痛くて、甘美で、もどかしくて、主人公に同調して最後のページまで悶々とさせられる物語でした。ただ、終盤に近づくにつれ寛末の気の利かなさや鈍感さへの苛立ちが募ってはくるし、松岡の怒りや哀しみに引きずられてしまうのだけど、そもそもなぜこんなに拗れてしまったのかというきっかけを考えると、私は寛末をそこまで責めることはできないなぁと思いました。
自分が好きになれる性別って本能的に刻み込まれているもので、もちろん想定外の出会いによって広がる可能性は誰しもゼロではないけれど、広がらなかったからといって責める権利も誰も持っていないと思うんです。松岡は寛末に、江藤葉子が「おばあちゃんでも、子どもでも」好意は変わらないかと聞いた。「おじいちゃんでも、男の子でも」とは言いませんでしたね。その境界線を越えるハードルは年齢なんかよりずっと高いことを、彼も心の底では分かっていたからこそ、そんな聞き方になったんじゃないかと思うんです。おばあちゃんも子どもも、江藤葉子の延長線上にある存在として寛末は容易に想像することができた。けれど、おじいちゃんや男の子は、寛末にとっては江藤葉子とはけっして繋がらない、まったく別の人間に映ったでしょう。それは、彼の鈍感さに非があるわけではなく、異性愛者の男性にとっては当たり前の前提条件だとしか言いようがないだろうと思いました。元々異性愛者だった松岡自身が一番よく分かっているはずです。
好きで好きで仕方がなかった女性が、ある日突然消えてなくなり、異性として現れる衝撃。失踪ならまた会える希望も持てるし、死別なら諦めがつきます。けれど、江藤葉子には二度と会えない、どころかそんな人間は最初からいなかったという事実はそれらとはまったくの別物です。結婚や子供を持つといった夢も泡となり。そして、寛末はその事実を受け入れる猶予もたいして与えられず、素の姿ではほぼ初対面に近い松岡洋介という同性からの好意に向き合わされる急展開に遭う。いくら松岡が江藤は自分だと言い張っても、江藤だった頃は松岡もずっと女性らしい口調や仕草を装っていたわけですし、それががらりと男性のものに変わっては、寛末の脳が中身は一緒だと認識できないのも当然だと思います。
と、女装暴露後の寛末の煮え切らなさの擁護を書き連ねましたが、それでもなお、物語冒頭から松岡の心情に寄り添い続けてきた読者としては、そんなぐずぐずした男の言動に一喜一憂して、両想いから一転、片想いに変わった恋心を持て余す松岡の殊勝さに涙し、ああなんて可哀想なんだろう、なんていじらしいんだろうと心を痛め、なんとか幸せになってくれと松岡可愛さで胸がいっぱいになってしまうのです。愛しい男への一途な気持ちは、女も男も変わりません。彼の寛末への恋心は、女性のそれに何ら劣ってもいないし、男のものだからって汚らわしくもありません。激しい熱さを孕みながらも、温かさと優しさに満ちた尊い感情です。全編をとおして、そんな美しい感情の揺れ動く様を追わせてもらい、私はその繊細な描写にすっかり魅了されてしまいました。
不思議な縁だなぁという印象が良くも悪くも最後まで尾を引いていました。まだ1巻なので、今後印象は変わっていくと思いますが。あれだけ思い詰めて行動したのだから、それを偶然引き止められたら消化不良で悶々としてしまいそうですが、しずるの突飛な依頼をなんだかんだすぐ受けてしまう、でも、新しく出会った人にいろいろ話したかったというわけでもなくずっと態度がつっけんどんな優利の思考を理解するのが難しかったです。よくこんな仲になれたなぁという印象が最後まで強くて、2人が距離を縮めていく過程になかなか馴染めませんでした。お互いにとって良い出会いであったことはよく分かるので、2巻から萌える余地も出てきたらいいなと思います。
毎回だれるところがなく、スピード感を保ったまましっかりストーリーでも魅せて、ダンテとジーノの濃い濡れ場でも魅せて、とクオリティが下がらないのがすごいですね。今回はいよいよ本物のジーノがお目見えということで、かなりの波乱が巻き起こりそうでしたが、結構危ないところまでいくものの、ダンテがジーノ自身よりもジーノの思考を理解していて、道を本格的に誤る前に先手を打って彼の心も体も救い出してくれたので、ほっとしました。長年身代わりとしてファミリーを想いやったり、努力したりして積み上げてきたものは、けっして偽りの無価値なものではない。周りがそう言ってくれると非常に心強いですね。まだ問題が片付いたわけではないけれど、ダンテが傍にいてくれれば大丈夫だろうと思えます。
1巻ではしっくりこなかったというレビューを書きましたが、惹かれ合う過程における2人の心理がよく分からなかった点が大きいので、既に関係性が出来上がっているところから始まる2巻はすんなり読むことができました。紫音と亜威のことは優雅の心に棘として残っているんですね。ある程度割り切れる性格の方がホストには向いていると思うけれど、彼のように誠実なタイプもやっぱりいてほしいなぁと思います。夢に見るほど悩んでいたとは思わなかったので、皆優雅の幸せを純粋に望んでいて恨んでなどいないことを早く知れるといいですね。1巻で気持ちが乗らなかった濡れ場にも萌えられるようになってきました。
なかなか共感しにくい物語でした。普段異性の客を数多相手にしているので、同性の客がつくと嬉しいのは分かります。しかし、だからこそそういう客とはまずは恋や性を介さずに親友みたいになりたいと思う方が自然かなと思いましたし、一方の煌夜も最初に優雅に惹かれた理由がオーラという曖昧なものだったので、2人が恋し合う過程にすんなり入り込めませんでした。登場人物皆がホストらしいぎらつきや色気をあまり感じさせない落ち着いた性格だったのも大きいかも。優雅と関係を持っていた2人もそんなあっさり諦められるんだ?と思ったり。箱の外観や、別の店のホストに自由に店をうろつかせておくリアリティのなさもちょっと気になりました。もう少し2人それぞれの背景が見えてくると、萌えられるかもしれません。
オースティンはいろいろスペックが高いのに、結構その時々の感情に左右されて基樹と接するところがあって、個人的には少しもったいないなぁと感じてしまいました。そういうところも年相応で可愛らしいと思える方ならすごくハマると思います。でも、吃音の悩みを抱える基樹の背中を押してくれた場面は、彼が根本的に持っている温かさが感じられてとても素敵でした。プロムも恋人がいない人は友達として異性と参加する文化があるのがいいですね。2人のパートナーとして参加した女の子たちも魅力的に描かれていました。10年の時を経て夢も恋も叶えた2人。注目される機会がどっと増えるでしょうけれど、相手の手を離さずに愛を紡いでいってほしいですね。
外国人と日本人の組み合わせは珍しくないかもしれませんが、片方が留学生という設定は案外今までになかった気がします。これからもっとBLで増えてもいいかも。日本で学校に馴染めなかった代わりに英語を学ぶことや洋画に楽しさを見出した基樹。そこで留学させてみようとする親が素敵ですね。オースティンが中盤まで基樹に優しくしたり冷たくしたり、かなり態度が不安定だったところにはあまり共感できませんでした。10代で異国の地で生活するのは本当に精神的に大変だと思います。生活面以外でのストレス源として基樹を振り回すくらいなら、どちらかの態度に一貫してほしかったですね。でも彼も同じくらい未熟な歳なので、その時々の感情に左右されるのも仕方ないのかなとも思いました。お互いの努力に敬意を持ち、夢を追う2人の関係性はすごくきらきらしていたので、恋愛と上手く両立させていってほしいです。