男が好きなんだから仕方がないじゃないか――

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表題作不実の男

同居する会社員の恋人 倉敷
自由業の恋人 池田

同時収録作品誰かと夏

自殺志願の男 羽田
道連れの高校生

同時収録作品ひゅーすとん

弟を亡くしたニュージシャンの兄 ムラセ
スリの男 上萩注 26歳

同時収録作品つめたい恋

同時収録作品中土居さんの孤独

その他の収録作品

  • 不実の友
  • あとがき

あらすじ

だってオレ男好きじゃねーもん――
無神経な恋人・倉敷の言葉に傷つきながらも、彼が好きで好きで仕方がない池田。
同棲中にもかかわらず、多忙な倉敷とは会えない日々が続いていた。
そんな中、「わけあり」らしい倉敷の高校生になる甥・謙太郎を預かることになってしまう。
倉敷不在のまま、謙太郎との気まずい同居生活が始まるが……!?

作品情報

作品名
不実の男
著者
山田酉子 
媒体
漫画(コミック)
出版社
エンターブレイン
レーベル
B's‐LOVEY COMICS
発売日
ISBN
9784047290235
3.4

(27)

(7)

萌々

(5)

(9)

中立

(5)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
8
得点
87
評価数
27
平均
3.4 / 5
神率
25.9%

レビュー投稿数8

余韻

数年前に購入して、今でもたまに読み返しては余韻に浸ってます。何処か、不思議な魅力がある作品です。
発売してからかなり年月が経っていますが、これからこの本に興味を持つ方への参考となれば( ¨̮ )



可愛く優しいパステルの表紙とは裏腹に、テーマは「死にたがる人」などという中々に重い1冊。

山田さんのイラストも線が細く、描く人物も皆飄々としているためキャラの表情の可愛さと不気味さがより際立っていると思います。ハマる人はハマるし、そうでない人は微妙。人を選ぶ作品だと思います。
私はこの不気味で鬱々としている雰囲気が大好きでした。




【不実の友、不実の男】
恋人の弟と期間限定の同居をするお話。
この恋人がひどい笑 主人公が不憫…かと思いきや主人公も割と強か!笑
最後のページで歪み愛が伝わってきてなんだかんだお似合いのカップルなのかな〜。


【誰かと夏】
この本の中で一番好きでした!
にこにこと笑顔を絶やさず純粋で元気いっぱいな男子高校生と、30~40代のくたびれたオジさんが旅行に行く話。
ただのカップルの旅行かと思いきや…なるほど!ワ〜〜闇深い…!!
男子高校生の純粋さに、ゾッとします。
夏の猛暑日で日差しがキツい描写なのに生気が無い雰囲気が気味が悪くて…好きです。男子高校生の、大人になってもう戻ってこない感もたまりません。


【ひゅーすとん】
「ひゅー すとん」とよく呟いていた弟が、ひゅーっと飛び降りてすとん、と死んでしまい残された兄の話。
ここでもう重い笑 ひゅー すとんって語感が可愛くて不気味です。
でも、これは救われたお話なのかな。兄が一生弟のことを忘れられなさそうな感じが凄い。幸せとか不幸せとか、そういう概念ではもはや無い感じが良いです。


【つめたい恋人】
恋人と心中した後に生き残ってしまった男の子話。
死んだ恋人が幽霊でずっと付きまとってます。
死にたがる生き人と、死んで欲しくない幽霊というシンメトリーな感じが面白いです。

見えてるのに話せるのに、触れられないのが逆に凄く苦しい。幽霊の方が生きることを望んでるのがこれまた…


【中土井さんの孤独】
闘病中の恋人の帰りを独りでいつまでも待つ主人公と、近所の男子高校生の話。
なんだろうな、優しさって時に酷く残酷ですよね。
この物語の優しさは、思いやりと愛が詰まった最凶の呪いって感じがします。



振り返ると、この物語は「死」をテーマにしているけど…死もある意味では救いだもんなぁ。となんか納得しちゃいます。

作者さんの、本当にこの世界で起きてそうだけど普通に生活してたら気づかなくて見つけられなさそうなテーマというか、よくありそうだけど思い浮かばない感じのお話が好きです。ひゅー すとん とか。

面白いという表現があっているのかは分かりませんし、終わったあとの虚無感に似た脱力感は他では味わえない。しみじみと、好きなお話ばかりです。
淡々と飄々と、なんだかんだこのお話のキャラクター達はこれからも生きてそうで、でもふとした時に振り返ると跡形もなくなっていそうな不安定さがずっと心に残ります。

何年経っても自分の中で異色の作品、という意味も込めて神評価つけさせていただきます。これからもきっと思い出したように読んでは忘れないんだろうなあ。

6

死にたがり達のお話

ふゅーじょんぷろだくとの「性癖108TYPE」で知って、何か読んでみたかった作家さん。
こちらがテーマ的に面白そうだったので買ってみました。
死にたがる人達のお話を集めた短編集とのこと。

登場人物達がたまたま同性愛者で恋愛関係がたまたま男同士だったって感じの描かれ方なので、BL読みたくてこれを読むとちょっと違うなぁという作品集なんですけど、こういうものが読みたくて読むなら自分的には好きな類いの1冊です。

「死」っていうのは要するに「逃げ」の最終手段な訳ですから、死を考えてみることによって気持ちが楽になったり、やっぱり逃げたくない!と前向きになれたり、踏ん張れたりすることもあると思うのですよね。(実行=自殺することは肯定しかねますが)
この短編集も死にたい人がぞろぞろ出てはきますが、どのお話も結果的には「呪縛」からの解放を経て「昇華」とか「再生」といった前向きな方向に繋がっています。

ただそうは言ってもやっぱり後ろ向きと背中合わせなお話ばっかりなので、暗い話が平気な方にだけオススメします。

『不実の友』『不実の男』
学生の頃死にたかった男の話

『誰かと夏』
死にたい男と死にたい少年の話

『ひゅーすとん』
弟を自殺で亡くした兄の話

『つめたい恋人』
恋人と心中して生き残ってしまった男の話

『中土居さんの孤独』
離れ離れになってしまった恋人から届くメールを読むためだけに生きている男の話

面白かったという表現も微妙だけど、どの話も面白かったです。
個人的には、最後の中土居さんにかけられていた呪縛が一番キツいなと思う。
こういう優しさはホント良くない。
『誰かと夏』は少年の行く末がちょい気がかりな終わり方。
彼の呪縛もとけてると良いけど、読んだ限りではよく分からない。どうなんだろう。

重い内容のわりには軽やかに感じる何とも言えない飄々とした空気感が読後に不思議な余韻をくれます。
他の作品も読んでみたくなるくらいには好きな作風。
評価迷ったけど、好き度で判断して萌×2としました。
ただ「性癖108TYPE」の萌えポイントに共感して読んでみたくなった作家さんなので、萌え足りない感はガッツリ燻ってます。

2

死に向かい、再生するもの

このお話は「死にたがり」の人たちをテーマにした作品集です。
表紙がパステルカラーですし、絵柄もふんわりした雰囲気なので、中身は一見ゆる~い内容のように感じられるかもしれませんが、実はかなり重いテーマが全編を貫いています。
死ネタ系が苦手な人や、こういう話に引きづられやすいタイプの人には要注意な内容かと思いました。

死んでおけば良かったとか、誰かと一緒に死にたかったとか、過去に自殺しようとしたとか、
とにかく死にたい・死にたかった人たちのお話です。

「死ぬ勇気があるなら、生きるほうに勇気が向けば良いのに」
よく聞く一般的な感想です。

自殺は勇気ではありません。
精神を安定させるためのクスリ的思考です。

自殺願望者の中には自分が死んでいる所を想像したり、
死にかたを考えると気が楽になる人もいます。
だから心を落ち着かせるために死ぬことを考えるんです。
おそらくこの作中の死にたがりの人たちもそう。

そしてどうしようもなく強烈な精神安定剤が必要になった時に、人は自殺をするのです。
死んで楽になりたいって言葉があるくらいですから。楽になりたくて死ぬわけですね。

でもね。死ななくても、人生たまにはいいこともあったりするのよね。
苦しいことばかりじゃないよ。

この作品の中にもそれが描かれています。
本当は死のうとしていたのに、ひょんなことから生きる希望が湧いて、自殺をやめる人がいたり。
不実なことをすることによって心のわだかまりが溶けて、死にたがりだった自分に決別することができたり。
死にたかったけれど、生きる意味を与えてくれる人に出会えたり。

生きてれば、ある時ふと、心のすき間が埋まることもある。
そしてすき間を埋めてくれるような人に出会うこともある。
だから、明日も生きようね。

そんな、死に向かった人たちの、再生の物語でした。

というわけで、この作品は前情報のチェックもせずに何にも考えずに読んだもんだから、
意外な重さに「こういう話だったのか」と驚いたのですが、なんと私、わりと萌えましたねぇ。
特に萌えたのは『誰かと夏』。
エロいおじさんとビッチ臭い男の子に萌えたんでございます。どうやら二人で心中を図っていたようなんですが、死ぬ前に致すところが何ともエロティックですわ~と。
あら不謹慎でしたかしら。
でもふわふわしたゆる~い絵柄と、どこかねっとりとまとわりつくような暗さを持つ内容とが合わさって、逆にエロティシズムを感じてしまうというか。
不謹慎なものや不実なものほど心惹かれたりすることがあると思いますが、そのような萌えを感じてしまいました。いとはづかし~。

9

死にたがり達

山田酉子さんの作品はいつも短編映画とか短編小説を読んでいるような気がする。
よく小説で行間を読む・・・というのがあるのだが、漫画なのにそれがある気がするのです。
この本、良く見ると自殺未遂した男とか、自殺願望の男とか、死んじゃった人とか、生き残った人とか、死と愛が天秤の上でゆらゆらしている。
そして1本終わった後に、まるで夢だったようにその天秤がパァっと魔法のように消えるのだ。
そこに残ったのは・・・?
読者を選ぶかもしれない作品と作家さんだが、クセになる作家さんなのは間違いない。


【不実の男】は描き下ろし、その前振りが【不実の友】
同居の恋人同士の池田と倉敷。
倉敷は仕事が忙しくて帰ってこない。
そこへ突然に現れた甥っ子の高校生謙太郎。
言葉も足りずにいきなり電話口で託す倉敷にむかつく池田。
池田に興味を抱いた謙太郎と池田は寝てしまうのだが、その時見つけた謙太郎のリストカットの痕。
自分の高校生時代の暗黒歴史が甦る。
結局、謙太郎は男が好きでその彼に振られたのが原因で、しかしその彼が迎えに来る。
”お前みたいなオカマには興味がない””オレは男が好きじゃない”
だけど”愛してるよ池田”
謙太郎の自殺未遂もこれから山のように女がひっかかるってと言う倉敷。
傲慢で自分勝手でデリカシーがなくて、高校の頃から何一つ変わってない。
独占欲も・・・
実に不毛に見えるカプなのに、この俺のモノで当然という独占欲が池田の愛を満足させているのかもしれない。
きっと不快な傲慢攻めだろうけど、愛のカタチは様々なのだ。

【誰かと夏】
羽田という男性と旅行に行くのを楽しみにしていたとはしゃぐ高校生。
実は羽田は死にに来たのだ。高校生と一緒に。
それがわかっているのに、妹にお土産を買おうとしたりする高校生。
彼の自殺志願の理由は借金、ところが宝くじが当選しているのを見て、生への執着の本音をさらした瞬間・・・

【ひゅーすとん】
兄弟ユニットのボーカルの弟はビルから落ちて亡くなった。
それから兄は音楽活動を再開できない。
街で財布をスられ後日その犯人を見つけるのだが、亡くなった弟に似ている。
歌を歌わせたのだが、全然弟とは違った。その瞬間ストンと兄のツキモノが落ちた。
弟の自殺もひゅーすとんなら、兄のツキモノもひゅーすとんかもしれない。
不謹慎かもしれないが、そういうものかもしれない。

【つめたい恋】
心中して生き残った片方。
いつも亡くなった恋人は側にいるのに、触れることができない。
体温を感じることができない。
ユーレイとラブラブって、ファンタジーではあるのだが、何故か痛さが胸を刺す。

【中土居さんの孤独】
恋人が難病治療で海外に渡ってもう7年。
毎日届く彼からのメールをチェックしているが孤独だ。
そんな彼に声をかける昔向いに住んでいた高校生になった子供。
きっと恋人は中井戸さんを死なせない為にメールを送り続けたのだろうか。
これはハッピーエンドです。


逐一かいてしまって野暮ったいことこの上ないと思った(汗)
各話の解説めいた筋は覚え書きであり、全ての印象は冒頭のひと固まりの中にある。
評価は萌えだけどいつまでも心に残る作品で自分的神棚作品なのです。

8

パステルカラーの表紙が気になって気になって…

辛抱ならず手に取りました。
退廃的というか刹那的というかニヒルというか(このあたりは単行本通して死というものがテーマとしてあるからかもしれません)、誰かと誰かの幸せがうんぬんかんぬんといった分かりやすい内容ではなく、イメージがふわ~っとしています。
私自身が、こういった『雰囲気で読むタイプ』の話が割と好きであることや、短編集ながらも統一されたテーマ性が見えることもあり非常に満足しております。ストーリー自体も表紙から想像していた空気感と差異はありませんでした。
ただ“受け一人に対し攻めは必ず一人で浮気は御法度”というタイプの方にはおすすめしがたいです。いかんせん性に対してゆるめなので。
そしてテーマが【死】ですから(決してネガティブな内容ではありません、扱い方としては軽いかなと思います)、少しでもそういう匂いのするものが苦手な方は、避けた方が賢明です。
驚いたことに表題作【不実の男】は書き下ろしでした!(笑)

【不実の友】
高校時代の俺よ、あの瞬間に既視感を覚えました。
なんでしょう、誰しもにあると思うのです。あの当時の自分が今のこの自分の現状を信じられるかどうか、というような感覚。
それが別に大した変貌や変化がなかったとしても。例えば就職だったり、恋愛もそうですが人間関係なども。当時の自分からは考えられないような今、とか。池田が呟くノスタルジーは誰しもの胸の内にあるなと。
精神的に熟れていない謙太郎と、過去に似たような経験を持つ池田のふたりは結果的に傷をなめ合うような感じになってしまいましたね。浮気すんなよ、というのもありましたがひとつ屋根の下できっかけなんて些細なことです。仕方がないと思いました。謙太郎曰く、池田はキレーでドキドキしてしまうんですもの。

【不実の男】
池田の不実が可愛いものだなと思ってしまいました(笑)
いやダメなのでしょうけれどもね。でもデスマデスマって会社籠ってたはずの謙太郎が仕事じゃなくって合コンってそんなこっちは我慢(結局しきれませんでしたが)していたのに、ひどい話です(笑)
おそらく普段ならコンパにしろ飲み会にしろ、気にするほどでもないのでしょうが、なに嘘つくのは良くないのですね。パフォーマンスだったとしても池田が機嫌損ねても仕方がありません(笑)
ただ、謙太郎の池田に対する絶対的な自信はたしかに可愛いのです。独占欲というよりも、信じているんでしょうね。そして謙太郎はゲイでないと言い張るのに、池田のことを愛しているんですから。

【誰かと夏】
短編集内でもっとも 背徳的だな… と感じました。
序盤から不穏な空気は漂っているのですが、だからか一層男子高校生に色気があっていっそこわいほどです。絵にこわさはないのに、雰囲気というか、目でしょうか。笑っているのに笑っていないような。
羽田さん、残酷です。彼の横顔がおとなびて見えたのおそらく、もう死を共有する相手じゃなくなったからなのではないでしょうか。今もきちんと、生きているのかな。

【ひゅーすとん】
後悔先に立たず。
いつでも最善のことが出来るならそれより良いことはありませんね。でもなかなか難しい。
ムラさんが前を向けて、過去を振り返れて、よかったと思います。

【つめたい恋人】
いつになれば恋人は成仏するのか、それとも結局彼らの本望であった心中を叶えてしまうのか…。
でも須賀は馬淵に生きていてほしいのだから、馬淵がなにか生きるためのよすがにできるものを存在を見つけないとなりませんね。そうじゃないと繰り返してしまう。今は須賀のことしか、心中を遂げるはずだったことしか、考えていないから。
それまで、須賀は見守ってくれているんでしょうか。寂しくはないのに、けれども物悲しいと思いました。

【中土居さんの孤独】
なんとなく「…そうなんだろうな」という予測はありました。でも良い。
諦めてぼんやりと、でも恋人が中土居さんに生きていてほしいからわけのわからない内容でも送り続けようと、したその意思を汲んでいるんでしょうね。辛い。
祈りと呪いの言葉の洪水のコマがとても好きです。もしかしたらなにか単語になるのでは、と探して探して、でも洪水ですからきっとこぼれたり落ちたり、わき出す途中だったりするのでしょうね。
孤独の終わりが新しい恋であって、よかった。諦めじゃなくて、よかったです。

ミニシアターで上映されるような映画を何本か見たような気持ちになりました。
萌えたかどうかで問われると難しく、迷った末の評価なのですが、ひとつひとつに満足しております。良かった。

4

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