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表題作彼の楽園

従兄 製薬会社研究員 悦司
従弟 製薬会社勤務 文彦

同時収録作品まだ見ぬ夢の

隆裕 中学生 受とは幼馴染で一途に想う
祐一 幼馴染みのイギリス人ハーフの大学生 攻の兄の恋人

あらすじ

少年の頃から、兄弟のように一緒に暮らしてきた従兄弟どうしの悦司と文彦。15歳の夏、未成熟な文彦の躯をむりやり押さえつけて抱いた、悦司は―少しずつ変わっていった…。いま、悦司の設けた悲しい楽園に閉じこめられて、文彦は初めて彼の狂気に似た愛を知る…。表題作ほか、年上の幼なじみへの狂おしい想いが、少年に不思議な力をあたえる―ちょっぴりファンタジックで、せつない物語「まだ見ぬ夢の」(書き下ろし)を収録。

作品情報

作品名
彼の楽園
著者
菅野彰 
イラスト
今市子 
媒体
小説
出版社
二見書房
レーベル
Charade books
発売日
ISBN
9784576950655
3.8

(5)

(1)

萌々

(3)

(0)

中立

(1)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
1
得点
18
評価数
5
平均
3.8 / 5
神率
20%

レビュー投稿数1

初期のシリアス作品

表題作と「まだ見ぬ夢の」の二編収録されています。作者様の耽美寄りな作品と今市子さんのイラストは究極の組み合わせですね…。

表題作は、従兄弟同士による監禁愛。今読むとヤンデレです。密室で攻めが見せる静かな狂気と、彼に支配される受けの関係性は、やるせないのになぜか幻惑されそうになる危うい美しさを孕んでいます。舞台がベルリンの壁崩壊前の西ドイツなのも非現実性を引きてているのかもしれません。

悦司と文彦はいとこ同士。

幼くして母親に捨てられた悦司は、文彦と兄弟のように育てられました。傷付きながらも強がる悦司の悲しみに寄り添う文彦でしたが、思春期を迎えると悦司は変わっていきます。荒んだ心を持て余した彼は、自分を憐れむような文彦にまるで罰を与えるかのように、彼を凌辱するのです。

成人して西ドイツにある同じ製薬会社に勤務していた二人。短い休暇を一緒に過ごそうと、悦司は新しく購入したリゾートマンションへ文彦を招待します。

なにもかも文彦を閉じ込めるためだけにしつらえた部屋の中で、日中は姿を消し、夜は部屋に戻り文彦を抱く悦司。外に一歩も出してもらえず、日にちの感覚すら失われていく文彦は正気を失いかけますが…

悦司が文彦を閉じ込める前は暴力的に文彦を抱いていたようなので、これはもうDV共依存的な関係そのものです。

愛を知らない人に愛を伝える難しさ、痛ましさを感じました。監禁するほどの独占欲も、一方的に憐れむことも、エゴなのではないか。相手に自由を与えられないのなら、愛とはいえないのではないか…?

どうも、文彦の父親と悦司の母親の関係も怪しいんです。兄妹の間で確執がありそうなのですが、愛憎のようなものが仄めかされています。…耽美ですね。

終わり方がこれぞメリバ!といった感じなのに夢のような美しさしか印象に残らないのは、イラストの力が大きいと思います。

もう一つのお話「まだ見ぬ夢の」は、表題作よりも尺が長めのファンタジー要素を含んだもの。こちらは父親同士が親友の幼馴染みもので、14歳の隆裕が5歳年上の祐一へ向ける切ない片思いが描かれています。

祐一は隆裕の兄・和行と恋人同士。なのに、和行は祐一を残してイギリスに留学してしまいます。その間、祐一は自分を束縛する父親から逃げるように家を出て、知り合いのつてで間借りした部屋で和行から連絡を待ち続けていました。

隆裕は、心細そうにしている祐一の助けになりたくても、何の力にもなれない自分の不甲斐なさに苛立ちます。ところが、祐一のいる部屋を訪れた日の帰り、転んで怪我をした隆裕に声を掛けてきた女から不思議ないい伝えを教えられて…

和ファンタジーです。タイトルにも雰囲気がよーくでていて、とても幻想的なんですよね。家出した祐一の格好が、とうに卒業した高校の制服みたいだったり、彼が間借りしている部屋が橋を渡った向こう側に位置していたり、彼岸のにおいがプンプンするところもゾワっとする。

早く大人になりたかった少年の願望は本当に叶えられたのか、ただの妄想だったのか…。そして、あの出来事は10年後の隆裕にとって幸福な思い出となったのか、それとも罪悪感しか残らなかったのか…とても気になるところです。

隆裕からしたら苦い結末にはなりますが、祐一の方はハッピーエンドに向かっていくので、このお話もメリバといえるかもしれません。

BLというより、文芸寄りの作品です。とにかくイラストとの至高コラボが神!

それと、傷口に入った異物を口で吸い出すシーンが両方のお話にでてくるのですが、ぼやかした濡れ場よりも一層官能的で、ドキリとさせられます。

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