名作が新装版で、しかも2冊同時に!!(感涙)

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表題作花扇

恋人 寒也
山九亭感謝(森野要)

その他の収録作品

  • 子別れ
  • 花扇
  • 夫婦茶碗

あらすじ


人気落語家・山九亭感謝は何の未練もなく男を使い捨てた師匠・山九亭初助の孤独な生涯を芸に生きた人生と考えていた。しかしその裏には真(まこと)を貫いた驚きの愛情物語が秘められていた──。

作品情報

作品名
花扇
著者
剛しいら 
イラスト
山田ユギ 
媒体
小説
出版社
白泉社
レーベル
花丸単行本
シリーズ
座布団
発売日
ISBN
9784592862765
4.9

(33)

(31)

萌々

(2)

(0)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
7
得点
163
評価数
33
平均
4.9 / 5
神率
93.9%

レビュー投稿数7

初助師匠

「座布団」のレビューでも書きましたが、このシリーズは初助の物語です。あとがきに初助の人気ぶりについて書かれていましたが、そらそうだよと。多くを語らず、要に対して厳しさも優しさも持ち、一途だけれど遊びも粋に。そして去り際は人に見せない。創作物の登場人物らしい格好良さでありながら、時代や業界が今自分が生きる世界とは異なるため、ひょっとしたらこんな人もいたかも知れないと思わせる絶妙な具合です。
「座布団」で要に魅力をあまり感じられないと書いてしまいましたが、初助の人生を見せつつ、もともとは女性が好きだったけれど寒也とおそらく添い遂げるであろう真逆の要は重要。そんな真逆の存在も大事にし、かつ己の人生を自虐している様子もない初助の、人に寄りかからず立つ様が美しい…結局初助の魅力に行きついてしまう。

萌2〜神

1

圧巻の表題作

流石表題作となった「花扇」は圧巻でした。前巻から紡がれた謎めいた部分の多い初助師匠の生涯のパズルのピースがこれで埋まったという納得感のある話でした。

 
 名落語家の初助師匠の知らざれる壮絶な生い立ちと最初で最後の愛が描かれていました。昭和の戦後の激動の中を生きた初助師匠ならではの凄まじい生き様でした。
その後の芸の道以外は浮き草のように後腐れなく生きる初助師匠の礎になった出来事の数々に合点がいきました。
平穏な時代に生まれ育った現代っ子の要や寒也は生き様も芸も叶う訳が無く、、。前巻からもそういう傾向はありましたが、完全に師匠にお株を取られた主人公要の巻でした。
銀次郎はあの初助師匠がどっぷり惚れたのも分かるきっぷのいい漢っぷりでした。下村との関係が本当のところどうだったのか…常人には理解の及ばない域ですね。
ここまで人物や情景が頭に思い浮かべられる読み物ってなかなか無い気がする。何度か涙でホロっとする場面が多く、ホント良い読み物を読ませてもらいました。

要と寒也のように長年連れ添い合う二人も素敵だけれど、成就はせずとも一世一度の燃え上がりを見せた後、灰になって燻り続ける愛も乙だなーと思いました。いい夢見させてもらいました。要と初助師匠の親子でも無く、師弟関係でも終わらない関係性も良かったです。
 お一人様の生き方が、昔よりは肯定されつつある今、先駆者である初助師匠の生き方はバイブルに思えて参考になりました。
こういう作品こそ映像化されたら、BLも見直されるだろうにな…と思わずにはいられない不朽の名作でした。
読後に他の方のレビューを読むだけで涙でいっぱいになる…そういう作品です。

1

復刻版

クリスタル文庫の「花扇」を購入しましたが、復刻版は、同人誌の二作が編入されている事を、アマゾンのレビューで見つけて知ったので、単行本版も買う事にしました。

自分用のメモ:

絶版になって入手困難だったクリスタル文庫『座布団 』と『花扇』が、読者の復刊を希望する声を受けて白泉社から再販。
四六版、ソフトカバー、山田ユギさんの表紙
文庫にあった白黒のイラストは未収録。
文庫版の話に、同人誌の作品が加わった。
 「蚊帳」(『座布団』に収録)
 「夫婦茶碗」「枕」(『花扇』に収録)

単行本sizeは、文字と行間が少し大きめで紙の厚みも少し増えて、読みやすい。
そして二冊揃えて置くと、雨上がりの空の色と濃紺に近い紫で、しっとりとても綺麗です。
どちらも耽美小説風で、BLにしては格調高い描写と思います。噺家のイキ好みの意地が盛り込まれていて、哀しい場面にも洒落た描写や、芸人のやせ我慢が描かれています。

他社ののレビューも読みました。
作品に好き嫌い別れるようで批判もありましたが、私は剛シイラさんの作風が好きです。
谷崎潤一郎風を意識していたのじゃないかな、私は読んで疲れないので好き。

他のレビューサイトで見つけたbL歴長そうな方の「座布団」への書評に共感。
「長年多数の作品を生み出されているBL作家さんは、恋愛やら人生描かせたら本当に繊細な物語になるのだなぁ~・・・」


0

読んだ後はタイトルだけで泣けた

先に「座布団」を読んでいないと伝わらない部分が多いと思います。
どちらを先に読んだらいいのか凄く分かりづらかったですが、
続き物というよりも「座布団」「花扇」で一つであるが故の分かりづらさなのかなと思いました。

「座布団」の完成度が非常に高く感じたので、正直「これ以上書くことがあるのか?」と思いましたが今作も期待をはるかに上回りました。
まさかこんなに切ないお話だと思わなくて久々に泣きました。

今回は主人公の要(かなめ)の師匠である初助がメインです。
「座布団」での初助は魔性のビッ〇受け、だけど人情に厚く筋が通っていて薄情さと情の深さが両立していました。
矛盾するようなその性質に謎めいたものを感じましたが、今作で明らかなったような気がします。
それは初助に生涯をかけて愛する人がいたということです。

その相手は寺田銀次郎というヤクザで、最初から最後まで筋の通った素晴らしい人物でした。
そうは言っても所詮ヤクザ、という考えもあるかもしれませんが、
特攻隊の生き残りという生い立ちと戦後の貧しさと混乱を考えると現代の感覚で捉えるべきではないのかもしれません。
なにより寺田本人がヤクザ者であることをわきまえている所が切なくも素敵でした。

寺田と初助の愛情関係が静かで美しくてひたすら切なくて、恋人に必死になる初助の姿に驚き、より愛おしくなりました。

切なくもあり、また温かい気持ちも残りました。
それは、初助から役得なしに愛された主人公、要の存在が大きいと思います。
明るい要を通して見る初助は温かくユーモラスですらあります。
あとがきでは「初助が主役カップル(要と寒也)を食うほどの人気」とありましたが、主役カップルがいたからこそだと思います。
捨てられた男たちからすれば初助はとことん薄情で酷い男でしょうから。

一つだけモヤモヤしたのは、年代がざっくりしすぎて時代感覚が定まらなかったことです。
旧版が刊行された2004年の時点では良かったのだと思いますが、時間がたてばたつほど主人公の「現在」がいつ頃なのかボヤけると思います。
ラストで具体的な数字が出てきたのでスッキリしましたが、時間も前後するので時間軸もぐちゃぐちゃになりました。
年表がほしいと思いました(笑)

4

芸人も一人の人間

師匠がその生き様でもって、芸の磨き方、愛するものとの向き合い方を弟子に示す。落語の師弟関係を軸に人間模様を描いた『座布団』の続編です。

山九亭初助は、落語で女を演じさせたらピカイチだが、弟子は感謝一人だけ、生涯独身。若い頃から頭角を現し、それなりの固定ファンを抱える彼は、上辺だけ見れば全く私生活の見えない落語家ではありました。初助が亡くなって一年。彼の評伝を書きたいというライターが現れ、初助の胸のうちだけに秘めていたある物語が徐々に暴かれていきます。

本作を読むことで「落語と心中した男」初助が、「人を思うってのはね。自分ばかりが辛く思えるのが本当だよ。」と語った、彼の生き様丸ごとが芸に生かされている所以がわかります。その芸に別の者が感銘を受け、同じように己の人生を賭けてその人なりの芸に塗り替えて次へ繋いでいく。芸の中に故人が生き続けていくと思うと、感動的です。

物語の構造や作品の素晴らしさについては、しの様のレビュー以上に申し添えることは何もございません。JUNE作品ですので、いわゆるBL小説とはいえないのかもしれませんが、このような作品に出会えると、細々とでも腐活動を続けて来てよかったな、としみじみ思うのでした。

3

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