電子限定描き下ろし付き
トラウマを持つ大学生×大切な人を亡くした研究員の、ハートフル・ラブストーリー
色んな恋愛模様のBL作品を読んできたけど、こんなにじっくりと描いた作品は見たことがなありません。前進と後退、そしてまた前進……と、恋愛に全力で悩みもがき、苦しみ、それでも前に向かい、その先にある希望に期待する主人公たちの等身大の姿に胸を打たれました。
焦ったくもどかしい気持ちもあるけれど、それぞれが抱える過去のトラウマを乗り越えて、未来ある選択を手探りで辿り着く恋の軌跡には、BLの枠にはまらない人間ドラマがありました。
自らの枷にする者、記憶に蓋をする者……抱える想いはそれぞれです。木庭に惹かれ、彼に執着する大学生の柚木に対し、どこか距離をとる木庭の不思議な関係や掛け合いが、独特な恋愛の世界を作り出しています。
2人の間にあるものが恋愛なのか、それともまやかしなのか、そんな曖昧な空気感をはらんだ2人の親密度は不安定で、期待と怖さが入り混じります。
多くの葛藤を抱えながら歩み出す2人のお付き合いは、うまくいかずにすれ違ってしまうときもあるけど、それでも自分の過去に向き合い未来に繋げていくポジティブな感情を応援せずにはいられませんでした。
静かに流れてゆく時間とアンニュイな雰囲気が非常によく合っていて、まるで一本の映画を観ているような気持ちになりました。
木庭のかつての恋人のことを忘れてなくていいと言った柚木となら、きっと素敵な恋愛ができるでしょう。どこか諦めたような木庭には、若さと勢いでグイグイ攻める柚木のような男がお似合いだと思いますので、幸せになって欲しいと願っています。
K大の研究員をしている木庭と居酒屋でバイトをしている由木のお話です。
木庭はゲイで高校生のころの同級生、小林のことをずっと忘れられないでいますが、小林は死んでしまったので、あの頃小林が何を考えていたのか、思っていたのかは分かりません。
由木は自分のセクシャリティーがよく分からない大学生で、彼は他人を意図せずセクシャリティーのことで傷つけてしまいます。由木が自分のセクシャリティーが分からないのは、幼い頃、母の不貞を見てしまったからでもありますが、セクシャリティーが分からないもどかしさは読んでいて辛かったです。
木庭も由木も何らかの割り切れない気持ちを抱えながら生きていますが、木庭の部屋から見えるのは大きなミモザです。ミモザは黄色い花がとても目立つ植物です。ふたりともミモザのように強く生きていってほしいとのメッセージだったのかなとも思いました。
心がじんわりとあたたかくなる可愛らしいお話でした、表紙のお花もきれいでとってもだいすきです。
攻め様のおかあさまが良い役どころでした、過去に不倫をされて投げやりになってらっしゃったんですね。
とてもおつらいとおもいました、ヒドイです。
でもそんなせめ様を優しくつつみこむ受け様の包容力にかんどうしてしまいました、すごいですね。
おはながだいすきなので、どのぺーじをみてもすごく嬉しかったです。
かわいい!
これからもかわいくて面白いはなしをたくさん書いてほしい
。
中陸先生の繊細なストーリー展開、心情描写は今作でも遺憾なく発揮されていました。ただ、萌えたかというと、前作と比較するとあまり萌える要素がなかったなと感じました。生徒2人の目線も通して見ていたのと違い、今回は木庭という人物が他人の憧れや好奇心といったフィルタを通さず、ありのまま浮かんで見え、そうして見た時に私にとってはあまり魅力を感じるキャラではなかったのが原因かな、と。由木は辛い過去を抱えたままの木庭でもいいと言ったけれど、私には木庭が変わらず他人と自分の間に常に線を引いているように見えて。それが悪いわけではなく、そういうキャラに萌える余裕が自分にはなかったというだけの話なんですが。由木の性行為に対する気持ちには非常に共感しました。
「たゆたう種子」のスピンオフと知り立て続けにこちらも。中陸先生の登場人物の作り方とっても好きだなと気づく。木庭先生が由木に披露した水切りやミモザに関する知識が、小林との会話に由来しているという描写が堪らなく好き。小林のことは忘れなくていいし、小林が木庭の一部を形成していて、それが由木にも伝わって…こんなふうに人と人が繋がっていくんだなぁ、みたいなじんわり感。
木庭が「君のことが怖くて犯罪にでも〜」って早々に由木に言うとか、性的接触も付き合いに必要なことをしっかり言うとか、彼の人格に一本筋が通っている。電子限定おまけ漫画の"悪い笑顔"なんてのもそう。
ラスト木庭が思い浮かべた小林の表情にこっちまで泣けてしまったよ。死んだ人にはもうどうやったって勝てないんだけど、別に争わなくたっていいんだよな。