シロさんが喪中になったことで冒頭は少ししんみりした雰囲気が根底に漂いながらも、けっして失ったばかりではなくて、いろんな周りの人たちとの繋がりで得たものの方がたくさんあることに気付く過程がすごく素敵でした。あれだけ養子縁組を嫌がっていたケンジに何の誤魔化しもない真っ直ぐな想いを伝えて受け入れさせたシロさんは、本当に愛を表に出すことを躊躇わなくなったなぁと。昔の彼ならここまでできませんでしたよね。ケンジの気持ちも分かるけれど、現実的なことも考えて今できる最善の道を押したシロさんに感動しました。男やもめは寂しくなりますから、これからも定期的にお父さんを招いてあげてほしいですね。鮎料理のオンパレードがとても美味しそうでした。
天帝の前では中華大国の皇帝でさえ霞んでしまうんですね。凄まじい威光でした。臣下たちの反乱に遭い、すっかり地位を失ってしまった劉嵐ですが、昔はとても優しい子で、暴君になってしまったのは境遇のせいでありながら、天帝や長年彼に虐げられてきた民たちからはけっして許されることはなかったのは、どこまでもリアルな描写でよかったです。
そうしていろんな人から断罪されながら、それでも彼は持ち前の誠実さと忍耐強さで静雪のために善行を積み続け、音を上げることは一度もなかった。希望もゼロに近いなかでやるべきことを全うするのは途方もない根性がいることです。それをやり遂げた彼は本当に立派でした。そのまま静雪に会えることはなかったのはまた厳しい現実でしたが、第2の人生を与えられて、愛されるべきだった子がちゃんと愛されるようになって心から嬉しく思います。
萌2に近い萌評価です。絵も衣装などの描き込みが細かく綺麗で、ストーリーも昔の中華を舞台にした物語として丁寧に描かれていて、満足度が高い作品でした。暴君として君臨している劉嵐の意外な過去を知るにつれ、そうならざるを得なかった彼に同情してしまいます。もちろん、昔酷い目に遭ったからまったく関係のない人を傷つけてもいいだろうとはなりませんし、一度斬った人は戻ってきませんから、斬られた人と親しい者から恨みを買うのは自業自得です。でも、たとえ皇帝の座に戻れなくても、死ぬまでにこの広い世界でただ1人だけでも、強さを持ちながら思いやりも持つ人の愛を知ってほしいなと願います。個人的に攻め受けが逆転した方が好みだったのでこの評価になりましたが、他は非の打ち所がない上巻でした。
時折洸大が何を考えているのか分からなくなり若干怖い、という印象がありましたが、結局彼が考えているのはいつでもどうしたら千隼と一緒にいられるかということなんですね。別に監禁したいとか、自分以外との繋がりをなくさせたいとか物騒なことを考えているわけではなくて。燻っていた千隼にすげなくされても懲りずに何度も近寄る様には少し恐怖を覚えましたが、結果的にはそうして洸大が千隼をまったく諦めずにいたから千隼も立ち直ることができたわけで、まあ終わりよければすべてよしということなんでしょう。途中までなんだか危うい2人だなぁと思っていましたが、読み終わってみると意外と安定しそうな、ぴたっとはまるべきところにはまった2人なのかなと思いました。
2人の関係性が巻数を重ねるごとに安定し、ちょっとやそっとの波乱にはまったく惑わされなくなってきているのが分かり、嬉しく思いました。バイターで長年みつるのことを想い続けてきたアンナに負けず劣らず、ネクターとして身も心もアンナに明け渡すことに心地よさを感じ、同じくらいアンナに熱心な感情を向けているみつるがやはり魅力的な受けだなぁと毎回惚れ惚れします。アンナのためなら危険な橋も渡れるみつる、そんなみつるの行動はすべて自分のためだと理解していて不安定にならないアンナ、そして、単独で行動しても結局最後には相手にバレるのだからと、最初から共有しようという結論に行き着いた2人。カップルとして理想の絆の深め方をしているなぁと感じました。
痛くて、甘美で、もどかしくて、主人公に同調して最後のページまで悶々とさせられる物語でした。ただ、終盤に近づくにつれ寛末の気の利かなさや鈍感さへの苛立ちが募ってはくるし、松岡の怒りや哀しみに引きずられてしまうのだけど、そもそもなぜこんなに拗れてしまったのかというきっかけを考えると、私は寛末をそこまで責めることはできないなぁと思いました。
自分が好きになれる性別って本能的に刻み込まれているもので、もちろん想定外の出会いによって広がる可能性は誰しもゼロではないけれど、広がらなかったからといって責める権利も誰も持っていないと思うんです。松岡は寛末に、江藤葉子が「おばあちゃんでも、子どもでも」好意は変わらないかと聞いた。「おじいちゃんでも、男の子でも」とは言いませんでしたね。その境界線を越えるハードルは年齢なんかよりずっと高いことを、彼も心の底では分かっていたからこそ、そんな聞き方になったんじゃないかと思うんです。おばあちゃんも子どもも、江藤葉子の延長線上にある存在として寛末は容易に想像することができた。けれど、おじいちゃんや男の子は、寛末にとっては江藤葉子とはけっして繋がらない、まったく別の人間に映ったでしょう。それは、彼の鈍感さに非があるわけではなく、異性愛者の男性にとっては当たり前の前提条件だとしか言いようがないだろうと思いました。元々異性愛者だった松岡自身が一番よく分かっているはずです。
好きで好きで仕方がなかった女性が、ある日突然消えてなくなり、異性として現れる衝撃。失踪ならまた会える希望も持てるし、死別なら諦めがつきます。けれど、江藤葉子には二度と会えない、どころかそんな人間は最初からいなかったという事実はそれらとはまったくの別物です。結婚や子供を持つといった夢も泡となり。そして、寛末はその事実を受け入れる猶予もたいして与えられず、素の姿ではほぼ初対面に近い松岡洋介という同性からの好意に向き合わされる急展開に遭う。いくら松岡が江藤は自分だと言い張っても、江藤だった頃は松岡もずっと女性らしい口調や仕草を装っていたわけですし、それががらりと男性のものに変わっては、寛末の脳が中身は一緒だと認識できないのも当然だと思います。
と、女装暴露後の寛末の煮え切らなさの擁護を書き連ねましたが、それでもなお、物語冒頭から松岡の心情に寄り添い続けてきた読者としては、そんなぐずぐずした男の言動に一喜一憂して、両想いから一転、片想いに変わった恋心を持て余す松岡の殊勝さに涙し、ああなんて可哀想なんだろう、なんていじらしいんだろうと心を痛め、なんとか幸せになってくれと松岡可愛さで胸がいっぱいになってしまうのです。愛しい男への一途な気持ちは、女も男も変わりません。彼の寛末への恋心は、女性のそれに何ら劣ってもいないし、男のものだからって汚らわしくもありません。激しい熱さを孕みながらも、温かさと優しさに満ちた尊い感情です。全編をとおして、そんな美しい感情の揺れ動く様を追わせてもらい、私はその繊細な描写にすっかり魅了されてしまいました。
不思議な縁だなぁという印象が良くも悪くも最後まで尾を引いていました。まだ1巻なので、今後印象は変わっていくと思いますが。あれだけ思い詰めて行動したのだから、それを偶然引き止められたら消化不良で悶々としてしまいそうですが、しずるの突飛な依頼をなんだかんだすぐ受けてしまう、でも、新しく出会った人にいろいろ話したかったというわけでもなくずっと態度がつっけんどんな優利の思考を理解するのが難しかったです。よくこんな仲になれたなぁという印象が最後まで強くて、2人が距離を縮めていく過程になかなか馴染めませんでした。お互いにとって良い出会いであったことはよく分かるので、2巻から萌える余地も出てきたらいいなと思います。
毎回だれるところがなく、スピード感を保ったまましっかりストーリーでも魅せて、ダンテとジーノの濃い濡れ場でも魅せて、とクオリティが下がらないのがすごいですね。今回はいよいよ本物のジーノがお目見えということで、かなりの波乱が巻き起こりそうでしたが、結構危ないところまでいくものの、ダンテがジーノ自身よりもジーノの思考を理解していて、道を本格的に誤る前に先手を打って彼の心も体も救い出してくれたので、ほっとしました。長年身代わりとしてファミリーを想いやったり、努力したりして積み上げてきたものは、けっして偽りの無価値なものではない。周りがそう言ってくれると非常に心強いですね。まだ問題が片付いたわけではないけれど、ダンテが傍にいてくれれば大丈夫だろうと思えます。