やわらかな星は、涙が出そうなほど甘かった。

  • 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作キャンディカラーの世界できみと

永原周、カフェレストランシェフで智紘の恋人・25歳
野田智紘、スランプ中のライトノベル作家・25歳

その他の収録作品

  • たった二文字の甘いもの
  • あとがき

あらすじ

ライトノベル作家の智紘がいっしょに暮らす家族は、高校時代からの付き合いになる最愛の恋人・周とニワトリ(ボリスブラウン)のマチルダ。物語世界に没頭してすぐに寝食を忘れてしまう智紘を机から引き剥がし、手ずからおいしいごはんを食べさせてくれる周は寡黙な男前で、小さなカフェレストランでシェフをやっている。ただ見ているだけで充分だったあの頃からは信じられないくらい幸せな日々に、未だに夢のようだと思ってしまう智紘だが……。

作品情報

作品名
キャンディカラーの世界できみと
著者
中庭みかな 
イラスト
すずくらはる 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
発売日
ISBN
9784344842359
3.5

(32)

(8)

萌々

(10)

(9)

中立

(0)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
9
得点
107
評価数
32
平均
3.5 / 5
神率
25%

レビュー投稿数9

眩しい光

全体的に可愛らしいお話でした。
ただ、要所要所では切なく、何度か胸がギュッと絞られました。

中庭先生の作品は2作めです。
最初に読んだお話があまり馴染まなかったので、この先生の作品は合わないのかな?と思ったのですが、このお話は良かった。ジーンと響きました。
言葉の選び方、情景描写、ともにしっくりきて、他の作品も読みたい!となりました。

こちらのお話、最初から既に恋人同士です。
高校時代に智紘から交際を申し込み、周が快諾?して、お付き合いが始まり、現在は同棲しています。
智紘目線で綴られているので、周の感情が全くもって読めないのですが、読者からしたら周の愛情は分かりづらいながらも見えます。

ただ、肝心の智紘には言葉も想いも届かないため、智紘はずーっと不安なままでいます。
恋人同士とはいえ、愛情の矢印が一方通行でしかないのではないか、という不安です。
駆け出しのラノベ作家である智紘は、仕事面でも不安を抱えていて、その両方の不安に押し潰されそうになり…と話は展開していきます。

この作品の何に一番惹かれたかというと、色彩です。

キャンディの色は恋心のピンクに不安のブルー。励ましのゼリーは赤。周の職場はカフェなのですが、その庭に咲く凌霄花のオレンジ。
全てが効果的に散りばめられていて、キラキラしていました。
そして周と智紘、二人の想いが同じようにキラキラしていて、眩しいほどでした。

心情とリンクした色使いに心揺さぶられる、とても素敵なお話でした。

1

隠れた名作

中庭先生の作品郡は、隠れた名作の宝庫だと思っているのですが、思ったより注目されていないのはなんでなのかなぁ、といつも不思議です。

一穂ミチ先生や、凪良ゆう先生、朝丘戻先生なんかが好きなのと同列に中庭みかな先生の作品もとても大切にしているので、もし新しく作品を探している方が居るなら是非、読んでもらいたいなぁと常々思っています。

さて、この作品も、中庭先生のじんわり切なくて温かい、色彩の豊かな文章がとても印象的な作品でした。
表紙のほんわかパステルなイメージとは少し違って、どちらかと言うと、夏の夕方の日差しに、カラフルで透明なガラス玉を透かしたような、淡くて切ない中にある鮮烈で狂おしいほどの愛が詰まった内容でした。

中庭先生の作品は、主人公(受)が痛くて苦しくてギリギリまで孤独を味わい尽くして、そうしてやっと攻め様に掬い上げられる、みたいな印象も強いのですが。

今回は程よい切なさと痛み、シリアス感、そして最後の愛に溢れた2人のやりとりがとてもバランスが良くて幸せな気持ちになりました。

内容は、これから付き合う2人のお話ではなく、すでに付き合っている2人のものなのですが、どことなく安西リカ先生の「好きで、好きで」を思い出しました。
それに比べて少しばかりシリアス、重め、切なさ増量、といった感じでしょうか。

決して派手なことは起こらないのです。
けれど、両思いなのにずっとずっと片思いをしているような切なさ、生きることに少しだけ負い目があるような苦しさ、それらを表現するのは、中庭先生の強みでもあり、本当に素晴らしく上手く物語に絡んできていました。

また、モブの静さんや成島さんもいい味出してましたので、ぜひぜひ、スピンオフ書いて欲しいです。
同人誌でもいいから、静さんと成島さんの行く末を見守りたい…
彼らはこじらせてもう10年以上とのことなので。絶対に面白いお話が読めると思うのです。

攻めの周は、本当にいぶし銀で言葉足らずで、表情も足りません。
けれど、少なに語られる一言がそれらを補うようにずっしりと重くて力強い。
それに加えて、智紘のことをほんとにほんとに大事にしてるのが節々で伝わってくるんですよね。
こういう寡黙攻め、好きだなぁ〜〜〜
いかんせん言葉が足らないので、智紘は色々不安になるんですけど、しっかり両思いになった後に、智紘の腰をずっと後ろから抱き抱えているシーンなんかは、本当に可愛らしくてとっても癒されました。

受けの智紘も、周のことが大好きで大事で、周自身がポロッと零した言葉なんかをずっと覚えているんですよね。
ずっと負い目に感じていた、周を付き合わせている、という気持ちが、やはり全編通して切なかったです。
共感できるからこそ、その弱さや生き方への辛さがより伝わってきました。

そして挿絵も、繊細でお話のイメージにピッタリで良かったと思います。

そしてSSは攻めの周視点。
これを読んでやっと、少しだけ周がどんな思いで智紘を見ていたのか、そばに居たのかがわかります。
思いの外、智紘にゾッコンだったんですねぇ。
いいものを見た。と言う周の周りに漂う空気感だとか色彩が、文章からひしひし伝わってきて幸せなのに切ない。甘いのに辛い。とってもいい塩梅のお話でした。
本文で、周が智紘の書くもの、について触れている箇所があるんですが、
「楽しくてどこか少し寂しくて、本を閉じたあともいつまでも胸に残って消えない、残像のように明るい光だ」と言っていて妙に納得しました。
「食事や睡眠がひとの身体を生かすように、あの光に似たものが、ひとの心を生かすのだろう」
そんな言葉に、中庭先生の書くものこそがそれなんだ、と改めて実感しました。

読んで生かされているなぁ、としみじみ思います。
素敵なお話が読めて、本当に幸せでした。

ちなみに、萌え2評価なのは、私の中で沈まぬ夜の小舟が圧倒的に神だからです。変な意味はありません。

2

極彩色の情景描写、心理描写。圧巻の名作。

素晴らしかったです。
何度も読みながらしみじみと感動が胸にしみて、泣きました。

中庭先生の作品を読むと、主人公の「この世界にひとりぼっち」という感じの孤独が胸にしみこんできて、その切なさに泣くことがよくあります。
今回も、智弘(受け)のそんな孤独が胸にしみたのですが、それ以外の部分でも感動で泣きました。

アルマの庭の美しさは本当に素晴らしかった。
智弘がぎこぎこと古いママチャリを漕ぐ様子や、アマンダに餌をあげたり話しかける様子…彼らが暮らしている情景が、鮮やかに目の前に見えるようで、本当に美しかったです。その鮮明さに泣きました。あまりに美しくて…。

私は勝手に、情景描写にこそ小説家の先生方の個性が出るなあと思って読んでいるのですが、本作の情景描写は中庭先生の繊細で、丁寧で、儚げな情景描写を堪能できる作品だったなあと思いました。

中庭先生の作品は、他に「片恋のスピカ」「黄金のひとふれ」を拝読したのですが、これまで読んだ作品の中で、一番まっさらな気持ちで先生の情景描写を楽しめた気がします。
「黄金のひとふれ」は、主人公の深い孤独に心が引きずられて、どの情景描写も冷静には読めていませんでした。「片恋のスピカ」も素敵だったけれど…本作のアルマの庭のシーンは本当に本当に美しくて、透き通った飴玉を思い起こさせる咲き誇る花々に心が奪われました。

ここも、ここも、ああ中庭先生っぽい表現だなあ、素敵だなあとたくさんドッグイヤーをつけて読みました。

中庭先生の作品で初めて読んだのが「黄金のひとふれ」だったので、中庭先生のお話はズタボロの受けが苦難に耐え忍ぶお話…という印象があったのですが、本作を読んで、その思い込みは吹き飛びました。
ほどよい切なさの中に、やわらかで繊細な甘さが丁寧に落とされていて、その塩梅が素晴らしくて…。

中庭先生の物語をずっと読み続けたい、と、物語を読みながら涙が出ました。
小説を読みながら作家さんにそんなふうに思いをはせて泣いてしまうのは、初めての経験でした。
中庭先生の表現が好きです。唯一無二だなあと読むたびに感じます。読めば、中庭先生だとわかる文章が好きです。

生きることに閉塞感、苦しさを覚えている主人公の繊細な心の揺れ動き、風の匂いや葉っぱのそよぐ音が聞こえてきそうな丁寧な情景描写。
どちらもが中庭先生しか書けないものがいつも書かれているし、この作品はその最たるもののように感じました。

終わり方も素晴らしかったです。
本編後の短編「たった二文字の甘いもの」は、「おおおおお…」と引き込まれながら読み終えました。この世界はたった二文字でできる、甘いものでいっぱいだ。最後の一文まであまさず素晴らしい物語でした。

3

両想いなのに切ない


初めから出来上がっているカップルの話のはずなのに、片想い感が半端ない。
普通出来上がっているカップルの話の場合、初めはずごく甘くて途中でなにか事件があってというのが定番なのに、幸せいっぱいのピンク色とか言いながら、不安な気持ちを押し隠している感じ全開。
読み終わってみると、ちゃんと両想いだったのに攻めの言葉がないせいと受けが付き合ってもらってるという気持ちが強すぎて遠慮してしまって心がすれ違っていたというのがわかりますが、読んでいる間はずっと切なくて切なくて苦しかったです。
SSで攻め視点になって初めていろいろ考えていたんだなと思いますが、ほんとの恋人になるまで8年って長すぎでしょって感じでした。

<あらすじ>
智紘(受け)はスランプ中のラノベ作家。現在新しいシリーズの構想を練っている途中ですが、全くアイデアが思いつきません。
私生活では、8年の付き合いのパートナー・周(攻め)と一緒に暮らしており、いつもふわふわピンク色の中で生活しているみたいに満たされています。
周がシェフをしているカフェレストラン「アルマ」のオーナー・静とも仲良くしてもらい毎日のように入り浸っています。
そんなある日、「アルマ」に新しいバイトとしてかわいい女子大生・未衣がやってきます。彼女を見たとたん封印していた記憶が蘇ってしまうのです。


智紘は昔から本を読むのが好きで小説を書くのが好きで、大学3年で賞をとりそのままデビューして今に至っています。
ふわふわとした感じで生きてきたと思っており、地に足をつけている周に対して気後れしているところがあります。
周とは高校時代の同級生で友人として親しくしていたのですが、智紘が場の勢いで告白してしまい、付き合うことになります。
キスもセックスもいつも自分からだし、好きという言葉も言ってもらったことがない。そのため、付き合ってもらっているいう思いが強いです。
「アルマ」に未衣が来たことにより、まだ告白する前にカフェを経営している夫婦のニュースを見て周がこういうのが夢だと言っていたことを思い出し、周の夢の邪魔をしているのではと思い至るのです。

周は高校を卒業してから苦労して調理師免許をとり、現在は「アルマ」のシェフとして働いています。
すぐトリップしてしまう智紘を気遣い、食事をきちんととるよう目を光らせています。上下に4人の兄弟姉妹がいて真ん中なためか、高校生で智紘が出会ったときから大人びた態度をとっており、寡黙で表情もあまり変わりません。


スランプでネガティブになっているところに、静の後輩・成島がやってきて智紘にチョッカイを出すので余計に話がややこしいことに。
そのタイミングで、実は半年前に周は店をもつという話を断ったことを聞き、その原因が自分だったということも知ってしまいます。
スランプに加え周の夢の邪魔をしている自分に気づき、智紘は不安定になります。

そんな中、自分の気持ちに整理をつけようと次の本のプロットに周と未衣と自分をモデルにした話を考えるのですが、担当編集に自分をモデルにしたキャラクターはいらないんじゃないかと言われ、自分のことと投影していただけに自分は必要ないといわれているようで傷つくのです。
小説家だけに妄想力が半端なく、あっという間に周と未衣が実は好きあっているんじゃないかという妄想に取りつかれてしまうのです。周は未衣と共通な話題があるとしかいわないし、誤解されてもおかしくない言動も取っているうえ智紘の勘違いに全く気が付いていないし、唯一気が付いていたと思われる成島は見て見ぬふりだしで、それを正す方法はいくらでもあったのに、だれもこの勘違いを正すことなく、修羅場に・・・
巻き込まれた未衣ちゃんもちょっとかわいそうでした。自ら混じってきた成島は静に怒られて自業自得だったけど。

ただ、ここまでくるまで周が智紘の不安に思っていたことに気が付かなかったのでしょうか。結局、周がもう少し言葉か態度で表してればと思うとなんだかなぁという気分になります。
ただ、話に何度も出てくるカラフルなキャンディーのパステルカラーが頭の中ではじけるので切なくて仕方ない話だったのに、雰囲気はカラフルなふわふわしたやさしい感じになっていて、それが違和感なく同居しているのがちょっと不思議な話だったと思います。

静と今回当て馬役の成島の話がちょっと気になりました。
出てきたときから、智紘にチョッカイだしていましたが、どう見ても本気じゃないし、静目当てだよなーと思いながら見ていたので、その後の二人はどうなるんでしょうねー。

SSは周視点。
「たった二文字でできる甘いものは」というなぞなぞに、いまだに好きだと言えていない周‥
本編よりお互いちゃんと話ができるようになった二人ですが、それでもいまだに
「すき」といえない周でした。


「電子特典おまけ」周視点
ある晩、帰宅すると智紘が落ち込んでいることに気が付きます。
智紘は気分が落ち込むと食事量が極端に減り、いつも置いてあるキャンディの消費量が極端に多くなるのです。
まだ仕事をするという智紘を置いて先に寝ていると、夜中に語り掛けてくる声が
・・・

智紘は周が寝ていると思い(周は起きていると言い辛くて狸寝入り)、弱音を吐くのです。そして寝ている周がこの愚痴で悪夢を見ては大変と、おもむろにスマホで波の音を鳴らし、「きれいな魚がいっぱい泳いでいて、ピンクのいるかもやってきました。とても奇麗で楽しいでーす。」と。
智紘が可愛すぎて眠れなくなる周が面白いです。

次の日、変な夢見なかったか聞かれ「ピンク色のいるかが出てきた」と返す周。それを聞いて嬉しそうにする智紘に、可愛すぎて暴れそうになるのを落ち着かせるために何度も顔を洗う周に笑いました。
切ない話が長かったので、このおまけはとても楽しく面白かったです。

2

おまえが嫌になっても、もう逃がさん

作家・表紙買い。
キラキラふわふわ表紙と”キャンディ”というタイトルから
もうこれ絶対甘々なお話じゃん!と、読み始め…
気が付くと、智紘の片想い劇場に見事に惹き込まれていました…笑。

高校時代からの知り合いで、恋人になってからは6~7年?なのに、
両想いだと分かってのエッチに至るまで282Pかかるなんて…(´・ω・`)
智紘視点で進められるお話なので、
付き合ってもらってる、本当に好きな人が出来たら手放す的な片想い感が
ずっーとずっーと続くので、読み手にとっては好き嫌いが分かれるかもですね。
私もうだうだうじうじ系はあまり好まないのですが、
このお話のカラフル感溢れる言葉の綺麗さや、受攻の一途さ
出てくる周りの人達の絶妙なアシスト加減など、魅力も多々あり
たまにはこういうお話もありかな…といった読後感です。

甘々を期待して読まれると、正直途中でしんどくなると思います。
ですが、このお話のオススメしたいポイントでもある
片想いの切なさ・言葉の大切さ・相手との信頼関係を
十分に堪能出来る深いお話なので、しっとり系が読みたい時にオススメです★

9

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(小説)一覧を見る>>

PAGE TOP