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「夜明けには優しいキスを」のスピンオフで、病んでるDV男だったトラウマ持ちの
加瀬弘明が主人公の切なくて苦しいけれど、ラストは心がほっこりする作品です。
本当にこの作家さんは甘さのある切ない系を書かせたらぴか一さんだなと毎回思わせる。
前作でDV男だった加瀬は、典型的な心的外傷で、更に優しくしたい相手に解っていても
自分ではどうしようもない程の破壊衝動まで起こしてしまう心に闇を抱えてる。
前作では攻め様だった加藤ですが、今回は元ヤクザのパン屋さんに抱かれる側で登場。
その意外性も、今回の作品ではぴったりしていて、とても良かったですね。
不愛想で眼つきも悪くて、一見するとチンピラに見えるような受け様で、リストラされ
就活しているつなぎに、半分強制的な感じでパン屋の店主に丸め込まれるように
バイトを始める事になり、満足な会話も出来ない受け様が攻め様や店で共に働いている
女性とその子供との交流の中で、心の底から欲しいと思う相手を見つけ、
更にその相手の守るべき存在に嫉妬し、切なくて苦しい恋心や自分の心の中に巣食う
残忍な願望に嫌悪や恐怖を抱きながら苦しんでいる受け様の姿は苦しくて寂しくて
知らないうちに手を伸ばしたくなる雰囲気がありました。
そんな野生の野良猫みたいな受け様に手を差し伸べる攻め様もまた、心に傷を持ってる。
その後悔と贖罪の意味から一緒に店で働く女性と子供を守る事を誓っていて、
受け様に思いを告げられ、必死な感じで傍にいたいと言われても、恋愛的な意味で
応える事が出来ないとしながらも、受け様の側にいたいと言う願いは聞き入れる。
攻め様は自分の寂しさに気が付かないタイプでしたね。
受け様の執着じみた態度を見ていると、飼い主の後を着いて回りながらも、
しつこくして嫌われたらなんて怖さと戸惑いが見えて、誰かに構って欲しくて甘えたくて
でもそれが叶わない過去の受け様を感じて苦しくなるのです。
自分の異常性に怯え、欲しいものは手に入らないと諦めながらも必死で縋りつく、
そんな受け様が攻め様と出会えた事で、少しずつ心の平穏が訪れる。
シリアスだし、切なくて苦しいし、痛みも感じるけれど、いわゆる普通の幸せって
実は手に入れるのが本当は難しいことなんじゃないのかって思えるのです。
受け様の対比対象に出てくる野良猫や、無邪気な子供が重くなりがちな空気を
軽くしながら、読み終えるとほのぼのとした温かい余韻も感じる作品になっています。
捨てないで本棚に残す本になりそうなので、神評価にしました。
凪良ゆうさんの作品のなかでもっと優れている本は他にあるのかもしれないですが、自分にはこの本が、凪良作品のなかで一番再読率が高いだろうと思えるのです。すでに2回読んでるし。
カバーイラストの、グレーやセピアトーンの色合いが、せつなくしっとりとしたこのお話にあっていると思います。口絵もエロい場面でなく、腕枕で身を寄せ合う阿木と加瀬(と、猫)のシーン、というのがこの物語を象徴しているようです。レーターさん、GJ。
『夜明けには優しいキスを』で主人公を殴ってたDV男、加瀬(身長180センチオーバーの目つきの悪い受け…)が、同じように心に疵をおった、しかしこちらは幼い頃の辛さを笑ってしまえてる男、元ヤクザの阿木と出会い、やっと愛を得る物語。(あ、でもわたしは加瀬のエピソードをぜんぜん覚えていませんでした~)。
人との距離がとれない加瀬にすぐに共感でき、お話にはいりこめました。暗い性格のわたしにはぴったり(←自虐)。
加瀬がTVドラマを、人付き合いを学ぼうとマジメに見てるのが滑稽で、子供みたいで、哀しい。
餌が、ぬくもり欲しいのに、威嚇する猫を加瀬とダブらせてあります----ありがち…なのに陳腐と感じなかったのは腕だろうか。
阿木と出会えてよかったね、と素直に思えました。
子供もかわいかった。いじめられてるのにすごく素直。子供にたいしてもどう態度をとっていいかわからない加瀬が、動物園で肩車をしてやる場面はほっこりしました。
雨の日やなんかに気分が落ち込んでるようなとき、ひもとけばゆったりした気持ちになれそうです。
補足:後日、元気な日に読もうとしたら、加瀬の暗さをややウザく感じました…;
作家買いです。
凪良さんは「人の孤独」を書くのがとてもお上手な作家さまだと思います。
誰もが本当の一人ぼっちにはなりたくない。でもそうせざるを得ない事情や環境もあって。
受けである加瀬くんもそうです。彼の生育環境は最悪と言っていいほど悪く、そうした事情もあって彼は人に心を開くことができません。常に警戒しているため目つきも悪く、愛想も悪く、リストラされるという悪循環が繰り返されます。
そして無条件に愛される経験が少ないために、相手からの愛情を確認しないと不安でたまらない。ゆえに恋人にDVをしていた過去があります。個人的にDVは許し難い。どんな理由があろうとも人に暴力を振っていいわけがない。でも加瀬くんもそう理解していたんですね。自分から恋人に別れを告げます。唯一の大切なものだった恋人と相手のためにと別れた加瀬くんが、そして恋人と別れたあとかつての恋人に貰った黄色いシャツを唯一の心のよりどころにしている加瀬くんが、あまりに不憫で哀れで涙が出ました。
対して、ヤクザさながらの風貌ながらパン屋さんを経営している攻めの阿木さん。なぜパン屋さんをやっているのか、全くの他人である加瀬くんに親切にするのはなぜなのか。彼にも過去にどうしても消せない悲しい記憶があり、それゆえに加瀬くんに親切にするのですが。
このお話は「野良猫」がポイントになっています。人に裏切られ、痛めつけられ傷ついた気持ちを描写するのに「野良猫」を使っています。
人から、世間からはじき出されたノラネコ。
両親と死に別れ、親代わりになった親戚に虐待され続けた加瀬くん。
親に捨てられ人を信じることのできなかった阿木さんたち。
優しくされたい、信じていいのかわからない、でも愛してほしい。
警戒するノラが可哀想で、ついつい餌付けしているうちになつかれて、いつの間にか可愛くてたまらなくなってしまって。
そのキーワードを軸にとても上手に話が進んでいきます。最後の阿木さん視点の短編で黒猫に例えられている加瀬くんがとてもかわいらしかった。亭主関白ぶりたいのにしっかり尻に敷かれてる阿木さんにも爆笑。二人にはこれからずっと幸せでいてほしいと願ってやみません。
前作である「夜明けには優しいキスを」は未読ですが、そちらも読んでみたいと思います。
前作というか、スピン元というか、「夜明けには~」の内容はほとんど忘却の彼方だったんですが、全く問題ない。
この1冊だけでも、十分。
「夜明けには~」の感想を見返すと、加瀬を何とかして欲しい、加瀬の続きが読みたいって。
すっかり忘れていたけれど、待望の1冊だった訳で、
加瀬の物語は、とても幸せな結末を迎えて、
作者様に感謝です。
この本、他の方も言っていたけど、葛西さんのイラストがすごくいい。
甘さと、エロを排した、陰りある絵。
シャツを膝に抱える加瀬、
加瀬の肩の上で歯を剥く猫。
加瀬と猫と阿木以外はまったく描かれていないことも。
皆さん、軒並み「神」評価なんで、私も一緒になって「神」じゃなくてもって、天の邪鬼な心が一瞬頭を擡げたけど、葛西さんのイラストに萌+で、やっぱり「神」
リストラされて途方に暮れていたところ攻めに声をかけられて小さなパン屋さんでアルバイトをすることになった受けと、強面だけど優しい攻めの話。
この受けの加瀬くんがとにかく読者を泣かせにきます。
凪良ゆうさんは「愛情や他人のぬくもりに飢えた居場所のない寂しいひと」を描くのがとても上手い作家さんだと個人的に思っているのですが、加瀬くんが阿木さんとのコミュニケーションを通じて悩んだり立ち止まったりしながらも少しずつ成長して居場所を得ていく過程がたまらなく愛しかったです。