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作家買い。
宮緒作品の『悪食』の続編です。前作未読でも理解できないことはないと思いますが、できれば読んでいた方がより面白く今作を読めるんじゃないかなと思います。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公は画家の卵の水琴。
彼は「人ならざる者」を見ることができる。
そして、「彼ら」を絵に描くことで自分の感情を表現しているアーティストでもある。
彼はその能力ゆえに両親から疎まれ孤独な幼少期を過ごしていたが、彼の唯一の理解者である祖父に引き取られ、そこで絵を描きひっそりと暮らしていた。
が、その水琴が描いた絵を、たまたま旅行に来ていた夫婦によってSNSにアップされた。そのことをきっかけに画商である泉里と出会い、そして恋をして―。
というのが前作までで描かれていたストーリー。
2巻目にあたる今作では、恋人同士になり、そして泉里のもとに身を寄せ絵を描き続けている水琴、というところから物語はスタートします。
水琴が描くのは「人ならざる者」ということで、すでに亡くなっている人なんですね。その亡き人を介して、今巻も水琴が事件を解決していく展開です。今巻は二つのストーリーに分かれています。
前半は「夢魔」。
泉里の画廊「エレウシス」に、チンピラ風情の男が綺麗な男を伴ってやってきた。そのチンピラ・昭人は桜庭という画家の絵があるかどうか知りたくてやってきたのだった。
が、桜庭はその後殺され、そしてその犯人として名前が挙がったのは昭人が連れてきていた慧という青年で―。
亡き桜庭の姿を、水琴が見つけたことで彼はその事件に介入することになっていきます。
『悪食』は、亡くなった人を介在するストーリーではあるのですが、割とほのぼの系っていうのかな。素直で優しい水琴が、彼らの想いを代弁する形でストーリーが展開していきます。
けれど、この「夢魔」はがっつり殺人事件なんですね。
ミステリーの要素も兼ね備えていて、いったいどういう解決を見るのか、気になってページを捲る手が止められませんでした。
秀逸なのは、序盤に描かれているエピソード。
誰の視点なのか、誰のことを書いているのか、全く分からないままストーリーが始まるんです。が、読後、この短い語りを再読するとめちゃめちゃ泣ける…。
桜庭が守りたかった「彼」が、これからずっと幸せでいてほしいと願ってやみません。
後半は別のお話に移行します。タイトルは「足音」。
水琴が描く絵はSNSでひっそりとあげられ、その素晴らしさから注目されていますが水琴が描いていることは非公開。その麗しさから「妖精画家」と呼ばれていますが、その「妖精画家」は自分だと名乗り出た人物がいて―?
水琴という青年はまっさらさんで人を疑うことをせず、そして性善説を信じている。「おぼこい」という表現がぴったりな青年で、なので偽物が現れたときも「そんなことしてどうするんだろう」くらいにしか感じていない。
が、偽物の登場により激高したのは泉里。
その偽物、モデルをしている百川という女性だった―、に、自分が偽物だということを証言させるべく、彼らはとある場所へと赴くが―。
こちらも、単に偽物が現れた、というだけではなく、20年前の誘拐事件に絡めたミステリー要素のあるお話です。
凄いな、と思うのは、タイトル。
悪食、羽化、夢魔、そして足音。
中見をさらりと表現している。素晴らしいです。
そして、「足音」では水琴の、画家としてのこれから、にも言及した内容でした。
泉里に守られ、好きなものを描いているだけでいいのか。
水琴はその能力とたぐいまれなる才能、そして美貌により一般社会とは離れたところで生きてきた。その彼を、現世とつないだのが恋人であり画商でもある泉里。
水琴がつらい目に遭わないように。
そう、真綿で包むように守ってきた泉里ですが、それが果たして、本当に水琴の幸せなのか。
色々な問いを投げかけ、誘拐事件の解明とか、偽物の登場とか、そういった複雑な伏線を見事に回収しつつ進むストーリー展開に圧倒されっぱなしでした。
で。
今作品のバックボーンゆえに、続編て書こうと思えば書ける設定ではあるのですが、2作目に入りシリーズ化する意向が透けて見えてきました。
水琴がどこまで羽ばたいていくのか。
そしてその水琴を、守り、そして支え続けていくのであろう泉里の深い愛情と執着心も。
宮緒作品なので、エロも非常に濃厚です。
でも、ただ攻めさんに翻弄されるだけになっていない。そこも、続編への伏線になっていそうで楽しみです。
「夢魔」、そして「足音」。
どちらもがっつり犯罪について書かれています。苦手な方は注意が必要かもです。
けれど、水琴そして泉里によって救われた人の笑顔に、読者もまた救われた。
前巻では水琴の天然さにちょびっと萎えるシーンも多々あったのですが、今巻は彼の成長ぶりがまぶしかった。彼の持つ優しさとかそういった本質が、少しずつ開花してきた感じ。
みずかねさんの挿絵も麗しく、めちゃめちゃ面白く、そして萌える、そんな1冊でした。
前作がとても面白かったので、続編を楽しみにしていました。
厚みにビックリ。
あとがきで、先生が予定を百ページ近くオーバーって書いてあって、そりゃぶあつくもなるでしょうね。
受け様は、この世にならざるものが見える水琴。
その姿を描き、正体不明の妖精画家としてSNS上では話題になってる。
攻め様は、水琴のパトロンであり画商のオーナーであり恋人の千里。
雑誌掲載作品の「夢魔」
千里がオーナーの画商『エレウシス』に、桜庭という画家の作品を問い合わせに来客がある。
その時初めて水琴は桜庭を知るのですが、平凡な絵だったのが、家族を失って絶望の淵で描いた絵が皮肉にも人々を魅了する作品となり、今では行方不明であるという。
もし千里を失ったら…
絵を描き続ける、という業に怯え、水琴は死者の姿を描くことができなくなる。
そんな中、桜庭の殺人事件に巻き込まれ、桜庭の死してなおの想いを描きたい、と強く思い、残したい相手に繋ぐ水琴。
桜庭の守りたい想いに共感してホロリでした。
妖精画家の偽物が現れた『足音』
自分こそが妖精画家だ、と名乗り出たのは、モデルも務める若い美女。
手をひくようにと対面するため、プレオープンのホテルへ向かうと、出迎えた支配人の加佐見の後ろには小さな足跡が続く。
画家としてどうありたいのか、自問することになる水琴でしたが、画家として生きる覚悟を決めてます。
題名のように、水琴が画家として羽ばたく前の、まさに羽化の時を読ませてもらいました。
そして、死者の想いに同調してしまう水琴の重いおもーい重石となる千里。
画商のオーナーとして、パトロンとしては、水琴の才能を最大限に生かして世に送りたいけど、恋人としては腕の中に囲いこんでいたい。
そんな葛藤がとてもよかったです(#^.^#)
えちシーンでは、いまだに無自覚に煽る水琴が、素直でかわいい(///ω///)♪
煽られる千里ににやにやです(´∇`)
不穏を感じる謎の人物が出てきましたけど、次巻も楽しみに待ってます。
イラストは引き続きみずかねりょう先生。
口絵がカラーならではで、とってもキレイ。
夢魔
死と別れと作り手の業。
一気読みでした。すごい勢いで読みました。
水琴と泉里の元に二人組が現れて。
そのことで水琴は桜庭という画家を知ることになる。
桜庭の経歴と作品を知ると共に対照的なゴヤの話も聞いて。
水琴は死と別れと作家の業について考えているうちにどんどん深みにはまっていき…。
ある事件に関わり桜庭と容疑者の刑部の真相究明に奔走し。
無事に解決し水琴は決意をあらたにして。
不安も何もかも恐れず描き続ける、一生泉里と共にいる。
そんな水琴を支えるつもりだけど、水琴があちら側へ行ってしまう?隔てを超えてしまうんじゃないか不安になる泉里なのかな?
桜庭と刑部の二人の関係に泣けます。桜庭が刑部を守ろうとして…。
人間ドラマ+オカルトですかね。
水琴は聖人ですね。世間知らずでもあり誰もを魅了する美貌をもち泉里が過保護になるのも仕方ないのですが。
水琴に何かあれば泉里は狂ってしまうのではないか。そんな不安を感じます。
話を読んでからタイトルを見るとなるほど!と感動します。
このパターンでシリーズ化出来そうですね。
死者からの願いやメッセージを水琴が受け止めて事件を二人で解決して。水琴が画家としてどう成長して世に出ていくのか。
しかし痛快という訳には行きませんが。
重みが残ります。
足音
こちらはあらすじにあるお話です。
これはもうネタバレを見ないで読んだ方がいいでしょう。
人間ドラマと救済と再生と決意と。
もう水琴が巫女なのでは?
水琴は泉里にそばにいてもらって世に出る不安も迷いもなくなるかもしれませんが、泉里は恋人としてこの世からあの世へ渡ってしまうような水琴を守り続けるのは酷かもしれません。
そして新たな謎の登場人物。これは続きがあるんですよね?楽しみにしてます!
…水琴、…君は…
泉里がウブで無自覚な水琴に翻弄されてて楽しいです。
宮緒先生の作品は「渇仰」や「華は褥に咲き狂う」シリーズなどが大好きだったのですが、新たにこの「悪食」も大好きなシリーズになりそうです。
今作は「羽化」とタイトルが付けられていますが、水琴にとってまさに転機になった回だったと思います。
怜一に突き付けられた「画家としての自分をどう扱われたいのか」という言葉に、泉里に大事にされて外界と遮断されたまま囲われて終わるのか揺れ動くのです。
そして泉里は死者の思いに触れる度に力を増す水琴に不安を覚えて、あちら側へと行かないように必死に水琴を抱いて繋ぎ止めようとしていました。それは泉里の存在を面白くないと思ってる、怜一さえも認めざるおえない程だったのです。
今作には二つのお話が入っていて一つは雑誌掲載作の「夢魔」、そして書き下ろし作の「足音」でした。
死者が登場するので仄暗い内容なのですが、今回は特に水琴が自分の大事な人が亡くなったらと想像するので、余計に不安感が増して落ち着かない気持ちになりました。
そして死者の切ないまでの思いを読んで私は号泣しました。
毎回これほどまで違うパターンでお話を書ける宮緒先生に脱帽します。
また、泉里の義兄や「夢魔」の貝原昭人や「足音」の百川結衣のような悪人に対して、容赦無いのもこの作品の魅力なのです。
水琴が無意識に引き寄せてしまう男達を必死で牽制する泉里は、宮緒作品に見られる攻めの特徴を良く備えた人物で2人のセックスシーンよりそういったシーンを楽しく読ませて頂きました。
今作は新たに謎の少年が登場していたのと水琴の出した決意から、これからの展開がとても気になってしょうがありませんでした。早く続巻が読みたいです。
それから380ページの14行目と16行目の「七瀬」は「水琴」の間違いだと思います。
でなければ話の辻褄が合わなくなりますから…
前作は、恋人との出会いと祖父との別れ。
今作は、水琴が、社会の関わりの中で、自分が持つ能力の意味と意義に気づく巻だった。
他に粗筋があるので、印象に残った場面をメモ。
★「夢魔」
聴覚を失ったゴヤのスランプ。「我が子を食らうサトゥルヌス」を食堂に描いて蟄居したゴヤが、正気を取り戻し、活動を再開した逸話をなぞる展開。
「蒼い馬」の作家・桜庭は、妻子を失った「絶望と狂気」を描く作品で財を成した事に虚無を感じ、筆を折り隠遁。
桜庭が何者かに殺害され、刑部が容疑者となるが、桜庭の魂は水琴を訪れ「刑部を助けて」と願う。
生前の桜庭は、実の子のように孤児の刑部を慈しんでいたが、誰にも愛されない孤児の刑部は、桜庭の自分に寄せる親の慈愛に気づけなかった。
絵を描けないはずの桜庭の遺品に、刑部の素描が遺されていた。桜庭もゴッホのように、狂気に勝っていた。
・・・桜庭が刑部に「いつか これを」と言っていた絵を水琴が渡す場面は、泣ける、感動した。
表題作のインパクトが強くて、後編が霞んでしまった。
この1作だけでも、買う値打ちは十分に有ると思う。
★「足音」・・この物語は、次作の序章。
水琴の偽物が出現、水琴は偽物に興味を示さないが、泉里達は激怒して策を講じる。
泉里の義兄が経営するホテルで、水琴は、祖母に似た女神が月を指さす夢を見る。
そして、義兄の後について回る子供の死者は、足跡と足音しか見せない。
水琴が、死者が最期に見た情景を泉里の義兄に見せると、未解決の20年前の誘拐事件が解決していく。
★副題の「羽化」
水琴が、画家として活動をすることで誰かの役に立ちたいと決意。水琴は、幼体から、成虫に羽化しようとしています。
・・もし蝶の羽化のように、蛹で一旦体を溶かす過程を経るのなら、水琴は一度あの世に行って戻る必要があるのかもしれない。だから絆役の泉里の存在は重要。
★次作は、「眺月佳人」と一対の「群雲」の絵を持つ雪輪家の物語になるみたい、楽しみ。