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表題作藍より甘く

入江暁行、大学生。
柘植遥、大学生。

その他の収録作品

  • 藍より青く
  • あとがき
  • 愛より甘く

あらすじ

大学入学以来三年、友達として側にいた遙から、突然「好き」と告げられた暁行。受け入れることも突き放すこともできずにいるが……?
出版社より

作品情報

作品名
藍より甘く
著者
一穂ミチ 
イラスト
雪広うたこ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
発売日
ISBN
9784344817944
3.8

(142)

(56)

萌々

(34)

(35)

中立

(5)

趣味じゃない

(12)

レビュー数
28
得点
526
評価数
142
平均
3.8 / 5
神率
39.4%

レビュー投稿数28

ガラスの観覧車の中から…

タイトルにある藍という深みのある色が、全編に濃く淡く漂うような、そんな物語。

日常的なことばのやり取りやちょっとした仕草や振る舞い、些細な感情が丁寧に掬い取られ
実は小さいけれどドラマティックな世界が展開されているのは、流石の一穂さん。
何でもない描写やセリフの一文一文が胸を打つ。

               :

大学入学とほぼ同時に知り合った入江暁行と柘植遥は親友だ。
ゲイの遥は出会うと同時に入江に惹かれるが、はなからかなうことなど諦めている。
美人の彼女もいる入江に告げたところで困らせるだけだし、
この親友の立場も失ってしまうかもしれない…
だから決して告げるつもりなどなかったのに、みなとみらいの夜の観覧車の中で、
思わず魔がさした遥は、隠して来た自分の思いを告げてしまう。

叶わないと悟りきった恋に、卑屈になったりせずに淡々とでも一途に思う遥が哀しく美しい。

告白から後も、同じように静かに遥は過ごして行く。
動揺したのはむしろ入江の方だ。
彼はどこにも吐き出せない想いを、ブログに綴る。

藍を作る家に生まれた遥は、携帯電話も持たず今時の大学生が知っていることを知らないけれど、
でも皆が知らないことをたくさん知っている。
一言で「青」と言ってしまう色の、微妙な濃淡やニュアンス…
そのそれぞれの持つ美しい名前を知る遥。
それは、まるで心の色のようだ。

入江の就職活動、遥の家でアルバイトをする夏休み、秋が過ぎ、と
それぞれが複雑な想いを抱えながら、季節が過ぎていく。
複雑な想いは心の中で膨らみ、ついにそのまま抱えていられない程になり、
クリスマスの夜に、入江は遥に別れを告げるが…

               :

その後どうやって遥の恋が実ったか、それは是非お読み下さい。
「自分にだけしっぽがついてるって思いこんで生きてたら、ほかにもしっぽ生えてる人がいて、
そしたら見せ合って安心したいじゃん。しっぽ生えてるよね、
おかしくないよねって言いたいじゃん」という遙のセリフがとても切ない。

入江のブログに関しては、賛否両論あるのだと思うけれど、
普通の恵まれて健康な入江が戸惑ってわき起こる思いを持て余すのは当然だし
そこで誰か実際の知人に話したり遙と離れたりしないところが、入江の誠実なところではないか。
ちょっと鈍くて無神経なところがあるんだけれど、育ちの良い大らかさがある入江が、
同性の親友に告白され、困惑し、それでも彼が好きで離れがたい、
そんな中微妙に動いていく心情が
とても丁寧に表現されていたと思う。

入江の恋人の真希もすごくいい。
一穂さんの作品に出てくる女性は、皆きっぱりと気持ちがよくて好き。
こんないい子だけれど、確かに好きだったけれど、
でも今は遥がいい、遥しか選べないと思う入江…
そして選んだ以上、真っすぐ頭を上げて「なんとかする」と言う入江を、
遥は愛したんだなーと、胸が一杯になった。

奇跡のような恋の成就に、遙といっしょにまだ信じられないような思いがする余韻の中、
甘い番外編が、またいいな。

15

遙の存在に神評価

攻め目線が読めるのは嬉しいのですが、ひじょうに攻めの入江が苦手!
一穂さんでなかったらこの作品は好きになれなかったかもしれませんが、入江が嫌いな分、遙が健気で可愛すぎです!
今まで読んだ中で、わたしにとって一番可愛かった受けさんでした。
そういう意味でも忘れられない作品となりました。

受けの遙は、実家が藍染めに使う藍という植物を育てる農家。
大学へ通うために実家を離れ、一人暮らしをしています。
出会って好意をもった瞬間に失恋という経験をしながらも、入江の側にいられるだけで幸せという健気な青年。

攻めの入江はいわゆるよくいる大学生。
彼女がいて、友達がいて、バイトにせいを出しているというような。
入学してすぐ遙と知り合い友人となり、一緒にバイトもしています。

入江は観覧車の中で遙に告白されるまで、まったくそういう意味で遙を意識したことはなかったんですね。
遙は言葉の少ない青年ですし、入江はノンケ中のノンケでしたので。
友人が自分に惚れていたという事実が頭の中でグルグル渦巻き吐き出すため、相談するような内容でブログを始めます。

わたしはネットを使って話を成立させるストーリーは苦手ですが、この作品ではオマケって感じなのでまあOKでした。
でもこの入江の行動には「弱虫野郎め」と鼻息を荒くしましたが。

そんな入江にも好きなシーンがありました!
入江が遙を心配し大雨の中追いかけ、壊れた遙の自転車に自分が思っていたよりも動揺してしまうのです。
この時ばかりは「入江、なかなかやるな!」と思いましたよ(笑
ここだけなんですけどね。

遙は告白こそしてしまいましたが(これだって偶発的)一貫して入江に対して一歩引いて、自分の気持ちを押しつけることはしません。
田舎で農家というと、やはり長男第一であると思います。
実家を継ぐのは兄で、自分は手伝いをしているだけ。
子供の頃から引くことが当たり前、強く求めることは許されない。
そんな環境が今の遙を作ったのかなと思うと、切ないですね。
遙の周りにはたくさんの青が登場しそれが作中で雰囲気良く使われていますが、彼のイメージは静かであり激しい一面もある青がハマっています。

終盤、遙の実家では兄が奥さんの実家を継ぐということになります。
遙は単身、兄に会いに行ったことで兄の現実や決意を目の当たりにしますが、そのことで遙も踏ん切りをつけられたのではないかなと思いました。
遙と入江にとっても転機でしたね。
入江も、そばにいるとなんとも心地よい存在である遙がいなくなるという可能性があるということに、直面するんですから。
入江は彼女という現実よりも心地よい存在の遙を結果として選んだわけですが、BLとしてはそれじゃないと成り立たないよ!とはいえ、入江みたいな現実的な男が??という感想はあります。
入江は父親の引いた線路に乗り続けるようなタイプだったので。
わたしはハッピーエンドになった作品は、そのまま『幸せに暮らしました』的に考えるのですが、この作品はふたりの道は今回は交わったけれど、いつかまた…なんて暗いことも考えてしまいました。
遙もそんなことを心のどこかで、覚悟していそうかな。

7

友情が愛情に変わる瞬間

親友である遥に突然告白された暁行。
しかし暁行はノンケだし、彼女もいるしで遥の気持ちを受け入れることはできない。
でもその気持ちを突き放すこともできずに中途半端な態度を取り続けてしまう――。

この二人は正反対なんです。
家は裕福、美人の彼女がいて、男前な暁行。
一方遥は、実家は藍染の藍を作る仕事をしていて、その仕事を愛しているけど跡を継ぐのは兄で。(ちなみにこの藍が今回大切なキーワードですよ)
小さい頃から“失うくらいなら最初から望まない”がモットーで、諦めグセがついていて、でも実は寂しがり屋…という、何とも不器用な性格。
そんな遥なので、暁行に対しても何も望んでいません。
ただ、気持ちが溢れて伝えてしまっただけ。
逆に、告白によって暁行を困らせてしまったのが申し訳ないと思っていました。
それに対して暁行はなかなか無神経なんですよ…
告白されて意識しだしたことにより、遥に変な期待を抱かせてしまうような行動をとったり
「俺のどこが好きなの?」って聞いてみたり。
変に気を遣うくせに、そのことが逆に遥を傷つける。
暁行の気持ちもわかるんですが…遥が健気な分、可哀相すぎて。

そして突然訪れた二人の別れ。
最初で最後のセックス。
同情で遥を抱いてしまう暁行と、同情でも抱いてもらってうれしいと思う遥。
今まで「忘れて」「気にしないで」と言い続けた遥の本音「忘れないで」
うう…っ!切なすぎるよ、遥…!!

暁行は些細なことから遥のことを思い出し、それによって遥への想いが溢れだします。
あれだけグルグル悩んで、遥のことも彼女のこともいっぱいいっぱい傷つけたのに
自分の、大切な気持ちに気付くのは一瞬でした。
ここの描写がもう、切なくて…!!
私は今までの展開があまり好きではなくて、ここのシーンがもう…めっちゃキュンとしてギュっとなって…
ここで涙腺大崩壊ですよ!!
ほんと、ドラマを見ているようでした。
この瞬間、暁行の世界は色を変えたんでしょうね。
遥の、藍の色。
無意識に求めていた、その色。
溢れだした暁行の想いはもう誰にも止められません!!

後日談は遥視点と暁行視点が1本ずつ。
遥視点は、彼が暁行を好きになった馴れ初めと、その後の二人。
暁行視点は、微鬼畜・暁行と、二人のノロケ話。
気になるのは遥の下宿人・野村君。
二人が最中に電話をかけてきたり、同じ屋根の下3人でいるのに二人がエッチをおっぱじめたりと
なかなか不憫な(でも本人は気づいていないww)野村君。
ノロケももうお腹いっぱい。
まさかこんな甘い展開になるとは…!!
やっぱり一穂ミチさんはキュンっとして切ない、今回の作品でいえばクリームソーダかな、そんな作品を作る神だと思いました。

5

観覧車から夜景を見ているような

一穂ミチさんが好きで買ってみました。これはあたりです。
「藍染め」家業のゲイ・遙と、その想い人暁行のお話。

やっぱり一穂さん特有の透明感というか、綺麗さがありましたね。
重点を置かれがちな登場人物の心理描写より、風景など周りの様子の描写に力を入れているように感じました。
文学的でとてもよい雰囲気だったと思います。
物語も丁寧に作られていて、深い物語でした。
一穂さん好きです。

タイトルにも付けたように、観覧車から夜景を見ているような物語だったなぁと思います。
綺麗で感動して、美しいものを見ているのに切ないんです。
言葉にし難い抽象的な感じなんですが、物語全体に不思議な憂いが帯びているように感じました。
単に遙の性格や雰囲気がそうしているだけかとも思いましたが、不思議と泣けました。
泣きシーンではないのに、なんだか泣きそうになるんです。
一穂マジック…!

4

どきどきする。藍ってふかい。

なんてこった、どストライク・・・!!

藍色を、「黒に砂糖をすこし混ぜたような...」とか、そういう表現の雰囲気でつながるシーンがとても好きです。

どうしてもつかず離れず離れられず、気の置けない仲だから越えられない壁がずっとある。
本編は攻目線ですすみますが、垣間見える受の心中思うと切なくなります。というかしあわせとあきらめとちょっと欲、が見え隠れしててしずかにしずかにどきどきする感じ。

まさかの展開(バッドエンド)を予感させる流れが堪らなかった。やめてくれほんとに。
でもむちゃくちゃな流れだな、と思えなくもない本編ラストスパートが良いものに思えるのは、「藍づくり」のような日々の積み重ね、その重みや尊さが、ふたりにあるように思えるからか。

短編も好き。このふたり、とてもいいです。

4

この作品が収納されている本棚

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