本格江戸BLの5巻です。
今回は、かつての火消し仲間と再会した万次さんが、過去と向き合う話です。ずっと避けていた実家にお百を連れて帰った万次さんは、父親に三つのけじめをつけると宣言します。
というシリアス展開なので、ももまんにしてはエロがやや少なめ。登場人物たちの会話から、江戸時代の人々には男色がどの様に受け止められていたのかが語られます。
現代では、江戸時代の人々は性に奔放で同性愛にも寛容だったかの様に言われることもありますが、やっぱり封建時代がそんなにフリーダムな訳もなく、万次さんとお百の関係性はどこまでもイレギュラーで受け入れられ難いものだったのです。
世間の白い目を承知で、ただ普通の夫婦の様に暮らしたいと素朴に願う二人。一見先のことなど考えないその日暮らしをしている様に見える彼らが、初めて将来のビジョンについて語ります。
果たして彼らの夢は叶うのか。次巻も楽しみですが、その前に、千と兆さんが主人公のお話になるらしいですね。
ほんわかした表紙ですが、中身は重症ガチ兄弟BLです。
本書を読む上で注意しなくてはならないのは、いわゆる「グルーミング」と呼ばれる性的虐待の手口を想起させる表現があることです。そういったことにトラウマがある方は、無理に読まない方がいいと思います。
兄のユキと弟のオミは、二人暮らし。ユキは交通事故の原因で記憶障害を患い、高校生なのに小学生のような知能と精神を持っており、そんな兄をユキが世話しつつ、無知につけこんで性的関係を持っている。有り体にいえばそういう話です。
見た目・精神ともに実年齢にそぐわぬ幼さの兄とは対照的に、逞しい体を持ちしっかり者のオミなのですが、兄の事を「にーに」と呼び、異常な執着心でもって束縛しています。
ストーリーと設定はグロテスクなのですが、絵柄がとても可愛くて清潔感があるのと、脇役達の倫理観がしっかりしているので安心感があり、スルスル読めてしまいました。
作中の台詞にもあるのですが、男同士の兄弟が裏で愛し合っていようが性行為をしていようが、子供が出来る訳でもないし、何ら問題がないと言われれば、反論し難いです。しかし、そういった後ろ暗い関係性に溺れる心理にはやっぱりなんと言うか不健康なところがあるように見えます。
しっかりしていつつも、年下らしい頑是なさで兄に迫るオミ。一方で、自分の欲が弟を正しい道から外し傷付ける事を畏れ、何が弟にとって最適なのかと葛藤し続けるユキ。
歪んでいるようでいて、互いにきょうだいを愛する気持ちは真っ直ぐであるということに心打たれました。
創作の世界にも現実同等の倫理道徳観を要求するのが当たり前の昨今ですが、想像の中では時に道を外れてもいいじゃない、と思う方におすすめです。
長野まゆみ先生の初期作品です。最近は青年同士のBLの様なものやミステリーが多い長野作品ですが、本作品は古きよき少年愛・耽美系の長野作品です。
三つの短編「白薇童子」「鬼茨」「蛍火夜話」が収録されています。どれも大人のお伽噺的な作品です。お伽噺が元は寝所で語られる寝物語であるならば、正統派のお伽噺といっていいのかもしれません。要は、すごくエロスでした!!
「白薇童子」
貴族の少年が父の代わりに母の敵である夜叉・白薇童子に仇討ちしようとする話。白薇童子の部下である女狐視点の物語です。ユーモアがあり、登場人物の掛け合いにはフフッとなります。
「鬼茨」
武家の少年と能楽師の子が、過失から帝の縁者・蜜法師に呼び出され酷い目に遭わされる話。残酷でありながら背徳的な色気があります。高畠華宵の描いた、緊縛された南蛮小僧の図に萌える人向けです。
「螢火夜話」
将軍家の嫡男として生まれた双子の兄弟。しかし世継ぎは二人も要らないということで、侍女の苅安は双子のうちの一人を人知れず始末するよう命じられます。ところが苅安は預かった緑児に情が湧いてしまい……。というよくある貴種流離譚と見せかけて、ラストは思わぬ展開に。
本書が発表されたのが1994年と、今ほどモラルに煩くなかった時代なのもあり、倫理道徳?なにそれ美味しいの? といわんばかりの突き抜け感。官能と無性別的な少年の美しさを極めています。なので、物語にも現実のモラルや常識を持ち込まないと気が済まない方には絶望的に合いません。現実と空想の区別をきっぱりつけられる方のみお楽しみください。
※めちゃめちゃネタバレします。これから読もうと思ってる人向けの感想ではありません。
深夜の公園で「後輩」の恋愛相談を聴いている「先輩」という、全く同じ漫画のラスト違い。
Aがバドエンバージョン、Bがハピエンバージョンに見えますが……。
もしかして、「後輩」が亡くなるエンド・後輩が生存しているエンド、という二つのif世界を描いた作品なのではなく、両者共に亡くなっているが結末はちょっと違うという話なのでしょうか?
Aのラストでは、「後輩」は明らかに幽霊なのですが、一方「先輩」も幽霊なのではないかと。というのも、ラストシーンで「先輩」は裸足で黒猫と共に星の橋を渡っていくからです。
一方、Bでは「先輩」ちゃんと靴を履いています。
「後輩」は無事「先輩」と仲直りして……もしかすると「後輩」が帰らず引き返して「先輩」に謝ったことにより運命が変わったように思えます。
ところが気になるのが、AとBでの「後輩」の台詞の微妙な違いです。
A「それとも、来世で結、」
B「……それとも、来世まで結婚する?」
世とでの間に「ま」が挟まるだけで意味が大きく違って見えるような?
「来世で結婚する?」は、もちろん、今世では結婚出来ないという意味ですよね。結婚する前に死が二人を別れ別れにしたからです。
一方、「来世まで結婚する?」の場合は二通りに解釈できるかなと思うのです。
①死が二人を別つまで一緒にいたい。
②(俺らもう死んでるので)生まれ変わる時が来るまで一緒にいたい。
ちなみに②の場合、もしかすると「先輩」は死んでいないという解釈もありかもしれませんが。
この台詞の違いを私は②と解釈し、二人とも亡くなっているものとし、Aは「先輩」が「後輩」を殺してやりたいと思ってしまったことを悔やんでいるというパターン、Bは「後輩」が「先輩」に素直に想いを伝えたため、二人は死後の世界で幸せになったパターン、と考えました。
また、Bのラストの「先輩」の一言も気になるポイントでした。
「朝までぶっ殺す!」
ただのギャグにも見えるけど、Aで後悔してい
る様子だった「先輩」とはうって変わって豪快に「ぶっ殺す」と言っている「先輩」。彼は他の場面では、
「殺したら殺せなくなんだろ」
と言っています。死んだらそれ以上死ぬことはないから、罪悪感なく「ぶっ殺す」と言えるのかなあと。絶対不可能だから冗談となる、ということです。
うーん、捻らず読んで、「後輩」死亡ルートと「後輩」生存ルートの二つのif世界と読んだ方がいいのかなぁ。私の深読みしすぎでしょうか?
ともあれ、大切な人に対してでも殺したいとか死ねばいいのにとか思うことはあるものです。
しかし、それを口にしたり、あるいはただ思ったりしただけでも、もしも現実に大切な人が死んでしまったら、いくら後悔しても足りないですよね。たとえ大切な人を死に至らしめたものが、自分の思いとは全く関係ないものだったとしても。
冒頭の主人公・飛馬はちょっと変わった子なのですが、親友? の海東は輪をかけた変人ぶり。
高校時代から、海東は飛馬のことがとても好きなのですが、大胆にも飛馬にキスをねだりめちゃめちゃチュッチュしまくる癖に、飛馬と一生付き合えないと思い込んでいます。
いやいやいや、全然気の無さそうなノンケの友達にキスをする方が勇気要ると思うけど、何故そんな頑なに告白しないのか? それでいて、飛馬に彼女が出来たら祝福する気は大いにあるというのは……訳がわからないw
そんな海東の不思議くんっぷりに中盤まで惑わされたので、終盤になってやっと想いが通じたあとは、もしや一生ぶんの幸せを使い果たして、階段か崖を踏み外して悲劇エンドになるのではないかと、びびり散らかしました。
そんなオチにならなくて良かったです。続編も読みます。
久慈家が取り壊され、それぞれ別の部屋に引っ越した久慈と吾妻ですが、従前どおりの付き合いを続けています。疎遠になるどころか、都内マンションの狭さが二人の距離感を近づけている感もあります。
相変わらず付き合うとか何とか関係性にけじめは着けない彼ら。しかし吾妻には心境を変えさせるような悲しい出来事やモヤモヤするような出来事が起こるのでした。
ゲイであることで、好きな人から好かれる可能性を最初から断たれている。それが吾妻が自分を好きでいてくれる人が好きと思う理由であり、自暴自棄気味な恋愛を繰り返す原因なのでした。
しかし、身近な人の死やライバル?の出現により、人の命の儚さや気持ちの移ろい易さに思いを馳せた吾妻は、ついに一歩踏み出します。
吾妻流の告白ならぬ「報告」とそれを受け止める久慈のやりとりが最高に萌えるやつでした!
また、おまけ漫画の湿気で髪がうねうねな久慈に胸キュンしてしまう吾妻の話には読んでるこちらも胸キュンです。4巻は久慈の意外にかわいい一面も垣間見えてよかったです。
(『白いひつじ』の加筆修正作品が『いい部屋あります。』です)
田舎から大学進学の為に東京に出て来た男の子が、アパート探しに苦戦した果てに紹介された格安男子寮。ところが先住者の先輩たちは揃いも揃ってくせ者だらけで……。
と、大人っぽい先輩たちに初心な一年生が翻弄される話かと思いきや、パンを齧りながらやってきた百合子の登場から、ストーリーは思わぬ方向に舵を切るのでした。
~ここからめちゃめちゃネタバレするので、まっさらな気持ちで読みたい方は、以下は読まないでください☆~
ていうか、主人公がパン食いながら「いっけなーい! 遅刻遅刻!」って走って曲がり角を曲がったらイケメンにぶつかるというあるあるじゃなくて、イケメンの方がパンくわえて走ってくるのかぁ……。絶妙に斬新だなぁ。くわえてるのクロワッサンなのがそこはかとなく上流階級の匂い。しかも食べるときの仕草がなんかエッチだ。
と、いやに印象的な百合子の初登場シーンに呆気に取られてしまったのですが、この時の百合子はまだ、長野作品にはよくいるタイプのイケメンといった感じだったのです。
なので、終盤で謎が全て明らかになったとき衝撃だったのでした。
び、BLだぁー!!
長野ワールドの住人がちゃんとBLしとる!!!
ツンデレな攻め様(仮)だった百合子。そんなことの何が驚きなの? って感じですが、長野ワールドではちゃんとBLしてるキャラとかカプとかは意外とレアなのでした。
しかも、攻め(仮)は大体思わせぶりな態度で受け(仮)を振り回し、最後までほのめかし程度で終わりがちなのですが、本作は珍しく攻めが受けのことを脇目も振らずに熱烈に好きでもう絶対離さない! というテンションでBL的に丸くおさまりまし……あ、いや今回は受け(仮)の鳥貝くんの気持ちが曖昧模糊なままだったぁー。
ともあれ、ツンデレ熱烈溺愛執着麗しの野蛮人攻め(仮)という長野作品においては稀有なキャラが拝めてしまいます。
恋に狂うと大ばかになるタイプの攻め様がお好きな方におすすめです。
前情報無しで読んだら「えっ」ってなりました。えっ、ホラー? 逢魔が時って、そういう……?
タイトルの後半部分が「花屋で会いましょう」で、私はその部分にばかり注目してしまい、「逢魔が時の」の不穏さをスルーしてしまったんですね。よく見れば、表紙の赤いリボンも滴り落ちる血みたいでした。
ホラーBLですが、マジもんのホラーほどは怖くなかったです。一番怖かったのは、冒頭の蘇芳の初登場シーンです。こんな禍々しい登場のしかたをする攻め様っている!?(いなくはない。) てっきりこの人が怪奇現象かと思いました。
のっけからビビりましたが、中身はホラー系ヒューマンドラマといった感じで、BL部分以外のストーリーも面白かったです。
BL部分はというと、溺愛で甘々な感じ。両片想いからの相思相愛で、受けの遠野が蘇芳に甘え過ぎてはいけないかもと葛藤するけど、結局欲望に負けるところが、ほほえましくて良いです。