【合冊版4巻まで、まとめての評価&レビューです】
Pixivとかから始まった作品でしょうか?
絵柄やテンポが商業っぽくない独特な感じなんですが……めちゃくちゃ良かったです!(神寄りの萌2)
ほんの数ページ試し読みして雰囲気だけで敬遠しちゃってる人がいるなら、もっと長く読んでみてーーーと言いたい(ピッコマで3巻まで読めました)。
まず、とにかく、キヨがいい子でいい男だった。
困っている人がいたらナチュラルに助けられるところが男前。
でも模範生や聖人君子な感じではなくて、年相応にアホなところや軽いところもあるのがいい。律に対しても、すごく真摯に尊重しつつ、下心もアリアリで悶々としているのが可愛いです。
律が母親のことを打ち明けたときも、即座に理解できるわけではないのがリアル。キヨみたいに明るくて遠慮のない家庭で育った子なら、「かーちゃんなんか泣かせとけ」と思ってしまうのはむしろ自然なこと。
まして律も母親も、はたから見ればまともだし。家庭内の問題って、他人が簡単に介入できるものじゃないのが生々しくて、しんどい。
けど、100%理解できてはいなくても、律の言動や表情や態度をちゃんと見て聞いて「律の立場だったら」をちゃんと考えられるのが、キヨの本当に本当に良いところ。人に寄り添うって、こういうことなんだよな。
はじめ見たときは変わった作品タイトルだと思ったけど、作中に出てくる ”Put yourself in someone’s shoes” という言葉がとても大きなテーマになっています。
キヨがいつも側にいてくれて、どこまでも寄り添ってくれて、律はどれだけ支えられたか……駅でキヨが佇んでいるシーンは、目の奥が熱くなってしまいました。
律は、ちょっと照れた顔や笑顔がすごく可愛い。キヨがいちいちドキッとしちゃうの、わかる。クセの強い絵柄だけど、表情の描き方がとても好みです。
付き合い出してからの二人も、とにかく可愛いが溢れてました。
ガツガツ行きたい、けど律の気持ちも考えてちゃんと抑えて……でもやっぱりできる限りは押したい!というキヨ。
純粋そうに見えて意外と強気にグイグイきちゃう、でもやっぱりキヨより少々おぼこい律。
平和にイチャイチャする二人も、一緒に試練を乗り越えようとする二人も、同じくらい尊くて良かったです。
キヨの親友・カンちゃんもいい子で大好きだし、元彼・あらたのあざとさも案外好きだったりします。
的場はサイコっぽくて何とも気持ち悪かった。家族思いの母と自己中すぎる父を目の当たりにして、思うことがあったのか? 最後はちょっと消化不良な描かれ方でした。2巻で的場に吠えかかった犬が、4巻で再び吠えたあと、顔を背けて走り去ったのは……あの子は的場から何を感じ取ったんだろう。変化の兆しが見えた……のだと思いたい。
お笑い界を舞台とした、歳の離れた先輩と後輩の話としてはとても良かったです。
人気者ゆえに外野からあれこれ言われがちな飯田の、飄々としているようでいろいろ飲み込んでいるのが垣間見えてくるところとか。
「情熱はない」と言い切ってしまう小峰の、そうは言いつつ静かなパッションが確かにあるところとか。
二人がだんだん親しくなって、心を通わせて、お互いの存在が支えになっていくところとか。
とても良いんだけど……ラブストーリーとしては、あまりハマらなかったです。
キャラクターがあまり好みじゃなかったせいもあってか、この二人がどうしてお互い恋愛感情を抱くようになったか、よくわからなかった。普通に信頼とか敬愛の関係なら、よくわかるんだけど。
飯田が小峰にタバコをあげるシーンは絶妙な色っぽさが漂って、ここからどういう風に恋が芽生えていくのか楽しみだったんだけど、そのあとが一足飛びに進展してしまって置いてきぼり。最後なんて十足ぐらい飛んでしまった気が……
漫画としての読み応えならもっと高得点だけど、“萌え”で判定するなら個人的には【萌0】でした。
【上下巻から続・3巻まで計5巻分まとめてのレビュー&評価です】
Pixivで『渇望』として連載されていたころから、ずっと大好きな作品。
単行本化が決まったときはホント嬉しくて、もう覚えるぐらい何度も読み込んでいたけれど、絶対買う!すぐに買う!とわくわくして待ち構えていた記憶があります。
続・3巻の前半までは、単行本化前にPixivで掲載された分です。
2025年8月現在まだ掲載されているので、単行本を試読して何だか読みづらい?と敬遠している方がいたら、ぜひPixivの方から入ってみて欲しいです。
もともと単行本になる前提ではなく描いたものを、しかも中途半端なところで切り上げて上下巻に収録してしまっているので、単行本のほうはいろいろと読みづらく感じる部分があります。
Pixivだと話ごとに「○日目」というサブタイトルが付いていて、葉月と真が出会ってからの毎日……大きな動きがあった日も、大したことがない日も、1日1日をとりとめもなく覗き見してるような、元々はそういう作品なんです。
商業コミックスとは違って、テンポとかメリハリとかは度外視して、作者様が描きたいものを自由に楽しんで描けるPixivだからこそ生まれたオンリーワンの作品だと思います。
なんといっても、新藤葉月という男が強烈に魅力的!
クズ男ではある……酒浸りでだらしなくて自分勝手で節操なくて、むしろ筋金入りといっていいクズ男なんだけど、人間として大事なところはちゃんと真っ直ぐなのが、ずるい。くまママやテツオが文句言いながらも構ってやっちゃうのもわかる。何だかんだいって好きになっちゃうよね。ついでに、顔が良すぎるのもずるい……
そして自分を否定しがちな真にとって、どこまでも自分本位に全てをなぎ倒してくる葉月みたいな男が、ものすごく救いになるのもよくわかる。
辛い境遇で育った真は、自分に価値がないと思い込みがちな病んだところがある半面、自分だって言いたいこと言いたい、自分らしく生きたいと思う健全な部分がちゃんとあって、必死にもがいてるのが切なくて愛しい。
で、そんな真にときどき葉月の方が振り回されちゃうバランス感も良いです。大胆不敵に見えて、けっこう小物感があるのがまた葉月の可愛さ。
葉月だけじゃなく、テツオ夫婦もママも円ちゃんもおじいさんも社長(課長)も、真に何も聞かずに当たり前に接してくれる、優しい世界が大好きです。
忘れちゃいけない、ザリガニ(犬)も。真が自分はいらない存在なんだ……と病みモードになったとき、ザリガニがそっと背中に寄り添うひとコマが印象的でホロっときました。
まこっちゃんが心の底から幸せになれるよう、ずっと応援しています!
pixivで『渇望』として連載されてた頃から大好きで読み続けてきた作品。
1つ前の〈続・3巻〉の前半(〜act.30)までが単行本化前にpixivで掲載されていた分で、後半(act.31〜)からが商業作品として描かれたものだと記憶しています。つまりこの〈続・4巻〉からは完全に商業モード。そのせいもあってか、作品の雰囲気が微妙に変わったというか……安定感?奥行き?のようなものが増した気がします。
でも、いつもの葉月節や愉快な仲間たちが健在なのも嬉しい。
葉月の「好き」と伝えたい事案。
プレッシャーとかタイミングとかでグダグダする葉月……この人のこういうヘンな律儀さとかヘンなヘタレさが好き。普段はあんなに傍若無人に生きてるくせにね。
で、いったいどんな照れ隠しをかましながら言うのかねえ……とニヤニヤしながら見守っていたら。
ああーそう来たーーー!!
そうだった。いろんな意味で「ずるい」この男の、いちばんずるいところってこれだった。
だらしなくて自分勝手でヘタレなくせに、ここぞって時はちゃんと真っ直ぐなところ。
こんなの……カッコいいとしか言いようがないじゃん……ずるい……
「お前の決心は鈍らねーだろ」とか「お互い様ですからね」とかの会話も、今までの二人を思い返すと、まこっちゃん強くなったなあ、絆が深くなったなあ、と感慨深く。
とどめに「勘弁しろよ」なんて、葉月のこんな表情を見る日が来るとは。
そして、葉月と真が駅で最後に交わした言葉も……出会ってからここまで2か月ぐらい(?)の積み重ねがあるからこその、万感の想いが感じられてグッときました。
真の家庭問題は、今までちょこっと出てきた話では姉たちに虐められて……というシンデレラ的なフワッとした印象しかなかったけど、想像以上に生々しくてしんどかった。父親が最低だし気持ち悪すぎる。真が高校卒業を待てずに飛び出しちゃったのも納得いってしまった。胸が痛い……
虐め続けてきた姉たちや、それを放置してきた義母も悪いことは悪いけれど、複雑な気持ちは理解できる。義母は「意地」だと言っていたけれど、真がちゃんと独り立ちできるように最低限のことはしてやりたいという、責任感というかどこか母性に似たようなものが感じ取れて、やっぱり胸が痛かった。
そして、真のほんとうのお母さんらしき人の話……意外すぎてびっくり。
早く続きが読みたいです!
前巻、静の失言…からの椅子に座りにいくくだりのside:朔太郎からスタート。静視点から見ていると大らかで明るい朔ばかりに目を奪われてうっかり忘れそうになるけれど、そうだ、朔太郎という人は静よりもナイーブで、脆いところがある人なんだった。
この作品を読んでいると、自分の偏った見方や安直な考え方に気づかされて、ハッとすることが多いです。
環の話も、まさにそれ。
環ってあんなにいい子で二人のことも慕っているんだから、カムアウトするのに何の問題もないんでは……と単純に思ってましたが。
“いい子”な環にも“いい子”なりのしんどさがあるし、朔はそれにちゃんと気づいてるし、お互い気遣い合うからこそセンシティブな話を切り出すのには勇気がいる。
これを踏まえた上で、環の口から出た「そうだといいな」という掛け値なしの言葉は何倍も深く心に響きました。
ただいい子なだけじゃないけど、やっぱりいい子だよ、環。
静の友達の真鍋くんも、前にサラッと「彼氏」と口にしてる場面があって、古い友達だから当然知ってるのね、いい関係だね、ぐらいに思ってたら、こんな歴史が。
真鍋という人がまた、いかにも悪気なくああいう発言しそうでもあり、だけど本当に静との友情を大事にしてて心から反省してるのもちゃんとわかる。ほんの少ししか登場しないキャラでもブレがなくて説得力あります。
少ししか登場しないといえば、多治見さんのたった1コマの回想「センスいいね」を見た瞬間、何だか目の奥が熱くなってしまった……すごく印象深いお人で、大好きでした。
武市くん、可愛い印象だったけど、朔と同じぐらいに身長が伸びてる! 笑顔で巣立っていく姿が感慨深かったです。
柿沼さんのエピソード。
仕事と、家族と、自分自身……身に染みるテーマでした。
自分を犠牲にしなくちゃいけないことはどうしてもあるし、犠牲が必ずしも不幸なばかりではないし、でも犠牲にしすぎるのも違うし。どの選択が最善なのか正解なんてわからないのに、ある日突然、決断を迫られることって実際にある。
こういうリアルで苦しい話、私はあまりBLで読みたいとは思わないほうなんだけど、スモブルはすっと心に沁みてくれます。綺麗事すぎず、非道すぎでもなく、地に足ついていて、光もちゃんとあって、バランスがいいからかな。
翻訳への情熱よりも家族を取った柿沼さんが久慈父に心酔しているというのも、静にしてみれば皮肉な話。学者としての謹厳さを讃えられたことも、柿沼さんを静と見間違えたことも……ほんと、言葉では説明しがたい複雑な心境だよね。何とも奥深いエピソードでした。
この1冊を通して、いろんな人の人生や想いと触れ合うことで心の中に積もっていったものが、ひとつの力になって臆病な朔太郎の背中を押す。
静に気持ちを「報告」した4巻でも思ったけど、こういう構成が神がかって素晴らしいです。
多治見さんが亡くなったときMRの仕事に虚しさを覚えて泣いたのが、今は「何ひとつ無駄じゃなかった」と涙するのも、胸熱……!
夜桜のシーンも素敵でした。
BLを読んでると、桜が舞う夜の印象的なシーンによく出会うんですが(私のユーザーネームの由来)、またひとつ名場面がリスト入りしました。
同期ライバルで対照的な二人が、体の関係から始まって、やがて心を通わせ……という王道リーマンもの。
早瀬の誕生日のエピソードが好きでした。
性格も境遇も正反対のようでいて、どこか似たような寂しさを抱えていて、それをささやかなコンビニケーキが満たしてくれる。早瀬が小さなろうそくをそっと持ち帰るのもよかったです。
ただ、時藤・早瀬ともに丁寧に心情を描かれているわりに、そんなに心に深く刺さる感じではなかったです。
何でだろう?と考えて……ひとつには、早瀬のキャラがブレて見えたからかも。
最初のパーティーからして得意先の社長が来るような場で泥酔するのがありえないし、時藤に対して序盤からいとも簡単に弱いところや可愛いところを見せすぎだし……普段の言動(オフィシャルでもプライベートでも)を見る限り、「甘え下手」「ひとりで抱え込む」「頑張りすぎる」というタイプに見えない。ちょっと意地っ張りなツンデレぐらいとしか。
そしてもうひとつ、これは個人的な好みの問題なんだけど、心情を文章で語りすぎるところが苦手。
心に抱えている傷、好きになっていく過程、すれ違ってからの葛藤まで、会話やモノローグで1から10まで説明されてしまって……余白とか行間から感じ取りたい性分の私には今ひとつ相性が合わなかったです。
重要な場面で粗さが目についてしまったのも残念。
大切なもの(しかも折れやすいもの)を後ろポケットに入れて持ち歩くという発想が全くなかったもので、見た瞬間、えっあの日からポケットに入れっぱなし?と思ってしまいました。すごくいい場面だったのに……
時藤のキャラは共感できました。時藤が誕生日に早瀬にかけた言葉を、最後のほうで早瀬が時藤に返すところが素敵です。
今巻もまたしんどい展開。
ただ前巻では、ここまで詳細な描写が必要なのか、そもそもここまで重い設定が必要なのか、という疑念がチラついてしかたなかったのと比べると、まともに読めました。
辛く苦しい流れの中に、ミカの想い、エルヴァの想いがしっかり感じ取れました。
兄貴分なのに、エルヴァより幼い姿のミカが哀しい。
8年間、アルトと過ごしてきたエルヴァと、孤独だったミカの差。
けど最後は、エルヴァの心を受け止めてミカが笑ってくれた。そしてミカの尊厳を守るために、いちばん辛いことを遂げたエルヴァの強さに、心打たれました。
けどその後さらに追い討ちをかける残虐行為があったのは、どうにも……前巻と同様、そこまで描く必要あるの?と思わずにいられない。
後半、二人の絆とエルヴァの強さに感動する場面にも、うっすらとモヤモヤが付き纏ってしまう。
100日とか時間の長さの問題じゃなくてね、ただ私の心がついていけなくて。
あー、ここでそういうことになるかー、と何ともいえない気持ちで眺めていました。
良かった部分はほんとうにすごく良かったので萌2をつけたけど、ちょっと割り切れない評価です。
島の外のことが明かされた3巻からだいぶ焦らされて、ようやく外へ! 出口が全く見えずに辛いことばかり続く展開はもうここが底で、少しは未来が開けることを期待しています。
羊でもふってるエルヴァと、最後の手紙は可愛かったな〜
何はともあれ、二人が元に戻って良かった。ここに至るまで、何だかなーと思う部分はそこそこあったけど、全部吹っ飛ばしてもいいぐらいにとにかく嬉しい。恋を自覚したかしないかぐらいの時期のあの雰囲気が帰ってきて、ああやっぱりこれだよ、としみじみ浸りました。いい歳したデカイ男二人、人目も憚らずにキャッキャウフフしてるのが好きだよ。空の下で一緒に踊っているのがいいよ。
ダンスの方はニーノのお出ましで、さらに話が凄いことになってきた。なんかもう鈴木がダンスで世界征服しそうな勢い。アキや房ちゃんも含め、トップダンサーたる者みな超能力者で当たり前、みたいになってるし。
残念ながら、話が壮大になればなるほど私の心は離れていってしまいます。
ただこの先もまだ読み続けたいと思うのは、帝王を自分が潰してやる、楽にしてやる、という鈴木の決意の行く末を見届けたいから。不撓不屈の孤独な魂が、ちゃんと安らかに成仏するのを見届けたい。それだけは、願っています。
私はこのシリーズが6巻まで刊行されていた時点で読み始めたので、1〜6巻は夢中で一気読みしたわけだけど、次が出るまで少し間があいてしまったせいもあるのか、この7巻はちょっと自分の熱が停滞してしまった感があります。
もちろん、二人の信也の関係も完全に停滞中だからというのもあるけど……それ以外に、何だか方向性の違いを感じ始めたというか。
ノーマンとの関係については、私はそんなに嫌悪感はなかったです。お互い逃げ道にしている、というのは自覚もしているし。むしろなんで唐突に瞬を巻き込んできたのかが謎すぎて、瞬が気の毒すぎる、という程度。
ただ、ダンスの方が……5巻でもちょっと感じていたけど、鈴木がやたらと人間離れした存在になっていくのに付いていけない。「集団トランス」に「廃人」に、断頭台と鉤十字まで出てきましたけど???
この巻の中でいちばん素直に感動できたのは、リアナの「一人で立てるわ」だったかもしれない。
前巻の終わりでもう完全に決別、かと思ったら、そうかダンスのレッスンはちゃんとするのね。以前ちょっと気まずくて駄々こねてたときよりも、むしろ粛々と。
そして以前のような歓びはなくとも、二人で踊ることだけはやめられない。一筋の細い糸……切ない。
マックスが現れて、ダンス界の事情を知り尽くした強かさを発揮する帝王がカッコいい。それを目の当たりにして、遠慮なく享受すると決める鈴木も。
恋愛面では行き詰まっていても、こういうところで骨太な信頼関係を見せてくれるのがアツいです。
マーサと踊りたい帝王が少年のようで可愛かった。
佐市さんを牽制しまくるのも、いつもの杉木節全開で好き。
そうして、ほぼ丸1冊をかけてジリジリと近づいてくる別れの時。
最後のダンスは圧巻の美しさでした。背景の描き込みも素晴らしい。
杉木教室は銀座であの公園は数寄屋橋あたりらしいけど、そこから丸の内を抜けて東京駅へ。始発前の人がいない時間に東京駅前のあの場所で踊るの、最高に気持ちよさそう。
二人の心の内とのコントラストがなんとも切ない、名場面でした。