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攻め視点。
友人・佐々木が、ゲイの環(受)に対して、道を踏み外しただの、気持ち悪いだの、矯正するとか言って、女と会わせたり風俗連れていこうとするから、ちょっとストレスを感じます。(このあと受けとして出てくるキャラなのに)
攻めの母親デリカシーない系です。口を開けば結婚、子供、と昭和脳ですね。
渡部が少し押しが弱いのに対し、環は強気な態度だから、渡部が振り回される感じなのが好き。
次が問題のゲイ嫌い・佐々木が主人公の話。
従兄弟の国見と女絡みで穴兄弟になる描写はあるし、風俗デリヘル大好きだし、創作上の人物なのにすっごく不快になる。
子供作れねーだろ不毛だろって頑固。自分と正反対の思考すぎて、全然のれなかった……。
風俗通いさせない為に、国見が佐々木をパイパンにするけど、清潔になるし逆効果なのでは、と思った。
そして渡部環カップルに問題が起こる。お互いの親関連で。このシーンはめちゃくちゃ胸糞というかイライラが止みません。
でも渡部がめちゃくちゃいいセリフを言ってくれる。
「俺ら以外の誰かを幸せにするために付き合ってるんじゃない。親はどうでもいい。ババア共は放っておけよ」
快晴。天晴。スカッとした。
モヤァ……とした終わり方だったので、欲を言えば、受け(佐々木)ザマァ展開を見たかった。
佐田三季さんの小説、やはり読み応えがあって面白いです。2カップル出てくる二本立ての小説ですが、2つの話はリンクしており、アラサーの主人公達4人は幼馴染みのような関係です。これはストーカーものではないけど、2作目の従兄弟同士の話は攻めの執着が相当強く、レイプして受けの体を奪ってるのでかなりヤバい人です。
表題作「ボーダー」は元高校同級生同士のノンケ×ゲイの恋。高校時代に片想いしていたのは受けの環の方だったけど再会して体の関係を持ってからは攻めの渡部の方が執着が強くなってしまい…やはりこっちもストーカー気味の人でした。
「ボーダー」で受けと攻めに差別的な態度を取り、かなり嫌な奴だった佐々木も環と渡部とは高校の時の同級生。一つ下の従兄弟の国見に子供の頃から執着されている事に気づいていて、牽制しながらも思わせぶりな態度を取る…という話が「揺れる境界線の上」。こちらの話は攻め受け2人共、同情すべき境遇でかなり拗らせているし、闇が深い気がする。まあ血が繋がってるしお似合いなんじゃない?と軽く言ってみる。
1話目の攻めと2話目の受けは、自分が男性同性愛者の気があるのかどうかボーダーギリギリの気がしていて、最初は世間体を気にして、悪気なくゲイへの偏見の塊のような言動や行動を繰り返します。でも間違いなくあの2人はゲイよりのバイなので最終的にはボーダーを完全に超えるのだろうなと思いました。
気の毒なのは当事者達の3人の両親が(2話めの攻めには両親がいない)、全て多様性を認めるような人格ではなく我が子の幸せより世間体を優先する人達だった事。リアリティがあるけど親との修羅場が痛すぎて辛かった。特に感情的になりすぎる母親とか…この話で母親は悪にしか描かれていません。1人くらい温かみのある親がいてもいいと思ったけど佐田さんの作品はそんなに甘くありません。でもまた胃のキリキリするような痛くて怖くて、これフィクションでよかったー!と思える中毒性のあるお話、読んでみたいです。
最後の最後に明かされる佐々木の秘密にはあっと脅かされました。1話目での態度の悪さにも少し納得というか同情しました。
表題作+スピンオフ作の2編収録。
「ボーダー」
ノンケの高校教師・渡部が元同級生の環に恋をしてしまうお話。
…とひとくくりにしてしまうには重すぎる物語です。
環はゲイで、これまでの交友関係を切って音信不通になっている。そこにたまたま会ってしまった級友がいて、高校時代に仲の良かった渡部がしつこく旧友を温めようとしている。
ゲイの環は頑なに渡部を拒絶するんだけど、ゲイのお作法的な「一線」がわからない渡部がそこを越えてきてしまう。
環は元々渡部が好きで。
なら尚更「情」を持ち込まないセフレ関係を提案し。
すると渡部は本気でのめり込んでくるわけ。
環は自ら身を引くんだけど、とにかく渡部は引かない。
一貫して攻めの渡部視点で描かれ、環の行動は渡部にとっては「嫌われて逃げられている」という描写になっています。
だからこそ、ノンケとしての平穏な世界を捨てて環を選ぶ渡部の姿が際立ちます。
「揺れる境界線の上」
「ボーダー」にて、ゲイの環を「正常に戻す」というおせっかいを続けるもう1人の級友・佐々木が主人公になっています。
佐々木は勤めていた会社が倒産し、離婚もして実家に転がり込んでいた。
佐々木には国見という従弟がいて、どうやら国見が自分に度を越した好意を抱いていることを感知している。
…という設定。
佐々木はゲイフォビア。それも攻撃的な…
だから自分に好意を抱いている国見に対して、わざと風俗通いを強調したり、わざと目の前でAVを見たり、男同士でくっついてしまった親友の渡部をけなしたり。
正月。妹に実家から追い出されて国見の家に泊めてもらう佐々木は、いつも通り国見に世話になりながら国見の告白を「言わせない」態度。
だが今年は今までのようにはいかなかった…
体格に勝る国見は、嫌がる佐々木を押さえつけて三日三晩の強引な性交を。
自分だけの家もなく、拠り所の会社も妻を失い、実家で肩身は狭く。
ホモは嫌いだったのに。ホモなんて、ホモなんて。
それでも優しく温かい国見の腕の中にいつしか救いを求める。どうしても求めてしまう自分。
それは恋なのか?それは愛なのか?
そのどれでもなくてもそれでいいと腕に抱いてくれる国見に寄りかかっていく佐々木の姿。
佐々木があれほど嫌がっていた「ホモ」に墜ちる。そこには何か「線(ボーダー)」はあるのか?
グラデーション、今の言葉で言うとスペクトラムを描いて圧巻な一編です。
文章がわりとしっかりしていてなかなかよかったです。
まじめな無骨系の高校教師、渡部と、乙女な環のカップル。そしてキーマンとなる友人の佐々木。
佐々木から、環がホモになった、と聞いた渡部は、高校を卒業後久しく会っていなかった環をゲイバーに尋ねる。
拒絶する環だが、渡部はだんだん惹かれてしまい、自宅におしかけたりするように。
ノンケの渡部は自覚無しだが、お互いに”お試し”などと冗談めかして体を重ねる。でも、本気になってきて耐えられなくなった環は渡部を突き放す。
逡巡する渡部が、自分の恋を自覚し意思をもって環を追いかけるまでの物語でした。そうとなれば初恋の人だった渡部を前にぐずぐずになってしまう環であった。
(まるこ風)
もう1編、ホモをかたくなに否定していた佐々木の話。
兄弟同然にして育った国見との関係が描かれます。佐々木は、がたいがよいがどこか飄々として無口な国見が苦手。それは自分への行為を感じるから。
これまで何度も冗談にしてかわしてきたが、年末年始を二人で過ごすことになって、避けがたく対面する二人。
だんだんと国見の執着があらわれ、空恐ろしくさえなってくるのが秀逸。それにまきこまれてゆく佐々木。
佐々木が無自覚に渡部を好きだった設定も良し。
【ボーダー】
ノンケの攻めとゲイのバーテンダーの受けの話。
攻めの渡部は受けの環に近づくが、環はゲイである自分とノーマルである渡部を線引きして突き放す。好きだけど距離を置いて、好きだから遠ざかる。環の中にノンケに恋をしてしまったゲイの苦悩が伺えて読んでいてつらくなりました。
【揺れる境界線の上】
ずっと受けのことが好きな攻めと、ゲイフォビアのバツイチ受けの話。ボーダーではさんざんゲイを嫌っていてBLの登場人物としては嫌われ要素満載な役回りだった佐々木でしたが、今回は主役のしかも受けとして登場します。
男は女を好きになることが当たり前。同性同士の恋愛なんて気持ち悪いだけ。そんな自分の価値観を環や渡部に無理矢理押し付けていた佐々木ですが、まさかそんな彼が線を飛び越えてしまうとは。
ゲイという人種をずっと毛嫌いしていた佐々木が国見の気持ちと向き合ったとき、自分が今まで必死に線引きしてきた境界は意外にもあっさりとなくなってしまいました。けれどもそこに行きつくまでの過程が長く、リアルに描かれていてとても良かったです。
最近何の疑問や葛藤も抱かずにすんなり男と男がくっついてしまうBLが増えてきているなか、「ゲイフォビア」のキャラクターを出して世間体や常識、価値観の違いをぶつけてきたのはとても新鮮でした。