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表題作エスケープ

榎本渉・刑事・28歳
国枝・係長(キャリア警視)・33歳

あらすじ

12年前兄が殺された事件に蟠りを残したまま関係し、一度は別れた榎本と兄の友人国枝。今また刑事として、いわくつき部署11係(通称バラ)で再会した二人の前で、過去を彷彿させる連続バラバラ事件が発生!再会しても自分を拒まない彼の本心を測りかね榎本の迷いは深まり…。すれ違う二人の想いは…。
(カバー裏より)

作品情報

作品名
エスケープ
著者
谷崎泉 
イラスト
如月七生 
媒体
小説
出版社
成美堂出版
レーベル
クリスタル文庫
発売日
ISBN
9784415088518
3.9

(12)

(2)

萌々

(7)

(3)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
4
得点
47
評価数
12
平均
3.9 / 5
神率
16.7%

レビュー投稿数4

こんな作品が埋もれていたなんて!

表紙を見る限りではBLとはとても思えませんし、そういうシーンも他の谷崎作品と比べてもかなり少なめ。
ただ、そういうわかりやすいエロよりもじっくり読みたいという方にはかなりお勧めしたいです。
ハッキリ言って面白い!
エロにページを割かれないせいか、事件と登場人物たちの心情や行動を満足いく形で読めました。
谷崎作品は好きで読んでいる方だと思っていましたが、まだこんなのがあったのかと嬉しくなりました。

谷崎さんでは時々見られる、これは神視点の三人称かな?と思われます。
慣れないと誰視点?と思うこともありますが、こういったシリアス事件物で登場人物個々の感情が語られるような作品には合っています。
この作品は2003年発行ということですが、古いという感じはしませんでした。

**********************
攻めの榎本は体格に恵まれ、射撃ではオリンピック代表候補となった警察官で28歳。
SPへの転属を有望視されていたところに起きた発砲事件により、所轄から捜査一課11係(通称バラ)へ異動となりました。

受けは、11係の係長を務める警視の国枝。
穏やかな顔立ちは警察官には似つかわしくないものの、内面は物事を客観的に見られる冷静さを持つ33歳のキャリア。
榎本の兄の親友でした。
**********************

ドラマの『ケ○ゾク』を観たことのある方ですと、職場の想像がつきやすいのではないかと思います。
窓のないガラーンとした地下の資料室にデスクとか。
バラはいわゆる本庁の墓場で、特殊な事情により所轄等へ飛ばせない人間の行き着く先。
そんなわけで一癖も二癖もある人間ばかり在籍しているのですが、それがなんとも『これだぞ、驚け!』といった具合でない自然さが谷崎さんのうまさですね。

二年間関係を続けてきた二人が、五年前の国枝の転勤によって別れ、そして再び同じ職場で再会するというスタートなのですが、それは元恋人というような甘いものではありません。
彼らの二年間は恋人だとかセフレだとか、簡単な名前が付けられるものではありませんでした。
12年前に殺害された榎本の兄の事件が二人を結びつけ、蝕み、今の道を選ばせていましたので、二人の間にはつねに榎本の兄の影が付き纏っていたんですね。

今もクリスタル文庫さんてあるのかわかりませんが、フォントの感じがすごく読みやすいと感じました。
谷崎作品なのでけっこうセリフ以外(主要二人が無口なのも有り)の部分が上から下までビッシリなのですが、ギチギチな感じがしないんですよね。
こういうちょっとしたことで読みにくくてやめたりすることもあると思いますが、わたしは当たりだなあと思いました。
イラストは如月七生さんで、こちらも中身同様硬い(笑
今時の色気も可愛さもないですが、作品にはぴったりです。
他作家さんの作品を上げるのは反則かもしれませんが、わかりやすくお勧めするために少し。
かわい有美子さんの『光の雨』『Zwei』などが近い読み心地かなと。
谷崎さんの作品の中では『リセット』『真音』、『ファーストエッグ』の異色な部分を抜いた感じでしょうかね。

6

ココナッツ

渋茶さま

渋茶さま、こんにちは(*^^*)
わかりますー、わたしも前は積むとか考えられませんでした。
今は読みたいと思って注文したはずが、届いた時には別の物が読みたくなっていて…というスパイラル。
今年は積み本なくすぞ!と決意していたのに。渋茶さまもありそうですね、積み本が!(*^m^*)

ネットの中古書店で、送料合わせになにかないかなあと探していた時に発見しました(^^;;
この作品てもう新品は手に入らないようなので購入してみたのですが、出会いに感謝しております。
好みは色々かとは思いますが、中古に抵抗がないようでしたら再度お手にとってみてはいかがでしょう(*^^*)
大人の本でしたよ。

渋茶

うわ~、この本の発売当初に本屋で見た時、如月さんの絵に惹かれて興味はあったのに読まずに放置するのが怖くて買わずにいたんですよ~。
(今は買い押さえて積読として取っておくってのにすっかり慣れたのになぁ。)
今回のココナッツさんのレビューを読んで、なんであの時買っておかなかったんだ!!と今更になって後悔の念が…。

ココナッツさんは今回の本は谷崎さんの小説を追って発掘してきたのですよね?
さすがの行動力とスピードには毎回のレビューで感心するばかりです。

今まで読んだ中で1番の硬質小説。

好きなんですよ~、陰惨な事件+刑事ものって!
そこに自分が求めるのは、軟弱じゃない登場人物と文章なんですが。
しかし、この小説はソレどころじゃなくて、今までのBL刑事ものでは体験してこなかった、固!硬!堅!な甘さや萌えを感じさせないものでした!

萌はありませんと言うと語弊ありますが、簡単に文章から与えられるのではないです。
久し振りに会う諦めている男同士の隠している部分、バラバラ猟奇殺人事件にキャリアと左遷閑職刑事だから一緒にいる事も少なので、BLエンターティメントの安易さは1ミリも感じられないのは当然でしょう。
小さなエピソードや一瞬の言動から、読み手が自分でそこから見出さないと広がらないっていうのが本当だと思います。

渉が子供の頃から知っている渉の兄の友人としての国枝、
年頃もいった時に知った世間には憚られる兄と国枝の関係、
兄を事件で亡くした時の渉と国枝の繋がりと、抜け殻のままの淡々とした別れと、ページが進むと分ってきます。
渉には、渉と国枝の間に半透明な兄の亡霊がずっと見えていて、自身の国枝への欲と赦しに苛まれていた訳で。
刑事としての再会後のお互いの知らない振りは、演技じゃなく本心のままでやり過ごせてしまう程、離れていた2人。
小さく燻っている種火を、このまま異動までやり過ごしていれば良かったのだけど・・・
国枝は渉兄への決着、渉には国枝への葛藤と決着が、今回のバラバラ事件を介して綴られていくのです。

↑先のレビューの雀影さんの“ネタバレするわけにはいかない”のを受けて“やっちまった感”もあるのですが、小説からの静かな切ない雰囲気は、橘では出せないので、是非ご自分で味わって下さい。

イラストの如月七生先生の、黒が多い点描も男達の固い表情も、この文章にもの凄く合っています。
他の作品を見てみたら、別人かのように可愛かったりキレイだったり描かれているので、この小説に合わせたのが分かります。
文+画とも他とは異なる作品だと頷けます。
明るく可愛い作品が好きな方には勧めません、硬派好みの方に。

3

固ゆでたまごBL。

シリアスで骨太。これBLデスカ?って思うくらい新鮮でした。クライムサスペンス映画を観ているみたいな感覚で、一気に作品世界へ…。こういったタイプのBL、もっと読みたいなと思っています。

警察庁が舞台。通称「バラ」と呼ばれる11係に異動してきた榎本が、直属の上司・国枝を含む総勢6名の一員として、連続バラバラ殺人事件の捜査に加わっていくストーリー。なぜキャリア組だった国枝と若手有望株の榎本が左遷のような形で11係に配属されたのか。そもそも彼らが警察官となった動機とは…?事件の捜査と二人の過去が交錯します。

抑制を効かせた文章のせいか、人物の真意がなかなか見えてこない(見せてくれない?)んですけど、イライラさせない程度の焦らし加減が絶妙です。

ガッツリな濡場のシーンをあえて避け、攻めの回想シーンで触れられるその描写にメチャメチャ興奮しました。非常にストイックな関係性にある彼らの過去に一体どんなやりとりがあったのか、妄想せずにいられません。勤務中に二人が見せる、色気ダダ漏れの「ツン」に萌えまくりです。間接的な描写でエロスを彷彿とさせるのって、高度な技ではないでしょうか。

割と登場人物が多いし、時間軸は飛ぶし、殺人事件そのものも気になるしで、散漫な印象になるのではと思いきや、全くストレスなく読み終えました。各エピソードの内容をまとめてコンパクトにしている分、他のBL作品と比較すると物凄く文章の密度が高いと思います。みちっと詰まってる。

過去の喪失体験を乗り越えようともがく二人。彼らが長年抱いてきたそれぞれの思いに決着をつけるまでをハードボイルドタッチで描いた物語ですが、脇キャラに滲む人間味のあたたかさが、わたしには一際印象深かったです。

柏枝真郷先生のDESPERADOシリーズで一目ボレした、如月七生さんの挿絵が嬉しすぎました。

2

ちょっと、今時ない雰囲気

バラバラ殺人事件を追う、刑事さん達の話です。
主人公榎本は、ある事件がきっかけで、通称「バラ」という係に転属してきます。
榎本と、そこの係長・国枝とは過去に付き合っていたことがあって、、、

榎本と国枝が、なぜ付き合うようになって、なぜ別れてしまったかが、バラバラ殺人事件の捜査と絡み合うようにして解き明かされていくストーリー。
ネタバレするわけにはいかないので、内容に関してはほとんど書けることがない、、、

主人公達自身が、自分の感情より事件を追うことを優先しているので、直截なエロいシーンはほとんどありません(過去の回想にちょっとだけ)
特に国枝の方は、一切の自分の感情を抑え込んでいて、それでも、榎本を完全に拒むでもない。
榎本は、やはり、今でも国枝を愛する気持ちにはかわりがなく、それ故に、国枝の態度に混迷の度を深めていくのですが、、

二人の間の緊張感が、何とも言えないキリキリとしたエロさを醸し出していて、ちょっと類を見ない面白さでした。
最近、中古書店で、未読のクリスタル文庫を見かけるたびに買っているのは、こういう、エロよりストーリーを優先した、小説として面白い作品に当たる確率が高いから。
この本も「アタリ」でした。

6

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