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表題作春に恋う

美作隆心
34歳,フリーター
美作雪弥
38歳,トレーダー

あらすじ

古い平屋建ての庭には、たくさんの雑草が生い茂っている。
わざと育てられる雑草と、名字は同じなのに血のつながりのない2人の男。
フキノトウに誘われた少年は、その家の3人目の疑似家族になった。

穏やかで温かな時間が流れる。
愛情、恋情、依存。けれど、アンバランスな幸せは長く続かなかった。

恋と呼んでいいかさえ分からない情動と罪悪感。
三角関係というにはあまりに切ない少年の恋物語。

作品情報

作品名
春に恋う
著者
二一 
イラスト
伊藤モネ 
媒体
小説
サークル
二一<サークル>
電子発売日
4.8

(8)

(7)

萌々

(1)

(0)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
2
得点
39
評価数
8
平均
4.8 / 5
神率
87.5%

レビュー投稿数2

とても切ないお話。

前半はコロコロ視点を変えて、血の繋がりのない三人が家族のように過ごす日常が描かれる。後半は眞白視点で、雪弥との関係の変化や、進路や実家問題など。人の死に直面するストーリーが心理描写重視で綴られており、静かな文章がとても良かった。

雪弥と隆心は養子縁組をして、戸籍上でも家族になっているカップル。眞白の救いであり逃げ場所でもありながら、ほのぼのと穏やかな日々を過ごしている。

印象的だったのは、眞白視点で語られた隆心の人間関係の作り方。隆心自身が雪弥を中心に生きていながら、同時に雪弥の世界が隆心で埋まるように対応しているという。心の管理までする隆心の徹底ぶりもすごいが、それに気付く眞白もすごい。

後半に入ると、眞白も雪弥もギリギリで何かを保っている危うさがあり、心理描写は細かすぎるくらいなのに、内側にある感情は見えている気がしない。混乱を表現するリアルな描写なのかよく分からないけど、創作物としては最後に何か示して欲しかった。
実家問題も回収されておらず、眞白に関してはちょっと消化不良。

雪弥の選択は仕方ないというか、隆心がそういう雪弥にしてしまったんだろうと思う。三年あれば眞白も新たな居場所を見つけられると信じてたのかな。なんとも切ないお話だった。

0

猛者にしかオススメできない

kindleの自家出版を開拓するのが好きで、昨年、作者の『やさしい嘘のかさねかた』を初めて拝読しました。BLのキモをキッチリと押さえていて好印象を抱いたのですが、そのまま後回しに。ずーっとAmazon様からオススメされ続けていた本作の表紙イラストにどうしても惹かれて、この度、ようやく読む機会を得たところ…

じゅ、JUNEの遺伝子がここに…!!令和に入って、この手のタイプの作品に出会えるとは感無量です。メンタルに余裕がある時に読めてよかった…。重いです。重いけれど、何年かぶりに腹の奥をかき混ぜられるような濃厚なBL読書体験をさせていただき、歓喜にうち震えました。


平家建ての古民家にひっそりと暮らす隆心と雪弥。庭先に顔を出したフキノトウに興味を示して立ち止まった少年、眞雪。彼ら三人の出会いがもたらすシリアスドラマです。

終始物語につきまとう悲哀は、雪弥が彼の人生を引き受けなければならない、「生きる理由」への問いかけにあります。いつ生きることを放棄してもおかしくない彼を全力で守り続ける隆心。雪弥の家族は隆心と自分だけ。なのに、二人は未だジェラシーに囚われ続けるほど熱烈な恋の只中にいる…。世間から隔絶された片隅で、穏やかに暮らしていた二人の前に現れたのが、小学生の眞白でした。

眞白は育ちの良い裕福な家庭の子供で、誰にも相談できない家族間の秘密を抱えていました。何も詮索せずに子供らしく接してくれる雪弥たちが住む家は、眞白にとって温かい避難所となっていきます。そこは唯一、彼が安心して子供でいられる「家族」のような居場所だったから…。


本作はプレBL時代を経験済みの方々ならばそれほど抵抗はなかろうかと思いますが、ポストBL読者には地雷注意の呼びかけの方がレビューに相応しいのかな?それともさらに進んで、いにしえが逆に新しくって、こちらが今の基準値になってきているのかな??よくわかんないや笑

個人的には一周以上回ってきたテイストというか、えげつなく濃い自主映画を一本観たような満足感がありました。と同時にストーリーから受けた衝撃に打ちのめされてしばし放心状態。…ですが、読み終わった後に冒頭のシーンに戻ることで、希望が用意されているところに救われます。

些細な言葉の誤用には目を瞑らせてくれるほど、それを凌駕するエピソードシーンの紡ぎ方が秀逸です。一つひとつのエピソードに静かな説得力があり、どれも視覚的なワンシーンとしてわたしの心に刻みつけられています。その作者の筆力に唸りました。特に凝った言葉を使っているわけではないし、文章に目立ったクセはありません。ましてや文字数を割いているわけでもないのに、人物それぞれの複雑な心境がじわじわと沁みてくる。エピソードと同じく、キャラクターたちの思いを繋ぎ合わせる作業を読者に委ねてくれるのも嬉しいです。そうすることでしか見えてこない物語の余白部分こそが、小説を読む醍醐味ですから。個人的には濡れ場のシーンも素晴らしかった…。昏く退廃的なエロティシズムに溢れていて、どの交わりも何ひとつ物語から逸れるものが一切ない。

人の生死が関わってくるお話ですし、一部年齢設定が低過ぎるきらいがあるので、ほんと、地雷の方は興味本位で読まないでくださいね。フリじゃないですから。本気です!!


以下余談 *・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*

2019年ちるちる企画「腐っても不朽の名作100選」に参加した時に、ふゆの仁子先生の『深海魚たちのうた』を候補の一つとして回答させていただいたことがあります。本作を読了後、ふと思い出したのが、わたしの思うまさにその不朽の名作でした。もしかしたら、この作品が令和の名作としてどなたかの心に刺さることがあるのかも…、いや、是非なって欲しい!!と思わず願ってしまいました。同じ嗜好を分かち合える人だけに読んでいただきたい、宝物のような作品です。

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