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表題作耽美主義

宝条紫乃,人気ミステリー作家
三須君,みそ汁の上手い家政婦,美青年

同時収録作品ロマンティック

主人
コンラート・ネルンスト 執事

同時収録作品浄められた夜

同時収録作品ヘタリマ!

秀洲,リーマン,兄
夏津,大2,弟

同時収録作品コロシヤドロップ

その他の収録作品

  • ヴィスコンティの映画のように(代表作)
  • 浸食する死のガスパール

あらすじ

「味噌汁の上手い家政婦(出来れば美少年)募集」その貼り紙を見て、気鋭のミステリ作家・紫乃の屋敷へやって来たのは、少年と言うにはトウがたつ美青年・三須だった。プラトニックとエロスの間で揺れる男達の刹那な恋模様…。耽美の雄、本仁戻が贈る傑作選。リブレ未発表作品43Pも収録。
出版社より

作品情報

作品名
耽美主義
著者
本仁戻 
媒体
漫画(コミック)
出版社
リブレ
レーベル
スーパービーボーイコミックス
発売日
ISBN
9784862636096
3.6

(18)

(5)

萌々

(2)

(10)

中立

(1)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
10
得点
64
評価数
18
平均
3.6 / 5
神率
27.8%

レビュー投稿数10

耽美には夏がよく似合う

 ヴィスコンティ作品は私の親世代の映画ですから、子供のころは存在すら知りませんでした。初めて意識したのは世界一の美少年ビヨルンアンドレセンを知ってからです。若い頃、ある出版社に出入りしていた時期があって、そこのバックナンバーでビヨルンの特集グラビアを見て「なんて綺麗な男の子なんだろう」と興味を持って、自主上映していた映画館を探し出して見に行ったのがきっかけでした。
 
・『ヴィスコンティの映画のように』
 小説家の紫乃をアッシェンバッハ、美少年家政婦の三須をタッジオになぞらえた物語。究極の美の創造を追求していた芸術家のアッシェンバッハは、神が創造した完璧な美少年タッジオの前に、ただ見つめ焦がれることしか出来なかった。紫乃は三須に触れることで彼が望んだ美しい夏を壊して、その欠片で彼に傷をつける。
 アッシェンバッハはタッジオの輝くような美しさを瞳に焼き付けて朽ちるように死んでいったけれど、紫乃は三須を失うことで人生で一番美しく忘れられない夏を手に入れたのだろうか…。
 美少年とは耽美の代名詞のような存在です。美少女ももちろん耽美な存在ではあるけれど、美少女の未来には美しい女が存在して、美少年の先に存在するであろう美しい男とはイコールではないのです。人生のほんの短い刹那な時間にだけ存在する「美少年」。それはボーイソプラノが少女のソプラノとは一線を画するのと似ています。刹那で稀有だからこそより焦がれるのでしょう。
 スペイン映画『バッドエデュケーション』の中で少年時代の主人公がムーンリバーを歌うのですが、私にとってどのボーイソプラノよりも忘れられない歌声です。
 
・『ロマンティック』
 全編に萌えが詰まっています。「おまえのみだらな姿が見たい」という台詞や、彼だけが私を「コンラート」と呼べたというモノローグ。袖口に指をさし入れて、手首をなぞる仕草。そして極めつけは「お前の体に触れる者は皆殺しだ!」ですよ (*´д`*)ハァハァ
 そして私にとっての個人的な萌えポイントは一人称「僕」です。←何度語ったことか(笑)須蛾子爵がコンラートに「(お前は)すべて僕のものだ」という台詞があるのですが、「俺のものだ」や「私のものだ」より100倍素敵に感じるのは私だけでしょうか…^^;

・『浄められた夜』
 弟は義兄を秘かに愛し、姉は弟を渡すまいと義兄と結婚した。苦しみを消そうと姉を殺したことで、消えない姉の存在に苦悩する義弟の姿に義兄は己の欲望を満たす。姉もまた自分の存在を弟に焼き付けて、歪んだ愛情を満たして死んでいったのだろうか。
 姉と弟に血の繋がりは有りません。血縁者の方がよりセンセーショナルになりそうですが、このお話にはその上を行く設定が用意されていました。みんな狂っているが、姉が一番恐ろしい。

・『ヘタリマ!』
 ヘタレなリーマンが血の繋がらない弟にタジタジになるお話。
 弟の夏津が美しい~ヾ(≧∇≦)ノ"これだけでご飯3杯行けそうです。美しい弟の意味ありげな視線にドキドキする兄とくれば、背徳的な物語を想像してしまいますが、なんと犬神や祟り神にまつわる伝承ものになっていくのです。本仁作品は一筋縄じゃいきません。巻末の『浸食する死のガスパール』は伝承部分をピックアップした短編小説です。

・『コロシヤドロップ』
 凄腕なのに意気地なしな殺し屋のお話。怒涛の台詞で構成されたちょっとシュールなハードボイルド。

 エアコンの代わりに窓を開けたら、蝉の声がわぁ~と入って来て、他の本を読んでも本仁先生の新刊『グラン・ギニョール』でいっぱいだった頭の中に「ヴィスコンティの映画のように」が浮かんできました。耽美には夏がよく似合います。

5

美は創造できない、美に恋するだけ

この一冊を開く事は、今となってはBL世界(特にコミック)でもあまり見られなくなった「ザ・耽美」を存分に堪能する時間を得ること。

「ヴィスコンティの映画のように」
『大募集!(一名)みそ汁の上手い家政婦(できれば美少年)』
この1ページ目からどうやって怒涛の耽美へなだれ込むのか見当もつかないはずなのに、応募してきた三須(みす)くんの憂い顔を目にした瞬間からページを手繰る手はもう止まらない。
多分40代後半の作家、宝条紫乃(本名)と三須くんの会話あるいは共有する芸術の知識は、読み手の私達にも緊張感を強いる。三須くんはその文学の素養で「あの」家政婦募集の貼り紙に純文学とプラトン的愛を読み取り、みずからをヴィスコンティ作「家族の肖像」のコンラッド(演ずるは美しきヴィスコンティの恋人ヘルムート・バーガー)になぞらえる…
だが、紫乃には三須くんの美化は重かったのか?
「僕は君の美しい夏を壊す 壊した夏の一片で 君の心に傷をつける」

「ロマンティック」
没落子爵とドイツ人執事の、清らかで痛々しく淫らで快楽にまみれた死。
子爵のいつも伏している視線、それでいてコンラートの手首に指を滑らせながら「食べたい…」と囁く時の眼。
二人の死のその時。二人きりのロマンティック。

「浄められた夜」
男、血のつながらない姉、姉の夫。
姉が自殺して、歪んだ三角形が行き場なく消える煙草の煙に形を変える。
義兄は知っている、行生が自分を愛し欲望を抱いていることを。死にまつわるクラシック曲が場面を彩る。ラヴェルのクープランの墓、Rシュトラウス四つの最後の歌、フォーレのレクイエム、シェーンベルク浄夜…
義兄は行生を「四つの最後の歌」のソプラノが響く中で誘惑する。義兄もまた、死にたいと苦しむ行生を見て昏く悦ぶ悪癖を抱いていたから…。

上記3点は、冒頭の作家宝条紫乃の初期純文学作品の題名と同じ、というひねった設定となっています。

「ヘタリマ!」
義理の兄弟もの。兄はオッドアイを持つ超能力者?弟の方が迫っている?
と思っていたら伝奇モノというか斜め上の展開になります。へ〜と驚く。

「コロシヤドロップ」
小心者の凄腕殺し屋のお話。BLではなくギャグ系?

「侵蝕する死のガスパール」
これは小説です。本仁戻さんは元々小説をお書きになっていたそうです。
設定は「ヘタリマ!」の兄弟二人。伝奇の部分を膨らませた、かなりのホラーテイストでした。グロい部分もあるけど、耽美臭もあって凄く面白い!

6

甘美への誘い

短編集となります。
「ビスコンティの映画のように」
みそ汁の美味い家政婦(できれば美少年)
この文章のインパクトにおののき、そうしてやってきた美青年とのひと夏。
夏の暑さに浮かされるかのようにじっとりとした美しさとエロチシズム。
破綻するまでのほんのひと時を、汗ばむような熱量を感じながらノスタルジックな余韻に浸りました。
「ロマンチック」
見つめる視線、触れる指先。
日常そのものを官能的に見せびらかし、1ページ捲るごとに気持ちが昂ぶっていきます。
周囲の邪推と悪意に疲弊しながらも貫く愛の高み。
愛に殉教する2人が、清らかな気持ちを守る為に手放した理性。
ラストの絶望に甘く痺れてしまいます。
「浄められた夜」
行生、姉、その夫。
欲望をむき出しにする姉に支配され続けた行生が愛する姉の夫。
2年前に死んだ姉の影が未だまとわりつき、3人の歪んだ愛情と執着が、薄い膜の中で暴れ、いつ突き破ってしまうのかとホラーに近い空恐ろしさを感じました。
愛するが故に苦しみ続ける。
静かに狂気に飲み込まれていく2人の変わらない日常がより恐怖を感じてしまいます。
上記3編、タイトルに象徴される通り「美」を前にして、崇め、かしずき、蹂躙される悦びが詰め込まれていました。
そしてガラリと趣旨が変わり「ヘタリマ」
ヘタレな秀洲の、一歩踏み込もうとしないジレンマをもどかしく感じながらも、挑発し続ける夏津を守る健気さに胸がときめきます。
ほんわかタッチなせいか紫に凝り固まった思考がゆっくりとほぐされました。
「コロシヤドロップ」
ノンBL作品です。
時代を感じる作風ですが、ゆるいキャラたちのこれでもかと詰め込まれたぐだぐだ感にまったりと現実に引き戻され、ラスト。
「侵食する死のガスパール」
ヘタリマ続編の小説となります。
思いの外ちゃんと引き込まれてしまい、引き出しの多さにまだまだ次を楽しみできると思わせてくれました。

1

やっぱりいいなぁ・・・

今あえて「耽美主義」と銘打ってコミックスを出すなんて、その独特な存在が好きです。本仁さんv
1つだけ非BL作品があり(コロシヤドロップ)それは耽美っぽくないのでちょっと置いといて(ギャグっぽいし)。

さて、これは短編集なのでお話は様々なのですが、総じてタイトル通り「耽美」です。
しかし古くささは無く、スタイリッシュで美意識に溢れた作品。
死や悲しみを漂わせたその退廃的な雰囲気は、まさに耽美の王道です。

1作目は元純文学作家で現在は人気ミステリー作家と、張り紙を見て家政婦に来た青年の一夏のお話。
これは、究極の美「プラトニック」を貫こうとした青い若者と、既に若さを失い大人のずるさを身につけた男との危うい関係を描いた切ないお話です。さて、この2人は最後までプラトニックを貫けるのでしょうか・・・

2作目がまた退廃的。爵位制度?の残る日本で、没落寸前の美貌の子爵とその独人執事(眼鏡)。
周囲から「外国人の男妾なんかを」と嘲笑されながらも、実は2人には肉体関係はありません。
子爵のために、体を張って周囲を黙らせようとする美しい執事。しかし、嫉妬に狂った子爵の妻に追いつめられた2人が最後に選んだ手段は・・・
このラストは、まさに「耽美」。狂気の美しさですかね。
狂おしい程に相手を欲しながらも決してその躯に触れず、破滅に向かう子爵と執事。2人ともM過ぎる。

3作目は義兄×弟のお話。姉の夫である義兄を恋慕しつつ、故人である姉の妄執から逃れられずに苦しむ弟。
姉も交えた3人の関係の危うさが「耐える」感じのエロスを醸し出してます。義兄への想いをずっと抑えていた弟はとうとう逃出そうとしますが・・・
短いお話ですが、登場人物達の背負う業の深淵さは一番かと。

4作目は、本仁さんにしては珍しい感じのヘタレ攻×健気美青年受です。
私はこれが一番好きです。受君が超可愛いから!ヘタレ攻もいい!
しかし、これは耽美と言うより異色かな。
ヘタレサラリーマンの秀洲(ひいす)と、心優しい彼に少年の頃から思いを募らせている夏津(なつ)のお話。秀洲は不思議な能力を持つ青年で、その力で夏津を守りつつ、またその能力故に夏津の想いに応えられず、ぐずぐずしてしまうのです。
ピンチの時にも「秀洲くん心配してる・・・?おれのこと頭に浮かべてくれてる・・・?おれが毎日毎分毎秒そうしてるみたいに、秀洲くんもおれのこと思い浮かべてくれたらいいなあ・・・」なんて思っている夏津。か、可愛い!!
この後、この2人の話が「小説」で入っておりますが、読み応えあります。

いずれの作品も読み応えがあり、読み終った後は「読んだゾ」という満足感を感じられると思います。重いかもしれませんが、こういう漫画があるからBLは奥が深くて楽しいのだと思います!

7

耽美の基礎

本仁さんの本を読むのは、ヴィスコンティの作品を見たり、三島の小説を読むのと同じ感覚だ。
憧れの世界観を理解したいと少し背伸びをして挑む。
私にとって、耽美は萌えの対象ではありません。BLとは別のものとして処理しています。
(評価では萌を選んでいますが4つ星くらいのニュアンスです。)

この本は構成が面白いです。
1話目『ヴィスコンティの映画のように』、2話目『ロマンティック』3話目『浄められた夜』は 作中の宝条が書いた作品を漫画にしたようで、1話の中で引用されます。
つまり、初見では1話のセリフを全部理解することはできません。
2話、3話と読んでいくうちに1話で三須の言っていたことが分かるようになります。
この感覚が癖になります。曲者だ本仁戻・・・

ともじさんもおっしゃるように耽美の王道です。
耽美がお好きなら粗筋を読まずに買っても大丈夫だと思います。

6

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