シリーズ三冊目、マルヴァニー家長男アティカスのお話。事件のスケールがどんどん大きくなっていき、引き込まれる。ジェリコのために力を尽くすアティカスは、作中で言われていた通りまさに世界一献身的なサイコパス。良きカップルだった。
二人の出会いは殺人現場。ターゲットが被っていたという、シュールなシチュエーション。二人の仲が深まっていくと、ジェリコ視点で語られるアティカス像にも深みが増していく。特にサイコパスについての考察は興味深く、楽しく読んだ。
アティカスの能力といえる模倣について突き詰めていくとこは、今まで気付かなかった、もしくは隠していたアティカスの内面が暴かれていくようで、読み応えがあった。ジェリコがアティカスの特別になっていくのも分かる。
今作もやっぱり描かれる事件は残忍。そこに立ち向かうのはマルヴァニー家だけでなく、ジェリコ側の勢力と共闘してるのがとても良い。メインカプのバディ感もテンション上がる。カリオペのチート級能力やノアの頼もしさも良かった。
笑ったのは「~の方から来た者だ」という悪質な訪問販売みたいなフレーズを使ってたとこ。原文はどうなってるのか、確認したくなる。
気になるのはエイデンと父トーマスの関係の行方。原書ではシリーズ#7のメインカプになってるっぽいが、どうなるんだろう。エイデンの非サイコパス説も出てきて、面白くなりそう。期待大。
読後に改めてタイトルを見ると、「Moonstruck」になるほど、となる。サイコパスの解釈もキャラによっていろいろなのが印象的。次も楽しみ。(#3.5も翻訳されるのかな?)
化物と人間の短編三作。あらすじにあるTL要素は「化物物語」のことかな、化物の性別?を基準に考えると。他二本はたぶんBL。「先生と化物のものがたり」本編その後のメグルとチカの仲良さげな日常も見られて良かった。
【化物物語】
目が見えない瑞穂と、瑞穂の部屋に迷い込んだ化物・ゆうぐものお話。視点主の目が見えないので、残酷描写も音と匂いが伝わってくるだけ。正直読みやすくて助かった。それにしてもどこまでも叔父は胸糞だったが。
最後に瑞穂が選んだ道は結構衝撃(痛そうで……)。これも一つの純愛なのかな。
不思議だったのは、主人公は目が見えない中、何をもってゆうぐもを“化物”と認識したのか。幽霊や動物でなくバケモノと言う理由が気になった。
【幸せな化物と不幸せな少年の交換日記】
化物一家の末っ子あけぐもと、家でも外でも虐待される少年のお話。見た目が異形であるより、醜悪な心を持つ人間の方が、よほど化物だろうと示唆される。さくっとあっさり復讐が成され、即十年後になってしまうので、その間の外の世界がどうなったかが気になった。
【双子の蜘蛛と落ちぶれホスト】
化物一家の長男双子ひるくも・よるくもと、クズホストに成り果てたオウジのお話。本編にも出て来た三人で、元婚約者の業は深く、生まれ変わりであるオウジの中で未だ燻っていた模様。双子の独特の掛け合いが笑えて好き。
他二作は、人間が特定の化物に想いを寄せているのに対し、オウジは化物の“家”に惹かれているような。三作とも、ヒトが化物に救われるお話ではあって、所業はグロくとも中身は純粋に思える化物が魅力的。読後感も良く、面白かった。
ストーリーはとても好き。ただ、人の悪意に精神を削られるので、個人的には読む時を選ぶかも。できれば先生と化け物の幸せな日々をもっと見たかったな。最後はちょっと泣けてとても良かった。
前半のチカテルと先生はいつの時代に生きているのか不明だが、残虐さがシャレにならないレベルでしんどい。肉体的な傷めつけも酷いが、人の内面の醜悪さがキツい。やっと反撃した先生は、壊れたように見えてわりと冷静なのかな、と思った。
その後早々に輪廻転生の話に移り、生まれ変わりのメグルがメインに。こっちはこっちでイジメという、また人の悪意に晒される。ここまで周囲に精神的グロさを散りばめるのは、化け物の健気さを引き立たせるためなんだろうか。
最終的には物理攻撃になり、神やら何百年か前の婚約者やらが出てきて、もうめちゃくちゃ。構成も整っていないし、同人誌っぽくてとても好きな雰囲気だった。
二度目のハピエン後は即番外編でエロ突入。双子の妹づくりに励む描写は身体男女の絡みっぽい。正直見たかったのは、穏やかな日常を過ごす二人の姿。一度目もくっついてからの日々が描写されず、あっという間に死後のお話になって驚いた。
本編終了後は、チカは魂が同じってだけで百年単位で執着し続けた先生からメグルに気持ちを移せるのかな、と思っていた。が、先生が拒んだ提案を受け入れるメグルと、それに対し嬉しいとむせび泣くチカを見て、要らぬ心配だったと思った。
化け物といっても見た目が異形なだけで、可愛かった。ほっこりできる終わり方も好き。面白かった。
BLどうこうより、全体に流れる専業主婦の鬱憤晴らし創作のような空気が気になった。外で働くより年中無休の主婦業の方が大変で、それを家族が分かってくれて、という一つの理想が描かれているような。流行りのスカっと系がチラ付いた。
BL的には三角関係になるのかな。今のところ、どっちかを選ぶ雰囲気でもない感じで、三人で仲良し(?)。ファングとカインは全く違った魅力を持つ二人で、いろいろ美味しい。どっちも溺愛スパダリの素質アリアリっぽくて良い。
まだ一巻だからか、エロシーンはあっても恋愛面は進まない。相手役二人が告白してはいるけど、リンダからは恋愛感情が見えない。リンダは鈍感+難聴系主人公で、淫魔ながら初心に恥じらう姿が男はたまらんみたいな描写でキツかった。
好きだったのは、各キャラの行動原理や、その根拠となる背景が語られているとこ。メイン級は深くモブキャラは浅く、適度に説明されていて、Web系にしては珍しい。
また、魔獣を倒すべき理由が示されているのがとても良かった。当然のように森に入って魔獣を倒す話もよく見るが、生物を倒すなら理由くらい書いて欲しいと思う。一言あるのとないので印象が大違い。
ストーリーの軸は何なんだろう。聖騎士になりたいけどなれなかった、その理由が分かったから再度目指そうって話?現状は主婦業に勤しむリンダを肯定し、主婦業を下に見る人間は反省し、主婦業の過酷さに共感からの称賛という、都合の良い展開。
個人個人のキャラは好きだし、設定や流れは面白いと思う。でも苦手な描写も多く、BLで主婦業の大変さを主張されてもな、と思う。特定層の共感を集める、SNS上の妄想を見ているような居心地の悪さを感じた。
商業BLっぽくない雰囲気で引き込まれた。萌えは無く、注意書きが必要そうな要素が多く含まれるけど、私はとても好き。理解しなくても良い二人と割り切って読むと、作品世界にどっぷり浸かれて心地良い。面白かった。
二部構成で、前半は神谷視点で川辺との独特の関係が築き上げられ、その後別々の人生を送るまで。後半は神谷の息子視点で、父と子の関係構築と、再会した神谷と川辺のあれこれ。
強引に神谷との関係を始めた川辺は、踏まれて喜ぶマゾといった単純なものでなく、どこまで掘っても暗闇が見えてきそうなキャラ。背景にこれといった事情はなく、本人も理解されることを求めていないので、安心してそのままを受け取れる。
神谷は川辺に引きずられていったのかな。途中から躊躇なく川辺に暴力を振るうようになっていて驚いた。川辺に目を付けられるまでは、たぶんアブノーマルプレイやその相手にハマるなんて、考えたこともなさそう。
前半の終わり方は何とも言えない。流されやすい神谷は、川辺に言われた通り女性と結婚して子供を作り、それでも姿を消した川辺を探し続ける。結果的に子供を放置した神谷へのモヤモヤは、後半で継士自身がぶつけてくれて本当に良かった。
継士視点で二人の再会の経緯を知ると、やっぱり川辺のことは分からないと思う。そして神谷がどれくらい川辺のことを正確に分かっているのかも分からない。第三者視点で、こういう分からない人たちを覗き見る感じが、楽しかった。
リアルに考えたら胸糞なところがあるし、神谷を父親として見たら引っかかるところが色々出てくる。万人受けするタイプでもないが、作品として、私はとても好き。この二人だけの唯一無二の関係性が見られて、とても良かったと思う。
序盤は設定の気持ち悪さをスルー出来れば楽しめるかと思っていたら、ミラの背後に酷い思惑が見えてきて、かと思えば突如味方に囲まれるご都合展開に拍子抜け。ハラハラさせ続けた後に、何もせず障害が消えたような。解決パート雑すぎでは。
最初からキツかったのは、106歳が18歳に治療と言って性交に臨むところ。さらに何も教えないことで従順なマリオネットを作る人間の悪意まで見えてくる。ミラの背後から漂うこの不快感は、ずっと感じ続けることになるので、読書がしんどい。
ガートルードは、キャラ単体で見ればとても魅力的。不器用で言葉足らずでも弱気な誠実さがひしひしと伝わってくる。ただ、ミラ側が発する不穏な空気の中だと、ラブコメのむっつりキャラのような振る舞いは、作品トーンとちぐはぐに感じる。
ミラから察せられる、死に向かう切なさの方を強く受け取っていれば、BL重視で楽しめたのかな。それより、ベニーニ側の思惑への嫌悪感が強く、黒幕へのヘイトが溜まっていた。が、黒幕の処理はさらっと流されすっきりできない。
生贄にされるのはミラの内面描写から分かっていたが、物語終盤まで引っ張って王と兵が味方の顔してやってくるのは、さすがにお笑い展開。これまでミラが醸し出してきた悲壮感は何だったのかと虚しくなる。物語のチープ化に戸惑うしかない。
臣下に好き勝手される無能な王と、そのせいで無知な贄として育ったミラ。そんなものを見せられた後で、教訓めいた独白を長々聞かされても、すっと入ってこない。そんなことより、教育コントロールで性奴隷も簡単に作り出せるんだなあと思った。
作家買いだったけど、今回は物語の途中で複雑さを放棄したような、終盤で投げ出したような、妙な印象だった。最初からそうでなく、後半で緻密さを捨てたように感じるから違和感があるのだと思う。ルビー文庫だから仕方ないのかな。
心穏やかに読める作品だった。壮絶な生い立ちの少年が異世界から来た青年に助けられ、愛を知るお話。危ない目に遭うことはほぼ無く、ほのぼのした日常が続き、切なさはありつつ、わりとトントン拍子。たまに欲しくなるタイプの平和な作品。
湊の部屋の押し入れが異世界と繋がることから始まる。牢屋に繋がれたシドと過ごす日々、逃げ出して魔物退治に明け暮れるシドとの再会、お別れ後の決意の再会の三部構成っぽい。
基本は湊視点の一人称で、推しキャラであるシドと出会った湊の脳内がとにかく騒がしい。オタク口調でノリツッコミが激しく、なかなか慣れなかった。ストーリーがぽんぽん進むことはないので、この文章を楽しめるかは大事かも。
シドに接する湊はタイトル通りの溺愛ぶりで、生まれてからずっと酷い扱いを受けて来たシドにとって、必然的に唯一信用できる人間になっていく。パーソナルスペースに入れるのも安心して寝たり食べたりするのも、湊と一緒のときだけ。
すごく良かったのは、湊がそんなシドをどうにかしようと動いたとこ。生育環境による精神的な問題を察していて、自分以外とのコミュニケーションを促し、社会とつなげようとしている。これが明るく描かれているのが良い。
そして一度別れた二人は、湊は一年、シドは八年を経て再会。お別れの経緯に不穏な気配があったこともあり、シド視点で語られる八年の切なさがすごい。生き方・考え方に湊の影響が見られ、いつまでも待ち続けるシド。
最後はめちゃくちゃ焦らされた感。同じ世界にいてもなかなか会わない二人に、シドの片思いが続く二人に。で、長い時間をかけて恋人になったけど、個人的には恋愛部分より人間愛的な部分に何度も感動し、恋人を超える絆があると思った。
電子書き下ろしは、ずっと先の未来の話をする二人。湊が相変わらずなのが分かるオチで笑った。
ある意味斬新というか逆に新鮮というか。転生執事が前世知識で危機を全て回避して、波乱もないまま終わってしまってびっくり。終始心穏やかに読めるので、たまに読みたくなるかも。公爵の発する?擬音が印象的でとても好き。
階級社会に生きながら現代日本の価値観で他人と接する執事ユーインと、そんなユーインに惚れてしまった公爵クライド。ユーイン視点で見る様子のおかしな公爵が微笑ましく、気持ちがバレバレな感じがとても良かった。
たまに差し込まれるクライド視点は蛇足。ユーイン視点で描けなかったクライドの心理描写を補足するだけで、同じ出来事をなぞるわりに、大した発見もない。むしろユーイン視点のみの方がBLのワクワク感が増したように思う。
ストーリーは転生ものの前半でよくある、未来知識を使った危機回避。で、その後はセオリー通り記憶と未来がズレていくわけだが、ユーインの介入により好転していく方向の変化で、回避以前に危機そのものが訪れなくなるという。
俯瞰で見れば「介入しておくかな」とか言ってるユーインの手のひらの上っぽいが、本人は徐々に恋愛感情に振り回されるようになり、操っているつもりもない。最後の事件も殴って終わりで即解決、ヒヤっとする間もなく平和だった。
好きだったのはズモモモ公爵。“ズモモモ”だけで雰囲気が伝わるのは、漫画の功績だと思う。オノマトペの進化がすごい。クライドはキャラ的にも好感度が高く、不器用さに萌える。辛い話を読んだ後とかに欲しくなりそうな作品。
ストーリー自体は面白いと思う。ただ、主人公の行動原理となる妹のため、というのがどうにも共感できず。同じゲーム世界を生きるキャラたちより、ゲームプレイヤーの妹を優先する根拠が弱い気がした。
溺愛していた妹がプレイするゲーム世界に転生するお話。悪役令息を演じることで両親を悲しませると分かっていながら、自身の評判を落としていくルイ。画面の向こうで遊んでいるだけの妹の方が、その他大勢のキャラの人生より大事なの?と不思議。
裁判の場で罪人とされたルイが、裏で事情説明して簡単に無罪となり釈放されるのもなんだかなあ。画的に地味だし、裁判とは……と虚しくなる。結局はチェスターの権力ありきの解決で、無駄な自己犠牲を見せられた感。
分量的にも内容的にも、サクっと読めて軽く楽しめる作品。設定とかいろいろ考えたら負けなのかもしれない。無表情で一途なチェスターのキャラは好き。
素敵な表紙に惹かれて読んでみた。“愛の意味を見つけるまで”、“世界が愛を忘れたその先で”とアオリまくるあらすじから期待をすると、肩透かしを食う。獣人世界+オメガバースの、さくっと読める軽~いお話。
堅物トラ獣人のオズと、なぜか異世界から来たニンゲンのタクマ。二人のあれこれは、読者がオメガバースの設定を知っている前提の描写。キャラたちは何も知らず、説明もなく、読みながらこういうことだろうと推測する構造。
番契約とか発情の誘因とか、そもそもこれはオメガバの特徴なのかとか、オメガバ作品を通って来ていない読者には分からないのでは。まあ架空の二次性設定に正解があるかは知らんが。
キャラはメイン二人とも好感度高し。友人キャラも個性的で面白い。ストーリーはとても平和。一瞬冤罪事件なんかもあったが、私情バリバリで釈放、一応現行犯逮捕なのに良いのかそれで。もうちょい頑張って書いて欲しい、売り物にするなら。
種明かしのない読者頼みの仕様で、分かる人には分かる内輪で楽しむ作品。Webの無料公開作品ならこれで良いと思う。これを商業化したレーベルに★1を。