「聖なる黒夜」にはまり、麻生龍太郎の名の付く小説を2冊読み、次はRIKOシリーズです。
私の読んだ順番は上記のとおりですが、本当はRIKOシリーズが先で、そのスピンオフが「聖なる黒夜」なので、読む順番としては逆転しております。
ですが、作中の時系列的には「聖なる黒夜」よりもRIKOシリーズの方が後になるので、個人的にはこの順番で読んで良かったなと思っています。
さて、RIKOシリーズはその名のとおり、村上緑子(りこ)という女性刑事が主人公の小説であり、BL要素は大変少ないです。2巻ではリコは育休明けで辰巳署に配属になっており、新宿署の刑事だった1巻の時とは忙しさが異なると話しています。一児の母になってもリコの貞操観念はほぼ無いこともあるので男女の性愛に抵抗がある方にはオススメしづらいですが、「聖なる黒夜」の世界線と地続きですし麻生さんと練のその後を確認するのには読むべき本と思いました。
そう、完全に地続きで驚きました。かつて麻生さんが所属していた捜査一課のメンバーや春日組、昇竜会など、普通に出てきます。考えたら「聖なる黒夜」がスピンオフなので当たり前なのかもですが、違うシリーズ、という頭があったので意外に感じましたし、麻生さん本人の人となりや警察をやめたことをかつての同僚をはじめ警察関係者がどう思っているのか知ることができました。
という意味でも読んで良かったです。(及川は名前だけ出てきました。「親友」となっていて、なるほどーと思うなどしました)
BL的な視点から言うと、麻生さんがリコと飲みに行き、誰のこととは言わずにとにかく惚気る場面がありまして、これを読めたことが大変な収穫でした。練のことをどれほど愛してるか、滔々と語るのです。そういうこと言っちゃうのか、そんな風に思っていたのかと二重に驚き、読んでいるこっちが恥ずかしいような言葉の数々にちょっと叫びそうになりました。「私立探偵・麻生龍太郎」ではあんな風に別れたし態度も硬化しているけれど、まだ変わらず好きなんだなと分かり、しかも落とし穴に落ちたみたいにスコンと惚れた、別れた女房のときと同じくらい夢中だった、と言うので、玲子と同じくらいに?!とここでもやはり驚いたのでした。
この場面でリコが、自分と麻生さんは似ていると思っていたけど違う、残された相手(ここではまだ女性だと思っている)の気持ちがぼんやりと分かると言って、聞いた話から分析する長科白があるのですが、これが胸に刺さりました。「(そのひとは)自分があなたを汚しているようで辛かった。あなたのように清潔になれない自分が惨めだった。だからあなたに、おまえのために俺も黒く染まると言わせたかった」のだろうと。
ここを読んで、うわー、と思いました。また、練のことも二人の関係性も何も知らない第三者であるリコという女性刑事が言い当てるところにもぐっと来ました。知らないからこそシンプルに物が見えるのだろうし、知っていたら分かっていても口にはできないですよね。
そしてラストシーンです。前述の場面から伝わる麻生さんの気持ちが本書のラストシーンに繋がっていくのですね。練は病院には何回も来ていたのかなと想像しました。だから狙われたのかなと。お見舞いの場面が見たかったです。そして「ちょっと3巻、はやく」となっています。
RIKOシリーズは1巻をずいぶん前に読みました。女性刑事や女性探偵が主人公の小説は当時流行っていていくつも読んでいたのですが、その中でも並外れてリコが「女」だったので、個人的にはあまりはまらなかった覚えがあります。でもこれを機にもう一回1巻を読んでみようと思っています。
「聖なる黒夜」の麻生龍太郎は捜査一課に所属する警部でベテランの刑事ですが、その麻生がまだ駆け出しで所轄(高橋署)に居る頃のお話。
「大根の花」、「赤い鉛筆」、「割れる爪」、「雪うさぎ」、「大きい靴」、「エピローグ」、「小綬鶏」の7本収録の短編集。
時系列に並んでいます。最初の「大根の花」の麻生は、もうすぐ25歳という、警察官になって3年目の若者です。地の文も麻生ではなく龍太郎名義になっていますし、周囲からの扱いも職場の若者に対するもので、なかなか興味深いです。特に「大根の花」は、50代のベテラン刑事とコンビを組んでいるので余計にそう感じます。
そこから月日を経て、数々の事件を麻生の機転や偶発的事象がきっかけで犯人を逮捕したり自殺から殺人事件に切り替えるきっかけを作るなど、のちに天才と称される所以が綴られていてとても楽しく読みました。
「赤い鉛筆」からは年代の近そうな刑事と一緒にいますし、「大きい靴」ではキャリアの若者と一緒に組んでいて、管理職だった「聖なる黒夜」での麻生とはだいぶ雰囲気が違うので、昔を覗き見している感じで面白かったです。
「エピローグ」において本庁への異動辞令が交付され、「小綬鶏」は本庁に異動したばかりですが交番勤務だった時の出来事がうかがえます。
BL的な視点から言うと、この頃の麻生はまだ練にも玲子にも会っておらず、及川との関係が描かれます。
学年2つ違うので、及川もこのころは20代のはずですが、本庁の捜査四課に所属していて既になにか尋常では無い雰囲気を漂わせています。「大きい靴」では陣頭指揮をとっていました。
馴染みのバーで麻生が飲んでいるところに及川が現れたり(カウンターで待ち合わせ。おしゃれ)、非番の日に及川のマンションに泊まったり、引っ越すからお前も独身寮出ろよ、と言われたり、こんな様子が知れてもう実に実にありがたかったです。ニヤニヤが止まらないし、書いてくださって本当に感謝しかないです。しかし、なんといっても私が面食らったのは、あの麻生が捜査のことを及川に相談している! 「聖なる黒夜」では自己完結していると色々な人達から指摘されていたあの麻生が。ついでにいうと、及川に「うん」と返事するのが可愛い。
回想で大学時代の二人のことも少し分かりますし、この本を読めて本当に良かったです。
私が及川贔屓だから余計に嬉しい反面、一方でここでも麻生は煮え切らない態度をとっていることにモヤモヤするのも事実です。練とのこともそうだったけど、まだ若い年代で六年もつきあっている及川との関係においても、麻生はこうなんだなと。
これはね、この本のあとの展開を考えれば、もう及川が気の毒で仕方ないです。一緒に暮らさないと決めただけでなく、このあと関係性を切って女と結婚すると言うなんて、裏切りどころの騒ぎではないです。そりゃ及川も殺そうともするでしょう。(すみません、私は及川贔屓です) 逆に、こんな手ひどい別れの後にもかかわらず「龍」と呼んでつるんだりできる及川の心情を思えば、しくしく胃が痛くなるというものです。
「小綬鶏」では及川の恋人が出てきますがイラストレーターじゃなくてカメラマンでした。今の人とは別かーと思うとともに、年上風でよく喋る人だったので、タイプが麻生とは違うなあと思うなどしました。短いつきあいになりそうですね。及川の麻生への執着は並々ならぬものがあるので。(ここで安堵する麻生が憎らしくもある) 及川には幸せになってもらいたいとつくづく思います。
ドイツでのかつての患者さんから海を越えて送られて来た大きな箱は、あの個性的な風貌のクマのぬいぐるみでした。
このお話は本編の後日談で、かつぬいぐるみ視点ということもあって、二人の日常生活を覗き見しているような気になり大変よいものでした。
「いやな予感はしたんだ」とか「邪魔かもしれない」などとストレートな発言をする奥村先生に対しては「コロス」と内心怒っていたクマも、「俺たちのキューピッドだよ」と撫でる東湖には無言になる(=懐柔されてる)のもよかったです。
疲れて帰ってきた東湖がクマ相手に愚痴を言うのも、奥村先生に甘えるのもとても可愛いかった。
本編後日の様子がうかがえて、二人の可愛らしさも味わえる100点満点の小冊子でした。エッチはないけどそれが良かったです。
時系列的には「聖なる黒夜」の後日に当たるお話。短編集。
「OUR HOUSE」、「TEACH YOUR CHILDREN」、「DÉJÀ VU」、「CARRY ON」、「Epilogue」の5本収録。
具体的には「OUR HOUSE」は「聖なる黒夜」から8か月後らしいです。おそらくそこから時系列で並んでいます。
「聖なる黒夜」下巻の巻末に掲載された「ガラスの蝶々」で、麻生が警察をやめて探偵事務所を構えるみたいなことに言及していましたが、本書はまさにそのあとの、私立探偵になってからのお話です。
探偵になった麻生が、請け負った案件を調査するなかで、警察官時代の知人(という設定の新キャラやよく知るキャラ)と話したり本人が述懐したりする隙間から、「聖なる黒夜」から先に何があったのかとか、練との繋がりが切れていないことやセックスはするけど付き合っていないこと、ヤクザになるなとの麻生の進言と練が悩んでいる様子等が分かります。
本書に収録の各話については、事件解決にかかる展開としては申し分なく、単体で読む分でも面白いと思います。
が、読めば読むほど麻生の煮え切らない様子(特に山内練に対しての)にはぐつぐつ滾るものがありますね。「CARRY ON」で田村が「あいつのために生きるって言ってやればいいじゃん」と言ってましたが、本当にそうだなと。練のことを「本気だって言い切れる」と言いながら(言葉の前に「……」はあるんだけど)、当人にはっきりそう言わない。言わない理由はどうしたって埋まらない例の溝のせいで、過去が消せない以上これが昇華できる時は来ないだろうと思えます。逆に、練の方が何を考えているのかは、本書が全部麻生視点だから行間を読むしかないんだけど、当然自分からは踏み込めないだろうし(これだけ悩むというのは、まさかと思うが組から麻生を盾に脅されてる?)、それこそ麻生が強引に行かない限りは進展はしないよなと。二人ともお互いのためを思いつつ立ち止まっているから動けないし、練の方は周囲が不動を許さないので、それはもう結論が「Epilogue」に至るのは仕方ないよなと。
不毛すぎる! と思うけど、でも気になるからシリーズ読んでいく所存です。
麻生と練の会話はまったく甘くないのに表面と中の温度が違うようで、すごくドキドキするし何故かこちらが照れてしまう、不思議な魅力があります。「CARRY ON」の「電話くれたか」「うん」の応酬だけで私はとんでもない多幸感に包まれました。
前述のとおり、この二人が付き合うことは無いかもしれないけど(麻生の出方次第だったのに)、でもやっぱり腐れ縁は続くんだろうと思えてしまうし、そういう仲があってもいいのかな。この二人らしいというか。練にとって麻生は一番最初に出会った、あの頃のままなのかも知れない。初恋は罪深い。
及川があの後どうなったかは本書では分かりませんでしたが、麻生がかつて及川の住んでいた場所(神楽坂)を懐かしむような箇所があったので、「おい!」と思いました。そういうところだー
社会人としてしっかり経験を積んできちんと生活をしている30代の大人の男性が、恋にはまってジタバタするような、そういう恋の物語でした。
これまでいくつもの失敗をし、同じくらい成功もしてきたとの蓄積が、言動から感じられます。それだけに、本当はもっと余裕をかましていられるはずなのに、好きな人を前に何故かみっともないことを口にしてしまったり、それでも浮き立つくらい何か楽しかったりと、翻弄とまではいかないですが日常に風が吹き抜けて瞠目するような、二人の気持ちが伝わってきます。
一言で言うと大人の恋だけど、地に足が付いている二人なので、読んでいて安心感がありました。
その一方で、子供っぽさというか、抜き身の感情が見え隠れするのにもぐっと来ます。
たとえば、奥村先生が、もともと教授選なんてまったく興味がなかったのにいざ負けると死ぬほど悔しかったと言っていたのが印象的。
おそらく周囲からもてはやされて持ち上げられて、いや自分なんてと本気で思ってはいても、やっぱり人だから気持ちのどこかではもしかしたらと思ってしまう、自らのそういうところを恥ずかしいと思う気持ちはとてもよくわかります。挙げ句に結果が伴わなかったので。
私は上巻を読んだときに、二人とも「やましさ」つまり秘密を抱えていて、下巻でそれが露見するのかと思っていました。東湖は悩んだ末に全部を奥村先生に打ち明けましたが(潔いほど正直に)、奥村先生はたとえば東湖のお兄さんと繋がりがあって、早逝したのを機に脳外科の道に進路を決めたとか、お兄さんの面影を東湖に見出していたとか、妄想逞しく想像していたのですが、全然そういう展開ではなかったです。
そうでなくてよかったとも思っています。
実際には前述のとおりで、ストレートに恋愛のお話が描かれていました。奥村先生に足りないところを東湖が補ったり、素直じゃない東湖をまるごと受け止めたり、よいカップルだと思います。
赴任先のドイツで、2年間の赴任期間を経て帰国する前に休暇をとって観光を楽しんでいた東湖は、足を伸ばしたクリスマスマーケットで好みの男性と出会う。彼も日本人で、2年の海外赴任、もうすぐ帰国というのも同じ、共通点に親近感をおぼえデートの約束をする、というところから始まるお話。
非日常の場所で出会った人は3割増しにかっこよく見えるといいますが、帰国して東京で再会してもやっぱりかっこいいなと見とれるくらいなら偶然の出会いに運命を感じても不思議ではないし、ましてや東湖の方はモテ男で恋愛慣れしているようで結構アグレッシブ。自分自身にブレーキをかけつつ駆け引きめいたこともする余裕があります。
東湖目線でお話が展開していくので、上巻を読んだところではタイトルの「やましさ」は東湖の方しか描かれませんが、お相手の奥村先生にも何かあるんじゃないのかなーと考えながら下巻に進みたいと思います。
塩対応で無愛想な奥村先生と、優秀な営業マンで笑顔のきれいな東湖は、並びのビジュアルがとてもよいです。
圧巻でした。
下巻の100ページくらいを過ぎたところで、もう一回上巻の初めからおさらいしていきました。下巻を読み進めつつ、上巻を最初から再読するという、変則的な併読です。でもこれが大変有効でした。先を知ってるからこそ、上巻のなにげない描写や登場人物の行動に目が留まります。初読では読み飛ばしていたところに大きなヒントが隠されていたり、あとあと大きな要素を担う人物だったりします。下巻を読み進める上での大きな助けになりました。
作品が面白かったのと同時に、これだけのストーリーを組み立てて大人数一人一人の過去エピソードや心情変化を縷々文章で綴っていく才と筆力と根気、持久力に驚嘆しました。ただただ敬服するばかりです。
ようやく事件の全貌が見えてきた下巻終盤も、そこから最後までの息を吐かせぬ展開に引き込まれ、目が離せませんでした。
具体的に言うとあまりにネタバレなので控えますが、このときの練視点の地の文がとてもよかったです。
キャラクターもとても魅力的ですし、その関係性にもとてもぐっと来ます。
麻生と練、麻生と及川、韮崎と練、もうこの3つの関係性だけで満願全席ばりの妙なる御馳走てんこ盛りです。本当に贅沢でした。こんなに濃厚で意地と矜持に彩られた拗らせた感情を、しかも3組分も読むことができて、これを至福と言わずなんというでしょう。
特に及川です、及川。マル暴の刑事で実績がありそれだけに方々から怖れられている及川の、麻生に対する執着がすごい。何もかも知った上で、麻生を練に引き合わせる意地の悪さが愛しいです。下巻の序盤で、麻生が周囲に誰も居ないことを確認した上で、それでも小声で「純」と呼んだ際には、誰のこと?とひっくり返りそうになりました。呼び名のことを言えば、及川は常に「龍」と呼ぶくせに時々「麻生」になったり「龍太郎」になったりするのにもそそられました。とにかく及川の今後がどうにも心配です。執着とこじらせが甚だしいのです。今つきあっているというイラストレーターのことも気になる。麻生の代わりなのか?とか。
読み終わりたくないと思うほど、ひりひり切なくほろ苦くそれでいてどぎついほどに甘く残酷な世界観でした。
本当に読んでよかったです。
名作であると呼び声の高い本作を読んで見ようと思ったのは、続編が刊行されるとの情報を得たからでした。
勘違いしていたのですが、12月に出ると聞いたので今から読めばよいタイミングで間に合うぞ、と思っていたら、来年の12月だそうで……。
1年早かったです。とはいえ、本作、面白くてページをめくる手が止まりませんでした。
(物理的に鈍器のような文庫本なので、めくってもめくっても終わりが近付かず、焦れたものでしたが)
→追記:2026年の12月でなく今年2025年の12月でした。誤情報すみません
一つの殺人事件を巡ってたくさんの人間が浮き彫りになり、捜査を通じて点と点が線でつながれていく様はミステリー小説の醍醐味であり、個人的に久々に味わう感覚でした。以前はよく読んでたなあ、ミステリーとかハードボイルドとか。懐かしい。そして、いまから30年ほど前のお話なので、登場する言葉や事象も懐かしく(ニューハーフとか。ダイレクトメールも本当の郵便物だったりとか、ヘビースモーカーが大勢居たり、ほぼ寝ずに働いていたり)、なんとなくタイムスリップしたようでもありました。
1995年と1989年を行ったり来たりするのも、たった6年とはいえバブル経済を思えば飽和期と弾けた後のため、社会情勢も異なっていて、その比較も面白く感じます。(土地を持っていれば価値が上がりこそすれ下がることは無い、など)
そうした背景がきちんとしているので、じっくりと描かれたキャラクターの人間性や半生がより立体的に、体温すら感じられるくらいに物語にいきづいています。主人公の麻生はもとより、マル暴の及川、殺された韮崎、捜査一課の紅一点静香。それからなんといっても山内練という人物です。つかみどころがなく、今ひとつ何を考えているのか分からないけれど、地獄を見てきた絶望感を孕んだ眼差しと、意固地ともいえるひどく頑なな心、たまに卑屈にも感じる言動が、バラバラのようで重なり合ってもいて目が離せません。他の登場人物達とは明らかに存在している場所、立ち位置が異なっています。
そして、この不夜城新宿に慣れて来た上巻の終盤には、とんでもない爆弾が降って来て驚きました。もしかしてこれがテーマなのか。このためにここまでの時間と分量をかけて描いてきているのか。そうであればここまでの600ページ超は全部前菜です。
この大長編、最後まで見届けたいです。
なお文庫には巻末に、サイドストーリー「歩道」が収録されています。著者のコメントによると、下巻を読み終わった後に読んだ方がよさそうなので現時点では未読です。
「スモーキーネクター」「スモーキーネクター Renew」に続く有生×みつるの3冊目。
(シリーズとしてはもう1冊スピンオフの「ドメスティックビースト」があります)
いわゆる巻数の続き物ではない、シリーズの続編3冊目で、二人の仲は蜜月ここに極まれりといった風に深まっており、ストーリー展開の端々からお互いへの信頼や執着が窺えて、とても良かったです。
バイターの存在に興味のあるライターが有生を追っていて、そのことに気付いたみつるが彼に協力する振りをして近付くのですが、ありがちな展開にもならず茶番にもならず、別ルートから状況を知った有生が上を行くのも良く、結果としてまた二人の仲を見せつけられ、手放しに拍手喝采でした。
二人は元々幼馴染みで、他愛ないことからなんでも話し合う様が気持ちよくて、恋人としてのあれこれに、ときどき友達同士としての顔が混ざるのも自然で、好きなカップルです。
それと二人の子供時代が可愛くていつエピソードが差し挟まれても大歓迎。今回高校時代の様子も窺えました。みつるのイメージなのかチューリップがよく描かれます。合っていて可愛いです。
本書は、表題作のほかに「インベッド」「塩とはちみつ」「花壇で眠る」の3編のSSが収録されていまして、特にベッドを購入するお話「インベッド」は、お互いの寝顔にみとれたり抱きついて眠ったり、とっても可愛い表情満載で何回も読みました。
1945シリーズの番外編集第4弾。28本のSSが収録されています。
2012年から2018年に書かれた、同人誌や特典ペーパー、web書き下ろし等を集めた約350ページの文庫本です。
月光ペアが多めではありますが、艦爆ペアが比較的多いのがこれまでの3冊とは異なります。
本書では、寛容で温厚で賢い秋山の良さを感じることが多かったです。また、塁にしょっちゅう絡む斉藤のお話を読めたり、戦後高校教師になった伊魚が教え子から「俺は宿題を忘れる愚かな雌豚です。緒方先生の革靴で踏んでください」と発言して問題になったり、番外編集ならではで堪能しました。
一番良かったのは、食糧を積んだ船「間宮」がラバウル基地に到着する話です。恒が「間宮ァァァ!!」と叫んで船を歓待したり、六郎のためにしんどい身体を押してかけっこに出たり、読み応えと可笑しみが同居していて幸せな気持ちになりました。
改めて、もう今となっては読むことができない作品をまとめて番外編集として発行していただけて本当にありがたかったです。しかも番外編集4冊分も読むことができ、こんなに嬉しいことはありません。
これでキャラ文庫版の1945シリーズは終わりとのことです。淋しいですが、読むことができた喜びを噛みしめたいと思います。