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さみしい神様のメリーゴーランド

samisii kamisama no merry-go-round

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表題作さみしい神様のメリーゴーランド

ラ・モール伯爵,遊園地の管理人で死神
保月佳依,能楽・保月流宗家の長子,18歳

その他の収録作品

  • 恋する神様のロマンス休暇
  • あとがき

あらすじ

1900年パリ。若宗家である義弟に虐げられていた佳依は、万博での能公演の準備中、装置の下敷きになりかけたところを謎めいた美貌の男性に助けられる。だが彼は自身を死神だと言い……?

作品情報

作品名
さみしい神様のメリーゴーランド
著者
華藤えれな 
イラスト
木下けい子 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784403525476
3.7

(15)

(4)

萌々

(6)

(3)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
6
得点
54
評価数
15
平均
3.7 / 5
神率
26.7%

レビュー投稿数6

「愛」と「生」がテーマ

明治時代のパリ万博1900年明治33年の4月-11月・・が背景。
良いファンタジーだった。

●保月佳依:18才 能楽・保月流宗家師範 
政略結婚の正妻の子 中性的で儚げな容姿 
事故の後遺症の為、後継から除外。義弟は「お怪我さま」と呼ぶ

●保月勇舞:18才 能楽の保月流宗家後継者 
新橋芸者の愛人の子、佳依の異母弟  

●ラ・モール伯爵:
寂しい神様 自称「死神」 何でも知っている不思議な人。


「さみしい神様の・・」
佳依の母の形見は、絵本とフランス語の辞書だけ。
「メリーゴーランドの前で風船を抱えて佇み、花嫁を探し続ける遊園地の神様」。
遊び浮かれる義弟の代わりに「羽衣」の場当たり中、佳依は絵本の寂しい神様そっくりの男性に助けられる。
佳依の気持ちが謡曲「羽衣」に重なる、凝った仕様。
恋を知った神様は煉獄の罰(=休暇)を受けて、煉獄の人間界で永遠のない世界を知る。

「神様のロマンス休暇」
保月流の先祖が作った「冥祭」、先祖に死郎の伴侶になった人が居た。
約束を守り頑張り、生ききった勇舞は、伯爵と義兄とメリーゴーランドに乗る。


欧州の移動遊園地と言えば、ディスクオルゴールや自動演奏オルガンの、「あの音」で、
曲目は、三拍子のワルツ。・・レトロでメルヘンに満ちた「あの世とこの世」を書いた作品だった。

何時かまた会える、と思えば、死は寂しくないかも。

2

イラストが!

書影に度胆を抜かれて、お初のタッグ(多分)に歓喜しました。雑誌掲載分+書き下ろしの構成となっていますが、書き下ろしの方がドラマチックで面白かったです。

作者様十八番の外国人と日本人カプ。時代は明治期、主人公の佳依は能楽師です。能楽関係も先生お好きですよね。今回は絵本をモチーフにした、なんと死神もの。和洋折衷ファンタジーです。とにかくイラストがハマっていて、作品のイメージにぴったりでした。

佳依が子供の頃に亡き母親から読み聞かせてもらっていたフランスの絵本。それは、移動遊園地の真ん中にあるメリーゴーランドの前に立ち、たった一人であの世への門番をしている淋しい神様のお話でした。幼いながら神様に同情した佳依は、自分が友達になってあげたいと思っていましたが、大人になったある日、絵本の中のおとぎ話にそっくりな経験をすることに…。

能の保月流宗家に生まれた佳依は、パリ万博で能を披露することとなった若宗家で異母弟・勇舞の付き人としてフランスに同行します。そこで佳依が危険な目に遭うたびに助けてくれるフランス人貴族風の男性と出会い、子供の頃に読んだ絵本と酷似した不思議な体験をしていきます。

前半は佳依が勇舞にえげつないほど苛められまくるんですが、まぁそれは拗らせた執着ゆえ。勇舞はただ、佳依の愛情が欲しかっただけだったんですね。とんだお子さまでした。前半のクライマックス後に勇舞の人格が180度変わりますのでお楽しみに。

後半の読みどころは、一子相伝で保月流に伝わる『冥祭』という謡曲。『冥祭』を残した佳依の祖先との繋がりがさらにストーリーを広げていきますが、最終的に風呂敷はきちんと畳まれます。それとは別に、『羽衣』が頻繁に出てくるのですが、こちらはサブリミナル的に主人公のお役目を暗になぞらえていて、エンディングでの回収でホロっときてしまいました。終盤は色々と詰め込まれていて、片がつくのか焦りましたけど笑

このお話自体がまるで能の舞台そのもののように彼岸と此岸が会する場となっていて、メインカプは物語が終わった後も特別な形で愛を育てていくことになります。それは、長い時間をかけて倦むことなく、芸事と同じように鍛錬し続けたとしても保てるかどうかすら怪しい不確かなものかもしれませんが……と、まぁ、真面目に考えてみたくなっちゃいましたよね。もともとがシリアスな作風の作者様でしたので、、

前後編ともに展開が性急だったのがちょっと残念。もっとネチっこくじっくりと進めてくれてもよかったのに〜とも思いました。構成上仕方がないですね。伯爵のリアクションにクスッと笑わせてもらったり、黒猫がせっせとお手紙を運んでくれたり、お約束のように上等で美味しそうなお菓子が登場したりと和むシーンが多々あり、作品の雰囲気も少しずつ変わっているのねと感慨深い気持ちになりました。ちなみにわたしは作者様の別の作品に出てくるシャンパンプレイが忘れられない読者です笑。あのハードな感じも恋しいです。

8

愛と死の舞踏

明治時代、万博での公演のためにパリに滞在中の能楽師・佳衣。
そこで出会った美しい外国人ラ・モール伯爵。

佳衣のお稽古を見学していた伯爵は、舞台が壊れて下敷きになりそうなところを助け出してくれました。
そこでいい感じになると思いきや、何だかズケズケ言ってくる伯爵に腹を立ててしまいます。
しかし、伯爵からの言葉で自分の能楽への思いと、どのように向き合っていくかを自覚します。

その事に気付き、もう一度伯爵に会いたいと思うと、猫に誘われて夜の遊園地へたどり着きます。
そこで伯爵と再会し、夜の遊園地での交流が始まります。
最初は何だか機械的で感情のない伯爵が、佳衣と過ごすことで血が通ったように。

「さみしい神さまのメリーゴーランド」と「恋するロマンス休暇」と2部構成になっているのですが
「さみしい神さま〜」はパリでのお話で、夢々しさのあるお話でした。
「恋する〜」では、伯爵が日本へやってきて、佳衣とともに過ごします。
ここでは夢々しさよりも、現実的な二人が見られて楽しめました。
散りばめられた伏線や、一部でフワッとしていたところが収まります。

佳衣は伯爵(死神)と出会ったことで、自分の存在意義のようなものを見出だしていったように思います。
死神が相手なので、「死」からは逃れらず、二人が幸せになるには、、、と思ってしまうのですが
死よりもどのように生きるかに焦点を当てたお話でした。

あまり触れられない理由があり、佳衣と伯爵のエロは少なめでした。
でも、二人が心から信頼して愛し合っているのが伝わりキュンとしました。
あと、異母弟の勇舞とのそこはかとなく漂うブロマンス感。当て馬になるわけでもないですが、この関係性がすごく良いな、と思ってしまいました。

5

さみしい神様…

いつも華藤えれな先生の作品は欠かさず購入しています。
今回も先生らしい優しいお話でした。
優しいあまり佳依の異母弟の勇舞に対する赦しに何度かイラっとしてしまうんですが、この勇舞の存在に最後の最後でウルっとしてしまうんです。

「さみしい神様」ってタイトルも秀逸で、先生の良さがとても良く表れてました。

伯爵が佳依と交流する事によって、感情を手に入れて行く喜びとか、佳依を愛しく思うが故の最初の決断とかとても素敵なお話でした。
でも、表題作の「さみしい神様のメリーゴーランド」だけだったらきっと萌止まりだったと思います。

書き下ろしの「恋する神様のロマンス休暇」で一気に評価が上がったんです。
甘いタイトルからは想像出来ないような展開が後半に待っていました。

死神と交流を持ってしまった人間の行く末、果ては佳依と勇舞の先祖の秘密とか、不穏な影が付き纏ってバッドエンドまで想像してしまいました。

そして容赦なく運命が襲って来た時の伯爵の佳依への深い愛と、佳依の決死の覚悟が運命を切り開くのです。
さらに勇舞のその後の人生が語られていて、グズグズ泣きながら読了しました。

伯爵と佳依は事情があって触れ合う事が出来ないのが表題作の「さみしい神様のメリーゴーランド」、そして触れ合う事が出来るようになったけど途中から止めた書き下ろしの「恋する神様のロマンス休暇」、なので体で愛情を確かめあうシーンは殆どありません。

でもそれがこの作品の良さでもあり、やさしい神様の魅力を引き立てているのです。

精神的な結びつきを重視する方にお勧めします。

5

壮大なテーマを描いた秀作

木下さんの挿絵に釣られるようにしてお買い上げ。
華藤さんの新刊は、華藤先生らしいヨーロッパが舞台のお話。ヨーロッパ、というかパリなんですけれども。ちょっぴりファンタジー要素が盛り込まれた、華藤さんらしい世界観のお話でした。









時は1900年。
パリで開催された万博博覧会に、日本の舞台芸術作品が公演されることになり、それに伴い能楽の保月流が講演することになっていた。保月流の宗家はまだ若き18歳の若宗家・勇舞。勇舞の異母兄の佳依は長子でありながら宗家に選ばれることはなく、日々勇舞に虐げられていた。

宗家として責務を果たすことなく遊び惚ける勇舞とは異なり、裏方として己のできることを一生懸命にこなそうとする佳依。そんな佳依は、ある日勇舞の無謀な依頼により舞台に立っていた際に舞台装置のアクシデントに見舞われ事故に遭いかけてしまう。そんな彼を救ってくれたのは見目麗しい伯爵と呼ばれる人物だったー。

薄幸受けちゃんがスパダリに愛でられ幸せを手に入れるお話かな?

と、そう思いつつ読み進めました。

が、ああ、そう来る?という予想を斜め上を行くストーリー展開でした。

そもそも佳依はフランス語がそこそこ話せる人物なのですが、それには理由がある。亡き母が遺してくれたフランスを舞台にしたお伽噺。その話が好きすぎて、フランス語を学び始めたという経緯がある。

そして、その伯爵と呼ばれる人物は、まさにその童話の主人公でー?

あらすじにも書いてあるのでここでも書いてしまいますが、伯爵は死神。あの世とこの世を繋ぐ人物、と言ってもいいかもしれません。伯爵の存在を介し、人の死、生きるということ、そして愛するということ。それらを上手に絡ませながら進むストーリー展開でした。

佳依は義母弟に邪険に扱われるというお話なので、さらに保月流の制裁が生んだ長子という身分でありながら宗家には選ばれていないという境遇で、序盤こそ佳依の不憫さが気の毒になりますが、全体としてはシリアスベースのお話ではありません。伯爵に大切にされるから、ということもありますが、それ以前にとある出来事を介し勇舞と和解するからでして。そして何より、勇舞は、佳依を深く愛していたんだなあ、というのが分かるからでして。佳依という男の子は薄幸で不憫ではありますが、非常にガッツのある男気溢れたナイスガイなのです。

佳依という、薄幸な受けさん。
がメインのお話なんだと、途中まで思っていました。が、今作品の主人公は紛れもなく伯爵の方です。

愛を知らず、孤独で、でもそれを哀しいと思う事すらできない、わからない。
そんな彼が佳依と出会い、恋をして、そして彼が望んだこととは―。

シリアスなんだけれどシリアス過ぎない。
ほのぼのなお話かと思いきやかなり切ない。
そんな不思議なバランスを持った作品でした。

生と死。
愛するということ。
壮大なテーマを、シリアス過ぎずコミカル過ぎずに描き切った作品で、読後は心がほっこりと温かくなりました。
その世界観を見事に描き切ったのが木下さん。
木下さんの優しく温かなイラストが、もうめちゃめちゃ素敵でした。

9

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