【イラスト入り】【電子限定かきおろし付】
小説
新進気鋭の作家さんなので期待していたのですが、私には合いませんでした。
本作は好き嫌いが分かれます。
作品に「受けはかわいそう」「攻めはお金持ちでかっこいい」を演出するためのバイアスがかかっており、
「過度に完璧で不自然な活躍をする登場人物たちがメアリー・スーを想起させる」と思いました。
本作は「受けはかわいそう」「攻めはお金持ちでかっこいい」を雄弁に語りすぎて、「ありえない」と感じる場面が多くあります。
・受けは天涯孤独で貧乏なので「ゲーセン」という言葉を知らない(高校生です)
・ゲーセンは飲食店だと思っていた
・貧乏なので「美容院」という言葉も知らず、病院だと勘違いする
・飲食店のデリバリーのバイトで商品を落下させるも
「食べられたら問題ない」と主張し、「配達先が悪人だから怒られた」という展開になる
・ピザ屋やウー〇ーイーツの宅配で落下した商品を渡されたら嫌な気持ちになるのは当然では…
・攻めが受けのボロアパートの部屋に防音工事をする(賃貸では?)
・他の部屋には何もせず、受けだけ恵まれるように振る舞う
・攻めが権力を使って気に入らない相手を家族ごと左遷させることを何度もやっている
・上記にかかる費用はすべて親の金
・それらを見て受けは「攻めは優しい人だ」と思っている
・攻めの美貌をアピールするために「庶民的なハンバーガー店で食事をしたら芸能事務所のスカウトマンにひっきりなしに声を掛けられた」というエピソードがある。
・マッ〇みたいな店のホールに複数の芸能関係者がたむろしている状況が不可解
etc…
攻めがαの富裕層で、Ωの受けが不遇な扱いを受けるというのはよくある事なのですが、
攻めも受けも行動に「品格」というものが伴っておらず、私は愛着が湧きませんでした。
「メアリー・スー」という言葉に苦手を感じる人にはおすすめできません。
ページ数や物量の多さは素晴らしいのですが、読み進める事が苦しくなってしまいました。
「不可解設定が気にならなくなるぐらいの展開が来たら受け入れられるのではないか」と期待をしていたのですが、受けの
「びよういん?知らない!なんでそんな紛らわしい名前を!」
という美容院がわからないセリフを見て限界を感じ、ギブアップをしてしまいました…。
天涯孤独で美容院に縁がないのは仕方ないですが、小学校のひらがなドリルでも「びょういん」と「びよういん」の文字の違いを学ぶことはなかったのだろうか…
番になれませんでした。
BLアワードノミネートの段階で知り、
友人もおすすめしてくれたので初読みSKYTRICK先生。
長いお話です。
同じことがらが攻め受けそれぞれの視点で
丁寧に書かれているので、より理解が深まりました。
和馬の徹底的な自己犠牲に泣き、
咲也の徹底的な仕返し(Gが嫌いな方はご注意!)におののき、
カレー屋の店長の「ハッピーでネ!」に最後まで泣かされました。
あとがきにもありましたが、周りの人たちとの助け合い、あたたかい関わり合いが主軸になったオメガバースです。
読み始めた時は芸能人設定が出てくるし、表紙の感じから昔流行ったライトな携帯恋愛小説かなーと思い、読むのをやめようかと一瞬思ったのですが、踏み止まって良かったです。
シリアスで文芸小説のように読み応えがありました。ボリュームは多いですが、読みやすかったです。展開や文章表現も上手なのでうるっとくる事が多かった。
クライマックスシーンは松本清張の小説を読んでいる気分になったのが面白かった。
読者はかなりのページを読んでから、タイトルの意味を知る事になるですが、切ない…。離れる事こそが1番の愛情表現なんて。和馬は人魚姫みたい。
最後まで読んでしっくりする表紙。ここに至るまでの長い過程が泣ける、泣ける。
大河チックなラブストーリーでした。
シリアスを求める人には伝わりにくい表紙である所は、勿体なく思いました。
表紙やタイトルに引っ掛かりを覚える人は手に取るだろうけれど…。
表紙絵の難しさを感じました。ちるちるの評価を見なかったら、手にしていなかったので。裏表紙や挿し絵は好きです。
2人が巡り合うまでにそれぞれに壮絶な生い立ちがあって、困難を乗り越えて番として真に結ばれる、という壮大なラブストーリーに引き込まれました。
オメガバースをベースにした格差社会とお家騒動や胸キュン少女マンガ展開や過酷な学園でのイジメなど盛り沢山な内容が上手くまとまっていました。
作家さんがこの作品で人気作家になられたのも納得です。
咲也が一見優しいイケメン風から歪さの片鱗を現し、ゆがみを加速していく姿や理由が明かされていく過程も興味深かったです。歪んだイケメンだからこそ、咲也にハマリました。
パパ世代と重なる想いにはグッときました。
庶民には理解できない咲也と橘と未央の関係性も面白かった。
和馬が応援したくなる健気な主人公だし、恋愛描写が丁寧なのが良かった。
周囲の人達も置き去りにされずに、クローズアップされているのも好印象でした。
物語の軸としてはオメガバース設定を効果的に生かし切られていましたが、結ばれてからはオメガバース色が薄くなったのは気になった。
追加ストーリーは本編の焼き直しのような所があったので、蛇足に感じました。
今後作家買いしたい…!と思った作品でした。
この作者さんの筆力はすごいです。頭の中に言葉が流れ込んでくるような心地よさに毎回感動させられます。試練が高めなので、読書カロリーがかなり消費される作品ですが、ラストを読んでほしい!!泣けます。あまりにも良すぎて、この作者さんを知らずに過ごしていた時間がもったいない!と損した気分になるほどです。