動をしてしまったら、罪の有無や罪状について判断するのは司法の仕事だと思うんですね。司法の手にゆだねずに関係者だけで判断してしまうのってまずいんじゃないかと。
特に色恋がらみの人がそれをやっちゃうのは一番ヤバいと思うんです。
もしそういうことをすると決めたなら、それをやった人は『お天道様の下を大手を振って歩いてはいけない立場の人』にならねばならんと思うんですよ。
なので、個人的には『罪を償う』か『助けた奴はアンダーグラウンド社会に潜る』のバッドエンドの方が納得がいくんです。犯人が『普通の感覚』を持っている人であれば、殺人の決意というのはやはりそれくらいのものと引き換えにして行わなければならんのではないのか、と思うから。

私の『ポリコレ魂』が頭をもたげてしまった結果、このような評価に。
大層面白いお話だと思いますので、私の様な『ポリコレ野郎』じゃない方には、大声でお勧めしたいと思っております。

このお話、好きだ……

『愛されオメガの幸せごはん』も良いけど、私はこっちの方が好きかも。
理由は2つ。
1.『ベータ×アルファ』であること
2.エチシーンがとてもとても幸せそうであること
これがたまらんかった。

お話の内容は先にレビューをお書きになられたお2人が詳しく紹介されているので、ここからは私の萌えを書き散らかします(他人に乗っかってごめんなさい)。

オメガバースがいまいち乗り切れないのは『魂のつがい』とか『運命のつがい』っていうのが私に合わない所為なんですよ。たぶん私は『不変のもの』よりも『流転するもの』が好きなんだと思うんです。遺伝よりも環境を重視したい。

オメガバ世界のベータってモブ扱いが多いように思うんです。
それがあえての攻め様。
それもなかなかの男前風味。
対するのは、自己肯定感がやたら低いアルファ!
『!』を付けたくなるじゃないですか。だって自己肯定感が低いアルファって、一般的なオメガバ世界では存在しないものだと思い込んでいたんですもの。
でもね、考えてみればあり得るわけですよ。
ベタなたとえで恐縮ですけれど『自分は頭が悪いと思っている東大生』っているわけでしょ?(いるよね?たぶんだけど)競争という物差しで測れば、すべての集団に上下は必ず生まれてしまいますもんねぇ。

でも、社会では物差しって一本じゃないんですよ。
祖父は凛一を『要領が悪くて弱虫』と評価したけれど、吉見は『丁寧で感受性が強い』とべた褒めする。
同じものを、どの角度から見るかなんです。
だからこそ「アルファの凛一のヒーローはベータの吉見でなけりゃアカン」と思うのです。大切なのは人と人の間に生まれる『関係』であって、その『関係』はやっぱり『運命』なんかじゃない方が良いと思うんですよね。『偶然』の要素はあっても、やっぱり『努力』とか『善きものであろうとする倫理性』だとかによって獲得できるものであってほしい。
だから、これを書いてくれた葵居さんに感謝したい。
だってこの結末にすごい納得できるんだもん。

私はBL小説にそれほど『甘々』を求めません。
って言うか、物語の筋が終了した後のご褒美みたいな甘やかしシーンは「なくてもかまわない」とまで思っておりまして(申し訳ないんですが読み飛ばす時もある)。
このお話のエチシーンはそう思わなかったのよ。
とっても良いんですわ。
滾った(笑)わけじゃないのね。だって性癖は全然違うんだもん。
言ってみれば『幸せ』が読み取れるんです。
2人がどれほど幸せかっていうのが。つながるたびに。

たまたま私のコンディションの所為かもしれないのですけれども、でもね『甘々不感症』の私が、NTRとか緊縛とかが好きな所為で今作にも「私が『神』評価を付けるのにはあまりにも幸せオーラがあふれ過ぎている」と思って『萌×2』にせざるを得なかった私が、ここまで盛り上がっちゃったわけですから『甘々好き』の姐さま方がお読みになったら、かなりの確率で撃ち殺されてしまうと思います。
是非、ご一読を。

設定が好みです

「このまま付き合っていたらきっと相手をダメにしてしまう」と思って、高校卒業と共に他県の大学に進むことで別れてしまったカレ。それから一度も会っていないけれど、心の中ではずっと想っていました。カレが来ると聞いて「一目会うだけでも」と参加した同窓会で相変わらず優しく接してくれたけど、カレから「結婚する」と聞いて居ても立っても居られなくなって「自分は半年後に死んでしまう。それまでいいから一緒に居て欲しい」と懇願してしまったんです。優しいカレはそれに従ってくれて……

ねぇ、そそりません?
私、このお話のあらすじを読んで「めっちゃ読みてーっ!」って思ったんですよ。
このメロドラマ感、半端ないですよね。
そしてね、どういう風に決着をつけるのかが気になるじゃないですか。
だって「半年で死ぬ」って言っちゃっても死なない訳ですから。
世界の果てに逃げてしまわない限り、それが相手にも解っちゃうわけですから。

この『身を引く』くせに『死ぬまで一緒に暮らして』って言っちゃう方が受けさんの純也なんですけれども、なんて言ったら良いのかなぁ……『日陰の女(男だけど)っぽい』とでも言うか、昔っぽいんですよ、考え方とか行動が。
そんで、それがやたら色っぽいの。
一昔前のBLなら、悪い奴らに売られちゃったりするような匂いがしたりする。
相手の一成が良い男なんだけれどほとんど印象がないのに対して、純也は激しく匂い立つような色気があるんですよ。

……「死ぬ」と言った以上は、何がどうなって落ち着く所まで行くかが大きな『お楽しみ』なので、細かいネタバレは止めておきます。
一言だけ書かせていただくと、大きく外した仕掛けがあるわけではなくて、BL小説をよくお読みになる姐さまであれば、予測通りの進み方で進んで終わります。
大どんでん返しとかトンデモがある訳じゃない。
多分このお話、受けさんを楽しんだり、愛でたりするお話なんだと思います。
わたくしはこの『昭和(80年代以降を除く)の女感』を大層楽しみました。

月村ブランド

安定の月村作品。
月村さんは『何も変わらない話をずっと書いている』という様なことをあとがきによく書かれますが、それはもうココマークとかモノグラムの類だと感じます。
今作も発売日から4日しか経っていないのにレビューが8件っていうのも「月村さんの本ってひとつのブランドになっちゃっただからではなかろうか」って思うんですよ。

月村ブランドの特徴は、どんなに切なくても、胸がぎゅーってなっても、必ず幸せが訪れるようになっているところ。安心して、切なくなったり、ぎゅーってさせられます。

「今回は涙がちょちょぎれるほどの切なさではないね」とかって、結構気を緩ませて読んでいたら、同時収録の『きみに言いたい秘密がある』の方で、ちょっとグッとくる部分があったんですよ。
『子は親を選べない。逆に言えば親も子を選べないから、蒼士の母親のように~』という部分から続く『でも。』の先の部分なんですけれどもね(やっぱり自分が感動した部分をまるっと書いちゃうのには抵抗があるので、匂わすだけにします)。
これ、よく言われる言葉なんですけれども。
でも、この場所にポンッと出て来たのを読んだらやたら感動しちゃったんですね。

月村さんのお話に出て来る親(特に母親)って、かなり自分勝手な人が多い様に思うんです。彼女たちの自分勝手さって、はっきり言って『子どもへの虐待』じゃないかと。
でも、この親たちってあまり『罰』を受けない。
むしろ、子どもの側(特に受けである方の子)が許しちゃうことによって、親の支配から抜け出すっていう形をとっているお話が多い様な気がするんです。今作でもこの感動した部分で「ああ、このお話もそのひとつだぁ」と思ったんですね。

で、私は『勧善懲悪』ではなく、こちらの『月村パターン』が好きなんですよ。好きって言うか「現実はこっちだろ」って激しく思うんです。「リアルではこういう決着の付け方しかないよな」って。

明日真が幸せになったから許せるんだと思うんです。
自分が自分で伴侶を選んだから幸せになったんだし。
なんかそこで「わぁぁああああああー」ってなっちゃってね。
今、振り返ってみても、どうしてそんなに激しく揺さぶられたのかが解んないんですけれども……多分、これも月村マジックのひとつなんでしょう。

お話のたたみ方がお見事でした

実はこの巻が最終巻だと知らなくて。
笠井画伯の表紙絵を見て「あら、これで終りなのかしら」って思ったんですね。
このシリーズの表紙絵って2人の関係を如実に表していると思うんですよ。で、羅刹に抱かれている櫂がやたら安らかな表情だったんで「この巻で終りなんだろう」と思ったんですね。

ところがねぇ、読み始めましたら「いや、これは続くのか?」と思い直したんですよ。だって、次から次へと難題が櫂に襲いかかってくるのですもの。
大人になって逃げだした草太は見つからない。おまけに鬼に喰われて死んだと思われるバラバラ殺人事件が勃発してしまう。
方や伊織は失踪したまま。大蛇の物の怪を倒しても、櫂にかけられた呪詛は消えずに残ったまま……始まりの部分だけでも、もうかなり厳しい状況です。で、この厳しい状況がどんどん膨れ上がりながら最後まで続くのね。
それも凄いスピードで。たたみかけるように。

これがねぇ、最高に面白いんですよ。
『息をもつかせぬ面白さ』ってこういう事を言うんでしょうね。
そしてね、ちゃんと美しく着地するの。
最終巻でした。お見事な大団円!

櫂と羅刹だけではなく草太と雪、それに那都巳や千寿、千寿の父の慈空など、主人公の周りを固める登場人物が増えていって群像劇的になると、やっぱり夜光さんは上手だなぁと思います。
櫂はこのお話のクライマックスで八百比丘尼に『命の理』に係る科白を吐きます。それは櫂の羅刹に対する愛情を宣言する言葉でもあります。ひょっとしたら櫂の『自分に対する愛情の表明』でもあるかもしれない。
この言葉が重みを持って響くのは、周りのキャラクターとの言動によって、私が櫂をより深く知ることが出来たからなんだと思うのですよ。

もうひとつ、やっぱり上手だなぁと思うのは状況や情景の説明なんですね。
特別な言葉を使わずに、平易な表現で的確に表してくれる。おかげでアクションシーンはすぐに目の裏に映像として浮かぶし、陰陽師や寺についての説明も『短いのにちゃんとわかる』という素晴らしさ。

こういうさりげない上手さが『次から次へと襲ってくるハラハラドキドキ』を矛盾なく展開させ、色々詰め込んでいるにも関わらずそれでもなお読者を疲れさせないお話づくりの土台だと思ったんですよ。
お話そのものにも感動したんですけど、それを作り上げる手腕にも、激しく感心いたしました。
いや、ホントに面白いよ。

ほんの少し、物足りなさが

前作『飼い犬に手を咬まれるな』から1年3か月。
『飼い犬~』での衝撃(特にあとがき)があったものですから、次作にあたるこの本がつつがなく刊行される様にと祈っておりました。
今月、もう1冊予定されておられるようですし、まずは「良かった」と思っています。
引き続き、夏乃さんのお話が読み続けられますように。

さて、お話の感想です。
やはり夏乃さんの『痛いエピソード」は半端なく、徹底的に痛いなぁ……
主人公の清良だけではなく、彼の友人の門倉、日柴喜、丹色と4人のそれぞれの痛いエピソードが展開されるのですけれども、これがすべて『高校生くらいの子が陥ってしまう痛さ』なんですよ。
3人の友人が抱える『痛さ』は性に関わるもの。
清良が抱えるのは『家族との関係』に関わるもの。

目を背けてきた自分自身の弱さを直視しなければならなくなるから、痛いんです。気づかないふりをし続けてきた事実を認めなければならないので。
興味深いのは、彼らの現実逃避の場所が『本(物語)の中』ということ。

特に清良。
現実社会から出来るだけ距離を置いて物語の中に逃げ込んだままの清良は胸に『虚』が開いてしまうのね(比喩ではなく本当に穴が開いちゃう)。だから『図書館の精霊』の詞葉が清良と一緒にいくつもの本の中に入って、そこで失った清良の心のかけらを集めていくことになります。

いや、私が「面白い」と言うか「へえ~」と思ったのは、図書館の精霊って「物語世界の総元締めみたいなものではないのかしらん?」ということなんです。本来なら「もっと本を読んで」っていう立場に立つもんじゃないかと。
でもね、詞葉は清良に「もっと現実と触れ合え」ってすすめるんですよ。
この辺がね「夏乃さんって『物語』というものに対してアンビバレントな感情を持っているのかなぁ?」と思ったりしました。
柔らかい逃げ場であるけれど、そこで足踏みし続けてはいけない場所、みたいな。

だからこのお話は成長物語です。
私、このお話のラストは違った風にと思ってたのね、読みながら。
なので、覚悟して読み進めていた分、ちょっとばかり拍子抜けいたしました。

本の中の冒険や本の妖精の描写は、おどろおどろしかったり幻想的だったりして楽しめました。欲を言えば、そんな風な部分をもう少し多く読みたかったです。

胸が苦しくなりました

「あれ?これ、千地イチさんの本じゃん」と気づいたのが先月末。
どうもタイトルと斜め読みしたあらすじがしっくりこなかったんですよね。
読んだらもう夢中になっちゃって。

いや、あらすじにちゃんと書いてあるんですよね。
『泥酔し親友への秘めた想いまで喋っていた』って。
ここをねー、ちゃんと読んで匂いをかぎ取ればよかったんですけどねぇ。最近アンテナの感度が悪くなってきたのかもしれません。

何が良かったかって、椿征一という男はね、高校時代に自分の窮地を救ってくれた北斗という人気者の同級生と友人でいる為に必死で勉強をし、身なりを整え、人当たりを考え、おまけに料理までも覚えちゃうんですよ。
それまでは、人の陰に紛れる様な目立たない生徒だったのに。
ただ自分を救い上げてくれた北斗の側にいて、彼に徹底的に尽くすために生きてきたの。29歳になるまで。
おまけに椿は自分がゲイである自覚がないのよ。
北斗から結婚式での友人代表スピーチを頼まれて、自分では気づかずに投げやりになって藤丸とそういうことになった時に指摘され、初めて気がつくんですよ。これが失恋であることに。

この『鶴の恩返し』感とでも言うか、自分の世界のほぼすべてが『大切な人』のためのものになってしまう感じがたまらんかったんですよ。
椿は北斗の為に無理をしているの。
その無理をすること自体は喜びではあるんです。でも、苦しくなるの。
不可抗力で藤丸と一緒に婚活に行くようになって、自然体でいる楽さを始めて知ったりするんですね。

このお話で私が「素晴らしい!」と思ったのは、そこまでやった椿の想いがきちんと報われることなんですよ。
それは『恋』という形ではないのだけれど。
それがあって初めて、椿は次に進んで行けたんだと思ったんです。
「北斗がダメだったから藤丸に」って言うんじゃなくね、自分がやって来たこと全てが『良い悪い』を超えて自分のものとして蓄えられるって言うか。
私はそのシーンで泣きましたよ。
ああ、いい話だなぁ……