表紙と試し読みを見て、これは当たりの予感しかしない! と思って買って読みましたが大当たりでした。
高校2年生の戸上と箕野の日常を描いた漫画です。画面の隅々まで絵がかわいいです。よくある学生BLに見えるのですが、なかなか独特な内容でした。
殊に戸上と箕野の距離感の絶妙さ。端的に言うと近すぎず遠すぎず、だけどお互いに想い合っているのは確からしい。という感じなのですが、BL作品でここまでそれを徹底しているものは珍しいのではないかと思います。
明確にBLだと分かる描写がないと嫌だという方には向かないと思いますが、これを恋愛と呼べるか呼べないかのギリギリの距離感にドキドキしたい方にはおすすめです。
5話完結の表題作を含む五つの中短編とおまけ一つの入った作品集です。
植物達が緻密に描かれた背景や装飾画に目が奪われうっとりとしてしまいます。ストーリーを楽しむ漫画というよりは絵を楽しむために読む漫画という印象が初読の時は強かったのです。
でも、2周目では登場人物の会話や内心に目が向いてしみじみと良いなと感じました。
耽美的な絵柄からは、植物の瑞々しい葉を触った時のような冷たさや、鬱蒼と草木の生い茂る森に漂う湿気を含んだ冷気を感じるけれど、登場人物たちの間にあるのは温かくて柔らかい空気です。
特に表題作『百草の裏庭』は尺が長いぶん心理描写が特に細やかで、マルセルとギーゼルベルトがお互いを知り合いやがてかけがえのない絆で結ばれていく様が描かれています。
耽美的な雰囲気でありつつ、耽美につきものの冷たさや退廃的破滅的な雰囲気はなくて、温かくて優しいお話でした。
監獄ものなのですが、意外と悲愴感がないお話でした。主人公のユウト周りにいい人が集まってきて励ましてくれたりするので、読んでいるこちらとしても沈鬱な気持ちにならずに済みました。
ディックの、冷めてる感じの性格でありつつめちゃめちゃ世話焼きというキャラがとっても魅力的。時々ユウトに対してツンデレムーブをするところも微笑ましく、ヘヴィーな世界観だけどBLらしい描写だなぁーと思ったりも。
ところがディックのツンデレムーブにはラブ以外の意図も含まれているという意外性に瞠目しました。
ラスト辺り急展開でサスペンス度が爆上がってハラハラドキドキ。スリルがあって面白かったです。
続編ありきで始まったストーリーらしくスルスルと次巻に続きます。
ボロいけれどアットホームなアパートに住む高校生と、彼の養父でアパートの管理人兼人形作家の、息子✕養父……「禁断の純愛」です。
禁断とは(ゴクリ
と、つい固唾を飲んでしまったのですが(近親✕✕BL好き)読んでみたら禁断というほどドロついていなくて心にじんわり染み入るお話でした。あたい、こういうの好き……。
主人公の喜一は、小さい頃に母親の旧友であった次郎を頼って母子で古いアパートに越してきました。その頃から父親の様な友達の様な距離感で次郎と親しんでいた喜一ですが、高校生になり女友達の杉崎との交流を通じて、自分の次郎に対する漠然とした気持ちが何であるのかが明確になっていきます。しかし、義理といっても親子である以上、次郎が喜一の気持ちに応えるわけもなく……。
わたし的にこのお話のなかで特に好きなポイント、BL読者にはあまり好まれない要素かもしれませんが、喜一と杉崎ちゃんの微妙な距離感だったりします。自分は喜一の中で恋愛対象としては無しなんだなと静かに悟る杉崎ちゃん。喜一も全く鈍感なのかと思いきや、彼女の変化に気づきつつも友達という事では駄目なのだろうか? と悶々とするところが良いです……ほろ苦い青春だなぁ……。
とか、他にもいくつか滋味のある脇役の切ない恋物語がいい感じに利いているところがとても好きです。
ヒューマンドラマの描写がいい作品で、前述したとおりいうほど「禁断」感はないのです。しかし終盤で成長した喜一がより一層実父に似て育っていた事にはなんとも言えないいけなさがありました。
ところで、序盤の頃に杉崎ちゃんが喜一の住まいを見て「アニメとかで見たことある」という場面、鈍い私はそうね、アニメとかではこういうタイプのボロアパートを見かけるかもねーと思いつつ微妙に引っかかりも覚えつつスルーしてしまったのですが。最後まで読み終わってから突然それって『め●ん一刻』のことかーー! と気づいた瞬間最大の禁断感が私を襲いました。なんか知らんけど……。
高校生同士の初々しい感じのBLです。
作者さんのSNSで発表されたBL漫画の総集編というか馴れ初め編であるらしいですが、私はミリしら状態からいきなり本書を読んでしまいました。
そして、なるほど高校生同士の初々しい感じのBLだな! と思って読了して一晩寝て起きてから考えたのですが、これはSNSから入った方がより一層楽しめる作品なのではないかと。
登場人物を0から少しずつ知って、長期間見守っていくうちに愛着が湧いてくるタイプのお話だと思います。リアタイで追ってる人達が羨ましくなるやつです。
佐岸左岸先生の『春と夏となっちゃんと秋と冬と僕』や山下街先生の『あした愛かもしれない』みたいな、何度も読み返したい作品になる予感がします。
もしも現在本作品をミリしら状態で単行本を購入しようかどうか迷っている方は、一旦待って作者さんのSNSからゆるゆると辿ってみるといいかもしれません。そうすると本作品との出会いがより素敵なものになりそうです。
雑誌で時々見かける、やたらタフなスト重系BL漫画という印象があって、でもシリーズが長く続いている様で、読めるとこから読んでもよく分からない、といった感じでそのうち読もう思い続けて百万年が経ち(経ってないよ!)、やっと読んでみました。
誰!? って思うくらい絵柄が違うことにまず驚き。最近はすっかり青年誌っぽい絵柄になっているけど、最初期の頃はもっと少女漫画のような絵柄だったんですねぇ。でも太一の元気一杯なところは全然変わっていないです。
中学生の頃に突然難聴を発症した航平と、貧しい家庭育ちでいつもお腹を空かせているも、唐竹を割ったような性格で元気一杯の太一の出会い。降ってきたのか、太一が。
いざ読み始めたら、黙々と読んでしまいました。
ストーリーをグイグイ読ませる手腕はこの頃から。共感出来る心理描写。
黙々、黙々………。
ていうかこれ、BLなん?
と、ふと我に返って思うことも最新話を読んだ時と同じだなぁ。
おまけページの著者コメントにBLほったらかしでストーリーを転がしていたら担当編集者からBLを催促された旨が書かれていました。ガチでBL描いてるのを忘れてたんかーい!?
掲載誌でイロモノ揃いのボーイズラブアンソロジー『Canna』の中でも異彩を放っているガッツリとしたストーリー重視BLは今も昔もスト重でした。
ラブだけじゃ退屈で骨のあるヒューマンドラマを読みたい方におすすめです。
オメガバース創世記BL3巻目です。2巻ぶんもまとめてのレビューです。
レビューを書こうとして気づいたんですけど、1巻(上下巻)が発売されたのが2021年で2巻が2年前でこの3巻が去年なんですね。つい最近に1巻が出たような気がしていたのに! 時が流れる速さがエグい!! 年かな!!? こわ!!!
しかし作中の時間の流れはかなりゆっくり。1巻の初ヒートのドタバタからまだ1ヶ月くらいしか経っていないとは! そしてこの3巻の終盤は2巻の翌朝です。
最終回まで辿り着くのにあと何年かかるんだろうか……と、途方に暮れたりとか。
ともあれ。
2回目のヒートが来ました。前回のヒートは初めてのことだったので完全に手探り状態だった喬と西央でしたが、今回も手探りです。だって前代未聞の出来事ですもの、2度目があるとか分からないのです。
今度はよりにもよって合宿中にヒートが起こってしまうという大事件。大部屋で皆でお泊りしなきゃいけない時に、色々アレなことが起きてよいわけがなく……。
子どもだけで対応出来るわけもない事態に、喬は意を決してお父さんを頼ります。
オメガバースというものが未知の世界で暗中模索する喬。そして息子とその恋人を受け入れざるを得ない家族の当惑。人間ドラマが濃くなってきました。男同士の恋愛でもオメガバースとなると途端に当事者だけの問題じゃない感増し増しになりますね。なにしろヤれば子どもが出来るんだ………という事を登場人物の誰一人として知らないのであった。
オメガバースという物がなんであるか知っている読者たる我々は、やきもきせずにいられません。訳も分からずオメガバってるとかやばすぎ!! と。
あ、今ごろ思ったんですけど、この作品を読む際には事前にオメガバースの知識を頭に入れておいたほうがより楽しめますね。みんなでハラハラしましょう(「みんなで」とは。)
何って言ったらいいのかわからなくて、読んでから3ヶ月くらいレビューを書かずに放置してしまいました。端的に言うと純文学BL。なかなかお目にかからない作風です。
主人公の淀井は、同じクラスの村瀬のことを気にかけています。いつも口を半開きでボーっと虚空を見ていて、なにを考えているのか分からない村瀬。彼は淀井の迂闊な一言により、虐めのターゲットになってしまったのでした。
淀井は美化委員で一緒になったことと罪悪感から村瀬に近づき、仲良くなります。ところが虐めがよりエスカレートし、目の前で村瀬が傷つけられるのを見た淀井は怒りに我を忘れてしまい……。
冒頭はよくBLにありそうな話でもあるのですが、トラウマを介して関係を深めていく二人というのもあるっちゃある話なのですが、でもすごくて!!(ボキャ貧)
村瀬の内面の豊かさ、彼の目を通して見る世界と淀井の美しさが、キラキラと輝いていて良いのです。
彼は無意識下で死に魅入られていつつ、絶望に黒く塗りつぶされる訳でもなく世界の輝きを受け止め、表現力豊かな筆致で日記に書き留めたり、淀井に一生懸命伝えようとしたりするのです。
最初は淀井に助けられるばかりだった村瀬ですが、やがて淀井の淋しさや諦観を繊細な感性で受け止めて支えるようになります。
何となくハッピーエンドは無いだろうなという雰囲気は最初からずっとあるのですが、薄々そう思っていても終盤はかなりしんどい。淀井と村瀬が憧れた死というものは彼らに何をもたらすのか。それを描いた最終話は読み応えがありました。
……って、うーん。やっぱり私、頑張って何か言おうとして何も言ってないな。
ともあれ、黄昏〜闇の腐女子と自認のある方は読んでみてください!
今回は、第1話以前の久慈がどうしていたのかを深掘りする回です。
これまでも久慈にとって吾妻の存在がどれだけ大きいかというのは折に触れて語られてきましたが……。
こんなに!?
え、こんなに!?!?!?
ていうか久慈の吾妻へのクソデカ感情、重っ!!
みたいな。
そしてMRの超優秀なエース・久慈静は80%くらい吾妻に作られたと言っても過言ではないような。ふわぁー!
吾妻視点だと非の打ち所のない天才に見えていた久慈が、まさかこんなにも吾妻の影響を受けていたなんて。本当にすごい人だったのは吾妻の方なんですねぇ。
吾妻なしには今の久慈はいなかった訳ですが、それにしても吾妻と知り合う前の久慈の、頭は良いけど仕事ではいまいち微妙な様子たるや。仕事だけでなく性格も一途な半面思い込んだら視野狭窄になりやすくて、偶に人としてもそれはどうなんだという行動に出るところとかも、なんか吾妻に受容されたり矯正されたりしてる……。久慈にとっての吾妻はたまにヘレン・ケラーにとってのサリヴァン先生みがあるような。
本当に吾妻あっての久慈なんだなぁとしみじみ思ったのです。あと、私には久慈はスパダリ攻めに見えていたのですがそれは幻覚で、むしろヘタレ攻めが彼の真の姿なのかなと思いました。
それもう結婚しよ!
久慈、吾妻と結婚しよ!
君には吾妻しかいない!!
いや結婚してくださいお願いですから!!!
なんて思うんですけど、やはり二人は四十代。それぞれ背負うものがあるので、そう簡単にはいかないのです。今回も結婚以前に付き合うとか同居とから辺はのらりくらりと躱される感じなのですが、ちょっぴりずつ二人の距離は縮まりつつはあるのかなぁ。
久しぶりに再登場した吾妻のお母さんが急激に老いていた事にびっくりしつつ。
次回も座して待ちます(リアタイ勢)
1巻はレビュー済。今回は残り4冊の感想です。
1巻を読んだ時は2ヶ月に1冊ペースで買って読めたらいいなと思っていたのですが、結局なんか続きを知るのが怖くて長らく積んでしまいました。
どんどん悪くなる状況。むしろ手詰まりなのは最初から。絶対メインの三人のうちの最低一人は非業の死を遂げそうだなぁーと思っていました。
そんな最悪なストーリーが進むうちに元凶のような奴だった須藤が新谷に寄せる恋心が、思いがけずに純粋で幼いことに驚きました。
それ以降は何となく須藤の幸せを願いつつもここまであくどい事をしてたら無理かなぁーと半ば諦めていました。
が、終盤の急展開から思いがけず全員更生し日なたの世界に戻れたとは。正直意外過ぎてびっくりしました。なんて力技……。
ともあれ、新谷の側には居られなくなったけどそれなりに穏やかな日々を過ごせている須藤にほんとよかったねと安堵しました。
あと、菊池が最後までひねくれなくてよかったというか、ひねくれていたのは最初だけでずっとピュア可愛くてよかったです。