子供の頃、親同士の子連れ再婚で兄弟になった二人。両親は喧嘩ばかりで家に居づらく、反対に兄弟仲は良くなっていくが、優しかった兄は高校生になるとひとり家を出てしまう。
そこから9年が経って両親の離婚が決まり、実家に一人で暮らす大学生の弟のもとに突然兄が家に戻ってくる、というお話。
血は繋がっていない兄弟もので、絵は綺麗なのですが、説明が足りなくてとても難しいです。
弟の方はわかりやすいです。子供の頃に優しくしてくれた兄を好きで、いまもその気持ちは変わらない。たとえ音信不通であってもあのときの思い出を胸に兄を信じている。
だけど、それに比して兄の方の気持ちはどうか? 大変に疑問です。
兄については色々な側面が描かれていて、像がひとつに結ばないです。
今回9年ぶりに家に戻ってきたのは、父親(兄の実父)から一人になった弟の面倒を見てくれと頼まれたからで、それも店(美容院)が出せるほどの報酬をちらつかされてます。
加えて、自分を好いてくれる人が好き、と言ってみたり、ほかにも男女問わずに遊んでいた風でもあり、人が望んでいるだろうことを言うのが得意だとも言います(営業トークに活かされているらしい)。
この人はどういう人なんだろうと考えれば考えるほど、弟が兄を思うようには思っていないのではと。
実際9年もほったらかしだったわけですし。ましてや性愛に結びつく余地があるのだろうか。
謎なのは、これはこのページとページの間に絶対致しているだろうという雰囲気だったのに、兄から頭を撫でられただけだった、という場面ですかね。
いきなりではなく、ちょっとずつ進めて行くにしても、うんやっぱり理解が難しい。庇護欲かな。
最後は報酬をいらないと断ってもいるので、私が何かを読み落としている可能性もあり、話半分でお願いします。
良かった。面白かったです。先がどうなるかわからず一気読みです。
冒頭から、事情は全然わからないもののショッキングな場面と併せて不穏な様相が伝わってきますし、ラブホのベッドで睦み合う二人からも頽廃的で尋常ではない没入感が伝わり、ただごとではなくて。
最初こそ楓を必死に求める亮の、一方的な感情なのかと思っていましたが、ページをめくって話が進んでいくにつれて、決してそうではなくむしろお互いがお互いを必要としているのだと分かります。この、話が進んでいくにつれて情報が少しずつ積み重なっていき、加えて二人の過去のエピソードが明らかにされるストーリー展開。大変胸に迫り、気付いたら寄り添って読んでいまして、なんて個性的な作品なんだろうとすっかり魅了されてしまいました。
冒頭こそ楓の心がどこかに行ってしまっていて、だからこそ亮の一方通行かと勘違いしたのですが、考えてみたら大変なことをしでかした後なわけで、それは気も動転しますし、あの没入するように亮がテンション高めに促すのも、応急措置みたいな面も多分にあったのだなと思います。尤も8年振りに会えたというのも勿論大きいのでしょうけど。
とにかくこの二人については、過去も今も、また出所した後も、何もかもが閉ざされた二人の世界なことがとても気に入っていました。過去エピソードの、廃ビルで二人が心を開いて語り合っていたような、ああいうシチュエーションに大変弱いのです。
気になったのは、これは私の勘違いなのですが、「一緒に自主しよう」を、私は二人で自主するものだと思い込んでいて(要は二人が二人の罪を償うために)、楓だけが罰を受けたことに首を傾げてしまいました。二人とも中に入ったら弁護士のこととか色々不都合だから? それとも実は楓のお父さんは死んでなかったとか。真相は藪の中です。これがどうにかなっていれば「神」でした。
消防士の矢島は同期の鳥飼と、レスキュー隊になるための特別研修で再会する。初めて顔を合わせたのは消防学校の入校式で、自分こそが入校生代表に相応しいと自認していたのに鳥飼が代表となり、一方的にライバル視していた。再会した研修においても、優秀な鳥飼を追い越したいとやたらと張り合う日々、というお話。
消防士、しかも研修、という珍しい背景ではありますが、バチバチのライバルで闘志むき出し、過去エピソードあり、片方ゲイで前から片思い、という設定は大変になじみ深く、肩の力を抜いて楽しく読めました。
矢島はガサツで無神経な発言をすることが多く、鳥飼はそれに反応してむっとしたり素直になれなかったりするのがお約束的でもありとても可愛いです。
なんだかんだでまとまって安堵しましたし、二人に巻き込まれてペナルティの追加トレーニングをすることになった同じチームの皆さんには同情を禁じ得ず、それも含めてとても楽しかったです。
二人が元々異なる消防署に勤務しているという設定も良きです。
ときどき二人の顔が見分けられない時があって(アップの時など)そこだけ残念でした。
続きが出ているようなので、読むのが楽しみです。
上巻を読んだときに、この先どう転がっていくのか見えないと思い、一体このお話の中心はなんなのか、あれかなこれかな、と上巻のレビューにいくつも列記したことが、下巻でほぼ全部回収されたことに舌を巻きました。そもそも上下巻なのだから、2冊をとおしてまとまっていればいいのでした。
とはいえ、設定の回収はされていても、腑に落ちるかどうかはまた別のこと。
たとえばコウを中心に考えると、母や自分を暴力でねじ伏せてきた父親と何度も身体を重ねているわけなんですが、上巻では自分から挑発してホテルに行ったり愛人よろしく父を名前で呼んだりしているので、下巻で悠二に「あいつは鬼みたいな奴だ」「頭の辺りに手がくると身構える」と苦しそうに吐露しても、どうもしっくり来なくて。親だろうが兄弟だろうが全く躊躇せずに性行為に励むのは、当初は仕返しのつもりもあったかもしれないけど、途中から変わってきたと感じましたし。でもセックスについては悠二も同じで、兄弟だと判明してもまるで気にせずそこらじゅうで耽るのは寧ろそれこそ血筋かもしれないと思うなどしました。
吉田先輩もそうですが、キャラの変貌ぶりが大きくて、戸惑うことも多々ありました。
作画はとても綺麗で、背景の書き込みも丁寧ですごいです。中盤のお寺のあたりなど芸術作品みたいです。キャラの表情もよくて、公園でぼんやり待っているコウの憂いのある横顔に見とれました。
カバー裏のあとがきで、その後の二人の様子が詳しく書かれており、とても微笑ましいです。作品の性格とはズレてしまうけどこういう雰囲気欲しかったなあ。
主人公の悠二はエリート警察官の一人息子で、子供の頃から優秀であることを望む父から罵倒され続けてきた。そんなさなか、「ごめんね」という言葉を最後に遺して母親が他界する。
大学の先輩から誘われて地下の怪しいクラブに連れて行かれた悠二は、何か混ぜられた酒で意識が飛び、目が覚めると乱交パーティーの現場に居た、というのが序盤のお話。
父親の浮気現場を目撃したり、その浮気相手が男だったり、乱交パーティーから逃げる最中に知り合ったボクサーがその当人だったり、色々絡み合っています。
父の浮気相手とそういう関係になったことや、そういえば乱交パーティーで先輩から写真をとられていたり、不穏な材料は尽きません。さらにその先輩は当該ボクサー・コウとルームシェアしているのだそうです。
上下巻の上巻なので仕方ないと思うのですが、上巻を読んだだけだとまだ話があちこちに広がっていてどう収束するのかよくわからないです。
要素も色々とあるけれど、中心となるエピソードはなんなのか。こじれた親子関係の解消? それともコウとの関係が恋愛に発展する? 親子がコウを間にしての恋のさやあてを繰り広げる? そもそもエリート父がコウとどこで知り合ってなんで浮気を? 連絡のつかない吉田先輩の行方は、など。転がっていく方向が見えません。
作画はきれいで最高です。
呪われた力により母狼を死なせてしまった子狼シリウス。父狼に群れから追い出され、行く当てもなく山を彷徨っているところで、美しいユキヒョウと出会う。
ユキヒョウのアルに狩りを教わり、行動を共にするうちに、かけがえのない存在になっていく、というお話。
このお話のキーポイントに、狂狼病というのがあります。狂狼病にかかった動物に噛まれると噛まれた方も同じ病気になる。そして、狼だけがかかるわけではない。動物の間のお話で人間は出てこないので、特効薬などはありません。病に我を忘れて凶暴化した相手には、シリウスの呪われた力が有効で、手から発する氷の刃の串刺しで仕留められる、というものです。
シリウスの母狼もこの病気だったし、山の中で遭遇したクマも、追ってきた三頭の狼も、この病でした。結構蔓延していますよね。
この病と呪われた力とが良いアクセントとなって、二人のエピソードに絡んで来ます。
表紙の絵や冒頭の3ページ分からも二人の別れが分かっているので、出会いから最期まで見届けるつもりで読み進めました。
その時がきた後どうするのか気になっていましたが、光を見出すよい終わり方と思いました。
特に、電子書き下ろしのマンガが7ページもあって、シリウスが寿命を迎えてアルに邂逅する場面が描かれていて救われました。
動物体と人間体の両方で描かれていますが、擬人化は感情等をわかりやすくするための方法で、本当に人型になるわけではありません。
エッチは人間体で描かれるので、うーん、と思わないでもないのですが、考えるのをやめました。
つまりは動物のお話です。
ふたりが崖の上で夜空を眺める姿が象徴的でした。
「5分後に孵るのを待ってる」を読んで、違う作品も読んでみたくなったので購入しました。
そのときとは絵柄が変わっていましたが(線も違う)、やはりとても個性的な作風でした。
主人公は格闘技(ジークンドー)が得意な男子高校生みなと。道場が治安の悪い町にあり、そこで知り合ったフリーター2人と三人でいつもつるんでいます。
あるとき肝試しでとある廃ビルの屋上に行ってみたところ、屋上で名前のない男と出会います。
みなとは男に「なな」と名前をつけて、しょっちゅうこの屋上で遊ぶようになるのですが……、というお話。
ななの生い立ちについて、こんなことあり得るのかなと読みながら時々まじめに考えてしまいました。(まあいまの世の中何があってもおかしくはないですが)
ななの父親(といっても親でもなんでもない)は気まぐれにロッカーで拾ったらしい子供を、放置しつつ薬漬けにしつつ身体を売らせて、最終的にはまた捨てたわけなのですが、その辺りはさらっと流すように書かれていて、ななの心の闇の部分もあまり描かれずに、そのひまわりみたいな明るい笑顔の印象が前面に押し出されています。
この二律背反な感じは、いくらでも掘り下げようとおもえば掘り下げられると思いますが、この作品ではその辺りはむしろぼやかして、社会からはみだしている男との、風変わりな交流に焦点を当てています。
BLになり得るのかも私の中では謎なのですが、みなとがピュアなのも手伝って(こちらも少し変わっている)最終的には家族になっているのが、現代のファンタジーだなと思いました。みなとの御両親はそれでいいのか、とか、戸籍どうなってる、とか、思うところはたくさんあります。
作品世界の底にはものすごい暗部があるのに、その上にふわふわしたものを積み重ねて、ふわふわの表面だけをいい感じにコーティングしたものがこの作品、という気がしました。
ディスっていません。個性だと思っています。次の作品も楽しみに待っています。
天国ホテル。どこにあるかは誰も知らないが、そこに行けば死んだ人に会えるという。
ピアノを教えてくれて、人生を変えた大切なひと、月彦が病死した。その事実を受け止められない春希の心の中に、天国ホテルの噂が刻まれる。
月彦の甥である康は春希を心配し旅行に誘うが、二人が乗った観光バスが山の中で事故に遭ってしまう、というところから始まるお話。
いろいろ考えさせられました。
メインキャラである上記の3人の思い出も、行きつ戻りつ明らかになっていきますし、バスに乗っていた他の乗客たち数名についても、そのバックボーンが語られます。
それらを踏まえて、この不思議な場所で起こる事柄を登場人物の思考に寄り添いながら一緒に体験していくような形で読み進めると、この先どうしたらよいのか、何が正解なのか段々分からなくなっていきました。
亡くなった月彦を慕う春希が可哀相で、そんな春希を元気づけようとする康が可哀相で。
何年経っても忘れられない月彦が目の前に現れて、一緒にピアノを弾いて、共作していた曲の続きを一緒に作って、話をしたり食事をしたり、そんなことを毎日していたら、それはもう取り込まれますよ。ここに残る選択をしたとしても、それは仕方が無いと思いました。誰も責められない。何が幸せかなんて、見ていれば分かります。
特につらかったのが、月彦が亡くなって2年後かな、春希の誕生日を康がお祝いした場面です。279ページ。「笑いたくない。楽しいなんて思いたくない。何かを欲しがったりしたくない。幸せになんてならなくていい」この科白には打ちのめされました。康もショックだったでしょう。そこから年数が経っているとはいっても、だからいまこの場所で、最終的に康がくだした決断も私には納得のいくものでした。
翻ってこのお話のラストシーンは、私は個人的には実は違う結末の方がよかったのではと思いましたが(仕方ないよな、とは思っています)、著者の優しさが多分に反映された内容で、あるべき姿、理想ともいえる帰着点でした。
うずくまっているところから立ち上がるまで、かかる時間も必要なエネルギーもきっかけも人それぞれで、康はそれでも随分待ってはいたけれど、本当はもう少し春希には時間が必要だったんじゃないかと思いました。
大学生の孝己は幼馴染みの沙世と暮らしている。沙世はいつでもどこでも突然眠ってしまう病気で、孝己はまるで母親のように微に入り細に入り沙世の面倒を見ている。
沙世がいつでも自分を頼れるように、優しくくるむようにして日々を過ごしてきたけれど、そういう意味で沙世を好きな気持ちを持て余す。
一方で沙世の方も、孝己が自分の前から去ったらどうなる?などと考えるようになる。このままで居たい気持ちとのせめぎ合いが丁寧に丁寧に描かれたお話。
絵柄に派手なところはないのに不思議な魅力があって、最後まで集中して読みました。最後まで読んで、それからもう一回初めから読みました。
日常が淡々と描かれていますので見逃してしまいそうですが、出来事的にも心情的にも結構なドラマが内包されていて、2回目読んだときに沙世の成長(というかジャンプアップ)を思い知り、よくよく考えたらクズでヘタレな孝己の方が沙世に救われていることを再認識しました。
お互いがお互いを必要としていてつなぎ止めたくて、これは依存なんだろうか、刷込みなんだろうか、でも完成形ならばもうずっとこのままでいいよね、と思わされました。
象徴的なのが、孝己が沙世に言った「俺より一日早く死んでね」という言葉です。孝己は最後まで看取りたいんですね。沙世を残して自分が先に逝くのは心配で、さりとて沙世のいない世界で生きたくはないから「一日早く」なのですね。深い。
「5分後に孵るのを待ってる」というタイトルも、よく練られていて深いと思いました。
脇キャラの蜂須賀くん、出番が少ししかないけど、孝己のセフレで親友で、二人の関係もよく知っていて、同じ学部の沙世のために講義のノートをとってくれる(孝己の依頼)やさしい人。見た目とのギャップでとてもモテそうだけどセフレは孝己だったという、こちらにもドラマがありそうでとても良かったです。
同じく脇キャラのたつきちゃん、キャラが激しすぎて出番一瞬なのに強烈な印象。孝己のことをタカシと呼ぶのは何故なのか分からず色々謎のままでした。こちらは逆に居なくても支障なかったような。
「眠り男と恋男」「優しいディナー」「夜を逃げる」「太陽と秘密」「待つ花」「眠り男と恋男 その後」の6編を収録した短編集。
長編ばかり読んでいたので短編集は新鮮でした。それにしてもおしゃれな表紙ですね。レコードのジャケットみたい。
表題作の「眠り男と恋男」がこの中では一番好きな作品です。
主人公のジュードの悩みは、相棒のロイスの奇病のこと。ロイスは睡眠中、無意識のうちに相手かまわずセックスをする、しかもそのことを本人はまったく覚えていない。本当はロイスはノンケのはずなのに、ジュードは襲われてしまっており、相手が男でもいいらしく、余計に傷つき、でも誰にも言えないしで、悶々としているというところから始まるお話。
2週間前から始まった、というのがポイントで、要は病を抑えていた薬を切らしたときから、なんですよね。本人は自分が何をしたか覚えていないし、これまで多分大きなトラブルもなかったのでしょうが、あまり切実に感じてないのがたちが悪いです。全部わかって全部背負い込んでいるジュードがとにかく可哀相。ロイスのことを好きだから余計、相手が誰でもいいらしい夜の秘め事を自分の中で消化できず、さりとて自分以外とはして欲しくなく、どうしようと思うんですよね。
表紙もおしゃれですが、この作品の語り口も大変にセンスを感じます。冒頭の「商売仲間になったのが4年前 共同で部屋を借りるようになってまる2年 いかがわしいことになったのは昨日で7回目」にノックアウトです。詩的でありつつ説明にもなっていて、登場する数字の単位が異なっている。もうこの冒頭の1ページ目で大拍手でして、しかも次のページのタイトルバックの遠景が最高の一言です。こちら側に背中を向けるロイスが、画面の奥にいるジュードの背中を見ている。つまり、こちら側からは二人とも背面しか見えていなくて、でも上下に配置している大コマにより両者の表情も分かる、という。素晴らし過ぎます。ついでに、この作品の一番最後のページの最後のコマは、二人が背中合わせでくっついているカットなので、最初と最後で対になってもいるのでした。ああ、マンガってなんて素晴らしい。
ほかに、「夜を逃げる」も良かったです。
子供の頃のバス事故がきっかけで夜が怖いハル。薄暗い部屋がいやで引っ越してすぐに東側に窓をつけ、その時に知り合った建具屋のユーゴと身体の関係を続けている。夜だけそばに居てくれればいいのに、朝もいちゃいちゃしたがるユーゴが少し鬱陶しくて「もう来るな」と告げてしまうのですが、不測の事態が起きて、……というお話。
夜だけでいいのにというのが身勝手と思うものの、その裏には夜を怖れる自分への嫌悪や羞恥が含まれていて、その分だけ余計に強がってしまうのだと思えば、ハルのことが愛しく思えてきます。ユーゴはハルの過去のことは知りませんが、夜を怖がっていることには気付いていると思う。だから蝋燭もたくさん付けていたし、夜に外に出ようとも言わない。
見た目も優しくてユーゴはいい子だなあと思っていたら、とんでもないSぶりだったのでギャップに驚きました。敢えてクローズアップされてませんが執着もすごいので、今後ハルは愛し尽くされるでしょう。でもちょうどいいのかも。いつか夜の街を二人で歩けるようになるといいな。