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この作品の時代背景やデニスが、有名なカウボーイ映画「ブロークバック・マウンテン」を彷彿とさせます。
普段メリバは読まないのですが、読まずにはいられなかった。圧倒的な作画で引き込まれて、お話は魔法がかけられたように進み、気づいたらメリバだった(泣)読了後しばらく余韻が凄くて呆けてしまいました。
たくさんの象徴がちりばめられていて、寓話のような仕立て方になっています。何回も読みなおしてしまいました。是非ネタバレなしで読んで下さい。
以下ネタバレ&自己解釈を含みます。
季節労働者のデニスは夏の間、羊の世話の仕事に就く。雇用主の唯一の条件は「羊以外はなにも信じるな」というもの。(これが既にフラグめいている)
最初は難なくこなすも、デニスは孤独に滅入りそうになる。そこに美しいアジアンの青年が訪れます。この出会いのシーンが美しく、妖しく、大変に凄みがある。吸い込まれるような黒い瞳が印象でゾクゾクする。
青年の名はトッド。ハンターらしいが狩りを行うシーンは出てこない。デニスがトッドに気を許していく反面、馬や羊はトッドを警戒しています。
不穏な雰囲気と、デニスがトッドに溺れていく様子が同時に展開していく。
ある時一匹の羊がコヨーテに殺され、デニスの銃がコヨーテの足をかする。次にトッドに会った時、足に怪我が見つかった時に、私達は気づくけれどデニスは気づかない。トッドを信じてしまっているから。
「数匹いなくても牧場主は気づかない」というトッドと「そうはいかない」というデニスの考えはキリスト教における「一匹の羊(たった一匹でもないがしろにしない)」を思い起こさせます。
デニスは過去の話をし、「(主の)信頼を失いたくない」心情をトッドに明かすのですが、これは信仰のメタファなのかなと感じました。トッドはデニスに「羊のような生き方でいいのか?」と挑発します。この時トッドは何を考えていたのか、好奇心、いたずら、執着⋯?
甘く囁くトッドに夢中になっていくデニス。トッドに言われるままに子羊を殺すまでになってしまう。信仰を手放す瞬間、ここの描かれ方がゾクゾクします。デニスの心を翻弄し、愛を試すトッド。あえて約束通り戻らないのもデニスの心に不安を根付かせる罠・・・。すっかりトッドに依存してしまったデニスの姿は読んでいて、とても切なくなる。
しかしデニスはそれを「紛れもない愛だ」と感じているのでした。
契約期間を終えて二人は会う約束をして別れます。
先に下山したデニスは雇用主にトッドの事を話し怒鳴られる。「誰も信じるなと言っただろう!」信頼を失った牧場主の顔が、大変に恐ろしい。
谷に戻ると羊は全滅している。
この作品の英題は「The Fallen Lamb」。Sheep(成長した羊)ではない。聖書でよく“迷える子羊”と訳されるのは「Lamb」なので、この作品は聖書のいくつかの言及を含んでいる。タイトルの「堕ちゆく」ことの解釈、それは罪と迷い。キリスト教において子羊は、正しい道から外れやすく、脆い存在としてかかれています。ここではデニスは子羊、トッドは誘惑の魔と捉えるべきかと思うのですが、デニスはトッドに騙されたと理解してなお、呼ばれて墜ちていってしまうのでした。「離れないよ」と。狂おしい・・・。辛い・・・。哀しい・・・。(泣)
雇用主は以前も同じような事があったためにデニスに対して谷に「戻れ」と言ったということは、以前の労働者は「おちなかった」のではないかと思う。もし落ちてしまうとわかっていたら谷に戻れとは言わないだろうから・・・。ということは、デニスだけがトッドを一途に思い、いってしまったのではないか。それともトッドが初めて呼んだのか。
確かなラブシーンもあります。トッドの愛情が全くないとは思えなかった。ワンコのように、デニスの鼻を甘噛みするシーンは、胸がキュンとしたのに⋯。獣の本能的な戯れだったのか⋯。何度も読み返して探してしまうんですよ、そこに愛情はなかったのか。教訓しかないなら寂しすぎる結末。トッドを完全な悪役にしたくなかった。私も彼の魔性に魅せられ、墜ちたのでした。
短編ですが深く刺さるお話でした。続編、救済がほしい⋯。アーメン。
