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表紙の人物・淀井の真っ黒な瞳が終始、印象的でした。何も映していない洞穴のように見える時もあれば、幼い子供のままの混じり気のない瞳に見える時もあり。彼の目を通した世界はどんな風に見えていたのか、想いを馳せてしまいます。2人が共に過ごした時間は村瀬にとってこの上なく幸せなものだったのはもちろん、淀井にとっても、母親以外で初めて深い情を注ぎ注がれ満ち足りることを知れた、かけがえのないものだったでしょう。結末がどうであれ、好意を寄せる相手の痛みや歓びを刹那でも共有できた2人は、けっして負け犬や可哀想な子と言われるような人生ではなかったと思います。
現実というのはどこまでも無慈悲です。好きな人の臓腑が飛び散る景色を見たいという気持ちと、生きて笑いかけてほしいという気持ちが併存したり。ずっと悩んでいた物事にけりをつけて、さあこれから切り替えるぞと意気込んだところで思わぬ方向から攻撃されたり。悪い結果を引き起こした人に悪意がなくて、恨もうにも恨めなかったり。生きるということは、そういった理不尽とどうにか折り合いをつけて、心を疲弊させながら立ち上がり続けることでもある。そんな時、自分に温かい目を向けてくれていた人との時間を思い出し、誰かの心に残る自分の存在にほっと一息つけたり。ままならないことも美しいひとときも両腕いっぱいに抱えて、等しく死に向かっていくのが人生なのだと思いました。
文学小説のように、暗く重厚な味わい。
中学生という多感な時期に、
精神的な痛みを分かち合い、依存し合う2人、
片想いに彷徨う村瀬と、
恋を知り始める淀井(表紙に描かれた子)。
2人の感情の揺れ動きが丁寧に描かれて、
友情を超えた行為と繋がっていく過程が、
虚しさと危うさが見え隠れしながら、
2人の心の救いを見つけ出すことができるのか――?
ラストが・・・涙でページが滲み(紙の本)、
残酷な現実の中に、
柔らかな午後の光線から差し込むかすかな希望が、
胸に深く浸透し、余韻を残す忘れがたい作品です。
目の前で起こったある出来事をきっかけに、
トラウマからグロテスクなものに欲を感じるようになった村瀬。
母親とその恋人による複雑な家庭環境に苦しみ、
大人びた落ち着きを見せながらも内側では揺れる淀井。
歪んでいる欲望に歪んだ思考で、
ヘタレながらも村瀬を心で包み込もうとする村瀬。
村瀬の嫌な記憶を体で上書きしようとする淀井。
同級生の2人がお互いを支え合おうという気持ちが、
一種の愛と言えるのではないでしょう。
読み進めるたびに、胸が締めつけられるのは、
村瀬の日記から滲み出る陰鬱な心情!
言葉にできない葛藤、
抑えきれない感情、
未熟さゆえの無力感に絡みつく絶望感の中で、
淀井という存在に支えられる淡々とした望み、そして、
淀井への儚い崇拝のような恋心が心臓に鋭く刺さる。
暗い影が覆う青春の中、
2人の関係に潜む
ひとつひとつの痛みの中の優しさが静かに胸に響きます。