愛しても、愛されてもいけない──

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表題作華の涙

材木商の息子 森谷一威(かずい)、帝大生
震災で家族を失った 毬村乙也

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

震災で家族を亡くした乙也は、売られた奉公先で暴行されそうになったところを、家の跡取りである一威に助けられる。一威の計らいで病に伏せる次男・文紀の世話係となり、恩に報いようと懸命に仕えた。しかし兄に異様な愛着を示す文紀に、自分の身代わりとして一威に抱かれろと命じられる。誠実でいつも優しく見守ってくれる一威に心を寄せていた乙也だったが、文紀の情念に操られるかのように彼を誘惑しようとした。軽蔑の眼差しで拒絶されても、服を脱いで一威の前に跪き──。
(出版社より)

作品情報

作品名
華の涙
著者
剛しいら 
イラスト
御園えりい 
媒体
小説
出版社
プランタン出版
レーベル
プラチナ文庫
発売日
ISBN
9784829624609
3

(4)

(0)

萌々

(1)

(2)

中立

(1)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
2
得点
11
評価数
4
平均
3 / 5
神率
0%

レビュー投稿数2

流転人生

転落、孤児、身分差、不憫、虐待、奉仕…そんなキーワードにピンときた方にオススメ。

時は大正時代。
美しい櫛やかんざしなど小間物の卸をやっている家の長男・乙也。
美しいものに囲まれて、優しい両親、可愛らしい妹たち、何不自由ない暮らし、今は高校生でこれから上の学校に進学をしようとしていたその時。
関東大震災が起きる…
自分は学校にいて助かるが、家族全員亡くなり家屋敷は焼け落ちて、焼け跡で呆然としていたら言葉巧みに人買いに連れて行かれて、材木商の森谷の家の下僕に売られてしまった…
…というところから始まる物語。
お坊ちゃんだった乙也が転落して、辛い境遇で悲惨な目に遭う。
森谷家には一威(かずい)という優しくて誠実な長男がいて、乙也は一威に仄かな恋心を描くが…
物語的には、不治の病で癇癪持ちの次男の文紀が実の兄の一威に執着していたり、文紀が自分の代わりに一威に抱かれるように仕向けたり、それでも乙也は文紀を大切に思って看病したり。その辺はドロドロ感は無くてどこか美しささえ感じさせます。
本気で乙也を愛しそうになった一威が乙也を手離して、震災で子を亡くした夫妻の養子に紹介し、遂に乙也は騙されて入った森谷の家から出ます。
その後乙也の運命は上向き、焼け落ちた実家跡に再び舶来雑貨の店を開き、経済的にも成功していきます。すると今度は逆に森谷家が転落し、一威が金策に駆け回ることに。
それを知った乙也は…
この乙也の行動は少し驚きでした。
しかし、その真意は以前と変わらず、健気で一途で純愛なのですよね。
可哀想な文紀は結局亡くなってフェードアウトしてしまうし、一威の性格付けが曖昧だったり、この後の2人がどう付き合っていくのか等が少し読み足りない気もしますが、つらい目にあった少年が愛を得るメロドラマ系作品として楽しみました。

0

人生良いことと悪いことは半分づつ

パラパラっと見るだけだったつもりが、一気にいってしまった本作。
関東大震災を始まりに、身売りされてしまった少年の不幸から下剋上チックなラストまで、結構引き込まれてしまいました。

学校にいたために震災の難を逃れた乙矢ですが、浅草で小間物屋を営む家は火事で燃え尽き、家族も皆亡くなってしまいます。
そこへ現れた父の従兄という島田という男に騙されて、深川の材木商・森谷に売られてしまうのです。
危うく男たちに乱暴されそうになったところを救ってくれたのが、長男で帝大1年の一威。
そこで初めてときめきというものを覚える乙矢。
乙矢と歳も近いということで、彼の弟で、病気の為離れにこもっている身体の不自由な文紀の世話役をするよう命じられます。
そんなある日、一威に華族の令嬢との婚約話が持ち上がり、乙矢が文紀の振りをして列席することに、その夜初めて一威にキスをされます。
ままならない身体と兄を愛する気持ちが強い文紀のいいなりになるしかない乙矢は、婚約を破談にする工作を文紀に言いつけられ、それを主の弟にとがめられて性的暴行をうけそうになるところを再び一威に見つかり・・・
しかし、一威の乙矢に向ける目は冷めたものでした。
文紀の病状は良くならず、そのうち乙矢に自分の代わりに一威に抱かれてきて、そのありさまを逐一報告しろと言いだします。
命令とはいえ、乙矢も一威が好きになっていたのでそれを遂行する乙矢。
しかし、それはお互いの愛の告白になり、つかの間の恋人になる二人。
そして、文紀の病状が悪化して入院することになった時に二人にも別れが訪れます。
・・・そして5年後、乙矢は養子に行った先で成功を収め裕福な商家の跡継ぎとして商売を賄っていますが、一威は身内の裏切りにより家業の破産の危機にありました。
偶然再会した二人ですが、乙矢の出した条件は、あまりにむごい申し出だったのです。

乙矢の健気さ、文紀の苦悩は特にひしひしと伝わってきます。
しかし一威の気持ちの変遷が、ほとんど感じられないのが残念な部分です。
どうして乙矢を好きになったのか、それは乙矢の行動で理解しろと言うのでしょうか?
またあまりに真っ当な青年として描かれていますので、乙矢に執着する背景もわかりずらいです。
ただ、弟文紀の存在が二人の介在役として重要だったので、その辺りがポイントになるのでしょう。

文紀は一体どんな病気だったのでしょうか?
彼は親からも見放され、ただ兄のみに執着することで生きていたような節がありますが、乙矢が懸命の介護をすることで乙矢を好きになってしまったのだと、そして乙矢になりたかったのだと、二重の愛を持った少年だったのですが、そこの設定がとてもよかったと思います。

この小説、文紀の存在価値はとても大きかったので助演男優賞ものであります。

2

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