◆ぴゅあ(表題作)
犯罪者側よりも実は被害者側の方が重い感情を抱えている場合もありますよね。共依存というよりは、環から悠海への気持ちだけが依存であるように見えました。悠海の軟禁がなくても、環はいずれ誰かに依存体質を発揮していたんじゃないかな、という気もします。家庭環境のせいか、持って生まれたものかは誰にも分からないでしょう。真っ当な家庭で育っても歪な子供はいますから。形だけ見れば犯罪に当てはまることでも、当事者同士が合意の上なら私はありだと思います。結局振りきれない悠海も悪いですからね。
◆【生放送】公園に出没する(させられてる)変態は俺
配信サイトでの再生数を伸ばすため、際どいことをさせる先輩と、反抗しながらも言うことを聞いてしまう後輩の話。家でやるならともかく、公園での露出をOKしてしまうなんて、若いって、好意って怖いなぁと思いました(笑)。最後のオチまで完璧。ちょっと過激なラブコメを楽しめました。2人の名前が「ういろう」と「こんぺい」なのも可愛いですね。
◆ディーン
表題作ではないけれど、冒頭収録でボリュームもあり、一番印象に残った作品でした。性行為の際に痛めつけられる相手の様子に欲情するコト。こういう癖って、一歩間違えてというきっかけで0が1になるのか、元々潜在的に持っているものが発現するのか、どちらなんでしょうね。いずれにしろ本人にどうこうする術はなく、犯罪者にならないように上手く付き合っていかねばならない。ゲイである上に、特殊性癖。もう一生、誰とも恋人らしいことはできないだろうという諦念。でも、実際に好きな人と付き合ってみたら、向き合う術が見つかるかもしれない。新しい視点が生まれるかもしれない。一歩踏み出すことによって得られたコトの新たな人生。短編でも読み応えのある作品でした。
◆ハレの日
親子揃ってゲイという設定はまだ珍しいですよね。父親の見守り方、息子の失恋に際してかけた言葉、息子が幸せを掴んだ日の彼の表情、すべてが素晴らしく、温かい気持ちになれました。
◆アイ、セイ(表題作)
本当に大切な人とはセックスしたくならない。この考えも分かりますよね。たとえば彼氏や夫が家族のような存在になればなるほど、性欲が湧かなくなるのもそうですよね。いつまでも旺盛なのも、性欲がなくなって穏やかな時間の共有で満足できるのも、お互いが同じ温度ならどちらも素敵なカップルだと思う。その狭間で揺れる2人の行き着く先は分からないけれど、BLの多様性を広げてくれる作品だと思いました。
吉利谷と財前については子供の頃からいろいろ背負ったり我慢したりしてきた2人が、この巻でようやくそういった柵から解放されて、お互いを思う存分愛し合える結末を手に入れた感じがしました。吉利谷への好意もオープンで性行為に積極的な財前なんてまさか見れると思っていませんでしたから、人は愛でこんなにも変わるんだなぁと嬉しくなりました。
後半は一見と糸川がメイン。多分吉利谷達よりもページ数は多かったと思います。陽明と火弦が特にお気に入りの私ですが、最初に登場した一見と糸川のカップルも同じくらい好きなので、やっとこの2人が最後までするところを見れて感激しました。一見は一言で言えば古き良きドSなスパダリですが、普段は糸川に甘く、濡れ場でも基本的には糸川を気持ち良くさせるために意地悪を言う男なので、その経験を積んだ大人だからこその甘さがたまらないんですよね。絶妙なさじ加減は一見ならではだと思います。宣言通り、お互い相手を幸せにしてあげて欲しいですね。
執着攻めを欲している人にはぴったりな作品だと思うのですが、そこに受けを崇拝しているという要素が加わると、私はやはり苦手なのだなと再認識させられました。特に宮緒先生のそういう攻めは、スピンオフ元でも感じたけれど、リアリティがなくて。こういう作品に現実味を求めるのはナンセンスだとも思うけれど。
複雑な家庭環境に加え、和装にネイルをしている美貌の男というだけでも飲み込むのが精一杯なところに、受けへの執着が頑是ない幼稚園児みたいで萎えてしまいました。濡れ場で使う幼児言葉や、時折顔を出す取って付けたような関西弁に笑ってしまいそうになったり。BLにおける中性的なキャラがあまり得意でないため、余計目についたのかもしれません。そこに関しては完全に個人の好みの問題です。せめて言葉選びだけでももう少し年相応な感じだったらなぁと思いました。