高校受験の日の朝、第一志望校の近くで豊樹は交通事故を目撃する。はねられたのは別の学校の学生で、豊樹は救急車を呼び警察からの事情聴取にも応じ病院にも付き添っていったため、受験することが出来なかった。
その後、幼馴染みの洋平と同じ高校に入学した豊樹は、事故の怪我で入学以来休んでいて5月に復帰したクラスメートが、受験の日に自分が助けた相手だと分かる、というお話。
この表題作のほか、続編やらSSやら全部で6編収録。連作短編集。
というわけで、ピュア中のピュア。真っ白なピュアッピュアな光線を浴び続けました。
めちゃくちゃ可愛いです。可愛いだけでなく真っ白です。
自分は相手を好きなのか、この好きはちゃんと恋愛の好きなのか、付き合うってどういうこと。
悪い人は一切登場しません。穢れた大人も登場しません。ピュア男子を愛で、感情に寄り添います。
初めてのエッチよりもファーストキスの方が尊すぎて、赤面ものでした。ひー。
クリスマス会にお泊まり会。なんなら二人で勉強したりする。喧嘩して、謝るために夜会いに行ったりする。
青い春が眩しいです。
大学生になっても大人になっても一緒に居る。そういう奇跡のような関係性の、はじまりの物語。
ちなみに缶のドロップが登場しますが薄荷の扱いに泣きました。薄荷はハズレじゃないよ当たりだよ(←薄荷好き)
BLアワード2025のBLソムリエ部門大賞、ときけば、もう読むしかない!と購入。
面白かったです。
建設会社の開発事業部長(社長の弟)の梶と、梶にスカウトされた訳ありの如月(親がいなくて弟を支えてる)のバディ物。
如月のスペックがハイレベル過ぎて、こんな有能な人が右腕だったらそれはもう手放せないだろうなと。
この二人の関係性ですが、作中でも梶が言ってますが、距離感がものすごくちょうどいいのだと思うんです。
最初こそお金だけの繋がりのように見えましたが(高額バイト)、回を追うごとに信頼関係が窺えて、だけどべたっとしていないというか、いかにもビジネスライクのように見えました。見えたし、おそらく梶がそう望んでいるのを察した如月が、それに応えていたのかもしれないです。
ストーリーが文句なく面白いので、BLだということを忘れていまして、story5の展開に「えーっ!」と叫び、「あ、そっか、そういえば」と思うなどしました。
鈍感な梶もさすがに気付かされたので、下巻で二人はどうなってしまうかな。進展は楽しみですが心配でもあります。
如月兄弟も、梶兄弟も、兄弟仲がいいのが良いです。
それぞれ背景が異なるもののどちらも訳ありで重たそうですが、仲が良いから協力し合えそう。
こちらの方も下巻の展開に期待です。幸せになってほしいです。
「黄昏アウトフォーカス」シリーズ。菊地原仁×市川義一のターン2冊目です。
3CPのうち、このCPが一番好きなのでわくわく読みました。
仁たち3年生が高校を卒業することを中心に、卒業前、卒業旅行、新生活と、てんこ盛りの内容でした。
春という季節はただでさえ情緒が不安定になるのに、部活も仲良くて寮生活もあって一体感が強い高校生活を送っていた人達は、卒業することに余計に淋しさを感じるんだろうな、と遠い目で、少し羨ましくも感じました。
68ページ、take8の最後から2ページ目の3コマがとても好きです。3年生5人の個性があらわれていて楽しくなります。制服だから同じ恰好のはずなのに全員違って見えるのが面白いです。
それから、キャラではやはり義一が好きで。義一のグギギっていうのが凄く好きなんですよね。
プライドの高さからか誰よりも葛藤が激しくて、照れ屋だったりもするからその分の乱高下がもう他人事とは思えない(笑)
なまじ共鳴し過ぎるとこちらも恥ずかしくなってしまうので、義一のことは仁目線で愛でています。
二人の子ども時代のエピソードが前の本に出てきましたが、私はあのお話がとても好きで、仁はぽちゃっとした子ども時代が嘘のように今はシュッとしていますが、今でもあのぽちゃっと時代の面影がかぶる時が多々ある。本質的には二人とも子どもの時と変わっていないので重ねやすいのかも。
ぽわんとした仁と、ぎりぎりと自分に厳しい義一は、一見反対の性格だけど割れ鍋に綴じ蓋だなあと感じます。
2巻はイベントごとが多いものの、流れとしては短いお話の積み重ねでもあるので、3巻に続くとは全く思っておらず驚きました。続きを待っています。
巻末には同人誌の「金木犀、薫る」が収録されていました。
このお話大好きなので嬉しかったです。
まずはこの世界観に圧倒されました。
第三次世界大戦中に龍が出現し、なしくずしに停戦、世界が大被害に見舞われて分断される。北は韓国、南は台湾、東は長野県あたりで分断されて、海も壊滅、ヨーロッパとも通信途絶という状況。日本の国土は五分の一になっています。
そんななか世界を守るためには龍を召喚する《門番》が必要で、神社の後継である12歳の御門一月が適性検査の結果クラスSの《門番》として施設に行くことに。怪我をした幼馴染みの吉宗の代わりにです(吉宗の検査結果はクラスA)。
その後吉宗は、《門番》を護衛する海上自衛隊特別敷設部隊に志願して、二人は十年後に再会。
というお話なのですが、上記の通り、とにかく内容が盛りだくさんです。
100ページの同人誌で読み応えがありまくりで、ただ冷静に考えれば色々なことが中途になっていて、あとがきでも先生が派生する可能性のある事柄を列挙されており、続編、番外編など関連の物語が期待でき実際にシリーズ化もされています。
なお、この「僕らの世界が終わる頃」は「夕映えは楽園の彼方」と改題して表紙デザインも新たに最近発行されました。内容は同じとのことです。
(新版は表紙に「龍シリーズ」の表記があります)
設定をこうやって文字で読むと複雑に感じると思いますが、実際に作品に触れてみるとすっと入って来て、気付くとその世界観に取り込まれます。それが尾上作品のすごいところだと思っています。同じ近未来のものだと、BLSFアンソロジー「恋する星屑」に掲載されていた「テセウスに殺す」もそうでした。
特に本作は、龍を召喚するときにD波と呼ばれる空間の歪みがあったり、金粉が空から降ってきたりするのが絵画的で、龍により破壊された町の描写も鮮明で、アニメーションに向いているなと思いながら読みました。(脳内映像はアニメでした)
本書単体ではブロマンスとして、一月と吉宗の関係性が描かれています。
かたや国の重要な《門番》、かたやセコムと呼ばれる《門番》の護衛。幼馴染みで、相手本意で頑なところは似たもの同士。
10年ぶりの再会もドラマチックではありましたが、いつまでも相手を大切に思い合う二人に打たれました。
これからも小競り合いしつつ支え合いつつ共に生きていくのだろうなと思えて微笑ましいです。恋愛に発展するかは不明です。
気になるところがあるとしたら、龍の適性検査を14歳以下の子ども達にしていたことでしょうか。国を守るために子ども達が犠牲になるのかとやりきれない気持ちになります。ただ、エヴァンゲリオンも14歳だったしほかでも十代の子たちが頑張って国やら人々やらを守って戦うアニメは多いので、あまり深く考えなくてもよいかもしれません。
適性の高い子ども達を集める担当をしていたファズラ三佐の苦悩が少し描かれていたことに救われたことは事実です。
あの「コワモテの隣人がΩだった時の対処法」の続編。
2巻の報を聞いたときには実は少し驚きました。
番外編はあると思ったけれどあの続きのお話。二人はもう出来上がってるし仲良しだし多分運命の番だし、余地があるのだろうか?と。
いやー、ありましたねー、余地。
特異性アルファには弱点なんてないと思っていました。しかも晃太のあの性格。基本いつもフラットでバランスが取れているから忘れがちですがまだ18歳でした。
二人の軽妙な掛け合いとイチャコラにニコニコしていたら、謎の雲行き。
そして甘々な中に不穏が混ざったままで「To Be Continued」。
そうなんですよ、3巻に続くんですね。知らなかったので叫びました。
この感じだと仲違いなどは一生無さそうでそこは安心ですが、どんな展開できちんと番になるのか気になります。
龍之介がとても男前で、特に意識が飛んでおかしくなっている晃太に玄関口で投げ技を決める場面が、そのときの科白も込みで大好きです。
同人誌7冊にわたって掲載されていた、ビーボーイノベルズ「MUNDANE HURT」の続きにあたる短編を、一冊にまとめた同人誌です。
episode1~9。
こんなに素晴らしい続編があっただろうか。いやない。これこそが待ち望んでいた続編の番外編集といっても過言ではありません。
読み応えがありましたー。読んだ甲斐もありました。
この同人誌を単体で読んでも満足できる内容になっているのが心憎いです。でもやはり本編を読むのとそうでないのとでは、満足感の度合いが違うと思います。
少なくとも私は本編を先に読んだ上でこの本に臨んで、本当によかったと思いました。
他の人のことだけでなく自分の人生をも舐めきっていたクズの西崎が、こんなに真人間に成長するとは。
なんなら成長後の西崎は、登場人物の誰よりも大人になってるじゃないかと。若い時にいろいろ悪いことをしてどん底に落ちるような経験をしているからこそのこの浮上と余裕。
むしろ長野の方が狭量で不器用で、本編を読まずにこの同人誌しか知らない人が見たら、長野の評価こそが低くなるんじゃないだろうかと思わせられます。
長野が本編では西崎に何度も踏みにじられて、それを経てのこの不信と揺らぎなわけなのですが、episode6から先の展開は、何度読み返してもドキドキが止まりません。
振り切れた長野が西崎に盲目的にメロメロになるところなんて、本編の冒頭(高校生)の時のままじゃないかと。ここから繋がっているのだと分かります。あのときもキスが大好きだったし、西崎を好き過ぎて成績を落としてました。まったく変わってませんね(笑)
大好きな一冊になりました。
慈英×臣シリーズのスピンオフ「インクルージョン」に初めて登場した霧島久遠。それ以降もちょこちょこ登場し、脇キャラなのにものすごい存在感を見せつけ、照映の相棒にして、皆が褒めそやす慈英に真っ向から嫌悪感をぶつけ、未紘を愛で臣を愛でる美丈夫。
そんな彼がメインを張った本作。タイトルは物騒だし、久遠が真面目に恋をするとは違和感があるしで、一体全体どのようなお話なのか楽しみに読みました。
メインといっても視点はもう一人の新海円の方でした。
新キャラ(ですよね?)の新海は、バーを経営していてその店主と客という関係で久遠との付き合いが始まり、時々気が向いたら夜を共にするセフレ的な状態のまま、恋人でもなく、友達というには距離があるという、作中でも「俺たちの間柄は一体なんだろう?」とお互い首を傾げるようなそういう関係性。
新海も久遠も、人に触れられたくない過去を持ち、そこに雑に触れてこないから居心地がよいというもので、まあそういうのもあるかな、タイミング合えばそうなるのも分かるなあ、と思いながら読んでいきました。
新海視点で綴られるのですが、この人終始テンションが一定でアンダーで冷静で、読んでいるこちら側は穏やかに読みやすくてよいのですが、ずっと最後までこのテンションだったので面白いは面白いものの、恋愛物としてはかなり珍しいなと思いました。
切実さが皆無、切なさ皆無、当然気持ちの乱高下もなければ、キュンもドキドキも一切ない。
久遠の決死の(とも見えませんし、ええ久遠ですからね)告白に対しても、気の抜けた軽い返事で応える新海。「で。付き合うってなにするの?」みたいな感じで、盛り上がるはずもありません。
間の抜けた二人の丁々発止に、時々プフッと吹き出すような、そういう一冊です。
大人の恋、というのともちょっと違うと思いました。長い付き合いのふたりだからなのかもしれませんが、もう夫婦の域というか空気みたいな存在というか、いやでもやっぱり店主と客かもですね。どこまでいっても。
そんな中でですよ、この本のタイトル「きみに殺されたい」。
これを発したのは当然この二人のどちらでもありません。
久遠の兄、久遠の幼馴染み(兄の妻)、そして久遠の3人の関係性がまああーー濃い。しかも一般的でなく、きわめて特殊で、そのわりに過去エピソードの一つとして断片的に登場するので、本筋のテンションとのギャップが激しすぎて、「え、待って、なになに?」と何回かページを戻しました。
この兄の妻の言葉ですね「きみに殺されたい」。兄の妻のキャラクターが突出し過ぎてて、全く脇キャラ(ちらっとしか出ない)に収まりきれず、なんか勿体ないというか悪目立ちしているというか、難しかったです。
そういえば同じ作者の「サーカスギャロップ」という作品で、もんのすごく悪目立ちしていたモンスターみたいな美久という女性キャラがいまして、あそこまではいかないですがビビッド感に通じるものがありました。
終盤未紘くんが登場しますがとても癒やされました。いい子過ぎる。本気の旅のしおりも素晴らし過ぎました。
キャラ文庫で復刊されている1945シリーズ、復刊の第二期1冊目。
待ってました。いまのところ第二期は3冊分タイトルが発表になっていますが、この後も続刊予定だそうなので嬉しい限りです。わんこ待ちしています。
さて、「彩雲の城」。
本のほとんど丸丸一冊が表題作の「彩雲の城」ですが、ほかに、本編の補完ともいうべき「CLOUD9~積雲と天国」、続編の「家」「胡蝶の夢の続き」の全部で4編収録です。「胡蝶の夢の続き」のみ書き下ろしです。
この二人のことを最初は掴み所の無いCPだなと思っていました。
元々、二人それぞれに背景(生い立ちとか南方に来た理由とか)があって、それなりに込み入っていて重くて、それだけになかなかお互いに歩み寄れない。ほかに誤解もありましたし。
でも胸襟を開いて少しずつペアらしくなっていく辺りは、後から考えるとこの二人らしいなと。
伊魚の危うさを藤十郎がカバーするのが目立ちますが、藤十郎が沈み込む時には伊魚が寄り添っていたり、二人でいるからこそ藤十郎が彼らしく居られるように思えるので、これまで登場したCPの中で一番対等かも知れないと思いました。
呪いの人形・呪いの札のエピソードは面白くて、特に仏像は戦後になっても禍々しいなどと言われて笑ってしまいました。
藤十郎の外見の描写が少なくて、想像するのに掴み所がなくて、挿絵に頼ってしまったところが少し残念でした。
はじめの頃は伊魚が潔癖症かとの推測で語られていまして、軍隊で潔癖症は成り立つのかと疑問でしたが結果そうではなかった。
伊魚は潔癖症ではなかったけれど、そういう人も実際には居たと思うので、辛かったのだろうなと。
ただ、「CLOUD9~積雲と天国」を読んでいるともう潔癖という以前に生死が直面していて、生きていくためには仕方ないとはいえ、人とケモノの境目みたいなことを感じました。伊魚と藤十郎ふたりで居るから人間性を保っていますが、一人だと精神的に相当来ると思いました。
「CLOUD9~積雲と天国」は読みながら、密林で終戦を知らないまま生きておられたYさんのことを思い出しました。
「胡蝶の夢の続き」で、藤十郎の社会性、社交性を目の当たりにして、戦後となった今は本当は相手は自分ではないほうがよいのでは、と内省的になるシーン。全然そんなことはないのに勝手に自分で自分を切り離そうとする伊魚に、言葉と態度の両方でお前が唯一だと言う藤十郎が良かったです。
本編には琴平・厚谷ペアが、「胡蝶の夢の続き」には鷹居千歳が出ます。そういうのも楽しいです。
恒なんて出番が少ないのに、「貴様のペアの名前を言え」という科白が強烈で、頭から離れません。
牧先生の挿絵はいつも素晴らしいですが、今回は特に巻末の見開きイラストが気に入っています。
雑誌SFマガジンで2022年と2024年の2回、「BLとSF」という特集が組まれました。
その中に掲載されていた一部の短編小説・マンガに、同人誌からの再掲、書き下ろしを加えて一冊にしたアンソロジーです。
当初ソフトカバーの単行本かと思っていましたがハヤカワ文庫でした。小説10編、マンガ2編収録です。
普段BL小説を書いている方、SF小説を書いている方が、「両ジャンルを架橋する」をテーマに寄稿した作品は、大変に興味深いものでした。SFマガジン2022年4月号「特集BLとSF」のページをめくった最初の作品は、一穂ミチ先生の「BL」で、本書「恋する星屑」では巻末に収録されているのも面白いなと思いました。(本書1作目の榎田尤利先生「聖域」は、2024年4月号「特集BLとSF2」の1作目です)
「両ジャンルを架橋する」が特集の主眼ではありましたが、もとよりBLレーベルで発行されている作品は言うまでも無くジャンルとしては多岐に亘り、学園もの社会人もののほかファンタジー、歴史、政治、音楽、スポーツ、近未来SF、裏社会等等本当に裾野が広いので、当然SFと特集になっても意外ではなかったです。ただ、SFマガジンというSFに特化した老舗の雑誌がBLに着目して論文を寄せたりインタビュー記事を載せたり、前述のとおり短編小説を複数本掲載したりして、雑誌の購買層であるSFファンにBLジャンルを解説・紹介するということに、目新しさとなんとなく誇らしさを感じました。
そこへ来てのこのアンソロジーの刊行は、雑誌掲載だけでなく書籍化もしたのだと、とても嬉しく思いました。
アンソロジー収録作品すべてにコメントするのは骨なので、気に入った作品を挙げます。
・吉上亮先生「聖歌隊」(書き下ろし)
初読み作家様でした。海からやってくる敵(ムシ)に対し、歌を兵器に戦うという発想に驚き、唄年と選ばれし聖歌隊、月炅樹、枯枝から成る世界観が、血で真っ赤に染まる海の描写とあわせ、美しくも残酷で怖ろしかったです。
・尾上与一先生「テセウスを殺す」
これは唸りました。トーリが、どのような気持ちで特殊執行群に所属し業務に従事していたのか。彼の抱えていた闇の深さに震え、最後の瞬間も悲しいものでした。残された人達の苦しみも。長編にならないかなと願うばかりです。
・木原音瀬先生「断」
死に耐えてゆく精子の音が聞こえる人が主人公です。気の毒だけど笑ってしまう。でも本人は大真面目。われなべにとじぶたカップルが微笑ましくもあります。
・一穂ミチ先生「BL」
一般文芸「うたかたモザイク」にも収録。天才科学者シサクとニンの物語。恋を自覚したニンが悲しい。そのまま二人でずっと生きていてほしかったけど、終わらせたかったんだろうなと思うと別れは唐突で残酷。
高校時代、家が裕福で適当にしていても大人同士の繋がりで成績や進路も融通してもらえて、悪いことをしても無かったことになるなど、完全な勝ち組だった西崎は、つるんでいる仲間とのノリで、クラスで浮いている生真面目な優等生長野を落とすことになる。
というところから始まり、高校を卒業してから12年後、すっかり状況の変わった西崎が長野と再会してからのあれやこれやが綴られます。
ジェットコースター的な展開でまったく目が離せませんでした。
主人公の西崎が典型的なクズ男で、しかも心の芯の部分までもが完全にひねくれているので、周りがやさしくしても改心することはないし、口から出任せばかりだし(息をするように嘘を吐く)、悪い方にどんどん転がってもうこの人は今後どうなってしまうのかとページを捲る手を止められなかったです。
かたや長野は苦労人で真面目でひどくまっとうな人間なので、西崎を好きになったことも本当だし、なんなら初恋でしょうし、再会してからも、北尾のみならず読んでいる私も、「だまされてる!!!」と肩を叩きたい(北尾は口酸っぱく忠告している様子)のに、惚れた弱みというか、おそらく可哀相という気持ちが先に立って、親身になって世話をするのです。
長野の善良なところは、読んでいて分かるので、最後のあの仕打ちも、彼自身がとにかく傷ついているのだろうと想像できます。
そんなことをしても西崎が西崎である以上、長野には隙があるように思うので、今後のお話があるのならそれはもう、ほだされてしまう一択だろうと思います。この世が搾取する側とされる側に別れているとすれば、西崎は、自分は本当は搾取する側なのになんでこんな目にと世間を恨みながら隙あらば搾取する側に舞い戻ろうとすると思うので、惚れた弱みの長野は全部許してしまうんだろうという構図が浮かびます。
本書は、ここで終わるんかい!とツッコミを入れたくなるような場面で終わりますが、読みながら、残りページ数がこれで逆にラブラブ展開になったらそれは嘘だと思いましたので、納得のメリバです。
なんならメリバで胸が空くくらいあります。
楽しい読書でした。また、あとがきが面白くて声を上げて笑ってしまいました。木原先生大好き。
番外編集を読むのが楽しみです。