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エキスパートレビューアー2023

女性Sakura0904さん

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深潭回廊 4 コミック

永井三郎 

どんな方法で償ったって、奪われる前の人間に戻れることはないのだ

 BLを読んでいると好いた相手以外の男に無体を働かれるシーンというのは多々目にすることになるわけですが、大概はその後本命の彼に救われたり、慰められたり、ハピエンへの布石になることが決まっているから私たちはさほどしんどい思いをせずに済むし、なんならメイン2人の絆の強さを感じたいがため、そういうシーンがあって欲しいと望んでしまうことすらありますね。

 しかし、そういうハピエンが用意されていない行為というのも実際には多々ある。ただ蹂躙されるだけの彼らに向き合うことは、普段前述のようなシーンを望んでしまう我々読者にもしんどいものがあります。それとこれとは別、でしょうか。本当に? 分からなくなってきました。自分は何かを奪われたのだ、と思いたくないから自分の方から仕掛ける、お金をせびることを覚えたという渚の言葉に、誰かの性を消費する行為の本質を改めて突き付けられた気分です。だからそういうシーンを描いてはいけない、求めてはいけないということではなく、創作の中で非現実として楽しむ私も、一方でこういう現実世界が常に存在していることをけっして忘れてはならない、と思いました。

愛する人を理解するということ

 素晴らしい結末でした。瀬乃の幼少期がどんなものだったかが明かされ、彼がなぜこうまで執事として生きることに頑ななのか、伊勢崎も読者も納得させられることになります。やはり一番の要因は父親。親の与えるものが世界のすべて、というくらいの小さい頃からあれだけ徹底的に厳格に仕込まれていたら、心が凝り固まってしまうのも仕方ないとしか言いようがありません。今まで常に他人の欲求を叶えるために動いてきた人間には、自分の欲求を口にするのも、他人の幸せに自分を組み込むことを考えるのも相当困難なことでしょう。

 そんな瀬乃の過去を聞いて、伊勢崎はアプローチ方法を変えました。長年刷り込まれてきた執事としての生き方、考え方はもはや瀬乃とは切っても切れないものだし、そのために彼は不幸なのかというと、そのお陰で伊勢崎とも出会い、仕えるという形で一番近くで共に歩んできたわけで、伊勢崎にとっても瀬乃にとっても、その積み重ねてきた時間はかけがえのないもの。伊勢崎は瀬乃を執事のまま、恋人として迎えます。瀬乃の大切にしているものをこれ以上捨てさせないという伊勢崎の新しく芽生えた気持ちに、ああ、この人はこんなに深く瀬乃を愛しているのだなぁと。瀬乃の伊勢崎に対して畏れ多いという気持ちはそう簡単にはなくなりません。けれど、これからずっと傍にいるのだから、また長い時間をかけて愛を伝えていくという伊勢崎の根気強さに胸を打たれました。

情熱的に好かれていると分かっているのに

 2巻は伊勢崎の可愛らしさがちょくちょく顔を覗かせるのが魅力かなと思います。1巻ではΩの遊び相手と夜な夜な戯れ、怪しげなクラブにも出入りし、真面目さとは程遠い顔を見せていた伊勢崎。でも、彼の瀬乃に対する感情は実はとても素朴な愛。濡れ場では玩具も使うし、瀬乃を好き勝手に開発してきたわけですが、本人に特別SM趣味があるわけでもなく、性癖は一般的なもの。彼はたとえセックスしなくても、瀬乃とお祭りに行ったり家で映画を一緒に観たりするだけで十分満足なんです。ただ、瀬乃が心から自分の恋人になることを望んでいるだけなんですね。

 そして、それが2人の関係においては最も難しいこと。幼い頃から執事としてのあり方を徹底的に教え込まれた瀬乃にとって、主人である伊勢崎の言動はもちろん大きな力を持っているけれど、それ以上に執事の師である父親の発言力は大きくて。伊勢崎が良しとするなら許されてしまいたい、けれど、父親に執事の役目を持ち出されると、やはり甘えるわけにはいかない気がしてしまう。Ωと違って子が産めないこともその考えに拍車をかける。伊勢崎の自分に対する感情が遊びや気まぐれではないことはもう十分理解した上で、再び執事に戻る選択をした瀬乃の苦悩は描かれていませんでしたが、その後の彼らしからぬ不安定さから見て取れますね。難儀な出会い方をしてしまった2人が、平凡な恋人として隣にいられる日々を3巻で見れることを期待しています。

一旦は受けを外で遊ばせていた攻めに滾る

 煌びやかな上流階級の世界と広大な屋敷が舞台でかなり非日常的な雰囲気が漂いますが、メイン2人の関係性にとてもそそられ、オメガバースの中でも個人的にかなり上位に食い込んできた作品でした。α×βということで、もちろんΩ化もせずβはあくまでβらしく、Ωを羨みながら普段はまったく綻びのないお堅い執事を貫く瀬乃が、β受けとして素晴らしかったです。

 そしてそんな彼の、最近性的興奮に陥りやすく後ろが疼いてしまうという体の変化に、ちゃんと理由があったのが何より萌えるポイントでした。受けが快楽に弱いのはもはやデフォルトで装備された体質だ、生まれつきだ、攻めに触れられたら勝手に蕩けるもんだという作品が数多ある中、いやいや蕩けやすい体をつくるには手間暇かかるんだぞ、と示してくれるこの作品はすごく貴重ではないでしょうか。その理由である、伊勢崎が密かにうず高く積み上げてきた特大の執着心がまた最高の萌えを提供してくれました。好き嫌い分かれる所だと思いますが、2人とも不特定多数と性的関係があったのもファンタジーな世界とバランスをとる現実味となっていますし、本命との関係へのスパイスとなるので私は好きです。続きがとっても楽しみです。

もっとぶっ飛んでくれていいのよ

 萌2に近い萌評価。職場の先輩と後輩の関係性で後輩側がぐいぐい事を進めていくラブコメで、新幹線もびっくりのスピード婚には笑ってしまいました。ただ、問答無用というわけでもなく、酒に酔っていたとはいえ一応相手の同意は得ていますし、本気で廣戸川が拒絶したらきっと踏み留まる理性はあるタイプ。その場合はまたじっくり時間をかけて、廣戸川の心を搦め捕っていったことでしょう。そうはならずにトントン拍子で進んでいったのは、なんだかんだ廣戸川も最初から嫌な気はしなかったんだろうなぁと。個人的には濡れ場などでもう少し工藤の箍が外れたところも見れると嬉しかったですが、テンポもバランスも良い作品でした。

きっと遠恋でも2人なら大丈夫だったよ

 2巻を読んで、改めていろいろな面で貴重な作品だなと思いました。まずは菊池。体格も瀬戸と変わらず、口調も仕草もザ・男の子。性格も大らかで中性的な所がまったくない彼が受けというのが、イマドキのBLではかなり珍しいと思うんです。そんな彼を、こちらも菊池と比べればクールに映りますが、素朴な雰囲気もある瀬戸が時折愛おしそうな目で見つめるのがたまらない。そして、高校生ものにしては勢いやキラキラ感、好意の暴走みたいな描写も少ないすよね。2人のやりとりはあくまで男子高校生らしく、BLファンタジーで飾らずともちゃんと萌えさせてくれるみーち先生の観察力がすごいなと思いました。

 高3ということで、進路に悩む2人。大学進学からは一気に考えなければならないことが増えますよね。実家からの距離、私立か公立か、親の収入、奨学金、学部、就きたい職業、学力、下宿先、そして、恋人がいる場合、環境の変化に対して相手とどう向き合うのか。お互い受けたい学部で近い大学があったのはラッキーでしたね。でも、運だけじゃなく菊池が本気で頑張ったからこそ、掴み取れた未来です。錦川は自分の満たされなさからつい子供にちょっかいをかけたくなる、根が悪いわけではない大人なんでしょうね。最終的には2人の幸せに貢献してくれましたから、彼にもいい人ができるよう応援しています。

一生という言葉ももう似合うね

 両片想いが微妙に拗れたまま、親友の関係性を続ける2人の様子が読者からするともどかしいけれど、椿が嫌なことはしないと誓った蓮の変わりように真剣さを感じました。嫌がるといってもそれは、友達という関係でそれ以上のような行為をされるのが蓮を好きな椿からしてみれば辛いということだと思うので、恋人になってしまえば蓮は多少かつての積極性を取り戻しても問題なさそうではあるけれど。それはおいおい分かっていくことでしょうね。椿が蓮の気持ちをやっと信じてくれたのも嬉しいし、デートで2人とも緊張したりしているのが可愛いなぁと微笑ましい気持ちになれました。

どちらの気持ちも分かる

 親友から恋人になるのって難しいよね、という高校生もの。椿は蓮の恋愛的好意をまったく信用していないようですが、告白されてから相手のことをそういう目で意識し始めて、実際に相手に恋をしてしまうことは往々にしてありますよね。告白されなければそんな気も起こらなかったといえば、確かにすぐ立ち消えてしまいそうな頼りない気持ちに思えるかもしれない。ずるいと感じるかもしれない。それでも、恋の始まりはこうでなければなんて決まりはないので、始まったんだと自覚したなら蓮には臆せず突き進んでほしいと思います。テンポも良く笑えるシーンもたくさんありましたが、片方が告白した後の関係の崩れ方の描写は割とリアルに描かれていたんじゃないでしょうか。

是非茶屋に馴染んでいくこれからの2人を

 こふで先生の美麗な絵で、また新しい江戸の物語を読めてとても嬉しいです。一度儚い蜜月を過ごした後、7年も離れていて再会した2人。忘れられない、と探し続けた寅次の根気強さをまずは称えたいですね。八重辰の方からはどうしたって距離が縮まらなかったでしょうから。

 いざ再会してみれば八重辰の素性は、高級料理茶屋の若旦那で、娘もいてと1人でいろいろ背負っている人。今までの人生、大事なものと向き合うのが怖くなると、逃げ続けてきた自覚がある。でもこんな人間ごまんといますよね。自覚していて何か1つでも改善を、と自分を変えようとしただけ偉いと思う。今の茶屋の皆に幸せを願われているのは、彼が凄まじい努力を重ねてきた証でしょう。手先も生き方も不器用な彼を、心根も言葉も江戸の男らしく真っ直ぐな寅次が今度こそ捕まえるのは必然。茶屋の皆に背中を押されてではあったけれど、八重辰がきちんと本心を言葉にできたことが嬉しいです。重荷としてではなく、生きる喜びとなる大事なものが、八重辰のなかでこれから増えていくことを祈ります。

いろんな意味で高度なDom/Sub

 読み始めた時はすごく期待値が高かったのですが、なんとなくずっと燻っている感じで萌えきれないというか、すごく惜しいなぁというのが正直な感想です。ハードなSMプレイにもまったく抵抗はないですし、Dom/Subにもそこそこ慣れてきたつもりです。ただ、充という攻めが自分が萌えるにはかなり難しいキャラだったなぁと思います。

 ノーマルとDom性の間で揺れ、葛藤し続けていた充。Dom/Subでは性が変わるキャラはまだ珍しいですよね。常にSubを支配し続ける強いDomではなく、不安定で頼りなさを見せるDom性を秘めたキャラが攻めというのが、この作品の1つの魅力。でも、ノーマルとDomの充があまりにも乖離していて、もはや私には同一人物と認識するのが困難でした。多重人格という病気は実際ありますし、充がほぼそれに近くなった理由も納得できるものでした。ただ、やはり人格が違うと私にはどうしても違う人に見えてしまって。

 成長と共に気質が変わっただとか、表の顔と裏の顔にかなり差があるけれど本人に自覚がありコントロールしているとかであれば、普通に萌えられたと思います。でもそうなるとこの作品の魅力が消えるので、あとは読者の好みの問題でしょうね。ノーマルの充は私好みの攻めではなく、かと言ってDomの充にも何かが物足りず。2つの性格が混ざった中間の充を受け入れるには、Domの時の性格は一体どのように育っていたのか、もう少し彼についての背景が必要でした。これだけのプレイをどこで覚えたのか、とかも。

 医学的・科学的な下地もしっかり作り込まれているところや、簡単にSubを甘やかさないプレイは良かったです。ストーリー展開に不満はありません。2人の先生も気になりますが、巻末のプロフィールを読むとDom/Subと攻め受けが逆転していてこちらもまたややこしいようで(笑)。猪狩先生の受けが見たいと思いましたが、攻めでSubというのも食べてみたら案外美味しいかもしれませんね。